PIMCOの視点

根本的なリスクがレバレッジド・クレジット市場のスプレッド格差縮小を主導

ハイイールド債とレバレッジド・ローンのスプレッド格差縮小は単に今日の需給状況を反映したものではなく、変化しつつあるローン市場の中身と拡大するリスクを反映したものだと考えています。

近、なぜ米国レバレッジド・ローン――一般的には(会社や債務者の保証や資産による)担保付きの高リスク資産と考えられる――が、無担保で理論的には「さらにリスキーな」米国のハイイールド債市場と同様の(計算によってはむしろ大きな)プレミアムで取引されているのか、疑問に思う投資家が増えています。このスプレッド格差(ローンとハイイールド債それぞれの同年限の満期の米国債とのスプレッドの相対的な違い)が縮まった主な要因はローンへの需要低下だとする向きもあります。しかし、PIMCOではもっと根本的な要因があると考えています。レバレッジド・ローン市場の全体的なリスクの中身の変化です。

相対的なリスク

2007年1月以降の米国ハイイールド債とレバレッジド・ローンのスプレッド格差の平均は79ベーシス・ポイントでした。下の図をご参照ください。この差は直感的に理解できます。資本構成上、ローンは債券よりも高い位置付けにあり、債務のリストラや債務不履行(デフォルト)が起こった場合、過去のクレジットサイクルの実績では、ローンの元本回収率がハイイールド債のそれを上回る傾向がありました。ハイイールド債の投資家は、担保付きのローンに比べて、その分高いリスクプレミアムを要求してきました。ではなぜ、こうした背景を持つプレミアム――またはスプレッド――が昨年来縮まり、時には逆転までしているのでしょうか。

市場観測者の多くは、このスプレッド格差の縮小は単にテクニカル要因によるもので、ローンに対する需要がハイイールド債よりも減少したためと推測してきました。米連邦準備制度理事会(FRB)が利上げを止め、市場は利下げを広く織り込み始めたなかで、ローンに対する需要が確かに減少している点には同意できますが、それは原因のごく一部だと考えています。

ハイイールド債とレバレッジド・ローンのスプレッド格差の縮小は、むしろレバレッジド・ローン市場のリスク特性の根本的な変化を反映したものだとPIMCOでは考えています。ローン市場の構造は昨今変化しています。つまり、ローンのみによる調達企業(劣位債務がない、またはダウンサイド時の財務制限条項のない)の増加がローン回収の想定図を変え、それにより投資家がローンに対し、ハイイールド債並みの利回りを要求するようになったのです。また、ローンと債券セクターにおける信用条件が崩壊し、以前と比べ回収に圧力がかかったことにより、スプレッド格差の縮小を促したと考えられます。

レバレジッド・ファイナンス市場:デフォルトと債権回収の過去と将来の予想

過去と現在の市場データに基づき将来を想定してみると、ローン市場のリスクの変化が明らかになります。ハイイールド債とローン市場のデフォルト率は、過去20年で平均3.2%でした。デフォルト後に、ハイイールド債は額面100ドルに対して平均41ドル、ローンは平均66ドルが回収されています(それぞれJPモルガン米国ハイイールド指数、JPモルガン・レバレッジド・ローン指数で概算)。しかし、ローン回収率をもう少し注意深く見ると、JPモルガンによれば、2008年以降ファースト・リーン(第一順位抵当権付きローン)のみの企業のローン回収率は平均52%であるのに対して、債券による調達も行っている企業のローン回収率は70%でした。

この違いは、いずれ訪れるデフォルト・サイクルの波では重要な意味をもつことになると思われます。というのも、ローンのみによる調達のセグメントが、2008年の35%から、今日55%にまで増えているからです。これは、もし平均デフォルト率が変わらずデフォルトがローン市場で均等に発生すると仮定した場合、平均回収できるのは平均で60ドルに低下することになります。

ローンだけの場合とローンと債券の両方の場合を合わせた場合のデフォルト率がそれぞれ過去平均とほぼ同じだと仮定し、この低くなった回収率を使用すると、投資家の実現損は、過去20年の平均1.08%(3.2%のデフォルト率で66%の平均回収率)から1.28%(3.2%のデフォルト率で平均60%の平均回収率)に上昇したことになります。直近のデフォルト・サイクル(2008年から2011年)でみられた平均デフォルト率6.4%を使用すれば、同様の波が来た場合、実現損の割合は0.40%近く上昇します。

格付けの変移

また、ハイイールド債と比較したローン市場の格付けの変移も考慮に入れなければなりません。ローン市場では、B格の発行企業が2008年25.2%から現在52.8%(そのうち70%はローンのみの資本構成)に上昇しています。一方ハイイールド債は、同じ期間でBB格の割合が24.0%から35.1%に増加しています(それぞれ、JPモルガン・レバレッジド・ローン指数とJPモルガン米国ハイイールド指数のデータを使用)。

過去8年間の平均デフォルト率は、BB格のローン発行企業が0.77%であるのに対し、B格の企業は2.33%でした(出所:JPモルガン)。B格の発行企業が2倍になったと仮定すると、ローンの平均デフォルト率は0.63%上昇します。前述の平均60ドル回収を使用すると、これまでのサイクルに比べ、さらに0.25%も未回収額が増えることになります。一方ハイイールド債では、BB格の平均デフォルト率は1.2%、B格は3.35%ですから、ハイイールド債市場のデフォルト率は低下が予想されます。この違いが、今日の両者のスプレッド格差縮小を裏付けているとPIMCOでは考えています。

確かにこれは説明のための単純な分析にすぎません。今日ではローン市場や債券市場で主流となった与信条件緩和により、経済環境悪化時にも発行体がより柔軟に対応できるようになるなど、デフォルト率は様々な理由で過去の平均を上回ることもあれば下回ることもあります。同様に実際の損失も、ローンだけの企業の方が、ローンと債券の両者による調達を行う企業よりも大きい場合もあれば小さい場合もあり、結果は異なったものになるかもしれません。数字は市場の平均的な期待値です。とはいえ、ローンのみの発行体に集中しているポートフォリオでは損失が相対的に大きくなる傾向があると予想され、他方高格付けの投資で、ローンのみの発行体への集中が少ない守りの姿勢をとっているポートフォリオでは、市場平均よりも低いデフォルト率となり、債務不履行の場合の回収率は高くなる可能性があります。

投資への示唆

ハイイールド債とレバレッジド・ローンのスプレッド格差縮小は、単に今日の需給を反映したものではなく、ローン市場の中身の変化と、高まりつつあるリスクを反映したものです。資本構成がこれまでより弱い発行体が増え、与信条件は増々緩和されリスクが上昇しているため、ローンポートフォリオにおいては、銘柄選択と注意深いモニタリング、アクティブ運用が引き続き重要であるという点を強調したいと思います。

強固な資本構成の、潤沢な流動性を持つ高格付けの大企業ローンのポジションを多く持つことで、今はスプレッドをある程度犠牲にすることになるかもしれませんが、次のデフォルトサイクルの損失拡大時に対する備えは改善されるでしょう。デフォルトを避け、過去の水準に近い回収が見込める市場セグメントでのポジショニングが、ローンポートフォリオのパフォーマンスの決め手となるでしょう。次のデフォルトサイクルではレバレッジド・クレジットのあらゆるレベルで回収率が低くなる可能性があるとの広い見方に立てば、ローンの投資家は、拡大したリスクに見合う高いプレミアムを要求することが理にかなっているでしょう。

著者

Beth MacLean

バンクローンのポートフォリオ・マネージャー

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ご留意事項

全ての投資にはリスクが伴い、価値は下落する場合があります。レバレッジド・ローンへの投資は、クレジット・リスク、期限前償還リスク(コール・リスク)、決済リスク、および低流動性リスクが高くなることがあります。本資料で言及した投資戦略が、あらゆる市場環境においても有効である、またはあらゆる投資家に適するという保証はありません。投資家は、自らの長期的な投資能力、特に市場が悪化した局面における投資能力を評価する必要があります。マネジメント・リスクとは、PIMCOが用いる投資手法およびリスク分析が望んだ結果を生まないリスク、また、政策や変更等が戦略の運用においてPIMCOが利用可能な投資手法に影響を及ぼしうるリスクを指します。特定の証券や種類の証券の信用格付により、ポートフォリオ全体の安定性や安全性が確保されるわけではありません。投資判断にあたっては、必要に応じて投資の専門家にご相談ください。

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