PIMCOの視点

エマージング戦略のアセットアロケーション:過渡期における投資機会

エマージング市場は、今後半年のうちに、回復かあるいはさらなる景気減速のターニングポイントに差し掛かかる可能性があるとみています。

先般開かれた短期経済予測会議では、本社ニューポートビーチにPIMCOの投資プロフェッショナルが集まり、世界経済の見通しと、それが示唆する資産価格への影響が議論されました。そこで決まった短期(6カ月から1年)の見通しでは、成長の鈍化はさらに続き、追加的なショックに対する世界経済の脆さが予想されています(詳しくは「減速の先に」を参照)。

エマージング市場は、高まりつつある世界的な景気低下リスクと、先進国の金利低下による追い風の狭間に置かれています。過去8年に及ぶ一連のショックの影響はまだぬぐえませんが、先進国が景気サイクルの成熟期にあるのに対し、大半のエマージング諸国は景気サイクル初期の特徴をみせています。景気が減速すれば、エマージング諸国の経常収支は必然的に改善し、それが外部のショックを緩和してくれます。また、景気減速はポピュリズムや異端の経済政策をもたらす可能性もありますが、数多くのエマージング諸国のなかで、ガバナンスが行く末を左右する重要なポイントとなるでしょう。

これらの要因をすべて考え合わせると、世界の市場が過渡期にあるこのような時期においては、エマージング市場の現地通貨金利と、エマージング・クレジットに大いに投資機会があると考えています。

エマージング投資に対するPIMCOのアプローチ

PIMCOでは、幅広く分散されたエマージング市場のベンチマークの利点を最大限に生かし、資産間の正の相関を緩和するには、柔軟な戦略が投資家にとっての鍵となると考えています。

通常、エマージング市場のマルチアセット・ポートフォリオにおいては、主にソブリン債の残高とダイナミクスに左右される「貸借対照表」型資産と、名目経済成長率の見通しに敏感な「損益計算書」型の資産を対比して資産配分を決めます(図表1参照)。最近では、エマージング通貨(為替)やエマージング株式など経済成長に左右されやすい資産に対し、外貨建てエマージング市場クレジットと、さらに直近では現地通貨金利など、より守りの色彩が強い貸借対照表型の資産に傾斜配分しています。

Emerging Markets Asset Allocation: Opportunities in a Time of Transition

PIMCOがエマージング市場の現地通貨金利に傾倒する理由は、為替を通じたインフレ波及効果が低下し、外貨建て債務の負担が低減してきたことから、これまでの景気サイクルに比べ、一般的にエマージング市場の金融政策が、通貨安による制約をはるかに受けにくくなってきたためです。エマージング諸国の中央銀行が、より緩和的な政策に向けて「FRBを追随」できることで、エマージング市場のバランスシートが強化できる点が重要です。

不透明なマクロ経済の見通しと、追加的なショックに対する(既にほぼ失速スピードにある)経済成長の脆弱性を考慮すると、守りを重視したスタンスを崩すべき時ではないと考えています。現地通貨金利とクレジットのオーバーウエイトには、主要金利が低い環境下でキャリーを獲得し、経済成長に対する追加的なダウンサイドリスクからポートフォリオをヘッジする狙いがあります。

しかし、経済成長に敏感な資産が相対的に割安になっている状況を考えると、世界の景気サイクル軟化を反映した価格調整は、通貨を中心に既に始まっているとみられます。PIMCOでは、エマージング市場のマルチアセット・ポートフォリオにおいて、改善したバリュエーションとソフトランディングの可能性を考慮し、全体的な通貨エクスポージャーを中立に戻すため、厳選してエマージング通貨のポジションを拡大しています。(「アセットアロケーション展望(年央アップデート)」が、エマージング市場と先進国のマルチアセットのポジショニングを説明しているのに対し、本稿では、エマージング市場のマルチアセット・ポートフォリオにおけるポジショニング(図表2を参照)を説明している点にご注意ください。)

実際のところ、世界の景気サイクルが回復へ向かうのか景気後退に陥るのか、エマージング通貨はその転換点を示す先行指標となる可能性があることから、今後間違いなく注目すべき資産です。予想される変化に備えて、ポートフォリオの流動性は厚くする方針です。また、エマージング株式はアンダーウエイトを維持します。

Emerging Markets Asset Allocation: Opportunities in a Time of Transition

Emerging Markets Asset Allocation: Opportunities in a Time of Transition

極めて魅力的な現地通貨金利

ソフトランディングと景気後退が十分に見込まれる環境下では、エマージング市場の現地通貨金利(現地通貨建てのソブリン債)のリスク調整後のリターンが最も高くなると、PIMCOでは考えています。経済のスラック(需給の緩み)によりインフレ圧力が抑制されているため、エマージング諸国の多くの中央銀行は、景気循環に対抗する緩和的な金融政策をとることができます。グローバル金利のマンデートにおいて、エマージング市場の現地通貨金利のポジションは好ましい分散手段となるとみており、具体的には、以下の特性を一つ以上持つ国に注目しています。

  • 金利が低く、長短の金利差が大きい国は、マイナス金利で長短金利が逆転している先進国に比べて、実質的なキャリーが高く、良好なリターンが見込めます。例としては、ハンガリーやペルー、イスラエルなどがあげられます。
  • 金利が中程度の国は、安定化政策のおかげで、世界の景気の逆風にうまく対応する力があります。例えば中国は、米国債の利回りが緩やかに上昇しても、金利を低めに誘導し続けるでしょう。
  • 高金利の国々は、大きなマイナスの需給ギャップを抱え、(大きく改善した対外収支を反映して)通貨はすでに割安なことは明らかです。メキシコ、ブラジル、ロシアなどがこのグループに入ります。

外貨建てエマージング債にも魅力

外貨建てエマージング債も割安とみており、エマージング市場のマルチアセット・ポートフォリオでは主要なオーバーウエイト資産となっています。高い流動性を持つソブリン債を選好していますが、デュレーションが比較的短く、格付けも相対的に高いエマージング社債の分散効果も引き続き高く評価しています。

  • ソブリン債:外貨建てエマージング債のリスク特性をほぼカバーし、安定した信用力でアウトパフォームする可能性の高い銘柄バスケットを選好しています。ベンチマークの投資適格クラスのバリュエーションは割高とみられ、世界的な金利環境は2020年も追い風となると考えられることから、ポートフォリオでは高利回りの銘柄に傾斜した運用を行っています。なお、当然ながら主要金利の動きはしっかりとモニターします。PIMCOが選好する国の例としては、インドネシア、ルーマニア、ウクライナ、ブラジル、ドミニカ共和国があげられます。アルゼンチン発のリスクの伝播はこれまでのところ抑制されていますが、混乱拡大により発生する投資機会に対しても準備を整えています。なお、先進国の超低金利と割高なクレジット市場からの分散を考えるクロスオーバーの投資家にとっては、ソブリン債が自然な選択肢であり続ける可能性が高いと考えています。
  • エマージング社債:エマージング社債のファンダメンタルズは改善基調を保っており、単体の資産クラスとしても、エマージング・ソブリン債のポートフォリオの分散対象としても、その価値を高めています。トレンドを下回る経済成長によって、多くの企業は設備投資を控え、債務期限を延ばしながらバランスシートのレバレッジ削減のため、フリー・キャッシュフロー拡大を優先してきました。グロスでみてもネットでみても、レバレッジはここ数年で最も低くなっており、財務上の流動性に対する懸念はかなり低下しています。ファンダメンタル上好ましいこのような傾向は、ラテンアメリカ、中東欧、中東、アフリカで一層顕著となっており、これらの地域全体で、過去2年間の正味社債発行額はマイナスとなっています。これに対しアジアは、特に中国でのハイイールド債の発行が大きく寄与し、正味発行額はプラスとなっています。投資適格債の割合が多く、クレジット・スプレッドも大きく、BBB格のJPモルガン・コーポレート・エマージング・マーケッツ・ボンド・インデックス(CEMBI)ダイバーシファイドのベンチマークでみても、デュレーションは短い(4.5年)ため、エマージング社債は投資対象として望ましい状態が続くと予想しています。商品市場の価格と世界経済の減速には注意する必要がありますが、エマージング・クレジット市場の初期条件は良好なことから、これらのリスクは十分カバーできると考えています。

安値圏にあるエマージング通貨

エマージング通貨は押しなべてこの20年間でほぼ最も安い水準にあり、世界的な景気減速に向けて好位置にあります。また不透明な世界経済に備えて、これまでには見られないほど頑強な対外ポジションを築いています。潜在リターンが改善したことから、ややアンダーウエイトとしていた通貨ポジションを、最近、中立に戻しました。

減速する世界経済、全般的に割高なドル、先進国中央銀行の緩和政策の流れの中で、エマージング通貨は少なくとも良好なキャリーを提供しうる点に加え、ドル安が進行すればさらに大きなリターンが期待できるでしょう。ドルの実効レートは割高で、ソフトランディングや世界貿易の不透明感が薄まれば、ドル安となる可能性は高まるでしょう。

現時点では、バリュエーションが割安とみられるため、分散の効いたエマージング通貨バスケットを選好していますが、貿易をめぐる不確実性と景気後退リスクに備えて、それほど大きなポジションはとっていません。

しかし、世界貿易の不確実性が景気循環的により織り込まれたとみなせるような指標やデータがさらに明らかになれば、エマージング通貨のポジションに対する確信レベルは一層高まるでしょう。その段階では、比較的小国で、より開放的な経済を有する国の方が、米国に対しより広い範囲で反動する可能性が高く、ドルは昨今の横ばいの動きから、しっかりとしたドル安基調に転ずるでしょう。

試練を迎えるエマージング株式

エマージング市場では、収益拡大のファンダメンタルズや株式のバリュエーションに、景気循環の影響が重くのしかかっています。収益見通しの下方修正が続き、エマージング株式に重石となるでしょう。10年平均をわずかに上回る程度の将来のバリュエーションを含む収益見通しでは、エマージング株式に対してポジティブなスタンスをとるには無理があります。

さらに循環セクターの割合が高く、中国の経済成長の影響を強く受ける銘柄が多いことから、エマージング株式のベンチマークは、貿易紛争のせめぎあいと、現在明確とは言えない中国のスタンスに左右されやすくなっています。アジアのエマージング諸国は、MSCIエマージング市場インデックスの72%近くを構成しています。

将来の成長に対する不安が営業レバレッジと設備投資に影響を与えています。成長に向けた活動よりも、バランスシートのレバレッジ低下を企業が優先し続けるこのような傾向は、債券保有者にとっては好ましいものでしょう。

貿易摩擦の緩和によりセンチメントが改善すれば、エマージング株は上昇する可能性があります。PIMCOでは、エマージング株式アンダーウエイトのスタンスを全体的に見直すには、明確なドルの為替サイクル反転にともなって、購買者指数(PMI)のうちの新規受注が、世界的に継続して改善傾向を示すことをまず確認したいと考えています。

結論

エマージング市場は、今後半年のうちに、回復かあるいはさらなる景気減速のターニングポイントに差し掛かかる可能性があるとみています。エマージング市場のマルチアセット・ポートフォリオでは、現地通貨金利が最も有望な戦略です。また、今後期待される投資機会に備えて、ポートフォリオの流動性は厚めに保っています。経済成長に敏感な資産への配分拡大が望ましくなるような、世界の景気サイクルの転換点を知らせてくれる先行指標ともなりうるエマージング通貨は、今後間違いなく注目すべき資産です。

著者

Vinicius Silva

エマージング市場担当のポートフォリオ・マネージャー

Pramol Dhawan

エマージング市場ポートフォリオ・マネジメントチーム統括

Yacov Arnopolin

エマージング・マーケット担当ポートフォリオ・マネージャー

Kofi Bentsi

エマージング市場社債ポートフォリオ担当のポートフォリオ・マネージャー

Gene Frieda

グローバル・ストラテジスト

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