PIMCOの視点

債券は違う

多くの投資家は、株式のパッシブ運用が支持される理由が債券投資にも同様にあてはまると考えているようです。しかし、債券は株式とは別物です。5つの違いに焦点をあてて解説いたします。

クティブ運用かパッシブ運用かの議論では、昨今の投資資金の流れを見るかぎり、パッシブ運用に軍配があがっているよう です。また、全てではないかもしれませんが、多くの投資家は 株式のパッシブ運用が支持される理由が債券投資にも同様に あてはまると考えているようです。しかし債券は株式とは別物です。トランプ政権の政策の不確実性とそれによって生じるボラティリティから、債券のアクティブ運用の優位性はますます強まっているとPIMCOでは考えています。

アクティブ運用かパッシブ運用かの議論はもちろん今に始まったものではなく、どちらにもそれなりの根拠があります。しかしここ数年は、手数料を支払って株式のアクティブ運用を委託したにもかかわらず、多くの投資家がベンチマークを下回るリターンしか得ていないように感じます。

パッシブ運用を支持する根拠の中身は簡単な算数です。すべての投資家のパフォーマンスを足し合わせたものが市場全体のパフォーマンスとなるので、一人の勝者には必ずその利益を献上する敗者がいることになり、アクティブ運用全体の平均のネット・リターンが市場を上回っていても、そこから手数料を差し引くとマイナスになるという計算です。

債券は多くの点で株式とは異なります。株式投資に対する目的は比較的一定ですが、債券投資の目的は様々です。トレードのやり方も違います。債券では、新規発行額とそれがベンチマークに占める割合が、より重要な要素になります。また、個々の銘柄のリスク・リターン特性も、株式のそれに比べて大きな偏りがあります。

これらの理由などから、債券投資にはアクティブ運用がより適しているとする主張にはこの論理には説得力があるように思えますが、債券に関していえば、この論理では不十分だと考えられます。

1) トータル・リターンの最大化が主たる目的ではない投資家の割合が大きい債券市場

たとえば中央銀行は、為替市場を安定させる目的で外国の国債を売買し、マネー・サプライを管理する目的で自国の国債を売買しています。商業銀行や保険会社は、リスク資本に対するリターン、格付け、会計規則などに基づいて投資をしています。これらの投資家は主にクーポンからもたらされる、予測可能で確実な収益を重視し、キャピタル・ゲインやロスなど、確実性が低いと株式アナリストがみなす収益を避けようとします。また、投資適格の最低基準(BBB-/BB+)を下回る ことは、何としても避けたい危険な崖と見なしています。

こうした投資家が保有する債券の残高をまとめたものが図表1です。国際決済銀行(BIS)によれば、2016年6月30日時点の世界の債券発行残高約102兆ドルのうち、その半分近くが簿価で保有されています。

これら投資家の目的が純粋に時価最大化を目指す投資家と異なるため、あるいは投資の制約から潜在的なコストを受け入れるため、その価値の一部は、同様の制約を受けない投資家に移転されるはずです。

2) 市場が構成比率を決める株式のインデックスと異なり、債券のインデックスでは、原則として発行体が構成比率を決定

ダウ工業平均を除けば、一般的に参照される株式インデックスのほとんどは、時価加重平均で計算されるため、構成比率はもっぱら企業の時価総額で決まります。ほとんどの企業の上場株式は1種類か、せいぜい2種類です。

これに対して債券インデックスの構成比率は、主として企業または政府が発行する総額、発行される個々の銘柄の規模が反映されます。企業はたとえ債券を発行しても、基本的には企業の総価値が変わるわけではありません。現金資産が増え、同額の債券の負債が増えるだけです。発行手数料を無視すれば、新たな現金と新たな債券の差し引きは0になります。しかし企業が債券を発行することにより、債券インデックスでその企業の構成比率は高まります。そうであれば、なぜ、ある企業の資本構成に関する決定が、その債券を保有するか否かの投資家の決定を左右することになるのでしょうか。ある企業がレバレッジを高めたからといって、なぜ、投資家がその企業の債券の構成比率を高めなくてはならないのでしょうか。

例えばBBB格のABCエンタープライズという架空の会社が野鳥の罠の工場を新設するため、10億ドルの債券を発行することにしたとしましょう。予想キャッシュフローと証券会社の助言により、5年債を5億ドル、10年債を3億ドル、30年債を2億ドル発行することにします。ブルームバーグ・バークレイズ社債総合インデックスには、ABCの社債は10億ドルではなく8億ドルしか反映されません。このインデックスに組み入れるための最低発行額は2億5,000万ドルだからです(4月には3億ドルに引き上げられます)。ABC社の30年債はこの基準を満たさず、インデックス投資家に買われることはないので、その価格形成に影響が出ます。

多くの企業では、株式の発行は1種類のみで、それが複数のインデックスに組み入れられる一方、債券は数百と言わないまでも数十銘柄発行されながら、それらの債券がインデックスに組み入れられる割合には大きなばらつきがあるのです。

3) 債券は株式に比べて新規発行市場がはるかに重要
米国証券業金融市場協会(SIFMA)とブルームバーグによれば、2016年9月30日時点での米国の年間の新規社債発行額は、社債発行残高8兆5,500億ドルに対し、1兆5,500億ドルにのぼります。一方、米国の株式市場は、時価総額240兆ドルに対し、新規発行額は1,900億ドルにとどまります(二次募集を除くと、さらに大幅に少なくなります)。つまり、新規発行額が市場全体に占める割合は、債券が約18%であるのに対して、株式は1%未満に過ぎません。一般に普通株が永久証券であるのに対し、債券は償還期限が決まっています。このため、新規発行市場における一企業のアクティブな動きが、債券投資家のパフォーマンスにかなりの影響を及ぼす可能性がある一方で、株式発行によるパフォーマンスへの影響は、誤差の範囲にとどまることが普通です。

一般に、新発債は既発債より若干割安な価格で売り出されますが、市場でのプレゼンスの強さにより、以下の2つの理由から、新発債に対する価値がさらに高まる可能性があります。第1に、確かに規模は重要ですが、投資銀行はすべての投資家を同等に扱い、投資家の参加申し込み規模に応じて配分を決めるわけではありません。シンジケーションが成功するためには、他の数多くの要因が関与しています。第2に、発行後すべての新発債のスプレッドが同じようにタイト化したり、価格が上昇したりするわけではありません。新発債 の引き受けに対し、いつ積極的に参加するか、あるいは見送るかを見極めるには、しっかりした信用分析とテクニカル要因の理解が必要になります。

4) 債券のほとんどは取引所取引ではなく、相対取引
取引所が機能するのは、上場されている証券の数が管理可能で、高度に標準化されている場合です。2016年末時点で、MSCIオール・カントリー・ワールド・インデックスには1万4,447銘柄の株式が登録されており、投資対象となる世界の株式の99%がカバーされています。しかし債券の場合は違います。PIMCOのデーターベースでは様々な通貨の、34万4,000強の債券の銘柄を追跡しており、常時、新たな銘柄を追加しています。同じ発行体の債券でも、コベナンツや社債信託契約はかなり違います。現時点で10年満期の、同一発行体による2銘柄でも、発行時期によっては一方が合併前の企業による発行の場合などを考慮すると、両銘柄は同等とは言えないのです。

したがって、大多数の債券売買は、単に注文を出せばいいわけではなく、交渉が重要になります。その成果は、交渉の対象となる債券だけではなく、交渉の当事者に影響を及ぼす要因によって決まります。エドワーズらの研究(2007)1では、スプレッドに影響を及ぼす様々な要因が挙げられていますが、取引規模が大きいほど断然有利であることが明確に示されています。

5) 対称性がある株式リターンに対し、著しい偏りがある個別の債券リターン
任意の株式の短期的な予想リターンは、長期の上昇トレンドの中でランダムウォークに概ね一致します。それゆえ、ポートフォリオに組み入れられた個別の株式を足し合わせると、比較的速やかに大数の法則に収束します。

しかし債券のリターンは違います。ほとんどの場合、債券が生み出すリターンは、元本と満期までに得られるクーポン収入です。しかし、デフォルトや、格下げ等により満期前に(強制的に)売却を迫られたりする場合などは、リターンが大きく低下します。組み入れ銘柄を合算しても、大数の法則に収束するには時間がかかる場合が多いといえます。また、インデックスの信用力が高いものほど、収束に時間がかかると考えられます。

債券ポートフォリオのアクティブ運用では、時間と環境が許せば、積極的な運用によってアルファを獲得できる可能性がありますが、大半とまではいかなくても、かなりの部分は(リスクの高い銘柄を保有しないなどの)保守的な運用によって付加されるのが一般的です。

アクティブ運用で価値を高める方法は、他にも多くあります。現物債の代わりにデリバティブを慎重に活用したり、オプションやリスクプレミアムに表れた、政策や規制等による価格の歪みを利用するなどの方法です。

こうした債券の特性を踏まえれば、昨年12月までの10年間の運用成績で、アクティブ運用の中央値がパッシブ運用のそれを上回っている理由がよくわかります。(モーニングスター調べ2)。

まとめ
大切な点は、アクティブ・マネージャーは、今後も高水準が続く見通しのボラティリティの緩和策をとることができることです。米連邦準備理事会(FRB)の利上げサイクルが始まり、トランプ政権の政策は今後どう進化するのか、その影響はどのようなものになるのかはいまだ不透明です。最近の短期経済予測(シクリカル・アウトルック)で論じたように、マクロ経済の見通しのレフトテール(ダウンサイド)とライトテール(アップサイド)の両方の確率が上昇しています。

突き詰めれば、投資家にとって重要なことは、「運用を委託するアクティブ・マネージャーが、手数料を上回るバリューをもたらすことができると信じるに足る確かな理由があるか」ということです。すべてのマネージャーとは言いませんし、大多数とも言えませんが、これまで述べてきたような債券と株式の5つの違いを理解し、活用できるマネージャーには、かなりの可能性があると言えるでしょう。

「株式のパッシブ運用が良いので、債券もパッシブ運用が良い」といった短絡的な考え方には注意が必要です。

略歴
ジェームズ・ムーア、Ph.D.
マネージング・ディレクター

ニューポートビーチを拠点とする、投資ソリューション・グループの統括責任者であり、年金ソリューション・ストラテジストのグローバル・チームを統括する。2003年にPIMCO入社。それ以前は、モルガン・スタンレーにて、コーポレート・デリバティブ、資産負債戦略を担当し、米州およびアジア・パシフィック地域の主要顧客に対し、資産負債管理、戦略的リスク管理、資本構成について助言業務を行った。さらに、ペンシルベニア大学ウォートン・スクールにて、投資、従業員福利制度設計、および金融について講義をした。同校より、金融、保険、リスク管理を専門とする博士号を取得。投資業務経験22年。 ブラウン大学より学士号取得。


1 Corporate Bond Market Transaction Costs and Transparency』
(Journal of Finance, v 62 (3) June 2007, 1421-51.エイミー・エドワーズ、ローレンス・E・ ハリス、マイケル・S・ピウォワー著 2 モーニングスターの米中期債の機関投資家向けシェア・クラス、手数料控除後のリターン。アクティブ・マネージャーのリターンの中央値は4.7%、パッシブ・マネージャーの中央値は4.19%。
著者

James Moore

投資ソリューション・グループの統括責任者

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