国大統領選挙では共和党のドナルド・トランプ氏が次期大統領に選ばれ、また、上下両院でも共和党が過半数を獲得しました。本レポートでは、米国コア戦略担当の最高投資責任者(CIO)であるスコット・マザーと公共政策問題チームを統括するリビー・キャントリルが、選挙結果を踏まえ、米国の政策、経済、グローバル市場についてのPIMCOの見通しと投資家にとってのインプリケーションをご説明します。

問: トランプ政権および共和党主導の議会において、短期的にはどの政策の優先順位が高いと考えているか教えて下さい。

キャントリル:トランプ氏が数年にわたって重視してきたテーマの1つが通商政策です。通商に係る条約やその他意思決定に関するホワイトハウスの権限の大きさを考慮すると、今後米国は保護主義的、反自由貿易的な側面が強まる公算が大きいでしょう。例えば、環太平洋パートナシップ(TPP)の交渉は滞るとみられるほか、トランプ氏は北米自由貿易協定(NAFTA、1994年に発効)における条件の再交渉若しくは同協定からの脱退の可能性をも示唆しています。

また、トランプ氏の選挙活動中の発言を踏まえると、詳細は不明なものの、世界的なポピュリズムの流れに乗る形で厳格な移民政策に転じるとみられます。

通商政策と移民政策を除いて、新政権の政策は米国の経済成長を一層後押しする内容となる見通しです。共和党が上下両院において過半数を確保したことを踏まえると、大規模な税制改革やインフラ投資(トランプ氏は5年間で最大1兆ドルに及ぶ計画を提案)が実行される可能性が高まったと言えるでしょう。

ドッド・フランク法や米国労働省(DOL)フィデューシャリー・ルールなどの金融規制は、全面的に巻き戻されることはないにせよ、修正・緩和方向に向かう可能性が高いようです。その他にも、これまでの規制強化の流れが後退することで、企業の景況感や設備投資を押し上げる公算が大きいでしょう。また、トランプ氏と共和党主導の議会は、オバマケアの廃止を目指す見通しです。

このように、トランプ政権は共和党主導の議会が既に掲げている政策を粛々と施行するとみられ、市場はこの動きに対し概ね好意的な反応を見せると想定されます。

問: 今後、金融市場はトランプ氏の勝利に対してどのように反応するとPIMCOでは予想しているのでしょうか。また、投資家にとってのインプリケーションを教えてください。

マザー:PIMCOでは、市場のボラティリティ、インフレ率及び為替レートの動向に注目しています。

ボラティリティは、年初来の低い水準から今後大幅に上昇する可能性が高いでしょう。過去数年間と比べて、緩和的な金融政策が市場のボラティリティを抑制する効果は限定的であり、リスク・プレミアムやクレジット・スプレッドが拡大する可能性も想定されます。

PIMCOでは、短中期的な観点からインフレ率上昇に備えたポジションの構築を検討することが、現時点で重要な投資へのインプリケーションの一つであると考えています。中央銀行の目標インフレ率と低迷する実際のインフレ率を背景に、近年の市場の期待インフレ率は変動してきました。今後は、経済成長志向型の構造改革や利上げに慎重な姿勢を見せる米連邦準備制度理事会(FRB)の動向を踏まえ、インフレ見通しはより均衡する公算が大きいとPIMCOではみています。PIMCOでは以前よりインフレ期待の上昇に備えており、ポートフォリオをインフレ率の上昇から守る必要性を強調してきました。

為替レートに関しては、特にエマージング通貨に対して米ドル高圧力が強まると予想しています。一方、国際的な投資家が米ドルから他の先進国通貨へのシフトを模索するなかで、米ドルと他の先進国通貨との関係にはばらつきがみられるでしょう。PIMCOでは為替相場の見通しに基づき、長期的な評価軸を念頭に、トランプ氏の今後の通商政策に影響を受けやすいメキシコ・ペソやブラジル・レアルなど、幅広いエマージング通貨に注目しています。

問:投資家はリスクについてどのように考えるべきでしょうか。

マザー: PIMCOでは、足元の市場環境に対してより保守的なスタンスで臨むよう勧めてきました。今後、市場の不透明感やボラティリティが一層高まる可能性に鑑みると、引き続き保守的なアプローチが適切であると考えており、アクティブ運用には、このような環境においてリスクとともに生じる投資機会をとらえる柔軟性が期待できると考えています。

一方、より大局的な観点からは、足元のように混乱した状況においては投資家はダウンサイドのみに注目するのではなく、よりバランスのとれた見方を採用することが重要です。 金融市場のリスクは常にポジティブ、ネガティブの双方に存在しており、長期的な観点では確率分布の両側(ポジティブ、ネガティブ双方)のテールが拡大するとみています。短期的なあらゆる不確実性が市場のかく乱要因となり得ることを踏まえると、ポートフォリオ・マネジメントにおいてはシナリオ分析が不可欠であり、できる限りの情報を収集し分析することが、長期的な投資スタンスを決定するために重要と言えるでしょう。米大統領選を通過した足元の市場環境においては、中期的な観点からポジティブ、ネガティブ双方の要因が数多く見られます。今後明らかになっていく新政権の政策を丁寧に分析した上で、投資判断を下すことが重要になるでしょう。

問:今回の選挙を受けてPIMCOの金融政策に対する見通しは変化したのでしょうか。

マザー: 米大統領選の開票までは、金融市場は米連邦準備制度理事会(FRB)の12月の政策決定会合における利上げを、非常に高い確率で織り込んでいました。短期的な不透明感を受けて利上げの確率は小幅に低下するかもしれませんがPIMCOでは引き続き12月の利上げの確率が高いとみています。(金融市場の緊張を示す)ファイナンシャル・コンディションが短期的にタイト化し、金融市場の不透明感が高まったとしても、前述したインフレ期待の上昇がそれらを相殺して利上げを後押しする可能性が高いとみており、FRBは金融市場が利上げを高い確率で織り込んだことを確認した上で、12月に利上げを実行する公算が大きいと考えています。

PIMCOでは米大統領選前、FRBの短期的な政策見通しとして2017年末までに2~3回の利上げを予測していました(2016年9月付Cyclical Outlook「水面下に潜むリスク」をご参照ください)。これは市場の想定よりも速いペースですが、引き続き基本シナリオとして維持しています。FRBの議長については空席が生じない限りは新規の任命ができないことを踏まえると、イエレン総裁の任期が2018年まで残されていることから、トランプ大統領がFRB総裁人事に与える影響や、その結果として金融市場が引き起こす反応について予想することは、時期尚早と言えるでしょう。

問: 投資家は短期的にはトランプ政権のどこに注目するべきでしょうか。

キャントリル: この先数日間、数週間において、金融市場はトランプ氏が経済アドバイザー、大統領官邸の主要スタッフ、財務長官や国務長官などの主要ポストに誰を指名するのかを予想し、その顔ぶれについて分析することに注力するでしょう。また、現時点では大枠のみが示されているトランプ氏の経済政策の詳細も注目を集めると考えられます。トランプ氏が2017年1月の就任式の前にその詳細を提示すれば、金融市場の安心感は高まる見込みです。

著者

Libby Cantrill

エグゼクティブ・オフィス

Scott A. Mather

米国コア戦略担当最高投資責任者(CIO)

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