下のQ&Aでは、ポートフォリオ・マネジャーのアンドリュー・ボールズ、マイク・エイミー、フィリップ・ボドローが、英国のEU離脱(ブリグジット)決定を受け、英国およびEUの今後の見通しについて話し合い、世界経済への影響を評価します。

:英国のEU離脱決定は、PIMCOの英国およびグローバル経済の見通しにどう影響するのでしょうか。
アンドリュー・ボールズ :PIMCOでは、長期的な見通し、いわゆるセキュラー・アウトルックを出発点に考えます。これは向こう3年から5年のグローバル経済についての見通しをまとめた基本シナリオです。最近、この点について議論した結果、「安定的だが、その持続性には懸念」が残るとの結論に達しました。基本シナリオとして、グローバル経済はなんとか持ちこたえるもののリスクは高まる、と考えています。こうしたリスクの一例が、高まるポピュリズム(大衆迎合主義)の脅威と、それによってもたらされる政治的・経済的影響です。こうした潮流を踏まえ、長期的に欧州については慎重な見方をしていますが、今回の国民投票の結果は、この見方に沿うものだと言えます。

とはいえ、少なくとも現時点では、ブリグジットはあくまで英国のイベントであり、世界への波及効果は抑えられていると見ています。英国については、向こう4四半期の成長率が1%~1.5%のレンジで押し下げられ、ほぼゼロ成長に落ち込むと予想しています。イングランド銀行は政策金利を現行の0.5%から引き下げて、これに対抗する可能性が高いとみています。

世界的にブリグジットの影響が最も大きいのはユーロ圏であり、欧州中央銀行(ECB)による追加緩和を予想しています。しかしながら、不確実性の高まりがユーロ圏のGDPを押し下げる効果は0.2%~0.3%にとどまるとみています。米経済に大きな影響があるとは考えられませんが、米連邦準備制度理事会(FRB)は追加利上げを遅らせる可能性があるとみています。以前は年内の利上げを1回ないし2回と予想していましたが、現在は1回の可能性が高いと考えています。しかしながら、この点についてはきわめて流動的であり、最終的には市場の動向と経済指標次第と言えるでしょう。むしろはっきりしているのは、足元の市場が当面の利上げをほとんど織り込んでいないということです。次回の0.25%の追加利上げは2018年末まで織り込まれていません。われわれからすれば、これはいささか信じ難いことで、もう少し速いペースの利上げに合わせたポジションを取ることを考えるべきだと思います。

:PIMCOの基本シナリオにとってのリスクとは、どのようなことでしょうか。
ボールズ :リスクの1つは、市場の動揺が収まらず、ボラティリティが不確実性を高める自己増殖型のサイクルに陥り、経済活動が長期にわたって停滞することです。しかしながら、これまでのところ、これを裏付ける反応は見受けられません。市場は概ね新たな現実を織り込み、われわれの見方に沿って動いているように見えます。つまり、株式と為替を中心に、英国の資産が最も大きな打撃を受ける一方、質への逃避を背景に米国債が上昇しています。ユーロ圏の銀行も売り圧力に押されています。ただし、これら以外の動きは落ち着いており、多くの資産が6月上旬並みの値をつけていることから、足元が極端な水準にあるとは思えません。まだ数日しか経過しておらず、これから変わる可能性がありますが、これまでのところ市場で見られる兆候は、ブリグジットが概ね英国のイベントであり、グローバルでシステミックなイベントではないとのわれわれの見方に沿ったものだと言えます。注目すべき指標の1つが米ドルです。上海でのG20会合以降、中国発の材料は出ていませんが、ドル高の進行で人民元が一段安となるリスクが高まっています。今年初めや昨年8月と同じ様に、元安が引き金となって、ボラティリティが大幅に高まる可能性はあります。

:英国のEU離脱は、EUの長期的な安定を脅かすのでしょうか。
ボールズ :先ほど申し上げたように、長期的に見た場合の主要なリスクはポピュリズムの高まりであり、こうした理由から欧州の資産については慎重にみています。英国のEU離脱が他のポピュリスト的な動きを後押しする面はあるとは思いますが、これが大きな変化だとは見ていません。リスクは既にあったのです。26日に行われたスペインの議会選挙は、中道右派にとっては予想よりも良く、ポピュリストの党であるポデモスにとっては予想より悪い結果となりましたが、おそらく英国の結果を見て影響されたのでしょう。

英国が離脱するのはEUであって、(単一通貨圏の)ユーロ圏からではない、そもそも最初からユーロには加盟していない点を認識しておくことも重要です。EUから離脱しようとする国よりも、ユーロ圏から離脱する国の方が、ユーロ圏の安定性にとってはるかに大きなリスクとなります。たとえば、2011年から2012年にかけてギリシャがユーロ圏を離脱していれば、その打撃は、現時点で英国がEUを離脱するよりはるかに大きかったでしょう。また、欧州中央銀行(ECB)の反応関数も、量的緩和プログラムを踏まえれば、以前よりもはるかに見通しやすくなっています。これが、欧州ソブリン債のボラティリティを抑制する助けになるとみられます。とはいえ、今後、ユーロ圏とりわけ大国でポピュリスト的な政党が政権を握るリスクが、明らかな懸念材料であることに変わりありません。

:英国の次のステップは、どのようなものになるでしょうか。
マイク・エイミー :投票率72%で、52%の有権者が離脱票を投じたわけですから、英政府はEU離脱の手続きを開始し完了するという明確な負託を受けたことになります。現時点で不透明なのは、デヴィッド・キャメロン首相の辞意を受けて、誰が与党・保守党の新党首に選出されるか、です。保守党の新党首は次期首相に就任することになりますが、9月初旬までに選出される予定です。離脱派のキャンペーンを主導したボリス・ジョンソン前ロンドン市長が出馬を見送ったことで、テレサ・メイ内相、マイケル・ゴーヴ司法相が有力候補となっています。党首選が決着するまで、英政府は実質的に身動きが取れません。

EU首脳の間では、その前に離脱交渉を開始するよう英国に迫る動きも見られましたが、現実に(EUに離脱を通知する)リスボン条約50条を発動できるのは英国だけであり、それを受けて正式に離脱のプロセスが始まります。これは早くて9月とみられ、発動されれば2年間の交渉が始まることになります。これらを総合して、われわれは英国が正式な離脱に近づくまでの最短の2年に注目しています。

:市場がどのように機能しているかについて、具体的に説明していただけますか。
エイミー :これまでのところ、市場のボラティリティは高まっていますが、秩序立っており、機能しています。流動性は潤沢で、売買高も大きく、市場は問題なく決済されています。英国の株式市場と英ポンドは大きな打撃を受けていますが、警戒すべき水準ではありません。アンドリュー(ボールズ)が述べたように、多くの資産の水準は、今年初めにつけた安値並みの水準にあります。結果判明直後は動揺した市場も安定しつつあるようにみえます。これは、EU離脱があくまで英国のイベントであり、世界への波及が食い止められていることの現れだと思います。先ほど述べたように、今後のスケジュールが明確になっていることも一因です。離脱は長期にわたるプロセスですが、最大の誤算は既に起きてしまったのです。これだけ長期のフレームがより大きなシステミック・イベントの中でどう展開するかを見通すのは容易ではありません。ただ、繰り返しになりますが、まだ決定から日が浅く、状況は変わる可能性があります。

:英国の銀行セクターには、どのような影響があるでしょうか。英国の銀行株と銀行債のバリュエーションの乖離は理屈がつくのでしょうか。
フィリップ・ボドロー :英国に拠点を置く多国籍の銀行と、英国の国内銀行を区別する必要があります。前者は主に投資銀行業務に従事し、後者は国内のリテールおよびコマーシャル・バンキング業務が主体です。前者の多国籍銀行については、一部のスタッフを大陸に移管せざるをえないなど打撃を受ける可能性があります。また、EU加盟国で横断的に事業を展開できるパスポートを失う恐れがあり、影響はありますが、全体としてこれらは営業上の打撃であり、マクロ経済に与える影響は限られています。しかしながら、後者の国内銀行ついては、状況はかなり違っていて、株価の下落は首肯できます。金利の低下、貸出の伸び鈍化、貸し倒れの増加は、すべて将来の収益が低下するとの予想を裏付けるものです。

信用の観点では、見通しはかなり楽観的です。英国の銀行の自己資本比率は12%~16%と高く、バランスシートが大きく流動性も潤沢です。最近のストレステストの結果も良好で、今のところ政治危機が銀行危機に発展する兆しは見当たりません。銀行セクター、とりわけ英国の銀行債と劣後債におけるバリュエーションの乖離は、好機をもたらす可能性があると考えています。

:ユーロ圏の銀行についても同じことが当てはまるでしょうか。
ボドロー :ユーロ圏でも、英国のEU離脱という結果を受けて、銀行のボラティリティが高まりました。しかしながら、ボラティリティが高い状態は年初来続いており、この背景には、投資家が一番弱いところを絶えず追いかけている、ということがあります。その最たるものが、多額の不良債権と赤字を抱えるイタリアやポルトガルの銀行であり、ソルベンシーへの懸念とリスクオフの地合いを踏まえれば、これらが値を下げているのは意外ではありません。他方、バランスシートが堅固で配当水準も高い銀行が売られているのは不当だと思えます。(国民投票結果が判明した)24日は銘柄に関係なく一斉に売られる展開になりましたが、その後、銘柄を選別する動きが戻り始めたようにみえます。

:英ポンドはさらに下落するのでしょうか。また、英国債にはどのような影響を及ぼすと予想していますか。
エイミー :先ほど申し上げたとおり、英国の成長率はほぼゼロに低下すると予想しています。このため、イングランド銀行は、英ポンド下落に伴う物価上昇よりも、景気の弱さに左右されることになるとみています。

足元の英ポンドは概ね適正な水準にあるとみており、大きく反発するとは予想していません。為替市場は主要なメカニズムとして政治リスクを織り込む傾向があることから、全般的な不透明感が英ポンドの大幅反発を抑えるものとみられます。

英国債への影響という点では、利回りは国民投票の前から0.4%前後低下しています。イングランド銀行の利下げや量的緩和拡大の可能性を踏まえると、強い上昇圧力は見当たりません。ただし、利回りがマイナスになるとはみていません。

:英国のEU離脱決定を、米大統領選でのドナルド・トランプ氏の台頭と同じ文脈で捉える人が少なくありません。トランプ候補が大統領選に勝利した暁には、市場は同じような反応をすると予想していますか。
ボールズ
:誰が米大統領に就任するかは、世界的に重大な意味を持ちます。ドナルド・トランプ候補については、その考えや示唆する政策にわからない点が多く、したがって同候補の当選は、市場のマイナスの反応を引き起こすでしょう。これに対して、ヒラリー・クリントン氏はよく知られた候補です。全体として、EU離脱の是非を問うた今回の英国の国民投票は、米国をはじめとして、今後、ポピュリズムと政治リスクに目配りする必要性を改めて確認させるものだと言えます。

:バリュエーションが大幅に低下したセクターには、買いの好機があるのでしょうか。また、より大きな意味でのポートフォリオへの影響をどう見ればいいのでしょうか。
ボールズ: バリュエーションに最も大きな乖離が見られるのは銀行セクターで、同セクターには買いの好機があるとみています。もっと広い意味では、社債について強気の見方をしています。特に高く評価しているのが、信用力の高いセクターと資産担保証券――比較的リスクが低く、信用力が高い銘柄で、同僚のダニエル・アイバシンが「なんとか持ちこたえられる」程度のスプレッドと名づけたポジションです。米国の物価連動債については、依然として割安であり、今後、米国の物価が上昇した場合の対抗手段となると考えています。

エイミー :全体をまとめましょう。政治と市場、ひいてはわれわれの投資ポートフォリオにとって、ポピュリズムのリスクが高まっています。現時点で、英国のEU離脱決定の影響は概ね英国に限られていますが、決定から日が浅いことから、状況を注視する必要があります。こうした中、今後も慎重ながら、好機を活かしていくつもりです。 

著者

Andrew Balls

グローバル債券担当最高投資責任者(CIO)

Mike Amey

ポンド建てポートフォリオおよびESG戦略統括

Philippe Bodereau

ポートフォリオ・マネージャーおよびグローバル金融リサーチ統括責任者

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