まざまな投資目的を達成するために、投資家はインカム型のソリューションをますます求めるようになっています。運用が開始以来ほぼ10年を迎えるインカム戦略のポートフォリオ・マネージャーのダニエル・アイバシンとアルフレッド・ムラタが、本戦略のアプローチと低金利環境下で投資機会を見出す方法についてご説明いたします。

問: インカム投資に対するアプローチはさまざまです。PIMCOインカム戦略を運用する際の基本方針を教えてください。
アルフレッド・ムラタ: PIMCOインカム戦略では、魅力的で安定的なインカムの獲得と、ポートフォリオの資産価値の安定という2つの目標を掲げていまが、この2つの目標の達成には、ポートフォリオを2つの分野に大別することが最善の方法だと考えています。第1の分野は、経済成長が予想よりも堅調な場合に魅力的なインカムが生じると考えられる資産から構成されています。第2の分野は、経済成長が予想よりも低調な場合に運用成績が良好となり、ポートフォリオの下方リスクをヘッジする役割を果たすと考えられる資産から構成されています。

社債を主な投資対象とし、ハイイールド債に無制限に投資することができるインカム型のファンドも一部には存在しますが、その場合、信用リスクが集中したポートフォリオとなってしまうおそれがあります。PIMCOでは、元本の保全を顧みずにインカムの最大化を図るのではなく、セクターや国の分散を高め、下方リスクの軽減に努めています。また、魅力的な絶対リターンとプラスのトータルリターンの確保を、長期的な目標に掲げています。

問: PIMCOのトップダウンの経済見通しと、それがインカム戦略にどのように反映されているのかを説明してください。
ダニエル・アイバシン: PIMCOでは、世界経済の成長率は過去の平均的な水準を引き続き下回るものの、2017年にはやや上昇し、実質ベースで米国は2~2.5%、ユーロ圏では1~1.5%、日本では0.5~1.0%程度になると予想しています。6月の英国の欧州連合離脱(Brexit)の決定は、短期的には欧州の経済成長にマイナスの影響を与えるでしょう。また、各国の中央銀行の政策は今後も二極化すると予想しています。

PIMCOの予想どおりBrexitの影響が英国と欧州に概ね限定されるのであれば、米国ではそのまま緩やかな金融引き締めサイクルが継続するとみられる一方で、欧州、日本、オーストラリア、中国では景気を下支えするための緩和政策が維持される見通しです。

ムラタ: 私たちは、このようなPIMCOのトップダウンの経済見通しを反映した、グローバルなインカム・ポートフォリオを構築しようとしています。良好な米国の経済成長と住宅市場の回復継続という見通しに基づき、政府保証のない住宅ローンを担保とするノンエージェンシー・モーゲージ債や、投資適格社債を始めとする信用力の高いセクターを選好しています。

ノンエージェンシー・モーゲージ債は、ポートフォリオに高いインカムをもたらす分野に属し、足元では1桁半ばの魅力的な利回りを提供し、米国の住宅価格が予想以上に上昇した場合にはキャピタルゲインも期待できます。PIMCOでは、向こう2年間に住宅価格は年率3~4%上昇すると予想していますが、仮に住宅価格が下落した場合でも、プラスのリターンが見込まれる点が重要です。

一方、ポートフォリオのなかで信用力の高いディフェンシブな資産で構成される分野では、オーストラリアの固定利付債を選好しています。これは、中国経済の減速を背景に商品価格が全般に低迷し、オーストラリアの経済成長も停滞するというPIMCOの見通しを反映した投資判断です。オーストラリア準備銀行(RBA)は利下げを継続するとみられることから、同国の債券価格には上昇余地があると考えられます。また、RBAが誘導目標とする政策金利はほとんどの先進諸国よりも大幅に高く、オーストラリアの金利は相対的に魅力的です。

問: インカム志向の投資家にとって、先進国市場における低金利は悩ましい問題となっています。低金利環境におけるインカム戦略の運用方針について教えてください。
ムラタ: このような環境下でインカムや利回りを安定的に獲得するためには、運用の柔軟性が必要となります。このインカム戦略は柔軟性が高く、見通しに応じてデュレーション(金利の変化に対する感応度)をゼロから最大8年までの間で自由に設定できることが重要で、それによりポートフォリオの金利リスクをヘッジすることができます。

また、このインカム戦略では、全世界の100兆ドル規模の債券市場から投資対象を柔軟に選択でき、インカムを獲得しつつ元本の保全を図るために、数多くのセクターから投資機会を見出すことができます。オーストラリアの固定利付債へのアロケーションは、インカム戦略固有の柔軟性に基づく投資判断の一例と言えるでしょう。

問: 最近1年間の金融市場のボラティリティ上昇によって、インカム戦略の運用方針は影響を受けたのでしょうか。
アイバシン: 私たちは元本保全のために、常にインカム戦略の耐性強化に努めています。私たちは「曲がっても折れない」設計と表現していますが、この戦略はセクターや地域の配分を柔軟に調整できる特性を備えおり、それによりBrexitの国民投票直後のボラティリティ上昇局面のような困難も乗り切ることができました。インカム重視の観点からグローバルにエクスポージャーをとるこの戦略は、ボラティリティが高い市場環境では伝統的なコア債券戦略よりもやや大きく変動する場合もあります。しかし、グローバルのインカムを志向する分野と安定性を志向する分野を組み合わせることにより、ストレス時にもパフォーマンスを維持できる可能性が高くなり、さまざまな市場環境において、これまで安定的なインカムと魅力的なリスク調整後のトータルリターンを提供してきました。

また、市場は過剰に反応することも多いため、ボラティリティが高騰するときには、投資機会が生まれることもあります。エマージング市場がその好例と言えるでしょう。インカム戦略では、エマージング市場のポジションについては慎重な姿勢を維持してきましたが、投資家が過度に悲観的になった場合には、興味深い投資機会が生じることもあります。たとえば当戦略では、信用力の高いロシアの準ソブリン債など、厳選されたエクスポージャーにより利益を上げてきました。

本戦略でボラティリティが相対的に高いセクターのポジションをとる場合、予想外の動きがポートフォリオ全体の目標に大きく影響を与えないように、そのエクスポージャーは少額に抑えてきました。実際足元では、極端に過大評価または過小評価されているセクターはないというPIMCOの見方を反映して、これまでで最も分散されたポートフォリオを構築しています。

問: 最近では、投資家は流動性についても懸念しています。インカム戦略では、流動性についてどのような方針を採用しているのでしょうか。
アイバシン: 安定的なインカムと魅力的なトータルリターン獲得を目標とする上で、インカム志向性の高いポートフォリオで流動性を積極的に管理することは必要不可欠です。金融危機後の銀行規制の強化の影響もあって、現在、市場流動性は以前よりも低下していることから、インカム戦略ではこれまでよりも現金保有高を増やしています。

また、投資に際してはより高いハードルを設定しています。私たちの運用方針を具体化するにあたり、まずは常に流動性の高い投資対象を優先し、流動性が低い場合には、相応の見返りが期待できるケースに限り、金額を限定した上で投資しています。
 
一方、市場の流動性が低下するタイミングはボラティリティの上昇局面と重なることが多いものですが、「ドライ・パウダー(余裕資金)」と呼ぶ手元流動性を潤沢にしておくことで、アクティブ運用者にとって非常に大きな投資機会を捉えることもできます。実際、今年2月にボラティリティが急上昇した際には、手元流動性の一部を生かして、利回りが非常に魅力的な質の高い資産を買うことができました。

ムラタ: インカム戦略のポートフォリオにおいて、流動性を維持する上で重要な役割を果たしているのが、ポートフォリオの一方の構成要素である、信用力の高いディフェンシブな分野です。この分野は市場のストレス時にパフォーマンスが上向く資産で構築されるため、本戦略の下方リスクを緩和するだけでなく、流動性を提供する役割を果たしています。

問: インカム戦略は投資ポートフォリオにどのように適合するのでしょうか。
アイバシン: インカム戦略は、さまざまなタイプの投資家に対して、広範な債券によるソリューションを提供する目的で設計されています。退職にむけて準備する投資家など、リスク管理を重視しつつ安定的なインカムを志向する投資家には、妥当な選択肢になるでしょう。また、多くの投資家にとって、この先数年間、コア債券の資産配分の補完戦略としての役割も期待できます。金利が底打ちして緩やかに上昇し始める環境では、債券市場のトータルリターンのうち元本の上昇よりもインカムが大きな役割を果たす見込みが大きいため、債券投資家は、ポートフォリオにおいてインカム獲得を最大化する可能性を検討するべきでしょう。

インカム戦略では、PIMCOのトップダウンのマクロ見通しに基づく投資プロセスに従って、250名からなるポートフォリオ・マネージメント・チームの最良の投資アイデアを最大限に活用することを目指しています。本戦略では、常に変化する市場環境のなかで、今後も元本を保全しつつ安定的なインカムを追求するとともに、リスクに見合う局面では積極的な投資スタンスも採用する方針を継続します。

著者

Daniel J. Ivascyn

グループ最高投資責任者(グループ CIO)

Alfred T. Murata

モーゲージ・クレジットチームのポートフォリオ・マネージャー

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