連邦準備制度理事会(FRB)が利上げを検討する中で、年初来、市場金利は低下傾向にあります。以下のインタビューでは、米国コア戦略担当最高投資責任者(CIO)のスコット・マザーが、最近の債券市場の動向、この先1年間の見通し、PIMCOのトータル・リターン戦略にとっての投資の意味合いについて議論します。マザーは、グローバル・クレジット担当CIOのマーク・キーセルと、リアル・リターンおよびアセットアロケーション担当CIOのミヒル・ウォラーと共同で、トータル・リターン戦略を運用しています。

問:あなたを含む3人のポートフォリオ・マネージャーが率いるチームは、市場のボラティリティが上昇し、お客様の資金が流出するなど、厳しいタイミングでトータル・リターン戦略の運用を引き継ぎましたが、パフォーマンスは概ね良好です。このような環境において、同戦略の運用方法を調整する必要はあったのでしょうか。
答:端的に言うと、その必要はありませんでした。質(信用力)の高いコア債券戦略であるトータル・リターン戦略の運用対象は、世界中で非常に流動性が高い市場であることを認識することが重要です。私たちは、資金フローとは無関係に、ポートフォリオの各債券セクターにおいて設定したエクスポージャーの目標を維持するように日々努めています。資金フローの変化に基づいて戦略の運用方法を変えるわけではありません。

実際、私たちが重視するのはトータル・リターン戦略のお客様のためのパフォーマンスであり、その意味で資金フローは問題にはなっていません。過去数カ月間のパフォーマンスが概ね良好だったことが、この点を証明するでしょう。トータル・リターン戦略のパフォーマンスは、私たちの実績ある投資プロセスを反映していると考えています。

問:市場動向に注目しましょう。昨年9月以降、債券価格が上昇して長期金利が大幅に低下しましたが、この要因を教えてください。
答:米国の金利が低下した要因は、米国外における金利の低下、日本銀行と欧州中央銀行(ECB)による量的緩和政策の拡大など、数多く存在します。日欧市場における金利の低下が、長期の米国債金利を押し下げる役割を果たしています。

また、エネルギー価格の下落およびそれが総合インフレ率に与える影響について、市場は先入観にとらわれており、場合によっては固執しているとも言えることは要因の一つでしょう。PIMCOでは、一部の市場参加者とは異なり、エネルギー価格の下落に起因する総合インフレ率の低下が米国においてデフレ圧力が高まる兆しとなったり、FRBの初回の利上げのタイミングが相当程度先送りされる要因になったりするとは考えていませんが、このような市場の見方が金利を押し下げていることは間違いないでしょう。

同じように、米国の経済成長の鈍化を示すいくつかの単独の兆候を金利低下の要因とする見方もありますが、米国の経済成長が長期金利の低下の大きな要因になったとはみていません。

問:この先1年間のグローバルな経済成長とインフレについて、PIMCOの見通しを教えてください。
答:大局的な観点からは、先進国市場、エマージング市場のいずれにおいても、2015年は方向性の乖離が市場全体のテーマになるとPIMCOではみています。エマージング市場では、コモディティ価格の大きな変化を背景に勝ち組と負け組に二分されており、今後も多くの国が価格変化への対応を迫られるでしょう。一方、先進国市場では、経済成長率が潜在成長率を超えようとする米国と、低水準の潜在成長率に辛うじて達するかどうかという米国以外の大多数の国の方向性が乖離する見通しです。このほか、無視できない点として、FRBが現在の景気サイクルにおいて初の利上げを検討する一方で、ECBと日銀が緩和姿勢を前面に出すなど、金融政策の方向性も乖離するとみられます。

投資家にとっては、方向性の乖離に投資機会を見いだすことが重要です。この先、金融市場のボラティリティが上昇するなど、さまざまな点においてリスクが高まる見通しですが、市場が過度に反応した局面では投資機会が生じる可能性があるでしょう。

問:FRBの政策に注目すると、1月末現在のフェデラル・ファンド金利の先物価格には、年内の利上げは1回のみとなり、2017年末までに1.5%までしか利上げが進まないという投資家の見方が反映されており、昨年9月の予想からは大幅に後退しています。市場はFRBのスタンスを過度にハト派的とみているのでしょうか。
答:そのように思われます。FRBは今年の年末までは利上げに着手しないという市場の見方は、過度に控え目であるとPIMCOではみています。

FRBは、経済指標や国外情勢が政策決定に影響する一方で、原油価格の下落は経済成長にとってプラスであり、労働市場の改善と賃金の上昇に寄与するという見通しを非常に明確にしています。FRBは賃金がより速いペースで上昇することを期待し、景気が「いくぶん過熱」することを容認するのかもしれませんが、他方では、堅調な景気動向や今年後半には完全雇用の水準に達する見通しの労働市場の現状に鑑みて、金利をゼロに据え置くことにはますます否定的になっています。

金利をゼロに維持した場合、スラックすなわち需給のゆるみが解消する過程で、金融政策はさらに緩和的になります。その結果、将来的に唐突な利上げが緊急に必要になるリスクが高まりますが、FRBはそのようなシナリオを回避しようとするでしょう。また、インフレに関しては、FRBがエネルギー価格の下落に起因する総合インフレ率の低下を重視しないことは明白です(他方、市場はこのような常識的な見方を受け入れることに消極的なようです)。FRBは、結局は賃金動向が最も重要であることを認識しています。現在、全ての指標は賃金が上昇トレンドにあることを示しており、小幅な利上げでは、労働市場や賃金動向の改善に変化が生じる可能性は低いでしょう。また、ゼロ金利政策を解除しても、経済成長見通しが損なわれることはなく、むしろ景気拡大局面の長期的な持続性に寄与するとPIMCOではみています。ゼロ金利政策は、均衡価格原理を歪め、リターンを消滅させるものであり、経済を刺激する効果よりもコストやリスクという側面の方が強まりつつあります。

FRBが引き続き非常に大きなバランスシートを維持する結果、緩和的な金融情勢が確実に長期化することを考えた場合には特に、政策金利が(PIMCOがニュー・ニュートラルの下での均衡水準に近いと考える)2%を下回った状態であれば、金融政策は引き続き極めて緩和的で経済成長を後押しするでしょう。また、FRB以外の中央銀行が金融を緩和する結果、グローバルな金融情勢も緩和的となり、FRBが比較的早いタイミングで金利の正常化に着手することが可能になるでしょう。このため、今年の夏にも「非常時の政策金利水準」を解除することが合理的と言えるでしょう。

とはいえ、FRBは、米国経済を浮揚させるという目標に鑑み、正常化のペースを緩めることによって、経済成長率が引き続き潜在成長率を上回り、この先数年間にインフレ率が目標水準に達するよう、おそらくはそれ以上に上昇するように努めるとみられます。

問:トータル・リターン戦略に話を戻します。PIMCOのマクロ経済見通しを踏まえた運用方針について説明してください。
答:この先1年間に成果をもたらすと考えている運用戦略はいくつかあります。

まず、イールドカーブ上において、極めて割高と考える短期ゾーンから7~10年ゾーンにポジションをシフトしました。また、PIMCOでは、物価連動債などのセクターでは市場価格が合理的ではないとみています。たとえば、現在、米物価連動国債の市場では、10年のブレーク・イーブン・インフレ率が1.5%まで低下し、現実的とは考えられないような極めて低い10年先のインフレ期待が織り込まれています。原油価格が底打ちし、総合インフレ率が上昇すれば、市場は割安な資産クラスとして物価連動国債に注目するでしょう。

また、米ドルは、この先ボラティリティが高まることはあるにせよ、持続的な上昇トレンドに入った可能性が高いとPIMCOではみています。米ドルは比較的割安な水準から回復しており、また、グローバル経済の方向性が乖離し続けていることも、相場を押し上げる要因になるでしょう。

全般に、グローバル経済の方向性が乖離し、ボラティリティが高まり、市場価格が過剰に反応する結果、債券のアクティブ投資家には大きな投資機会が生じるでしょう。もっとも、全ての金融資産にとって、金融政策は近年のように安定的なプラス要因ではなく、マイナス要因になる可能性が高いため、慎重な姿勢も必要です。

問:金利が持続的に低いことを踏まえ、ポートフォリオの中核を成すコア債券の役割について再考している投資家に対して、どのように応えますか。
答:近年、各国の金融政策の影響を受けて、債券に限らず全ての金融資産の価格が上昇しました。将来のリターンがすでに前倒しで獲得されていることから、多くの金融商品のリターンはこの先低下するでしょう。また、金利は過去の事例と比べて非常に緩やかに上昇し、最終的な均衡水準は過去数十年間の水準を大きく下回る見通しであることには留意が必要です。

とはいえ、投資家は債券を保有する意味合いを再確認することが必要です。分散の効いたコア債券戦略はポートフォリオの中核的な役割を担い、インカムの獲得や元本の保全効果が期待されるほか、リスクが高い投資のパフォーマンスが低下する局面では一般にパフォーマンスの改善が見込まれます。

また、機械的にインデックスに投資するために市場の変動がそのまま反映されてしまう戦略と、債券のアクティブ戦略を区別することも必要でしょう。現在の低金利環境では、アクティブ運用のメリットはかつてなく重要であり、今後はリターンに占めるアルファの割合が高まると予想されます。

著者

Scott A. Mather

米国コア戦略担当最高投資責任者(CIO)

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ご留意事項

全ての投資にはリスクが伴い、価値は下落する場合があります。債券市場への投資は市場、金利、発行者、信用、インフレ、流動性などに関するリスクを伴うことがあります。ほぼ全ての債券及び債券戦略の価値は金利変動の影響を受けます。デュレーションの長い債券及び債券戦略は、より短い債券及び債券戦略と比べて金利感応度と価格変動性が高い傾向にあります。一般に債券価格は金利が上昇すると下落し、現在のような低金利環境ではリスクが高まります。債券取引におけるカウンターパーティーの取引能力の低下が市場流動性の低下や価格変動制の上昇をもたらす可能性があります。債券への投資では換金時に当初元本を上回ることも下回ることもあります。ソブリン証券は通常、発行体政府によって保証されています。米国政府機関の債務は米国政府からさまざまな形で支援を受けていますが、政府による全面的な保証は付与されないことが一般的です。こうした証券に投資するポートフォリオに対する保証はなく、ポートフォリオの価値は変動します。政府が発行する物価連動債(ILB)は、元本価値がインフレ率に連動して定期的に調整される債券です。実質金利が上がった場合、物価連動債(ILB)の価値は減少します。インフレ連動国債(TIPS)は、米国政府が発行する物価連動債(ILB)です。外貨建てあるいは外国籍の証券への投資には投資対象国の通貨価値の変動や経済及び政治情勢に起因するリスクを伴うことがあり、新興成長市場への投資ではかかるリスクが増大することがあります。分散投資によって、損失を完全に回避できるわけではありません。

本資料で言及した投資戦略が、あらゆる市場環境においても有効である、またはあらゆる投資家に適するという保証はありません。投資家は、自らの長期的な投資能力、特に市場が悪化した局面における投資能力を評価する必要があります。投資判断にあたっては、必要に応じて投資の専門家にご相談ください。