金利上昇時には債券価格が下落するため、金利の上昇は債券投資家に対して一様にマイナスの影響を与えると一般に考えられています。中央銀行による政策金利の引き上げを受けて、多くの投資家が、近い将来に市場金利が大幅に上昇する可能性を懸念し、ポートフォリオの調整を検討しています。現時点で保有債券を売却した上で、債券利回りが上昇した段階で買い戻すことを真剣に考えているかもしれませんが、それは賢明な方針ではないかもしれません。 ここ数年間、多くの国では金利が大幅に上昇したにもかかわらず、債券投資家のリターンはプラスを維持しています。2016年半ばにつけた底値から、10年物オーストラリア国債利回りは1.11%、10年物米国債利回りは1.55%上昇しました。また、債券市場にはフォワードルッキングな性質があるため、追加利上げの見通しはすでに価格に織り込まれています(現在、FF(フェデラル・ファンド)金利の先物市場には米連邦準備制度理事会(FRB)が2018年末までに3回追加利上げを行なう見通しが織り込まれています)。 このため、現在の保有債券からさらに一時的な評価損が発生するのは、市場の想定以上に金利が上昇する場合に限られるでしょう(2018年2月21日時点の市場価格に基づく)。インカムの増加によって評価損が相殺されることが多いため、実際には、金利上昇が長期的な債券投資家にとってプラスに作用する傾向があります。このメカニズムを証明するため、本レポートでは(マクロの幅広い状況をカバーする)4つの異なるシナリオにおいて、債券のリターンがどのような影響を受けるのかを分析しました。その結果、金利が上昇した場合でも、債券のリターンはプラスを維持する可能性があることに加えて、中長期的には債券投資家は恩恵を享受する傾向があることがわかりました。 適度に分散されたポートフォリオにおいて、元本の保全、安定的なインカムの確保、リスクの分散、株価下落に対するヘッジなど、コア債券を保有すべき根拠はこれまで以上に説得力を増しています。PIMCOでは、金利上昇見通しに過剰反応すれば、投資家は自らのポートフォリオにマイナスの影響を与える恐れがあると考えています。 シナリオ分析:金利上昇にまつわる神話の再考 金利上昇は債券のリターンにどう影響するのでしょうか。影響の大きさは、金利の上昇幅、上昇のタイミング、当初の利回り水準、イールドカーブの形状、上昇幅の大きい年限、投資の時間軸など、さまざまな要因によって決まります。 以下では、4つの異なるシナリオにおいて、オーストラリア債券とグローバル債券(豪ドル・ヘッジ付き)のリターンを分析しました。 1回限りの0.50%の金利上昇シナリオ(最初の四半期末日のイールドカーブの即時パラレルシフトを想定) 1回限りの1.00%の金利上昇シナリオ(最初の四半期末のイールドカーブの即時パラレルシフトを想定) 2年間にわたって半年ごとに金利が0.25%上昇するシナリオ 不変シナリオ この分析では、クレジット・スプレッドは変動せず、ポートフォリオはアクティブに運用されないことを前提にしました。 図表1と図表2は、4つのシナリオにおけるオーストラリア債券とグローバル債券(豪ドル・ヘッジ付き)の5年間のリターンの推移を示したものです。図表1は、オーストラリア債券に関して、一時的に評価損が発生するのは「1.00%即時上昇シナリオ」に限られ、その他のシナリオでは、各年ともプラスのリターンが維持されるという結果を示しています。「1.00%即時上昇シナリオ」では、債券価格の下落に伴い、オーストラリア債券とグローバル債券のリターンいずれも、1年目は最大のマイナスとなるものの、2年目以降については、「不変シナリオ」を上回るリターンが確認されました。 「0.50%即時上昇シナリオ」では、オーストラリア債券のリターンは、金利が上昇した1年目も小幅ながらプラスを維持する一方で、グローバル債券のリターンはゼロ近辺でした。しかし両債券とも2年目以降は「不変シナリオ」を軒並み上回っています。 PIMCOでは、金利が急激に上昇するシナリオはそれほど現実的ではなく、長期にわたって緩やかに上昇する可能性の方が高いとみています。これは、中央銀行は従来のサイクルよりも低い中立的な水準まで政策金利を緩やかに引き上げるという、PIMCOの(5年ほど前から主張し続けている)ニュー・ニュートラルの考え方に沿ったものです。現在の利上げサイクルにおいても、これまでのところ当てはまっており、FRBなどいくつかの中央銀行は慎重かつ緩やかに利上げを進めています。「2年間、半年ごとの0.25%上昇シナリオ」では、当初2年間についても、オーストラリア債券のリターンは低水準ながらプラスを維持しています。これは、(主にクーポンとその高い再投資利回りにより)利回りが、債券価格の下落にうよる一時的な評価損を十分に補っているからです。3年目以降については、このシナリオに基づく期待リターンは「不変シナリオ」を上回りました。 一方、緩やかな金利上昇シナリオにおけるグローバル債券(豪ドル・ヘッジ付き)のパフォーマンスは相対的に低く、1年目のリターンは小幅なマイナスとなり、2年目のリターンは「金利横ばいシナリオ」を下回りました。全般にグローバル債券の方がオーストラリア債券よりもデュレーションが長いため、1年目にはより大きな評価損の影響を受けた結果です。この分析では、全ての主要な市場において金利がパラレルに大きく上昇するシナリオを想定していますが、各市場の金利は完全には連動していないため、複数の市場にエクスポージャーを有するグローバル・インデックスでは、実際には一定の分散効果が期待されると考えられます。また、3年目以降のリターンは「不変シナリオ」を上回っています。 また、この分析では、債券のアロケーションは一定に維持することを前提としていますが、戦略的なアセット・アロケーションを保つには、債券のリターンがマイナスになった場合、(他の条件を一定として)債券の配分を増やしてリバランスするケースが一般的です。その結果、図表1と図表2で示した金利上昇シナリオにおいて、後半の(金額加重ベース)リターンはさらに上昇することになります。 その結果、債券のリターンは金利上昇局面においてもプラスを維持する可能性があることに加えて、金利上昇は長期的には債券投資家にプラスに作用する傾向があることがわかりました。 金利が変動しても債券の役割は変わらない 将来債券利回りの上昇が見込まれるとき、投資家は金利上昇局時に保有債券を現金化した上で、のちに利回りが上昇した段階で債券を買い戻すことを検討しているかもしれません。 正確な予測が可能であれば、この方針は合理的と考えられます。問題は、非常に経験豊富な投資家にとっても、市場が変動するタイミングを予測することは極めて困難なことです。タイミングを正確に予測できずに、債券を継続保有していた場合に獲得したはずのインカムを失う形で損失を被るケースも珍しくありません。 マクロ経済や市場の環境にかかわらず、債券を保有すべき理由は不変であり、ポートフォリオ全体のなかでの債券の位置付けを考えるべきでしょう。一般に債券は他の資産との相関が低く、もしくはマイナスであるため、特に経済の先行きが不透明な局面やデフレの環境においては、コア資産としての債券保有が分散効果をもたらし、ボラティリティ上昇に対するヘッジとなる役割が期待できるでしょう。図表3で示したように、過去20年間において、オーストラリアの債券と株式の相関は1を大きく下回っており、マイナスとなったことも珍しくありませんでした。 債券を満期まで保有すれば、デフォルトが発生しない限り、元本が保全されるとともに、クーポンによって安定的なインカムを享受することが可能です。従って、ポートフォリオを全体として捉えた場合、債券のエクスポージャーを減らすことは理想的とは言えないかもしれません。 また、過去30年間における相場の下落局面を振り返ると、株式と比べてオーストラリア債券とグローバル債券の下落幅は小さく、下落の期間も短期的にとどまる傾向が見られる点も見逃せません。意外かもしれませんが、1990年以降、オーストラリア債券のリターンがマイナスとなったのは、1994年と1999年の2年のみでした。1994年は、債券市場は無秩序に大暴落したにもかからわず4.66%のマイナスにとどまり、1999年についても1.22%のマイナスに過ぎませんでした。株式の年間リターンが大きなマイナスとなった近年の3回の事例(2011年の-10.54%、2008年の-38.44%、2002年の-8.77%)と比較すると、債券市場では損失が発生する場合でも、株式市場と比べてマイナス幅が限定的になることは明らかです(図表4参照)。 金利上昇は債券の長期投資家にとって懸念材料ではない 前述のシナリオ分析が示すように、ほとんどのシナリオにおいて、金利が上昇しても最終的には、インカムの増加が当初の一時的な評価損を相殺するため、長期的な投資家は金利上昇の恩恵を享受する傾向があります。現時点で保有債券を売却した上で、将来の利回り上昇時に買い戻すことを検討されている投資家は、市場変動のタイミングを予測することは困難で、正確に予測しなければ利回りが失われる可能性があることも考慮すべきでしょう。 金利上昇局面で債券を保有することについて、懸念を抱かれるかもしれませんが、分散された投資ポートフォリオにおいては、これまでも、そしてこれからも、債券が常に重要な役割を果たす点を理解することが大切です。さらに、アクティブ運用によって、金利上昇に伴うリスクの一部が軽減される可能性もあります。アクティブ運用者は、投資目的によって短期的に価格形成を歪める投資家の存在や、インデックスのルールに起因する市場の構造的な非効率性を特定し、それらを利回りが高く割安で質の高い債券を見出す機会として活用することが可能です。
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