PIMCOの視点

アジア市場2019年見通し:回復、リバランス、ローテーション

PIMCOでは、国別の投資機会を特定し、バリュエーションが魅力的でデフォルト・リスクが極めて低いと考えるクレジットを慎重に選別することに注力する方針です。

ジア債券に投資する多くの投資家にとって、昨年のことは忘れたいのではないでしょうか。通貨のベンチマークであるブルームバーグJPモルガン・アジア・ドル指数(ADXY)は4%の下落、アジア債のベンチマークであるJPモルガン・アジア・クレジット・インデックス(JACI)は総合で0.77%の下落、同指数の非投資適格部分は3.20%の下落となりました。PIMCOでは2019年のアセットのリターンは幾分回復するとみていますが、国レベルでのダイナミクスのばらつきを踏まえ、アジアのポートフォリオ・ポジショニング全般でより慎重な姿勢をとっています。

最新の短期経済見通し「世界経済の同時減速 」でPIMCOは、向こう1年の世界経済の同時減速を予想しましたが、アジアも無縁ではいられません。今年は、この景気減速と、過去12カ月に高まった地政学的リスクに加え、景気減速を受けてアジア経済内のリバランスがさらに進むとみられます。中国は引き続き成長への逆風を受けると見ていますが、一部の発行体のバリュエーションは魅力的になりつつあり、投資家としては機会を見出しています。さらなるミスプライシングや混乱が生じた際には、エクスポージャーを増やすべく柔軟性を確保しておきたいと考えています。インドでは、期間の短い金融債や高格付けの準ソブリン債が引き続き底堅いとみています。

アジアの現地通貨市場については慎重な姿勢を継続しています。特に、キャリーが低く、景気が減速局面にあり、バリュエーションが魅力的とはいえず、米中貿易摩擦の影響を受けやすい韓国や台湾といった国々については慎重にみています。PIMCOでは、国ごとの投資機会を特定すると共に、特に現在の市場のセンチメントが好転した際に、バリュエーションとファンダメンタルズの面から「割安」だといえる銘柄を慎重に選別することに注力しています。

Pimco asia's investment highlights

中国:2019年の3つの大きな逆風

2018年前半は堅調に推移した中国経済は、中国政府によるレバレッジ削減の推進の継続と、米国との貿易摩擦を背景に、年後半には大幅に減速しました。PIMCOでは、2019年の成長率は引き続き低下基調を辿り、成長率を6%前後と予想しています。中国国内では消費が軟化しており、小売売上高のマイナス基調が目立ち始めています。鉱工業生産も減速し始めています。足元での強さは、米国の関税引き上げを控えた、輸出の前倒しが一因だとみられます。不動産市場は下落調整に入っており、クレジットやマネー・サプライの伸びなどの金融統計を基づくと、さらなる軟化が予想されます。現時点では、シャドーバンキングシステムの縮小が顕著であり、デフォルト率が上昇しています。

2019年の中国は、3つの大きな逆風に直面するとみています。

  • 米国との貿易紛争
  • 国内のレバレッジ削減の進行
  • 消費者心理の低迷と「アニマル・スピリッツ」の欠如

中国政府は対策を講じていますが、この先、対策の強化を迫られるとみています。

2018年末のG20サミットとその後の交渉期間中は、米中間に融和ムードが漂いました。これにより当面のテール・リスクは低下したかにみえますが、90日間の休戦協定が延長されるのか、持続可能な取引が成立するかは、依然としてかなり不透明です。

国内のレバレッジ削減に関し、中国の政策当局は金融政策を緩和に傾けるよう調整を行っています。短期市場金利を75ベーシスポイント(bps)近く引き下げ、資金調達のためオンショアの債券市場を再開し、金融機関に融資の増額を要請することで民間セクターへの支援を強化しています。PIMCOでは、当面の利下げは見込んでいませんが、中国人民銀行(PBOC)は、システムの流動性を維持するため、必要とあれば預金準備率を引き下げる可能性があるとみています。

消費者心理の悪化に対しては、中国政府は拡張的な財政政策を打ち出し、家計や企業に対してGDP(国内総生産)の1%以上にのぼる減税を実施しています。しかしながら、減税の乗数効果は小さいことから、こうした財政手段のインパクトは限られており、景気減速の影響を緩和するには、インフラ投資などの財政支出が必要になると予想しています。

投資家としては、経常収支の縮小を意識しています。2018年の中国は、対米国で巨額の貿易黒字を計上し、輸出の前倒しがみられたにもかかわらず、経常収支が1993年以来の赤字となりました。(PBOCは緩和路線にある一方、米連邦準備制度理事会(FRB)は今後数カ月のうちに利上げの可能性があるという)金融政策の方向性の違いを考慮すると、この点は人民元の下押し圧力になるとみています。ただし、貿易交渉の行方が定まらないことから、当面はレンジ内の動きになるとみられます。

オンショアの中国債のエクスポージャーを抱える投資家にとっては、戦術的な投資機会があるとみています。2019年4月よりブルームバーグ・バークレイズ・グローバル総合インデックスに中国銘柄が組み入れられ、当該資産に対する需要が増えると見込まれるためです。国内経済の減速を緩和するため、PBOCがより緩和的な金融政策を継続すると予想されることも、さらなる強材料になります。しかしながら、インデックスの組み入れ比率の引き上げは段階的に行われ、数ヶ月にわたって導入される点に留意しており、ファンダメンタルズや流動性を勘案すると、現時点のバリュエーションは若干割高だとみています。

より大きなバリューの源泉だとみているのが米ドル建ての中国債です。マクロ経済の逆風とレバレッジ削減政策に伴う資金調達難を背景に、足元でスプレッドが大幅に拡大しています。多額の新規発行と資金流出が重なるなど、需給要因も市場の重しになっています。2019年の純発行額は大幅に減少し、需給環境は改善する見通しです。PIMCOでは総じてより保守的な方針を採用していますが、業界を代表する発行体が割安ないし、それに近い水準で取引されている個別のセクターで、興味深い投資機会が浮上しています。かねてより述べていることですが、弱い発行体や、借り換えラッシュが予定されている発行体を確実に避けるには、ボトムアップのクレジット分析が重要であると考えています。

インド:政治がボラティリティを高める可能性

12月にインドで実施された州議会選挙では、与党のインド人民党(BJP)が主要州で敗北しました。この結果を受けてPIMCOでは、市場が財政悪化のリスクを織り込むとみています。今年予定されている総選挙を控え、BJPが大衆迎合的な政策を講じるとみられるためです。もう1つの政治的課題が、昨年12月に辞任したウルジット・パテル、インド準備銀行(中央銀行)総裁の後任人事です。パテル前総裁の在任中、インド準備銀行はインフレ・ターゲティングを重視した運営を行いました。新総裁は、インフレ以外の政府主導の政策目標に配慮した運営を行う可能性があります。しかしながら、足元での食料品価格のインフレの弱さが構造的なものだとみられる点は支援材料であり、中央銀行はより柔軟に利下げできる余地があるとみています。

銀行セクターでは、2018年前半に不良債権が急増しましたが、2019年には新たな不良債権の増加は抑えられると予想しています。しかしながら、全体の不良債権残高は依然として巨額であり、処理には長期間を要するとみられます。2019年のインドのクレジットの伸びは年率10%前後と、引き続き妥当な水準を下回ると予想しています。通常の伸び率は15%前後で、この水準がインド経済全体の成長に適していると考えられます。最近、銀行以外の金融会社の流動性が低下していますが、これは個々の企業の拙劣な流動性管理と、銀行のクレジット・リスクに対する警戒によるものです。

PIMCOでは、インドの金融セクターの流動性が構造的に不足しているとはみていません。主要なプレーヤーは銀行であり、預金が潤沢で十分な流動性を確保しているからです。最近の明るい材料は、破産倒産法(IBC)の導入です。破産倒産法には実効力があり、意図的なデフォルトの防止に効力を発揮し、ひいてはシステム内の不良資産の発生を減らすことになるとみています。

グローバル投資家にとっては、大手銀行や高格付けの準ソブリンの短期債が底堅く、総選挙の結果やノンバンクの流動性低下に対する懸念を背景にボラティリティが高まり、スプレッドが拡大した場合に投資妙味が出てくるとみられます。インド通貨のルピーについては中立としており、足元のインフレ動向を踏まえ、デュレーションのポジションに加えることを検討しています。

インドネシア:リスクと機会

2019年のインドネシア経済については、成長を維持すると予想しています。インドネシア経済は内需主導型で、近隣のアジア諸国に比べて貿易紛争の二次的影響を受けにくいと考えられます。同国の銀行システムは、利益率が高く、不良債権比率は低く、融資の拡大余地があるなど健全性を維持しています。一方、対外債務のダイナミクスは安定的で、財政規律が保たれていることから、スタンダード&プアーズ(S&P)やムーディーズ、フィッチなどの世界的な格付け機関による国債の投資適格の格付けは引き続き維持されるとみられます。

しかしながら、2019年は選挙の年にあたり、その結果には不確実性が存在しますが、市場が完全に織り込んでいない可能性があります。また、経常収支は慢性的に赤字の状態です。2018年中に、1.75%の利上げを実施し、インドネシア・ルピアが対米ドルで約8%下落したにもかかわらず、この状態は解消されていません。

こうした背景を踏まえ、インドネシアについては、米ドル建てのソブリン債および準ソブリン債を選好しています。選挙をめぐる不確実性が増していることから、現地通貨建ての国債については、より慎重にみています。現政権が勝利するシナリオであっても、政府によるエネルギ―価格の正常化と、それを受けて消費者物価指数(CPI)が上昇し、中央銀行の目標レンジの2.5%~4.5%の上限に近づくのに対抗して、インドネシア中央銀行が追加利上げを実施する可能性があると予想しています。

インドネシア・ルピアについては、実質金利、キャリー対ボラティリティ・レシオなどファンダメンタルな指標に基づくと魅力的に見えますが、現時点では中立としています。インドネシア・ルピアは、外国人投資家の現地通貨建てエマージング債投資に伴う資金フローにきわめて敏感であり、センチメントの反転がインドネシア・ルピア上昇のきっかけになる可能性があります。

フィリピン:外貨建て債は魅力薄

フィリピン経済は底堅く、労働コストの低さと国内市場の潜在力を踏まえると、現在の景気循環での同国への対内直接投資は続くと予想しています。対内直接投資の多くは、製造業セクター向けです。フィリピン国内のインフラ開発の増加に伴う巨額の資本財の輸入で、経常収支は悪化しています。フィリピンの実質金利はマイナス圏にありますが、インフレ率は予想を上回る状態が続いており、中央銀行が後手に回っていることを示唆しています。このため、フィリピン・ペソについてはアンダーウエイト方向にしています。

外貨建て債券のバリュエーションは、同国のファンダメンタルズに比べて割高ですが、フィリピン国内銀行の財務上の需要が強く、支えられています。かつては、巨額の対内支払いに伴う米ドルの過剰流動性が需要を牽引していました。ドル建ての融資の伸びは低迷し、銀行はホームバイアスと、資本規制上のリスク・ウェイトの低さから自国の外貨建て債を購入する結果になりました。経常収支のダイナミクスが変化する中、フィリピンの銀行のドルの流動性は最早潤沢ではなく、フィリピンの外貨建て債への需給面での支援材料は今後、減っていくと予想されます。このため、フィリピンの外貨建て債券については、現在のタイトなバリュエーションが調整されると予想しており、アンダーウエイト・ポジションを選好します。

2019年のアジアでは、慎重なポジショニング

世界同時減速が予想されるなか、アジア全般でより慎重なポジショニングをとる方針です。主要な懸念材料のいくつかは、ひとまず棚上げされています。米中間の交渉で差し迫った貿易戦争は回避されているようにみえます。中国の景気刺激策は、2018年前半からのレバレッジ削減の影響を緩和し始めています。また、米国の予想利上げ回数は減り、米国と諸外国との金利格差は抑えられると見られます。しかしながら、これらは「リスク・オン」のポジションを増やすには不十分だとPIMCOではみています。2019年は、国別の投資機会を特定し、バリュエーションが魅力的でデフォルト・リスクが極めて低いクレジットを慎重に選別することに注力する方針です。

著者

Stephen Chang

ポートフォリオ・マネージャー

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