PIMCOの視点 2022年アジア市場の見通し:ボラティリティ上昇局面での多様な投資機会 現在の急速に進む景気サイクルにおいては、混乱が起きやすく、その結果生じる好機を捉えることが超過収益(アルファ)を獲得する鍵となるため、アクティブ運用が一段と重要になると考えます。
PIMCOの最新の短期経済展望「急速に進む景気サイクル」では、世界経済は景気サイクルの終盤に向かって急速な歩みを進めているように見えるという、見解をご説明しています。ほとんどの地域の金融政策は正常化に向かっており、世界のインフレ率は2022年第1四半期までにピークに達した後、緩和に転じ、2022年末までには中央銀行の目標水準に近づく見通しです。 大まかに言えば、PIMCOの2022年の見通しでは、(減速しているとはいえ)トレンドを上回る成長、インフレの緩和を背景に、先進国の金融状況は引き続き段階的に引き締まっていくと予想しています。しかしながら、この基本シナリオには、3つの重要なリスクがあります。インフレの持続的な上昇、金融政策が予想以上に急激に引き締まる可能性、変異株による感染者数の急増です。 新型コロナの変異株は既に中国を不安定にしており、昨年の第1四半期に比べて悪化しているマクロ経済環境に対して、新たなデルタ株やオミクロン株の流行が起きています。エネルギーの制約や不動産市場が成長の足枷となっているほか、輸出は比較対象となるベースの水準が高く、工業製品に対する外需が軟化していることから、今後数四半期は減速が予想されています。PIMCOの基本シナリオでは、中国のGDP成長率(前年比)は、2021年の8.1%から2022年は5%程度に減速すると予想しています。 対照的に、インドやインドネシアでは、景気が回復し始めている段階であり、継続的な政策支援が必要になる場合があると考えられます。インド準備銀行は、インフレ期待の不安定化を防ぎながら、財政資金の調達を促進するのは難しい課題です。一方、インドネシア銀行は、国内のインフレが落ち着いており、対外収支が改善していることから、有利な立場にあるように見えます。両市場はいずれも魅力的な投資機会を提供するでしょう。インドは、同国の債券がグローバル債券インデックスに組み入れられたことから、エマージング市場のポートフォリオ運用において、より大きな役割を果たすことが期待されます。 アジア地域全般においては投資見通しに影響を与えうる様々な要因がありますが、特に重要な要因は、異例の金融緩和の縮小に向かう中央銀行の初動のスピード、規模、そして施策内容の変化です。通貨ポジションについては、米ドルが米連邦準備制度理事会(FRB)の動向に大きく左右されることから、地域内のペアを中心としたポジションを取ることを想定しています。 クレジットに関しては、中国の不動産セグメントが不安定になり、企業は生き残りをかけた戦いを余儀なくされると予想しています。また、これらの企業が負債の満期やバランスシート上のリスク削減スピードの調整により、個別のクレジットのパフォーマンスは引き続きばらつきが大きくなるとみています。インドとインドネシアのクレジット市場は、アジア・クレジットの投資家にとって、より堅実なリスク・プロファイルをもつ投資先となっていることから、今後も平均を上回るバリュエーションで取引される可能性があります。 中国:安定性が重視される中での難しい政策選択 2022年第1四半期以降、政府の供給強化と、景気が減速する中での産業用需要の減速を背景に、エネルギー制約は緩和される可能性が高く、生産者物価指数(PPI)のインフレ率は低下する可能性があります。しかしながら、住宅市場の見通しは引き続き厳しく、また輸出の力強さも次第に衰えていくものとみられます。一方、長引く世界的流行(パンデミック)は、国内のサービスや消費の回復を引き続き阻害しています。 PIMCOの基本シナリオでは、緩やかなマクロ政策支援、規制政策の微調整、政府による変異株流行の管理を前提に、中国の2022年の成長率は前年比約5%程度に減速すると予想しています(図表1を参照)。2021年12月に開催された中央経済工作会議(CEWC)では、2022年の最優先課題として「経済の安定」が掲げられ、さらなる政策緩和への強い意向が示されました。今後は、不動産セクターと新型コロナウイルスの再燃が引き続き主な逆風となりますが、経済状況が想定より急激に悪化した場合には、政策支援が予想を上回る可能性があります。 規制政策は、方向転換の可能性は低いものの、調整が必要かもしれません。経済成長の減速は、政府が脱炭素化、債務削減、共同富裕といった長期的な政策目標を推進する上で耐える価値のある短期的な痛みだと、政策当局は考えているようです。しかし、過度な締め付けは痛みを増幅する可能性があり、政府はその可能性を認め、是正を約束しています。 中国政府は今年、住宅市場戦略の調整に慎重な姿勢で臨むとPIMCOでは予想しています。不動産開発業者へ適正な資金供給を支援するために、銀行に対するハイレベルの指導、住宅ローンの延長の正常化、都市レベルでの取引制限や住宅ローン金利の調整など、いくつかの緩和策が既に取られています。しかしながら、(高い水準の借り入れを行う開発業者と急激な住宅価格の上昇を特徴とする)旧来の住宅市場開発モデルは、いまや持続不可能であり、政府の長期の政策目標とは相容れなくなっています。加えて、高齢化に伴い、長期的には住宅需要の減少が見込まれます。 資金調達が完全に正常化し、投資家心理が回復するまでにはしばらく時間がかかるでしょう。2022年第1四半期の中国不動産市場は引き続き軟調で、その後は時を追うにつれ改善に向かうと予想しています。その間、政府は市場の信認を取り戻すためにさらなる手段を講じ、開発業者の資金調達制約を引き続き緩和する可能性があります。国有企業が強化できる対策として、用地買収、不動産開発(特に手ごろな価格の住宅開発)、経営難に陥った民間業者に対する合併・買収を通じた資金供給などが挙げられます。また、需要が旺盛な都市では、購入や売却の制限緩和も有効でしょう。さらに、農村部からの移住者に都市住民と同等の権利および便益を付与する戸籍制度改革は、都市化を加速させ、都市の住宅需要を喚起する可能性があります。 予算内の財政政策は、債券発行の前倒し、政府支出の加速、(小幅とはいえ)減税などを通じて、より緩和的なものになるとみられます。これにより、インフラ投資がある程度支えられ、家計や企業にも安心感をもたらすはずです。しかしながら、予算対象外(オフバジェット)の資金調達の減速が、予算内の刺激効果を減殺するため、全体的な財政インパルスは控えめなものになるとみています。不動産開発業者や地方政府の債務削減を図る中央政府の政策を背景に、土地の売却収入や地方政府の投資ビークルの融資は引き続き抑制されるとみられます。 クレジットの伸びは加速し、2022年のクレジット・インパルスは小幅なプラスになると予想しています。クレジットの伸びは、GDP成長を後押しする重要な金融手段ですが、2021年11月に前年比10.1%で底を打ち、当面は増加傾向が続くとみられます。2022年第1四半期のインフラプロジェクトの加速、最近のグリーンボンドの発行、不動産開発業者の資金調達に関する制約緩和などが、クレジット需要の改善につながる可能性があります。 金利政策はデータ次第になるとみられます。中国人民銀行は最近、政策金利を10ベーシスポイント引き下げましたが、これは成長見通しに対する政府の懸念の高まりを反映したものだと言えます。今後は、パンデミック対策の有効性と住宅市場の回復が、金利政策を左右する重要な要因になるとみています。国としての統治理念や先進国に比べて不十分な医療資源を勘案すると、中国は2022年も「ゼロ・コロナ」政策を堅持するとみられます。変異株の感染力が強い場合、こうした政策のコストは高くつく可能性があり、地域の封じ込めに失敗し、大規模なロックダウンが発動された場合、国内や世界のサプライチェーンを混乱させかねません。2022年3月に予定されている全国人民代表大会(全人代)の後、住宅市場に回復の兆しが見られず、パンデミック対策で消費が大きな打撃を受け、需要の弱さから信用の伸びが予想を下回るようであれば、金利と預金準備率(RRR)の両方が引き下げられる可能性が高まるでしょう。 インドネシア:耐性のある通貨ルピアは、過去のマルチファクター・ベータを上回る可能性あり 2021年のインドネシアは、第3四半期のデルタ株の流行により経済回復のペースが減速し、通年のGDP成長率は3%台前半となりました。マネタリーベースの継続的な拡大と、インドネシア中央銀行の緩和的な政策にもかかわらず、成長見通しは冴えず、家計が逼迫していることから、ローンの伸びは低水準にとどまっています。 2022年については、経済活動は引き続き正常化に向かいますが、財政再建に伴うマイナス効果で一部相殺されることから、GDP成長率は4%台半ばになると予想しています。改革を重視した統治により構造上の改善が図られていることから、インドネシアは今後も世界の投資家から評価されるはずであり、もはや脆弱なエマージング諸国の一国とはみなされるべきではありません。 2021年のインドネシアの対外収支は、コモディティ価格の高騰と内需の緩やかな回復が支援材料になりました。しかし、循環要因が弱まるにつれ、輸出の多様化や生産能力の向上、貴金属の貿易黒字といった構造的な改善が寄与し、2013年から2019年には平均2.5%から3%であった経常赤字幅は縮小するとみられます。2021年には黒字を記録した経常収支は、2022年には1%程度の赤字になると予想しています。 他のエマージング諸国と異なり、インドネシアはインフレへの対処を迫られていません。内需の弱さと統制価格により、インドネシアのインフレ率は、目標水準の2%から4%を引き続き下回っています。持続的な需要の回復と、2022年4月に予定されている付加価値税の引き上げにより、インフレ率は目標レンジの半ばまで、徐々に上昇するものとみられます。インドネシア政府は今後も国内の燃料消費を徐々に高品質な燃料へと誘導し、コスト超過を抑え、燃料価格の高騰を回避するとPIMCOでは予想しています。 インドネシアの財政赤字は、大幅な税収増により2021年は縮小しましたが、税制改革の後押しもあって2022年には4%前後にまでさらに縮小し、2023年には3%に達する勢いだとみています。インドネシア中央銀行は、引き続き成長重視の方針をとり、通貨の安定を促進し、財政資金の調達を支援すると予想しています。 FRBのタカ派的な方針、国内の落ち着いた成長およびインフレ状況、以前ほど脆弱でない対外収支を背景に、インドネシア中央銀行は、徐々に流動性を吸収し、全体の準備率の水準を引き上げ、公開市場操作のカーブをスティープ化させた後、2022年末までに緩やかな利上げを実施するものと予想しています。 インドネシア・ルピアについては建設的な見方をしています。その背景として、構造的な対外収支の改善、海外直接投資の呼び込みにつながる改革、対内の株式投資を増やす可能性のある変化、現地通貨建て債券の外国人保有率の記録的な低さが挙げられます。インドネシア中央銀行によるスポット取引およびDNDF(国内のノンデリバラブル・フォワード取引)への介入により、過剰なボラティリティは抑えられるとみられます(図表2を参照)。 現地通貨建て短期債の利回りは圧力にさらされる見通しですが、需給とポジショニングの動向は引き続き2022年の長期債の利回りを支えるものとみられます。しかしながら、バリュエーションや2023年の見通しが不透明であることから、インドネシアの現地通貨建て債や外貨建て債のデュレーションについては、中立にする方針です。 予想以上に内需が回復し、2桁台の高い借り入れの伸びにつながることが、インドネシアのマクロ見通しの変曲点になるでしょう。一方、大幅に遅れることなく雇用創出法を改正すれば、対インドネシア投資に伴う投資家の懸念を払拭することができるでしょう。しかしながら、新型コロナウイルスの流行の再燃と中国の成長鈍化が、基本シナリオに対する下方リスクになります。 インド:債券インデックスへの組み入れが主要な追い風要因に インドは、2021年半ばの壊滅的なパンデミック第2波から速やかに回復しましたが、2021年第4四半期には、オミクロン株の流行前にもかかわらず、景気は早くも減速の兆しを見せていました。PIMCOでは、インドの2022年度(2021年4月から2022年3月)のGDP成長率を9%前後、2023年度は7%前後に減速すると予想しています。 資産売却収入は期待外れだったものの、インド準備銀行の配当と好調な税収により、インド政府の予算は、赤字目標にとどまりながら、燃料消費税を引き下げ、新型コロナウイルスの対策費を増額する財政的な余裕があるようです。2023年度に主要州の選挙を控えているため、財政政策は引き続き成長を支えていくことになるでしょう。 インドは第2波のロックダウンから回復して以降、輸入の数量増加と価格上昇により、貿易赤字が急激に拡大しています。需要が財からサービスへ徐々に移行し、物価が正常化すれば、インドの経常赤字は1%から2%の水準に戻るはずです。インドは直接投資の誘致を継続していますが、2023年度の基礎収支(経常収支+直接投資)がマイナスであるため、対外収支の安定には証券投資が必要です。インドでは、2022年第1四半期に大型の株式公開(IPO)案件が控えていますが、PIMCOでは同国債の債券インデックスへの組み入れが大変革をもたらすとみています。 ここ数年、インド政府は、インデックスへの組み入れに関する懸念を払拭するため、緩慢なペースではあるものの、少しずつ対策を講じてきました。現時点の見通しとしては、次期予算で課税の曖昧さが解消されると見込まれる中、インド国債はまずJPモルガン・エマージング・マーケット・ボンド・インデックス(GBI-EM)に組み入れられ、その後、徐々にグローバル・インデックスに組み入れられる可能性が高く、その場合、300億から400億ドルの資金が流入するとみられています。 インドの総合インフレ率は、2021年第2四半期中、供給の混乱に伴い、一時的に中央銀行の目標レンジ(2%から6%)を上回りましたが、政府の対策が功を奏し、変動の激しい食料品のインフレ率は徐々に低下しました。ただ、コア・インフレ率は高止まりしており、インフレ期待が上昇する懸念が高まっています。PIMCOでは、2023年代のインフレ率は5%台前半まで緩やかに低下すると予想していますが、上振れリスクがあります。 インド準備銀行(RBI)は、インフレ懸念から政策正常化を求める声に抵抗しています。景気回復を優先しており、向こう数年でインフレ率を4%に引き下げるグライドパス戦略を採用しているため、インフレ率の上昇を容認しているようです。しかし、RBIは、国債取得プログラムと10年債利回りの明示的な目標を打ち切り、変動金利リバースレポ(VRRR)入札を整備拡充することにより過剰流動性の吸収を開始しています(図表3を参照)。オミクロン株の流行が続いていることから、RBIの政策金利の正常化は、現時点での市場の予想よりも遅れ、より緩慢なものになるとみています。 原油価格の高騰と二次的なインフレの影響によって、恒常的な流動性を引き下げ、債券利回りを支えつつ、2022年は緩和的な姿勢を維持するというRBIの方針が試されるでしょう。ポートフォリオにおいてはインド・ルピーを中立とし、2022年中も対米ドルで73から77のレンジ内で推移すると予想しています。また、低水準の実質利回り、インフレリスク、厳しい需給見通しに加え、RBIが債券利回りの管理に以前ほど積極的でないことを踏まえ、デュレーションについても中立の方針をとっています。 総合的には、他の高利回りのエマージング諸国のソブリンに比べて、インドはリスク資産のボラティリティが相対的に低いことから、魅力的な投資機会を提供すると考えています。 長期的な視点と厳格なポートフォリオ構築のアプローチが鍵を握る 2022年の主要なアジア市場では、展開が分かれると予想しています。世界経済の急速な変化と相まって、市場の調整が急激に進むことから、より大きなボラティリティに直面することになるでしょう。PIMCOでは、マクロ市場における相対価値の機会や、アジア・クレジット市場において、世界の他地域のスプレッド商品と比較し、バリュエーションが魅力的な投資機会を模索しています。 アジア地域では、厳格なリスク管理と慎重な銘柄選択が極めて重要になると考えています。マクロ経済環境が不確実性を増し、変動が高まる中、急速に進む現在の景気サイクルではボラティリティが上昇する可能性が高く、その結果生じる好機を捉えることが超過収益を獲得するための鍵となるため、アクティブ運用が一段と重要になると考えています。 向こう1年の世界経済展望と投資への意味合いの詳細は、最新の短期経済展望「急速に進む景気サイクル」をご覧ください。
PIMCOブログ FRBが自信を見せるソフトランディングに PIMCOが見るリスク 米連邦準備制度理事会(FRB)は、インフレが沈静化するにつれ、来年の失業率は緩やかな上昇にとどまると予想していますが、過去および現在の労働市場のトレンドからPIMCOではそこまでの確信をもっていません。