PIMCOの視点

中国とアジアの エマージング市場: 資本市場の新たな夜明け

加速する、アジア地域のグローバル市場への統合

金融市場に対する中国の影響は強まっています。世界中の投資家は、以前にも増して、中国の成長ストーリー、信用システム、株価や人民元の動きに注目するようになっています。

の一方で、最近の人民元の動きに気を取られた多くの投資家は、全体像を見失っている可能性があります。中国を始めとするアジア地域全体は、徐々にグローバルな資本市場に統合されつつあります。PIMCOでは、向こう1~2年にわたり、グローバルな資本市場および投資ポートフォリオにおけるアジアの重要性は、中国を中心に一段と高まると予想しています。

投資家がインカムを求める現在の低リターンの環境は、アジアが世界市場における地位を拡大する好機と言えるでしょう。アジアのエマージング市場には、世界金融危機を乗り越えた多様な投資機会が存在します。債券市場と株式市場は、急速に拡大しています。また、同地域の牽引役として、中国は巨大な国内市場をグローバル投資家に開放するようになり、魅力的なアルファ(市場に対する超過リターン)とベータ(市場のリターン)を獲得する長期的な機会が生じています。

最近の地政学的な緊張が、アジアの世界金融市場への統合に対する一部の投資家の注目を後退させる可能性はあるものの、統合の動きは止まることなく順調に進んでおり、むしろ加速している可能性もあります。中国の資本市場は正に世界の株式、債券インデックスに組み込まれようとしており、グローバルな投資対象の一部を構成しつつあります。

アジア:エマージング市場で際立つ地位

アジアのエマージング市場では、20年以上にもわたって興味深い構造転換が進んでいます。

一般にアジアのエマージング市場は、資産クラスとしてエマージング市場全体の中に位置付け られてきましたが、近年では、独立した資産クラスに発展しつつあります。アジアのエマージング 諸国は、平均的に、インフラ、教育、金融市場、労働市場などの多くの項目において、中南米やEMEA地域(欧州、中東、アフリカ)のエマージング諸国に対して優位に立っています(図表1)。

アジア地域自体も、多様で地理的に分散されています。そこには、比較的質の高い多様な投資機会が存在しています。マレーシア、シンガポール、韓国、台湾を始め、シングルA以上の高い信用格付けを有する国も少なくありません。このほかにも、インド、フィリピン、インドネシアなど、投資適格格付けを安定的に維持している国もあります(図表2)。

これらの国では、堅固な財政と全般に柔軟性の高い為替制度を背景に、2008~2009年の金融危機以降の資本フローおよび金融市場の変化にも対応し、2015~2016年の人民元の急落などの個別の事象も乗り切ることができました。地域全体として貿易黒字が増加傾向にあるほか、インドとインドネシアというアジアのエマージング大国では、長期的な構造改革が進んでいます。

世界の製造業のハブであるアジアのエマージング諸国は、ブラジルやロシアなどの他のエマージング諸国ほどには世界的なコモディティ・サイクルの影響を受けていません。このことは、2014年に原油を始めとするコモディティの価格が高値から大幅に下落した際に大きな強みとなりました。なかでも、同地域では、エネルギー価格の下落を背景にインフレ率が低下したため、金融政策の柔軟性が一段と高まっています。

アジアの魅力的な成長ストーリー

アジア諸国の台頭の背景には、急拡大した中産階級が消費水準を押し上げていることがあります。経済協力開発機構(OECD)及び国連のデータによると、過去20年間に、アジアの大半の国では国民1人当たり所得が3~5倍となり(中国は20倍近い増加)、今後もこの傾向が続く見通しです。また、中国やインドなどの(日本以外の)アジア諸国は、世界でも都市化のペースが極めて速い地域であり、その動きが経済成長と密接に結び付いてきました。

このような動きは、総じて資本市場の拡大に寄与しています。現在、グローバルな債券市場において、アジアは最も急速に拡大している地域であり、なかでもクレジット市場の厚みは急速に増しています。流動性が特に高い米ドル建てのクレジット関連証券をトラックするJPモルガン・アジア・クレジット・インデックスは、過去5年間でほぼ2倍の規模になりました(図表3)。

債券の供給が増加するなかでも、アジアのエマージング市場ではリスク調整後リターンとクレジット・スプレッドの魅力が失われていません。ボラティリティ、利回り、クレジット・スプレッドの水準を考慮したリスク調整後リターンに注目すると、アジア・クレジットはグローバルな債券市場のなかで最も高い水準に位置付けられます(図表4)。

しかしながら、各国の規制などの制約を背景に、海外投資家による国内市場への参入は依然として限定的です。なかでも債券市場への参入率は特に低く、2大市場の中国、インドでは、それぞれ4%、2%と最低水準にとどまっています。

中国: 牽引役

現在、世界第2位の国内総生産(GDP)を誇る中国が、アジア市場の国際化の牽引役となっていることは明らかです。中国は、資産残高ベースで世界最大の銀行システムを有しています。また、株式市場は時価総額ベース(7兆米ドルを大きく超える7兆3,000億米ドル)で世界第2位に、社債市場は世界第2位に、国債市場は世界第3位に位置付けられます。中国国内市場における海外投資家の参入率の低さを踏まえると、今後数年間、中国向けの投資は、資本市場の歴史上で最も速いペースで伸びる可能性があります。

近年、中国のオフショア市場では、取引が活発に行われてきました。中国政府は現在、人民元建てのオンショア市場の開放に注力しています。2015年以降、中国人民銀行は、中央銀行や政府系ファンド(SWF)のような公的機関に対して、オンショアの債券市場へのアクセスを全面的に自由化してきました。また、その他の投資家も、機関投資家向けプログラム、人民元の直接投資の割り当て、個別の契約などを通じて、市場にアクセスしています。

中国政府は、2016年に海外投資家の国内債券市場に対するアクセスを拡大する意向を表明した後、2017年の7月初旬には、海外投資家が香港経由で中国本土の発行体が発行する国内債に投資することを可能にする、「ボンド・リンク」プログラムを立ち上げました。2014年に上海証券取引所、2016年に深セン証券取引所において導入された「ストック・コネクト」も、同じように香港経由で本土の株式市場への投資を可能にするプログラムです。

中国国内市場へのアクセスの拡大を受けて、同国の有価証券は主要な株式、債券インデックスに組み入れられる見通しです。その結果、多くのグローバル投資家にとって、重要な投資の前提条件が満たされることになります。インデックス構成銘柄や類似銘柄に対する、ベンチマーク投資家の需要は急増する見通しです。最大手のインデックス提供会社であるMSCI社は、今年6月に、2018年5月以降、200銘柄以上の中国A株(発行体は中国の有名な大企業)をグローバルなエマージング市場株式インデックスに組み入れ始めると発表しました。MSCI社の「ベンチマーク効果」に伴い、2,000~4,000億米ドルの資金が株式市場に流入すると推計されています。

インデックスへの組み入れは、債券市場にとって節目の出来事になるでしょう。数年間にわたって、上記と同額の資金が流入する可能性があります。エマージング市場への投資の観点では、中国銘柄の利回りはエマージング市場インデックスの平均より低い傾向があるものの、グローバル投資の観点では、中国銘柄への投資によって2~3倍高い利回りが期待されます。

資本市場では、需要の拡大が供給の拡大につながることが一般的です。中国の資本市場では、社債の発行が増加する余地が非常に大きいと言えるでしょう(図表5)。スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)社は、世界の社債発行残高に占める中国銘柄の割合は、2015年の35%から2020年には43%に上昇すると予想しています。PIMCOが2017年の実質GDP成長率を6.5%と予想しているように、GDPの伸びが鈍化したとしても、中国経済は10年以内に米国経済を凌駕するペースで拡大する見通しです。

アジア地域のリスク要因

長期的な成長余地は大きいものの、アジア市場の勢いは急変することがあります。同地域二大経済大国である中国と日本の動向がボラティリティ上昇につながり、変化の要因になる場合がしばしばみられます。2015年と2016年初旬の人民元の急落をきっかけにアジアのエマージング通貨に下押し圧力がかかった事例は、中国との密接な関係を明確に示したものでした。

中国は、インフラ、輸出主導型の経済から、国内の消費、サービス主導型の経済への移行を進めているため、投資家にとって政策に注目することが極めて重要になるでしょう。中国の経済成長が減速すれば、その影響はアジア地域全体、そして世界全体に波及する公算が大きいでしょう。

中国では、巨大な影の銀行システム、企業債務の累積、ばらつきのある不動産市場が重要なリスク要因となっています。PIMCOでは、中国の政策当局は引き続きこれらの問題をコントロールするため、「ハードランディング」が生じる可能性は低いとみています。たとえば中国人民銀行は、ここ数カ月間にわたって、金融政策を非常に緩やかに引き締めています。2016年の人民元の急落に伴い導入された資本規制は資本流出を歯止めする役割を果たし、人民元の下落ペースは緩やかになると予想しています。

投資対象の拡大

2016年に国際通貨基金(IMF)が人民元を準備通貨に採用したことは、中国のグローバル市場への参入を予兆する出来事でした。グローバル・インデックスへの中国の株式、債券の組み入れは、参入の第一歩となるでしょう。このような動きを見越して、グローバル投資家はアジア地域における長期的な投資戦略を策定、修正するとPIMCOでは考えています。

グローバルな投資ポートフォリオでは、世界のGDPに対する寄与度や株式、債券市場の規模と比べて、アジアに対する配分が非常に小さいことが一般的です。MSCI社は、6月に中国A株の約半分をエマージング市場インデックスに組み入れると決定した際に、投資家のアクセスや透明性が改善した場合には、さらに多くの銘柄を組み入れる可能性があると表明しました。投資家にとって、中国政府がボンド・リンク・プログラムを通じて中国本土の債券に対するアクセスを提供するようになった今、ポートフォリオの構成を見直した上で、世界中で最も速いペースで拡大するアジア地域に対するエクスポージャーを調整する方法とタイミングを検討する好機であるとPIMCOでは考えています。

アジアのエマージング諸国と中国はリターンとリスクの新たな源泉であり、ベータに関しては分散度を高める好機、アルファに関しては銘柄を選択する好機と言えるでしょう。中国関連の投資にはサプライズが数多く伴い、アップサイドとダウンサイドの両極端な結果が生じる可能性が高まるでしょう。

投資の世界では、「メイド・イン・チャイナ」から「トレード・イン・チャイナ」へと明確に移行しています。世界中の投資家は、アジアに直接投資するかどうかにかかわらず、グローバルな資本市場を通じて同地域の影響を一段と受けるようになるでしょう。

著者

Luke Spajic

ポートフォリオ・マネージャー

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