PIMCOの視点

変わりゆくエマージング市場の現実と投資機会

エマージング市場の頑強性は高まったものの、リスクは残存しています。

この30年間で、エマージング市場の動きは世界経済の成長にレバレッジをかけたものであるとの共通認識が定着しました。先進諸国の成長局面ではアウトパフォームするのに対して、先進国市場の環境が悪化すると大幅に下落する傾向が確認されています。

この構図は不変であるものの、先進国市場における金融危機やここ数年間の地政学的状況の変化に起因して、何が変わったのかを理解することが、今後のエマージング市場における投資機会を規定する上で、重要になるでしょう。

新しい現実として、さまざまな要因を背景に多くのエマージング諸国が頑強性を増し、先進諸国の経済成長や政治情勢に簡単には振り回されないようになりました。このように前向きな動きが見られる一方で、マーケットメーカーによる流動性供給の動きが景気循環性を強めていること、政治がポピュリズムに傾斜していること、不可欠な構造改革の代わりに自国通貨の切り下げに依存する傾向が見られることなど、新たな課題も生じています。

PIMCOでは、このような新しい現実と年初来のエマージング市場の資産の下落を関連付けて検討した結果、バリューとリスクのバランスは改善したと考えています。とはいえ、エマージング市場が直面する多数のリスク要因に鑑みると、ショックが価格に与える影響は市場流動性の低さによって増幅されやすいため、極めて選別的なスタンスが引き続き重要になるでしょう。

長期的な視点で見たエマージング市場の魅力

先進国市場対比で利回りが高いことに加えて、以下の3つのトレンドが、世界的な景気サイクルの各時点においてエマージング投資をサポートする長期的な根拠となっています。

  • この数十年間に、エマージング諸国は経済発展を遂げ、格付けも改善され、対外借り入れへの依存度を大幅に低下させた。
  • 変動相場制への移行がおおむね完了し、対外資金調達のショックに対するバッファーが構築された。その結果、エマージング諸国の経済成長は、米国の金融政策の想定外の引き締めなどのショックから、一段と遮断されるようになった。
  • 重要な点として、エマージング市場の多くの中央銀行は、信頼性の高いインフレ目標の採用国としての実績を確立したため、多くの場合、自国通貨の大幅下落時に景気循環的な金融引き締め措置を講じる必要性から解放された。その結果、国内の債券市場が外的影響から遮断されるようになり、多くのエマージング諸国の政府は、経済成長の安定と債務返済能力の維持を目標に、景気反循環的な財政政策に依存することができるようになった。

米連邦準備制度理事会(FRB)が金融引き締めに転じてから30カ月、トランプ政権が発足してから18カ月が経過した現在、PIMCOでは最近のいくつかの動向についても前向きに捉えています。

第1に、先進諸国では、高齢化の進展、高水準の債務残高、生産性の伸び悩みを踏まえると、金融政策の正常化は引き続き非常に緩やかなペースで進む公算が大きいようです。エマージングの現地通貨建て債券および外貨建て債券の価格にとって、低水準の中立金利が重要なアンカーになるでしょう。また、労働市場の持続的な改善にもかかわらずインフレ圧力が世界的に弱いことも、同様の効果をもたらすでしょう。

第2に、「状況を受け入れる側」であることの多かったエマージング市場は、現代では最も 「状況を作り出す側」に近づいています。主な背景として、世界経済における中国の影響力の高まりが挙げられます。ここ数年、事あるごとに、中国の経済成長に関する不透明感がグローバル市場を揺さぶってきました。今後についても、エマージング経済の成長鈍化が先進諸国の政策判断に影響する可能性が高いでしょう。

第3に、対外借り入れの必要性の低下、米ドル建て対外借り入れの相対的な減少、コモディティの輸出に対する依存度の低下を受けて、米国の金利・為替動向がエマージング市場の経済成長に与える影響は弱まる見通しです。アルゼンチンとトルコは無視できない例外ですが、ほとんどの主要エマージング諸国は、政府が自国通貨建てで資金調達できないという「原罪」から、実質的に解放されるようになりました。

エマージング市場の新たな現実と複雑性

このように前向きなトレンドの背景には、PIMCOが投資判断において考慮すべきと考える細かい留意点が存在します。

原罪から解放されることによって、対外的ショックへの処方箋として景気循環を促進する方向に政策を引き締める必要性は低下するものの、必要な調整に伴う負担のしわ寄せは、国内金利よりも為替レートが強く受けることになります。このため、特に信頼性の高いインフレ目標政策を導入する国では、自国通貨安が経済成長を下支えする役割を果たすことになります。

また、中立金利の低下の裏返しとして潜在成長率が低下した結果、ポピュリズムが拡大する下地が醸成されました。政治制度の脆弱な国では、ポピュリスト的な政策が採用される可能性が高く、その結果、経済成長は阻害されます。このためエマージング市場では、平均的にはリスクが低いとしても、レフト・テール・リスク(ネガティブ・シナリオ)は高い状態が続いています。

一方、流動性が相対的に低いエマージング市場では、従来からポジション量の決定に際して細心の注意が求められましたが、エマージング市場の資産の現在の流動性リスク・プレミアムの水準は、従来よりも景気循環を促進するようになった可能性があります。金融規制の強化を受けて、伝統的な流動性提供者の仲介機能は低下しました。また、新しいコンピューター・ベースの仲介機能は資本基盤が弱く、ボラティリティの上昇局面では市場から撤退する傾向がみられます。

このほか、エマージング通貨の変動相場制への移行は、低成長の経済環境も相まって、先進諸国においてナショナリスト的、保護主義的な政策が蔓延する間接的な要因となりました。世界経済の成長水準が高く、為替レートが国内のマクロ経済調整のしわ寄せを受けるのであれば、為替レートの変動を通じて高水準の経済成長を再配分する動きは、それほど目立たないでしょう。

しかしながら、潜在成長率が低下したため、為替レートに依存した調整に対する政治的なハードルは高くなっています。エマージング通貨の下落と先進諸国による政策対応が相互に作用するようになり、縮小した経済成長のパイを守るために関税賦課などの貿易措置が導入されるリスクが高まります。エマージング通貨には経済成長に懸念が生じた際に下落する傾向があるため、このような影響の相互作用を断ち切ることは容易ではありません。

結論

投資の観点から、短期的、長期的な結論をいくつか導くことが可能です。

  1. 対外資金調達のショックに対する脆弱性やGDP成長率の変動に象徴される伝統的なエマージング市場のリスクは、低下しました。また、先進諸国の金融政策の予期せぬ急変という同市場への伝統的な脅威も、後退しました。
  2. 先進国市場では潜在成長率と中立金利の水準が低下したものの、エマージング市場の絶対リターンはおおむね従来に引けをとらない水準でしょう。
  3. 流動性の枯渇はこれまでよりも頻繁に生じる可能性が高いため、ボラティリティが低い局面では、流動性が低いポジションの規模を慎重に決定することが求められます。アクティブ運用では、流動性の枯渇に起因する価格の急落を投資機会として捉えるためのポジションを構築することが可能です。
  4. 潜在成長率が低下した結果、ポピュリズム台頭の余地が拡大しました。投資家が抱えるこのリスクを部分的に補完するためにも、スプレッドの拡大が必要になる公算が大きいでしょう。
  5. エマージング資産の序列は、従来から大きく変わりました。これまでは、エマージング諸国は為替レートのペッグ制の維持に努めました。そのしわ寄せとしてまず国内金利が急上昇し、その後、ペッグ制の揺らぎを受けて外貨建て債券のスプレッドが拡大しました。現在では、為替レートが主要なバッファーとなり、エマージング債券の下落圧力を緩和しています。その結果、混乱の度合いは小さくなるとしても、為替レートの調整幅は大きくなる可能性があります。

PIMCOでは、現在エマージング通貨には割安感があるとみていますが、米国の通商政策や財政政策に関する不確実性が解消されないため、投資家はポジションの規模を慎重に決定するべきでしょう。しかし、より重要な点として、為替レートはエマージング市場の経済成長を保護する役割を果たしています。最終的には、持続的な経済成長がポピュリズムの無害化に最も寄与するでしょう。

PIMCOでは、外貨建ておよび現地通貨建てのエマージング債券の最近の下落を受けて、バリュエーションと短期的なリスクのバランスは改善したとみています。エマージング市場内部において、信用力の低いクレジットから高いクレジットに影響が波及した場合には、今年後半から来年にかけて、選別的に投資する機会が生じると考えています。

エマージング市場に関する詳細については、「中国への投資:進化する投資機会」をご参照ください。

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著者

Gene Frieda

グローバル・ストラテジスト

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