州中央銀行(ECB)のマリオ・ドラギ総裁は、「我々に与えられたマンデート(責務)を追求しないことは法に反する」と述べて2014年最後の記者会見を締めくくりました。そして年明け後の最初の記者会見で総裁は量的緩和を発表し、ECBのマンデートであるインフレ率目標の達成に果敢に挑む措置を打ち出しました。経済生産と原油価格が下落を続ける中でユーロ圏のディスインフレ傾向による不安定性が増幅していただけに、この措置は適切でした。

この量的緩和措置は、市場予想の上限に達する規模となりました。ECBは債券買い入れを今年3月から開始し、月額600億ユーロのペースで2016年9月末まで継続する意向です。買い入れは総額で1兆ユーロを超える見通しであり、これにはユーロ圏の国債や政府機関債に加え、既存のカバードボンドや資産担保証券の購入策も含まれています。

ECBの政策が他の中央銀行の政策と異なるのは期限を定めないオープンエンド型であるという点であり、ECBは「インフレ率向上の道筋が持続的に調整され、2%を若干下回る水準とするECBの中期的なインフレ目標との整合性が確認できるまで」継続するとしています。インフレ率は現在-0.2%であり、2016年もECB予想で1.3%にとどまることから(さらに、これは原油価格が1バレル50ドルまで下落する以前の予測)、インフレ率が目標に沿って持続的に調整されるまでにはかなりの時間を要すると思われます。したがって、2016年以降も買い入れが続く可能性があり、ECBがいかに本腰を入れてマンデートに取り組もうとしているかが示されています。

PIMCOでは当初、量的緩和策によって購入された債券の最終的な損失を、ECBとその株主である加盟19カ国の中央銀行との間でどのように負担するのかを懸念していましたが、結局、リスク負担は実質的にまったく問題にならないと判断しました。ECBと中央銀行が購入した債券の20%はリスク共有の対象となりますが、残りの80%は各国中央銀行が自国の国債を購入してリスクを負担します。仮に損失が発生した場合でも、債務不履行に陥った国の中央銀行だけがその損失を負担します。しかし、最も重要な点として、中央銀行は自己資本がマイナスでも業務の運営が可能であり、量的緩和によって積み上げられた準備預金に対する民間銀行の債権はユーロ圏全域で負担されるものであることから、リスク共有は(記者会見でのドラギ総裁の言葉を借りれば)そもそも「影響を及ぼさない」と言えるでしょう。

では、量的緩和は効果を発揮するでしょうか。残念ながら現実はそう甘くはありません。金融政策は景気循環を後押しすることはできても、最終的に持続可能な成長の原動力となるのは投資、生産性そして人口の増加です。成長を実現するためには、民間部門と公的部門の両者が寄与しなければなりません。

欧州の政策決定者の間では包括的合意が行われた模様であり、量的緩和策が成功する兆しが見え始めています。ECBは自らの役割を果たしました。欧州委員会も総額3,000億ユーロ規模を目指して官民インフラ投資ファンドを調整中であり、域内の多くの政府は構造改革に真剣に取り組んでいます。イタリアのマッテオ・レンツィ首相は、同国の労働市場、選挙制度、そして銀行部門の構造改革を打ち出し、注目を浴びています。すべての改革案が法制化されたわけではありませんが、この点において欧州は間違いなく良い方向へと舵を切っています。

市場と投資への意味合い
市場への影響、そして今後のポートフォリオ戦略についてPIMCOはどう考えているのでしょうか。米国、英国そして日本の量的緩和策の経験から総じて言えることとして、量的緩和はリスク資産と金に有利に働き、デュレーションと自国通貨の対外的価値に対してはデメリットとなります。日本のデュレーションに関する動きは例外としても、ユーロ圏は他の量的緩和実施国と似た動きを示すと考えます。

周縁国の国債はこれまで高いパフォーマンスを示してきましたが、ここで売却する理由はほとんど見当たりません。イタリア、スペインの長期国債利回りは約2.7%と、同年限のドイツ国債を大きく上回っています。PIMCOではこれらの利回り格差はいずれ縮小すると見込んでいます。

PIMCOは引き続き投資適格社債とハイイールド社債に投資機会があると見ています。ユーロ圏の銀行関連株と劣後資本証券は、対応する最近の国債市場に対してアンダーパフォームしていますが、ECBの緩和策の影響により格差はいくぶん縮まるものと思われます。

さらに、いわゆるPIMCOの投資の同心円において、より外側に位置する、流動性が低くリスクの高い不動産やディストレスト債などの資産クラスも緩和策の恩恵を受けると予想されます。PIMCOの不動産およびプライベート・エクイティのアナリスト・チームは、今後数カ月にわたりこの分野の投資機会を徹底して探り出します。

利回りの低いドイツ国債と通貨ユーロに対する魅力は低下しています。1月22日の欧州市場の営業終了時までに金が1オンス当たり33ユーロも急騰したことは、1つの資産の供給が他の資産に比べて増えた時に何が起こるかを如実に示しています。ユーロは下落傾向が続くものと思われます。

視点をさらに広げると、ECBの決定が及ぼす世界的影響についても考慮する必要があります。世界経済は35年もの間、ほぼ途切れずディスインフレ傾向が続いており、ついにはすべての主要先進国でゼロ金利政策と量的緩和策が実施されるに至りました。米国と英国では循環的な景気回復の動きが見え始めていますが、他の国々の景気鈍化は、特に中国をはじめとする新興国の状況や高齢化の傾向を踏まえると、米国の連邦準備制度理事会(FRB)とイングランド銀行による政策金利の正常化プロセスの進行に大きな悪影響を与えます。

市場は、中央銀行の力によって経済的に望ましい結果が生み出されるだろうと、依然として信頼を置いています。しかし、もしもこの信頼に疑問が生じたなら、そして各国の中央銀行がスイス国立銀行のようにタオルを投げ入れて試合を放棄したならば、ディスインフレ傾向は債務デフレに陥りかねません。少なくとも現時点では、ECBはリフレの灯が消えないよう息を吹きかけるでしょう。

著者

Andrew Bosomworth

ドイツ債券ポートフォリオ・マネジメント統括責任者

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