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PIMCOインカム戦略アップデート:市場の課題に立ち向かう

PIMCOインカム戦略は、主要なマクロリスクや市場リスクに耐えるポジションを維持しながら、著しい景気回復により恩恵を受ける可能性がある投資機会にシフトできる柔軟性を備えています。

場は大きな景気回復を見込んでいますが、金利は依然として歴史的な低水準にあり、政策立案者は広範囲に及ぶ財政および金融刺激策を講じています。PIMCOインカム戦略の運用を、アルフレッド・ムラタ、ジョシュア・アンダーソンとともに担当しているダニエル・アイバシンが、債券ストラテジストのエステバン・ブルバノと、同戦略の現状のポジショニングとPIMCOの経済と市場に対する見方をご説明します。

問:年初からの10年物の米国債利回り上昇と、多くの債券セクターでのスプレッド縮小の要因をどう考えていますか。

ダニエル・アイバシン:市場は大きな景気回復を期待し始め、ファンダメンタルズは改善しています。また同時に、中央銀行が大規模な緩和政策を実施しているなかでも、政策立案者は財政刺激策を拡大しています。このような動きが高格付け債券における金利リスクの調整につながり、第1四半期全体を通じた金利上昇の主な要因になったとみられます。

問:インフレに対するPIMCOの見方と、それがインカム戦略のポジションにどう反映されているかを教えてください。

アイバシン:PIMCOの経済見通しの基本シナリオでは、米国経済は大きく回復し、今年後半には回復がさらに加速するとみています。(詳細は短期経済展望「見せかけのインフレ」をご覧ください。)世界の他の先進国でも最終的にはいずれワクチン接種が広まり、2022年にかけて世界経済の同時回復が見られるでしょう。新型コロナウイルスに起因する供給の制約と、大規模な財政および金融刺激策が実施されている状況下でのこのような力強い景気回復は、インフレ率を押し上げると考えられます。しかし、基本シナリオでは、インフレ率は一時的に中央銀行の目標値を上回るものの、2022年から2023年にかけて緩やかな数値に戻ると考えています。

インフレは世界経済と金融市場全般にとって、大きなリスクであることに変わりありません。PIMCOは、基本シナリオの見通しだけに基づいて投資判断をしているわけではありません。高インフレ率のシナリオも含めて、基本シナリオ以外の潜在的な影響も考慮し、確率的な枠組みに基づいてポジショニングを行っています。テール・シナリオに備えたポートフォリオ運営を行っている理由の一つは、年末から年初にかけて金利リスクへの防御姿勢を強め、現在もデュレーションに対して引き続き警戒しているためです。

問:向こう3年から5年にかけては、どのような長期的要因の影響があると考えていますか。

アイバシン:インフレは注目分野のひとつです。私たちは10年以上にわたり、世界経済に対する強力なディスインフレ圧力の影響を目にしてきました。引き続き技術革新と人口高齢化が、世界経済におけるインフレ抑制の二大要因だと考えています。しかし、今回の新型コロナウイルスで、政策対応に大きな変化が見られました。今後、世界経済が大きなストレス状態に陥るなかで、大規模な財政対応が取られるとみられます。したがって、長期的には双方向のインフレリスクを懸念しています。すなわち、長期的なディスインフレ圧力およびデフレ誘発イベントが懸念される一方、財政赤字から長期的にインフレ拡大につながりかねない膨大な財政刺激策も懸念要因です。

もうひとつのリスクは、巨額な財政もしくは債務の持続可能性の問題です。新型コロナウイルスの危機克服後でも、世界経済の多くの分野で債務レベルは高止まりし、危機突入時よりも遥かに高い状態が続くでしょう。

問:低利回りと低スプレッドの環境下において、投資家の皆様に安定的なインカムを提供し続けるというインカム戦略の目的と、ボラティリティやこの先に起こり得るその他の不確実性リスクへの対応とのバランスをどのようにとっているのでしょうか。

アイバシン:2021年第1四半期にはやや上昇したとはいえ、長期金利は依然として非常に低い水準が続いています。また同時に、一般的な企業クレジットをはじめ、クレジット関連のセクターのスプレッドは大きく改善し、適正水準ないしやや割高にまで戻っています。PIMCOの世界の景気回復に対する楽観的な見通しの多くは、既に市場価格に織り込まれています。

幸いにも、PIMCOインカム戦略のアプローチは極めて柔軟であることから、2021年後半から2022年にかけて起こりうる金利上昇シナリオに対して守りの姿勢をとることができます。より大きく景気回復の恩恵を受ける厳選したセクターでの投資機会を増やし、一般的な企業クレジット分野でのリスクを徐々に引き下げています。

当戦略のクレジット投資では、既に強固なファンダメンタルズを持ち、景気回復で一層の改善が予想される金融セクターに注目しています。また、一部のレジャー関連や旅行業界など、コロナ危機回復をテーマとしたセクターも選好しています。

当戦略におけるもうひとつの注目分野がモーゲージ関連のリスクで、これがPIMCOのインカム戦略と、企業クレジットに多く投資する他の戦略との大きな違いです。当戦略では、少なくとも二つの形でモーゲージ関連のエクスポージャーを取っています。ひとつは米政府抵当金庫(ジニーメイ)、米連邦住宅抵当公社(ファニーメイ)、連邦住宅貸付抵当公社(フレディマック)のパススルー証券など、米国政府や政府関連機関の裏付けのある質の高い債券へのエクスポージャーです。このセクターは、米連邦準備銀行による大量直接買い付けのメリットを大きく享受しています。流動性の高いこれらの証券が、インカム戦略ポートフォリオの基盤を支えています。ただし、バリュエーションは非常に割安な状態からやや割高のレベルに達したとみて、エクスポージャーを減らしました。

モーゲージ関連のもうひとつ注目分野は、非政府系モーゲージ債(MBS)です。この1年で米国の住宅価格は上昇しましたが、価格対簿価比率、購入対賃貸比率、価格対収入比率などの評価尺度は、過去の水準に照らしても十分に落ち着いた数値となっています。絶対水準においても、また企業クレジット市場にみられる状況と比べても、今回の価格上昇は、2008年の住宅市場崩壊前に見られた過剰貸付けの水準には達していません。

問:米連邦準備制度理事会(FRB)が政府系MBSの購入を継続していることから、バリュエーションは割高で、新型コロナウイルスの世界的大流行(パンデミック)以前の水準まで上がっています。このポジション削減を継続する予定ですか。

アイバシン:FRBは2021年末まで政府系MBSを購入し続け、同市場を支え続けるでしょう。モーゲージ債や米国債に関するテーパリング(資産買い入れプログラムの縮小)の動きは非常に緩やかなものになり、市場にしっかりコミュニケーションするとみています。とはいえ、当戦略の投資機会の中でも流動性が高いこのセクターは、既に大きく上昇しました。したがって、高品質のその他の資産への入れ替えにともない今後数四半期かけてさらにポジションを徐々に減らしてゆく方向です。しかしながら、高い流動性と、伝統的な政府債務に比べてはるかに複雑な仕組みに由来する追加的な利回りには魅力があることから、当セクターへのエクスポージャーは維持する予定です。

問:企業クレジット市場において、潜在的に割高な水準と、世界経済の力強い回復によってもたらされる投資機会のバランスをどのように取ろうと考えていますか。

アイバシン:企業クレジットは、歴史的にみれば適正水準またはやや割高ですが、ファンダメンタルズは強固で、海外の投資家も含めて利回りに強いニーズがあることから、需給面も引き続き極めて堅調です。2020年第1四半期の著しい市場混乱を受けて、当戦略の企業クレジットについては、インデックスに組み入れられるような、流動性の高い一般的なクレジット・エクスポージャーから、一時的に、市場の混乱が収まるにしたがって値上がりが期待できるセクターに絞ったリスクにシフトしました。現在は、安定回復の時期も過ぎたため、より流動性の高い企業クレジットでの投資に戻る機会を探っており、景気循環に敏感で、ファンダメンタルズが全般的に魅力的なセクターや、一部の実物資産の裏付けのあるセクターを選好しています。

問:エマージング市場についてはどうみていますか。

アイバシン:エマージング市場は、インカム戦略のポートフォリオの中ではボラティリティの高いセクターのひとつですが、過去の水準から見ると、相対的にも絶対的にも十分魅力的です。柔軟性の高い当戦略において重要な差別要因となりうる投資分野だと考えています。

現在、エマージング市場に対するエクスポージャーは、全体的に低い水準を維持しています。直接大きな金利リスクは取ってはいませんが、主として相対的に質の高い分野で、現地通貨やドルなど外貨建てのエクスポージャーを保有しています。エマージング市場は、地政学的な不透明性や、国や地域によっては国内の政治情勢など、パンデミックから派生した独自の課題に直面しています。パンデミックは多くのエマージング諸国を襲い、悲劇的な結果をもたらしています。しかし、そのような国でもウイルス感染は次第に鎮静化するとみられ、エマージング市場の経済成長の見通しについては、慎重ながらも楽観的な見方を維持し、今年後半から2022年にかけて予想される世界同時景気回復の恩恵を享受できる位置にいると考えています。

問:ESG投資についてどうみていますか。特にインカムに注目した戦略についてはどうでしょう。

アイバシン:ESGはPIMCOのお客様にとって極めて重要な課題で、したがってPIMCOにとっても非常に大切なテーマです。PIMCOはESGにおいて債券分野のリーダーとなり、お客様の個別ニーズに合わせたソリューションをご提供できるよう、全力を尽くしています。ESG投資については、インカムに注目したESG戦略を含め、一連の運用戦略を取り揃えています。ESGに配慮したインカム重視のポートフォリオは、通常のインカム戦略の模倣ではなく、元本保全やトータルリターン確保という重要な第二の目的を維持しつつ安定的な配当収入を生む、ESG対応から発生する投資機会に的を絞った戦略です。

問:今後、投資家は債券市場とインカム戦略に何を期待すべきでしょう。

アイバシン:PIMCOのインカム戦略では、常に元本保全と、最終的にはトータルリターンに注視ししながら、安定的で責任ある配当インカムの創出を目指しています。ここにきて利回りがやや回復し、投資戦略の柔軟性が幾分高まりました。今後は変化する市場や経済環境、政治情勢に対応するため、必要に応じて見方も修正する予定です。

マクロ環境の不透明感が高く、おしなべて利回りの低い投資環境において、インカム戦略が持つ高い柔軟性は極めて重要です。インカム戦略は市場のベンチマークを意識していません。幅広い種類の債券へのアセットアロケーションによるアプローチをとり、ポジション最適化のためのシナリオ分析を行っています。繰り返しになりますが、柔軟性が当戦略の最も重要な差別化要因であり、PIMCO全体のポートフォリオ・マネージャーとアナリストのチームから最善の投資アイデアを結集し、責任を持ってその柔軟性を活かすよう努めています。


(2021年5月18日発行)

著者

Daniel J. Ivascyn

グループ最高投資責任者(グループ CIO)

Esteban Burbano

債券ストラテジスト

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