2013年4月付のViewpoint「Meet the Medians(英語版のみ)」では、後期のベビーブーマーをモデルにした登場人物のメディアン夫妻(ジョンとジュディ)が、退職後の資金の過不足状況を見極めるために、2008年の世界金融危機以降で初めて、ファイナンシャル・プランナーのスタンに相談しました。このストーリーを読み返すと、多くの勤労者が退職に至るまでの選択において直面するトレードオフが浮き彫りになります。また、金融危機後に資産価格が回復したとはいえ、現役時に近い生活水準を退職後にも求めるのであれば、早期に、そして時には困難な状況において貯蓄計画を策定し、これに従う必要があるという現実が、一層動かしがたいものになります。

第1の仮想シナリオでは、スタンは金融危機がメディアン夫妻の将来に大きな打撃を与えるという悲観的な見方を示した上で、3%という当時としては低かった住宅ローンの金利水準を生かしてローンを借り換え、利払い負担を減らす代わりに、ジョンの確定拠出年金(401k)の拠出額を収入の3%から6%に増やすとともに、毎年これを1%ずつ引き上げて 10%を目指す一方で、ジュディの個人退職勘定(IRA)においても同様の割合を貯蓄に回すように強く推奨しました。

メディアン夫妻はスタンの提案を心に留めました。その後、2週間前に食料品店で偶然出会ったスタンとジュディは、計画を見直すべき時期が到来したという点で意見が一致しました。ジュディは、本日行われるスタンの事務所での面談に備えて、スタンが要求したすべての情報を収集しました。社交辞令や世間話を交わした後に、ジョンは本題に入り、「スタン、率直に言って、状況はどの程度厳しいのでしょうか」と切り出しました。

スタンは唐突に笑い出した後に、「株式市場も住宅市場もいくぶん改善しています。お二人が貯蓄率を引き上げたこともプラスに作用して、前回の面談時よりも状況は良くなっています」と説明しました。

スタンは、2015年末時点で予想した収入と資産価値の見通しと、65才時の収入見通しを示した資料を、メディアン夫妻に提示しました。

 

図表1は、現在の貯蓄とホームエクイティ(持家の正味価値)の水準を2007年、2012年時点の予想と比較したものです。スタンの指摘によると、昨年の収入が2012年時点の予想を小幅に上回った結果、貯蓄残高は1万6,000ドルほど予想を上回り、ホームエクイティについては、繰上返済の前倒し実行と、米住宅連邦金融局(FHFA)住宅価格指数の全米の水準に比例して住宅価格が20%程度上昇したことを背景に、3万5,000ドル以上も予想を上回っています。これらの数字を基に、退職時(65才)の状況についての前回の予想と今回の予想を比較します。メディアン夫妻の65才時点における純資産の予想額は、56万9,000ドルから67万3,000ドルへと2012年時点の予想より10万ドル以上増えたものの、バラ色だった2007年時点の予想を引き続き13万ドル以上下回っています。

スタンのモデルによると、これに現実的な支出計画を重ねた場合、退職後には社会保障給付と貯蓄残高を基に年間5万1,000ドル程度の支出が可能という結果になりました。これは、3年前の予想を年間1,500ドルほど上回る数字です。また、ホームエクイティを活用した場合、年間の支出可能額は最大6万9,000ドルとなり、前回予想を5,000ドル近く超えることになります。ただし、資産価格の回復は、2008~2009年の損失を取り戻すほどではなく、スタンの勤務先が金融危機前に想定していた高い伸び率には及ばないため、持続可能な支出額の予想は2007年時点の予想を依然として大きく下回っています。

「どの程度の収入が必要か」
ジュディは、「少し混乱しています。退職時の貯金とホームエクイティが大きく増加する一方で、収入の置換率がほとんど変わっていないのはなぜでしょうか」と質問しました。

「ジュディ、それはいいポイントです。置換率を相応に引き上げるには、貯蓄のさらなる増加と高いリターンが必要です。また、貯蓄が増えるほど社会保障給付による置換効果が低下するという関係を理解することも必要でしょう」。

「なるほど。それでは、64~87%で十分なのでしょうか」とジョンは質問しました。「収入を100%置き換える必要はないのでしょうか。どの程度が必要なのでしょうか。また、レンジはなぜこのように広いのでしょうか」。

スタンは、レンジの下限は社会保障給付と退職時の貯金の予想に相当すると説明しました。一方、上限の水準はホームエクイティの予想額の部分的な活用を想定しています。ただし、ホームエクイティは直ちに現金化可能なわけではなく、退職後に必要が生じた場合などに依存できる安全網と言えるでしょう。スタンは、退職後に退職前収入の全額が必要にならない4つの理由を説明しました。

  1. 退職した時点で、退職に備えて貯蓄する必要がなくなる。その結果、退職前収入の約10%が不要となる。
  2. 住宅ローンを完済した段階で、将来の住宅費用の相当程度が支払われたことになり、退職前収入の約20%が不要となる。
  3. 社会保障給付には、金額の水準や退職時のその他の収入源に応じて、一般に退職前収入よりも低い税率が適用される。
  4. 退職者は、時間を節約する目的で出費する必要性が小さいため、時間をかけることによって出費を減らすことが可能であり、一般にそのような傾向がみられる。高額な趣味に取り組まない限り、さらに節約することも可能である。

ジュディは、「それでは60~65%を大幅に超える水準を目指す必要は本当にないのでしょうか。現在、家計はギリギリの状況ですが、将来的に両親と子供たちのために資金援助が必要になる見通しです」と質問しました。

ジュディによると、ジュディの両親は健康で経済的問題もなく、ローンが完済された素晴らしい住宅を保有しており、娘は自立してエンジニアリングの適職に就き、素晴らしい仕事に従事する真剣なボーイフレンドと交際しているものの、ジョンの父親と息子について懸念があるようです。

83才になるジョンの父親は妻に先立たれ、2年前に老人ホームに入り、年金と社会保障給付を受益しているものの、それだけでは老人ホームの費用が不足するため、貯金が急速に減少しています。また、老人ホームの費用は、彼の収入を大きく上回るペースで、年間8~10%程度値上がりしています。一方、二人の息子は大学卒業後に自宅に戻り、歴史専攻の非常勤講師を務める傍ら、夜はバリスタとして働いています。両親と同居することによって、学生ローンの返済を開始することが可能になったものの、専任講師のポジションが見つかるまでに相応の時間がかかる可能性があり、見つかった後も数年間は自立が可能になるほど経済的に安定することはないでしょう。

さらにジョンは、「娘のボーイフレンドが責任をもってプロポーズすれば、結婚費用の一部を負担する必要が生じるでしょう」と付け加えました。

スタンは、同じような状況、すなわち、貯蓄を使い果たす恐れのある老いた親と、生活費用を自ら賄えない子供の板挟み状態にある顧客は、少なくないと話しました。スタンは、そのような顧客に対して、同情の余地はあるものの、もう少し自分中心に考えるべきだとアドバイスしています。

「ジョン、ジュディ、25~30年後の自分自身の姿を思い描いてください。現在の貯蓄が不足すれば、望むよりも大きな負担を子供たちにかけることになるかもしれません。あるいは、少なくとも、切り詰める余地がほとんどない時点で生活水準の切り下げを余儀なくされるかもしれません。これは十分に現実的なシナリオです。さらに、ネガティブ・シナリオとして、社会保障給付がプログラムの収支均衡に必要な水準に向けて25%削減されることを想定すると同時に、住宅価格と資産価格の長期的な上昇見通しを1%ずつ下方修正した場合、置換率は15%程度低下してしまい、支出を毎年1万1,000ドル程度削減する必要が生じるでしょう。これは非常に深刻な状況です。それに、ジョンが65才までに仕事を失った場合のことを考えてみてください。現在の収入を維持することは可能でしょうか」。

スタンは、2種類の退職年齢についての置換率の詳細を示したグラフを示しながら、「このほかに退職を先送りするという方法もあります。基本シナリオにおいて、退職年齢を65才から67才に変えた場合、状況はいくぶん改善します。退職を2年間先送りすることによって、置換率は71~97%のレンジにシフトします。先ほどのネガティブ・シナリオにおいても、退職前収入の60~80%を支出することが可能になるでしょう」と説明しました。

ジョンとジュディは、説明内容を飲み込むためにしばし思い巡らしました。ジョンはため息をつきながら、「スタン、全体像を示してください。他の顧客と比べて我々の状況がどの程度であるのか、記号で教えてください」と依頼しました。

「そうですね、「B」評価は確実でしょう。平均よりは良好です。「A」評価は65才より早期にかなり余裕をもって退職可能な状況です。「C」評価は67才より早期の退職が困難であるか、安全網にそれほど手を付けずに、これまで通りのライフスタイルを維持するため70代前半まで仕事を続けることが必要な状況です」。

「名前の通り「平均的(median)」な人生を送ってきたので、平均以上の「B」評価で満足するべきでしょうね」、とジョンは感想を口にしました。

スタンは真面目な顔で、「難しいことは理解していますが、貯蓄期間の最終段階に入ったのですから、次回は3年以内にお話ししましょう。現時点では、市場が大きく変動したり、お二人の状況が大きく変わったりしなければ、2年に1回の面談で十分です。お約束頂けますか」。

ジュディは、「大丈夫です。ジョンの背中を押してでも叫んででも、お伺いします。「B」評価を維持し、うまくいけば「B+」評価を目指したいものです」と話しました。

著者

James Moore

コンサルタント

プロフィールを見る

Latest Insights

ご留意事項

ピムコジャパンリミテッド
105-0001
東京都港区虎ノ門4-1-28
虎ノ門タワーズオフィス18階
金融商品取引業者 関東財務局長(金商) 第382号
加入協会/ 一般社団法人日本投資顧問業協会、一般社団法人投資信託協会


ピムコジャパンリミテッドが提供する投資信託商品やサービスは、日本の居住者であり、かつ法律による制約のない方に対して提供するものであり、かかる商品やサービスが許可されていない国・地域の方に提供するものではありません。

過去の実績は将来の運用成果を保証または示唆するものではありません。本資料には、本資料作成時点での著者の見解が含まれていますが、これは必ずしもPIMCOグループの見解ではありません。著者の見解は、予告なしに変更される場合があります。本資料は情報提供を目的として配布されるものであり、投資助言や特定の証券、戦略、もしくは投資商品の推奨を目的としたものではありません。本資料に記載されている情報は、信頼に足ると判断した情報源から得たものですが、その信頼性について保証するものではありません。

運用を行う資産の評価額は、組入有価証券等の価格、デリバティブ取引等の価値、金融市場の相場や金利等の変動、及び組入有価証券の発行体の財務状況や信用力等の影響を受けて変動します。また、外貨建資産に投資する場合は為替変動による影響も受けます。したがって投資元本や一定の運用成果が保証されているものではなく、損失をこうむることがあります。運用によって生じた損益は、全て投資家の皆様に帰属します。弊社が行う金融商品取引業に関してお客様にご負担頂く手数料等には、弊社に対する報酬及び有価証券等の売買手数料や保管費用等の諸費用がありますが、それらの報酬及び諸費用の種類ごと及び合計の金額・上限額・計算方法は、投資戦略や運用の状況、期間、残高等により異なるため表示することができません。