PIMCOの視点

トランジショナル・ロ―ン(過渡的な融資)

オルイン Vol.61 Autumn 2021 特集「不動産投資の最先端:ニューノーマルで加速するトレンド、広がる投資機会」の一部にインタビュー記事として掲載

グローバルな債券投資家として名を馳せるPIMCOは、不動産の分野でもパブリック、プライベートを問わず1800億ドル超を運用するメインプレーヤーの一角だ。昨年アリアンツ・リアルエステートを傘下に収め、世界最大級の商業用不動産投資のプラットフォームを持つ同社の不動産投資チームが関心を寄せているのが、トランジショナル・ローンだ。

トランジショナル・ローンとは、不動産の設備の老朽化に伴う改装やテナントの入れ替えなどで一時的に賃料収入が見込めなくなる際に、一時的な資金を提供することだ。不動産では定期的に改装などを実施して賃料の上昇を図るが、一時的にキャッシュフローが減少するこの過程をトランジションと呼び、その際のつなぎ融資として捉えることができるだろう。当セクターの市場規模は米国で毎年約1000億ドルのペースで拡大している。

トランジショナル・ローンの出し手はこれまで銀行が主体だったが、世界金融危機を契機に規制が強化されたことで融資が難しくなった。供給に制限がかかる中で、代わりの資金の出し手としてアセットマネジャーが参入し、新たに投資家から資金が流入するようになった。

こうした市場を取り巻く環境変化に加えて、コロナ禍によっても当分野にさまざまな変化がもたらされた。米国の不動産価格は一時10 ~ 15%低下したが、2021年1-3月期には底を打って徐々に回復している。前出のチェン氏は、続けて次のように語る。

「新型コロナウイルスの感染拡大によって市場には2つの変化が訪れました。1つ目は、ローンの借り換え需要が今後5年間で約2兆ドルに達すると推計されるにも関わらず、貸し手の多くは融資に慎重な姿勢を見せたこと。2つ目は、ホテルでは収入が低下するなど物件のファンダメンタルズに負の影響を与えたことです。借り手からすると資金へのアクセス性が低下した一方で、柔軟性をもったファイナンスへのニーズが高まったため、魅力的な投資機会が訪れています」。

コロナ禍の影響はセクターごとに異なり、集合住宅や物流施設ではポジティブに、オフィスは若干の向かい風を受け、ホテルと小売りには厳しい環境が続く。同社のトランジショナル・ローンは幅広いセクターを対象とするが、現在は不況にあるホテルセクターであっても中長期的にはネガティブな影響を受けていないと判断していることから、投資に至るケースもあるという。

実際に、経済活動が再開するアフターコロナを見据えてカリフォルニア州の高級ホテルの改装を計画するデベロッパーに対してファイナンスを昨年実行している。「不動産価値や事業計画は申し分ないにもかかわらず、資金の出し手が限定的だったため、迅速に案件を組成することができました。コロナ禍で物件のキャッシュフローがマイナスに落ち込む中でも、金利の支払いに対してあらかじめコベナンツに盛り込むことで安定したインカムを得ることが可能です」とチェン氏は語る。

当然、こうした投資には膨大な取引が行われる不動産市場の中から投資妙味のある案件をいかに選別するかという分析力やマーケットへアクセスする力が問われる。

また、投資対象とする不動産の分析に加えて入居している企業の調査も同時に行い、クレジットリスクに関しても十分に考慮する必要がある。

最後にチェン氏は、トランジショナル・ローンの今後の見通しを語った。「現在の投資環境は2つの側面から非常に魅力的だと捉えています。1つ目は不動産市況が底を打って上昇しているため、物件のキャッシュフローも同様に回復が想定されることです。2つ目は取引そのものが活発化しているため、投資機会自体も増えることが予想されることです。特に、不動産のプライシングは非常に魅力的で、他の資産と比べても価格はそこまで上昇していません。引き続き良好な投資機会に恵まれるでしょう」。

著者

Devin Chen

米国商業用不動産チームの共同統括責任者

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