PIMCOの視点

ソブリン債投資にESG分析を導入

ソブリン・リスク分析にESGの要素を取り入れることで、ソブリン債投資に密接に関連する総合的で長期的な視点を加えることができます。

会的急進派、政治の多極化、気候変動の影響拡大を背景に、多くの投資家は、国政府や政府関係機関が発行又は保証する債券である、ソブリン債への投資を検討する際、環境・社会・ガバナンス(ESG)の要素に対する注目するようになりました。伝統的なソブリン債のクレジット分析においては、国がデフォルトする確率とデフォルト時の期待損失に大きく影響する、財政やマクロ経済に関連する変数が重視されます。現在では、国の債務返済能力や返済の意思が、政治、ガバナンス、社会的側面、自然災害、環境的要因の長期的な影響によって左右されることも一層明確になっています。

ソブリン・リスクにとってのESGの重要性

ソブリン・リスク分析にESGの要素を取り入れることにより、ソブリン債投資に密接に関連する、総合的で長期的な視点を加えることが可能です。ソブリン債には、他の分野の債券と比較した場合、満期が長いことに加えて、適用されるエンフォースメント(強制執行)条項が少ない傾向があります。また、各国政府は収益の最大化や、局地的な経済的目標よりも幅広い目的を有しています。このため、多様なリスクを考慮する長期的な観点の枠組みが好ましいと言え、広範なカントリー・リスク評価の枠組みを用いることで、最終的にポートフォリオの構成を改善することが可能です。その結果、長期的なクレジット・リスクおよびデフォルト・リスクを軽減し、モメンタムが強いまたは弱い国見定め、潜在的リスクをより適切に見分けることができるメリットがあります。投資家にとって、レフト・テール・リスク管理がより効果的に行える可能性があります。(ここで「テール」とは、さまざまな結果の統計的確率を示す釣り鐘型の確率分布の両端を意味します。レフト・テール・リスクとは、確率が低い深刻なネガティブ・シナリオを意味します。)

ESGの要素とソブリン・リスクとの相関

ソブリン債のクレジット分析においては、市場価格に織り込まれているよりも、長期的なクレジット・リスクやデフォルト・リスクの低いソブリン債を特定することが大きな目標になります。ソブリン・リスクの評価にESGの要素を取り入れることによって、それらを特定する能力が大幅に改善されます。しかしながら、ソブリン債のクレジット・リスクを見極める上で、すべてのESGの要素が同じように重要なわけではありません。直接大きく影響する要素がある一方で、影響が間接的で比較的弱い要素も存在します。

  • 「ガバナンス(G)」に関連する変数は、特にガバナンスや行政組織の質が制約要因になり得る格付けが低い国において、ソブリン債のクレジット・リスクの有効な指標となることが分かっています。しかし、これは当然といえるでしょう。ムーディーズ・インベスターズ・サービスは、「ソブリン債のデフォルト事例の約30%が、不安定な政局、脆弱な財政運営、ガバナンスの問題、返済意思の弱さなど、行政組織や政治の脆弱性に直接関係している」とコメントしています。
  • 「社会(S)」に関連する指標は、重要性こそ相対的に低いものの、ソブリン・リスクに大きく影響する国民1人当たり国内総生産(GDP)や富の初期条件と密接に関連しています。直感的に考えても、教育や健康の水準、貧困率、所得格差などによって規定される国の社会的資本は、国際競争力や潜在成長力に寄与する社会の統合度や生産性を評価する上で、極めて重要になる可能性が高いでしょう。
  • 最後に「環境(E)」に関連する変数は、気候変動の影響が強いケース(ハリケーン、地震など)や差し迫る問題のあるケース(水没の危機にある島国など)ような個別の事例を除いて、ソブリン・リスクとの相関が最も低いようです。

PIMCOのアプローチ

PIMCOは2011年以降、ソブリン債格付けモデルにESG要素を測定する変数を組み入れています。ESGの基準はPIMCOのソブリン債格付け分析において不可欠なものとなっています。直近では、ESGだけをスコア化する枠組みを開発し、ソブリン・リスクのシナリオ評価において貴重な情報源となっています。

PIMCOでは原則として、クレジット・ファンダメンタルズが堅固で、中期的な見通しが良好かつ改善傾向にあり、ダウンサイド・リスクが低く、割安感のあるソブリン債を特定し、これに投資することを目標にしています。また、信用力が過大評価されている国、悪化傾向にある国、デフォルトの可能性が高いと考える国を回避することが、非常に重要であると考えています。このような目標はESGの考え方に合致しているだけでなく、運用における精度が高まると考えています。

PIMCOのソブリン債分析では、初めに精緻なボトムアップのカントリー・リスク分析を行います。ここでは、短期的リスクと長期的リスクの両方を踏まえ、信用力を左右する要因(ソブリン債の信用の質に大きな影響を与え得る要素や動向など)の直接的または間接的な影響を考慮した上で、財政、マクロ経済、ESGの要素を評価します。さらにそれを補完するため、政府職員、政治家、現地の銀行や企業の経営者、政治コンサルタント、労働組合、ジャーナリスト、非政府組織(NGO)、市民社会の構成員などとの交流を通じて視野を広げ、国内の実態を評価します。

PIMCOでは、伝統的な財政指標を用いたクレジット分析に加え、図表1のように、ソブリン債を各ESGの要素ごと明示的にスコア化します。

次に、PIMCO独自のソブリン債格付けモデルを用いて、各ソブリン債に信用格付けを付与します。このモデルには、PIMCOのカントリー・リスク分析に基づく5年間の見通し、現在の指標データ、ESGの特定の定量的変数を入力値として使用します。その上で、まずは定量的要素に基づいて、次に定性的要素や主観的要素を加味することによって、各ソブリン債をベンチマーク化します。次にこれを加重することによって、各ソブリン債を相対ベース、絶対ベースでスコア化します。その結果、PIMCOが先進国、新興国ソブリン債全体に対して時系列的(2011年以降)に相対化したクレジット・リスク評価を反映した、各国のソブリン債格付けが決定されます。

PIMCOのソブリン債のクレジット・リスク評価における第3のステップとして、ネガティブ、ポジティブ両サイドのテール・リスクを評価するために、国別のシナリオ分析を行います。ここでは、長期的な債務持続性、資源の枯渇シナリオ、自然災害のシナリオ、偶発的リスクを分析します。各分析においては、マクロ的要因とESGの要素の両面から、ソブリン債に対して中長期的なリスクを反映させた上で、テール・リスクのシナリオを検討します。

課題と今後の発展が期待される分野

PIMCOはソブリン債分析のアプローチによって、ESGの要素を慎重に取り入れたクレジット評価の強固な基盤を形成していると考えています。ただし、課題や開発が必要な分野も存在します。

幅広い課題としては、ESGリスクが明確ではないこと、ESGリスクの評価に長期的な時間軸が必要なこと、ESGの定性的側面を取り入れるために適した方法の特定、一貫性と信頼性を備えたデータの欠如が挙げられます。このほか、長期にわたって顕在化しないものの、一度顕在化されれば重大なダウンサイド・リスクを引き起こし得るESGリスクの評価や、ESGの要素がソブリン・リスクに与える間接的で比較的小さい影響を考慮することが、大きな課題と言えるでしょう。

格付会社が、ESGの基準に対するアプローチの透明化を進めていることも重要です。大手格付会社3社は、デフォルトする確率に大きく影響する範囲において、ESGの要素を考慮するようになっています。また格付会社に限らず、市場ではESGに対する認識が広がりつつあります。現在では、多くの機関投資家がESGの基準に基づいて資産配分を行っています。また、ESG関連の新しいデータソースや商品の開発も急速に進んでいます。

PIMCOではESG投資に幅広く取り組むとともに、国連責任投資原則(UN PRI)の指針の基づき、ESGとソブリン債・クレジット分析について積極的に議論しています。また、PIMCOは、ソブリン債のクレジット評価に役立てるため、格付会社に対してソブリン債格付けにおけるESG要素の分析向上の方法について協議しているほか、ESGに関する新しいデータを継続的に評価、導入しています。

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著者

Lupin Rahman

ソブリン・クレジットのグローバル統括責任者

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ご留意事項

過去の実績は将来の運用成果を保証または示唆するものではありません。

社会的責任投資は、定性的で主観的な性質上、PIMCOが活用する基準や行使する判断が、特定の投資家の見解や価値を反映することを保証するものではありません。責任ある行動についての情報は、自発的な発表や第三者による報告から得たものであり、正確性や完全性を欠いている可能性がありますが、PIMCOはこうした情報に基づいて、企業の責任ある行動へのコミットメントや執行を評価しています。社会的責任の規範は、地域によって異なります。社会的責任投資の投資戦略や手法の成功が保証されているわけではありません。

全ての投資にはリスクが伴い、価値は下落する場合があります。債券市場への投資は市場、金利、発行体、信用、インフレ、流動性などに関するリスクを伴うことがあります。ほぼ全ての債券及び債券戦略の価値は金利変動の影響を受けます。デュレーションの長い債券及び債券戦略は、より短い債券及び債券戦略と比べて金利感応度と価格変動性が高い傾向にあります。一般に債券価格は金利が上昇すると下落し、現在のような低金利環境ではリスクが高まります。債券取引におけるカウンターパーティーの取引能力の低下が市場流動性の低下や価格変動制の上昇をもたらす可能性があります。債券への投資では換金時に当初元本を上回ることも下回ることもあります。ソブリン証券は通常、発行体政府によって保証されています。米国政府機関の債務は米国政府からさまざまな形で支援を受けていますが、政府による全面的な保証は付与されないことが一般的です。こうした証券に投資するポートフォリオに対する保証はなく、ポートフォリオの価値は変動します。

本資料で言及した投資戦略が、あらゆる市場環境においても有効である、またはあらゆる投資家に適するという保証はありません。投資家は、自らの長期的な投資能力、特に市場が悪化した局面における投資能力を評価する必要があります。 投資判断にあたっては、必要に応じて投資の専門家にご相談ください。

本資料には、本資料作成時点でのPIMCOの見解が含まれていますが、その見解は、予告なしに変更される場合があります。本資料は情報提供を目的として配布されるものであり、投資助言や特定の証券、戦略、もしくは投資商品の推奨を目的としたものではありません。本資料に記載されている情報は、信頼に足ると判断した情報源から得たものですが、その信頼性について保証するものではありません。