マージング・アジア市場、なかでも中国においてレバレッジが急速に上昇している傾向に対して、世界中の多くの投資家が懸念するようになっています。債務残高はなぜ増加傾向にあり、どのような影響が予想されるのでしょうか。高水準の債務の問題に取り組んだ日本の経験が、考えるヒントになるかもしれません。

世界金融危機以降、世界中の多くの国では債務の水準が増加してきました。すでに債務残高が高水準だった日本などでも、同様の傾向がみられます。また、アジアのエマージング諸国でもレバレッジは上昇傾向にあり、債務残高の伸び率は極めて高い水準に達しています。債務残高の対国内総生産(GDP)比率に注目すると、アジア諸国は概ね多くの先進国の水準に近づいています(図表1)。

先進国市場では、金融危機以降、主に公的部門が債務残高の増加に寄与してきたのに対して、民間債務は特に米国において減少傾向にあります。一方、エマージング・アジア市場の状況は大きく異なります。

エマージング・アジア市場

2007年以降、エマージング・アジア市場では、世界の他の市場と比べてレバレッジの伸び率が際立っています。信用の拡大ペースが単に非常に速いだけではなく、懸念すべきはそれがGDP成長率をも上回っていることです。このため、アジアのエマージング諸国が従来と同様の経済成長を達成するためには、信用をさらに創出する必要があります。

PIMCOでは、現状では政府の対外債務は大きなリスクではないとみています。1997~1998年のアジア金融危機では、対外債務が大きな問題でした。一方、現在では、アジア市場全体の外部要因に対する耐性は強化されています。たとえば、中国の対外債務の対GDP比率は、エマージング諸国の中でも最も低い水準に位置しています。実際、PIMCOでは、多くのエマージング市場ではファンダメンタルズが改善すると予想しています(2016年8月付Viewpoints「エマージング市場に前向きになる根拠」をご参照ください)。

アジア市場で数少ない例外はマレーシアであり、2007年以降に対外債務の指標が悪化しています。また、外貨準備高に対する対外債務の比率や、外貨建て債務のエクスポージャーの対GDP比率に関しては、インドネシアが最も厳しい状況にあります。しかしこの2国でさえ、アルゼンチン、トルコ、南アフリカなどの他のエマージング諸国よりは良好な状況です。

しかしながら、2007年以降、一部のアジア諸国では銀行部門の流動性は、預貸率で見る限り悪化しています。このため、対外不均衡が改善する一方で、対内不均衡はさらに目立つようになっています。

家計の債務残高に注目すると、エマージング・アジア市場は多様であり、個人消費の拡大余地と政策の柔軟性が国によって異なる様子がうかがえます。なかでも、マレーシアとタイの状況が懸念されています。両国の家計債務の対GDP比率は他国よりも高く、また、経済の発展段階(国民1人当たりGDPで評価)を基準にした場合でも高い水準に達しています。これに対して、中国やインドを始めとする他のアジア諸国では、家計の状況は比較的良好であり、レバレッジを高めて消費を増やす余地が残されています。

それでは、政府債務残高が比較的小さく、家計債務の状況が国によって異なるエマージング・アジア市場では、問題はどこに存在するのでしょうか。答えは企業部門です。アジア地域では、債務残高の対GDP比率の半分程度を企業のレバレッジが占めています。なかでも、中国企業の債務残高は絶対的に過大であるばかりでなく、対GDP比率が100%を大きく超えるなど、相対的にも過大な状況にあります。また、インドの上場企業のレバレッジも非常に高く、その負債資本倍率は中国企業と肩を並べています(図表2)。

中国が抱える問題と政策の選択肢

経済規模の大きさや発展段階対比で高水準の債務残高に鑑みると、中国のレバレッジは国内の問題にとどまらず、グローバルな問題に発展するでしょう。

2015年末時点では、中国の総債務の対GDP比率は約250%とエマージング市場では最も高く(図表3)、2020年までには280~300%に達するとPIMCOでは予想しています。この予想では、国有企業(SOE)セクターの改革が中途半端にとどまり、信用の伸びとGDPの伸びの格差が大きくは縮小しない見通しを前提にしています。中国では、経済成長の目標を達成するためにレバレッジの利用が欠かせないため、中期的には債務残高が一段と増加すると予想しています。

中国では、対GDP比率が120%を超える企業債務が大きな懸念材料となっています(図表4)。2007年から2015年にかけて、信用の伸びがGDPの伸びを一貫して大きく上回った結果、企業の債務の比率は70パーセント・ポイント上昇しました。一方、企業の収益性の悪化に伴い、債務の履行能力は全般に弱まっています。企業の収益性は、民間部門よりも国有企業において顕著に悪化しています。  

PIMCOでは、中国の不良債権比率は向こう3~5年間に2015年末時点で報告されている1.4%から上昇し続けると予想しています。銀行システムの不良債権比率は、民間部門でデレバレッジ(レバレッジ削減)が順調に進んだ場合には6%程度でピークアウトするものの、そうでなければ上昇し続ける可能性が高いでしょう。

中国は上昇傾向にあるレバレッジにどのように対処するのでしょうか。政府には2つの選択肢があるようです。

第 1 の選択肢 : 金融システムに内在するモラルハザードを積極的に根絶する選択肢。これは良識的な判断と言えますが、水面下のリスクが顕在化する結果、デフォルト率は上昇し、銀行は損失を計上することになるでしょう。

 2 の選択肢 : 改革を延期しつつ現行システムの応急措置を試みる選択肢(「問題の先送り(“kick the can down the road”)」)。これは短期的には無難な選択肢ですが、債務が不可避的に増加する結果、長期的に経済成長は鈍化し、将来的にハードランディングが発生する可能性が高まります。

PIMCOでは基本シナリオとして、中国は第2の選択肢を採用した上で、状況が良好で落ち着いたタイミングにおいて、一時的に第1の選択肢に移行すると予想しています。その結果、2つの選択肢の間を緩やかに行き来することになるでしょう。仮に金融危機が発生すれば(PIMCOでは向こう数年間に「ミンスキー・モーメント」が発生するとは想定していません)、中国政府が対応能力を備えていることは確かですが、(1)国内の政治情勢、(2)地政学関連のイベント、(3)中国におけるデレバレッジのプロセスに打撃を与えるような世界経済の低成長もしくは不均衡な成長などの要因を背景に、今後の道のりはPIMCOの基本シナリオよりも困難になる可能性があります。

中国は現在、日本がかつて経験したものと同様の課題に直面しています。

  1. 投資主導型から消費主導型の経済成長にシフトする必要性(日本は1970年代に経験済み)
  2. 信用バブルおよび資産バブル発生のリスク(日本は1980年代に経験済み)
  3. 急速な高齢化(日本は1990年代半ば以降経験中)

債務問題に取り組む上で、中国と日本は国際収支黒字国であるという重要な強みを持つ点では共通しています。他方では、以下のように重要な相違点が存在するため、中国におけるデレバレッジのプロセスは、仮に実現した場合でも世界各国に対して複雑な影響を与えるでしょう。

  • 経済規模の大きさ、コモディティ市場およびエマージング市場との関連の深さ、外国為替制度が発展段階にあることを踏まえると、中国からの世界各国への波及効果は日本の場合よりも大きくなると予想されること。
  • 中国の政治プロセスの方が不透明で複雑であること。
  • 世界金融危機に伴い、先進諸国を中心とする他の国々は経済成長を下支えする課題に引き続き直面していること。
  • 中国がこれら3つの課題に同時に直面しているのに対して、日本の事例では、課題に1つずつ順番に対処することが可能であったこと。

レバレッジ問題に直面した日本の経験

日本が時間のかかる問題解決という第2の選択肢を採用したことは明らかであり、中国も基本的には同じ道を選択するとPIMCOでは予想しています。

日本では、不良債権の規模が当初は過小評価されており、1998年の銀行危機を経てようやく大幅に上方修正されました。銀行は信用コストを非常に低く抑え、実質的に破綻状態の「ゾンビ企業」の延命が図られた結果、デフォルト数は減少したものの、幅広い分野において誤った資本配分が長期化することになりました。

日本では、1990年代後半に債務を増やして政府が介入するまで、企業部門のデレバレッジは進展しませんでした(図表5)。金融政策が速やかに緩和され、日本銀行が大幅な円安誘導を実行していれば、デレバレッジはより早い段階により速いペースで進められたと考えられます。

企業債務の問題に対して穏健な解決策が選択された結果、金融システムへの波及リスクは限定的となりましたが、その後のデフレ環境が長期化するという高いコストを支払うことになりました。

マクロ経済と金融市場に対するインプリケーション

債務残高の増加は、一般的には経済と金融市場にどのような影響を与えるのでしょうか。

ゴールドマン・サックスが2015年に公表した研究では、債務残高の増加に伴い、実質経済成長率とインフレ率は従来の趨勢的な水準よりも低下することが示されました。また、債務残高の増加幅がその後の景気減速の度合いを左右することがわかりました。意外なことではありませんが、債務残高の増加に起因する経済成長率とインフレ率の低下を受けて、金融政策は緩和されることが一般的です。金融緩和の度合いはさまざまであり、当初の政策金利の水準などの初期条件に依存すると考えられます。

また、為替レートも重要なポイントです。自国通貨安は一般的には輸出競争力の回復を通じてデレバレッジのプロセスにプラスに作用しますが、規模の小さい開放経済であれば、自国通貨の切り下げは可能なようです。これに対して、規模の大きい国では、デレバレッジには通貨安が望ましいにも関わらず、為替レートは横ばいにとどまるか上昇することもあります。どの国も自国通貨高を容認できないことが、その一因と言えるでしょう。このような傾向は、今後の中国の短期、長期見通しに興味深い影響を与える可能性があります。

結論として、レバレッジの上昇はエマージング・アジア市場の投資家にとって重要な考慮すべき点ではあるものの、PIMCOでは、深刻なマイナスの影響が直ちに発生するとは予想していません。一方で、長期的な影響は生じるでしょう。特に中国では、企業のレバレッジ上昇に対処する結果、向こう数年間に経済成長の減速、為替レートのさらなる調整、インフレ率の低下、金融政策の追加緩和につながる可能性が大きいでしょう。

要約アジア市場における債務残高増加の特徴

  • 対外不均衡が改善する一方で、対内不均衡は悪化しています。
  • 中国とインドの家計ではレバレッジを高めて消費を増やす余地があります。
  • 企業部門がアジア地域最大の懸念材料です。
  • 中国のレバレッジは国内だけでなくグローバルな問題です。
  • 中国はかつての日本と同様の問題に直面しています。
  • レバレッジ上昇に対処する結果、低成長、為替レートの調整、金融政策の追加緩和につながる見通しです。
著者

Roland Mieth

エマージング市場担当のポートフォリオ・マネージャー

Tomoya Masanao

アジア太平洋共同運用統括責任者

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