注目の運用戦略

PIMCOインカム戦略アップデート:不揃いな景気回復を乗り切る

世界経済が引き続き混迷を深める中、債券戦略においては、柔軟性とアクティブ運用が極めて重要だとPIMCOでは考えています。

政治の不透明感と進行中のパンデミックが、世界経済の回復を困難にしています。これは投資家にとってはリスクですが、投資機会を見出すことも可能です。PIMCOインカム戦略の運用を、アルフレッド・ムラタ、ジョシュア・アンダーソンとともに担当しているダニエル・アイバシンが、債券ストラテジストのエステバン・ブルバノとともに、同戦略の現状のポジショニングとPIMCOの経済と市場に対する見方をご説明します。

問:PIMCOの全般的な経済見通しを教えてください。

ダニエル・アイバシン:直近の長期経済展望「加速する創造的破壊」でご説明の通り、さまざまな破壊要因を考慮し、長期的には慎重な見通しを持っています。破壊要因とは、地政学的緊張(特に米中関係)、ポピュリズム、テクノロジーの変化などです。中央銀行には、経済と市場の誘導に以前ほどの力は期待できず、経済成長のけん引役は財政支出に依存せざるを得ず、米国の財政政策の見通しも不透明です。

債券、株式の両市場において、この先5年間はボラティリティが上昇し、リターンは低くなると予想しています。これは非常に厳しい環境で、投資家はより保守的に考える必要があるかもしれません。

来年以降短期的には、慎重ながらも楽観的な見方をしています。もっとも、この基本シナリオの見通しはワクチンの普及時期と効果的な治療方法の開発に依存し、新型コロナウイルスの収束を前提としています。そのような努力が来年第1四半期に実を結び、それなりの規模の追加的な財政刺激策が実施されれば、米国においては十分に力強い回復の継続が期待できるでしょう。しかし、2019年の成長水準に戻るのには2021年の終盤までかかるでしょう。

総じて言えば、経済の多くの分野が引き続き大きなストレスを抱えており、この景気回復は平坦でも一様でもない道を辿るでしょう。

問:金利についてはどうみていますか。

アイバシン:金利はこれまで先進国を中心に大きく低下してきました。インフレは、向こう数年落ち着いて推移するとみていますが、それは利回りも相対的にレンジ内で推移することを意味します。最近のワクチンのニュースで金利はわずかに上昇しましたが、最終的な上昇幅はそれほど大きくはならないとみています。金利リスクについては、全体的にやや保守的な姿勢を取っています。

インカム戦略のポートフォリオでは、引き続き米国の金利ポジションを選好しています。日本の国債市場はアンダーウエイトを維持しています。また、焦点を絞った投資で、エマージング市場においてもある程度の金利エクスポージャーを取っています。全体的には、質の高い債券が引き続きポートフォリオのリスク緩和の側面を担うことになりますが、これまでほどの効果は期待できないでしょう。その他にも、ポートフォリオ全体のボラティリティ削減に寄与する資産も検討しています。

問:2020年第2四半期や第3四半期の力強いパフォーマンスを踏まえ、クレジット市場全体をどうみていますか。

アイバシン:3月下旬に急拡大したスプレッドは、その後大きく回復してきました。しかし、素早く過去の標準的な水準に戻ったセクターもありますが、セクターの間にはばらつきがあります。アクティブ運用と厳格なボトムアップのクレジット分析、それに超過収益源とリスク要因の分散が非常に重要です。

3月の状況を経て社債のスプレッド・デュレ―ションを増やしてきましたが、最近はやや保守的な姿勢に戻っています。重要なクレジットセクターのロングポジションは維持していますが、数カ月前に構築したこれまで好調だったポジションも、現在では、今後見込まれる利益に比べてリスクが高いとみられるものは削減しています。

問:モーゲージ債(MBS)については現在どうみていますか。

アイバシン:インカム戦略では、長く住宅セクターを選好してきましたが、これまでもこの分野でリスクを積み増してきました。市場のボラリティが上昇し、強制的なレバレッジ解消が進んだ3月以降、住宅市場は力強く回復し、米国のほとんどの地域で価格が上昇したほか、他の先進諸国でも同様に力強い回復か安定した状態が見られています。

これは驚くことではありません。前回の金融危機以降、このセクターでは大きく規制が強化され、格付け機関も投資家も、極めて保守的な姿勢で臨んでいます。パンデミック到来時点で、住宅市場のファンダメンタルズは非常に強固なものでした。住宅価格は手頃で、低金利でローンの支払い負担は軽く、昨今の住宅価格上昇により、所有者の自己保有部分は上昇しました。これらの動きはすべて、引き続き魅力的なパフォーマンスを期待させるファンダメンタル環境を生み出しています。

住宅価格は今後も上昇するかもしれませんが、インカム戦略の住宅関連投資の大半は、住宅価格の継続的な上昇に依存するものではない点を強調したいと思います。たとえ価格基調が弱まっても、借入人の自己資本(自己保有部分)は大きく、当セクターには強い耐性が期待できるでしょう。

インカム戦略の大半の非政府系MBSは、前回の金融危機以前に実行された住宅ローンのプールを担保としており、ローン債務者の自己保有部分は大きく増加しています。住宅ローンは幅広く分散され、長年の返済実績があり、大半のローンは現在も引き続き返済されています。

また現在、利回りの高い米国債の代替として、政府系MBSのポジションも引き続き保有しています。キャッシュフローの確実性は米国債に及ばないものの、暗黙の米国政府保証のメリットがあります(脚注1)。また、米連邦準備制度理事会(FRB)は、政府機関系MBSの積極的な購入により、金融システムの流動性の安定を図かっていますが、それは今後も継続すると予想しています。政府機関系MBSのほぼすべてが、高格付けのパススルー証券です。

問:社債市場に関しては、どこに投資機会があり、何を懸念していますか。

アイバシン:FRBが大量の流動性を市場に投入して以来、企業クレジットセクターは大きく回復していますが、これにより市場全体で見ると、現在は数カ月前に比べ魅力は薄れていると言えるでしょう。今年初め頃は、何年にも及ぶ強引な引受けや、与信基準の低下、投資家保護の劣化などにより、企業クレジットのファンダメンタルズは比較的脆弱だったことを思い出してください。それに加えて今年も多額の貸出しが実行され、リスクの高い銘柄のレバレッジ比率は上昇しています。最近では、以前にも増して厳しい経営不振とリストラにより、債権の回収率も非常に低くなっています。

市場の反騰により、今年3月下旬から5月にかけて構築した戦術的な投資ポジションのパフォーマンスは良好でした。しかし、その後はリスクとエクスポージャーについて保守的で選別的な姿勢に大きく転じ、さらにこの先数カ月は既存ポジション縮小に着手するとともに、より耐性の強い分野にシフトしていく方針です。また、米国の政治の先行きや、それが企業に与える影響にも注意しています。例えば、市場の期待よりも強さに欠ける財政刺激策の実施が明らかになれば、企業クレジットのうち相対的に弱い分野は、一層困難に陥りやすくなるでしょう。

企業クレジットの投資機会については、引き続き銀行セクターを選好しています。銀行は収益のビジネスモデルとしては試練を迎えていますが、以前に比べて自己資本比率は極めて高く、米国でも、欧州などその他の先進国でも、経営陣は保守的な姿勢を維持しています。

問:インフレに対する見通しはいかがですか。インカム戦略はそれにどのように対応していますか。

アイバシン:民間部門でも公的部門においても、債務水準は非常に高くなっています。パンデミック以前にも既に債務水準は高まっていましたが、その後さらに高くなっています。そのため中央銀行は、この先インフレ率を引き上げようとするでしょう。PIMCOの基本シナリオでは、今後数年、大きなインフレ圧力は見られないと考えていますが、より長期で見ると、(極端なシナリオが発生する確率はそれほど高くないにせよ)インフレシナリオにもデフレシナリオにも向かうリスクは高まっていると考えています。しかも、市場は実際のインフレが発生する前に反応し、市場の期待は非常に素早く変化します。

インフレシナリオに対しては、米物価連動国債債(TIPS)などにより、ポートフォリオのリスクヘッジを試みています。このセクターでリターンを期待するには忍耐が必要かもしれませんが、割安なヘッジ手段として、今年はある程度エクスポージャーを増やしてきました。さらに、リフレシナリオでも利益が上がるよう、社債市場やエマージング市場にもターゲットを広げています。

問:エマージング市場のポジションはどうなっていますか。通貨についてはどうでしょう。

アイバシン:当戦略のエマージング市場のエクスポージャーのほぼ全てが、相対的に市場が大きく、流動性の高い、高格付けの国のソブリン債または準ソブリン債です。市場逼迫時には流動性が極めて低くなりがちな、エマージング社債へのエクスポージャーはほとんどありません。

エマージング市場は経済ショックに対して非常に敏感です。仮に新型コロナウイルスの状況が予想以上に長引く、または世界経済にマイナスのショックが走り、貿易摩擦が高まれば、エマージング市場はアンダーパフォームする可能性が高くなります。しかし、基本シナリオに描くように、世界経済の持続的な回復が来年も続くようであれば、エマージング市場のバリュエーションとリターンは非常に魅力的だと考えています。当セクターの潜在的なボラティリティを意識しながら、この数四半期の間、比較的安定していた国や地域へのエクスポージャーの保有を継続します。

最後に、エマージング通貨についてもある程度エクスポージャーをとっており、PIMCOの経済見通しを反映し、米ドルを戦術的にアンダーウエイトしています。過去の水準に照らせば、ドルはエマージング通貨のスモールバスケットに対してやや割高で、一部の先進国通貨も同様にやや割高です。とはいえ、現時点では何年も続くドル安は予想していません。

問:最後に現在のPIMCOインカム戦略の全体的なアプローチについて教えてください。

アイバシン:インカム戦略は非常に柔軟で、世界中の投資機会にアクセスが可能です。低リターンでボラティリティが高く、中央銀行がリスク資産の利回りとスプレッドの引き下げに影響を及ぼすような世界において、この点は極めて重要です。当戦略では慎重に分散を行い、曲がっても折れない投資を重視していますが、同時に魅力的な追加リターンが期待される市場で積極的に投資機会を追及しています。そして常に、ダウンサイドの緩和と元本保全に配慮しています。

ここ数年、金利は大きく低下してきました。現在の金利を出発点とすれば、リスクはほぼ上下に対称か、あるいはやや金利上昇に傾いていると考えています。これは、デュレーションやスプレッド縮小にパフォーマンスを求めず、インカム最大化と元本保全に注力した柔軟な戦略が賢明なことを意味しています。インカム戦略はこれまで通り、PIMCOのトップダウンアプローチと整合性の取れた、信頼できるインカム収入を追求します。



1 ジニーメイ(GNMA、連邦政府抵当金庫)が発行する米国政府機関系モーゲージ債は、米国政府による元利金支払の保証付き債券です。フレディマック(FHLMC、連邦住宅金融抵当金庫)およびファニーメイ(FNMA、連邦住宅抵当金庫)が発行する債券は、当該機関が期日通りの元利金支払いの保証をするものの、米国政府による保証はありません。

(11月24日発行)

著者

Daniel J. Ivascyn

グループ最高投資責任者(グループ CIO)

Esteban Burbano

債券ストラテジスト

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リスクについて:

債券市場への投資は市場、金利、発行体、信用、インフレ、流動性などに関するリスクを伴うことがあります。ほぼ全ての債券及び債券戦略の価値は金利変動の影響を受けます。デュレーションの長い債券及び債券戦略は、より短い債券及び債券戦略と比べて金利感応度と価格変動性が高い傾向にあります。一般に債券価格は金利が上昇すると下落します。低金利環境ではリスクが高まります。債券取引におけるカウンターパーティーの取引能力の低下が市場流動性の低下や価格変動制の上昇をもたらす可能性があります。債券への投資では換金時に当初元本を上回ることも下回ることもあります。政府が発行する物価連動債(ILB)は、元本価値がインフレ率に連動して定期的に調整される債券です。実質金利が上がった場合、物価連動債(ILB)の価値は減少します。インフレ連動国債(TIPS)は、米国政府が発行する物価連動債(ILB)です。モーゲージ担保証券と資産担保証券は金利水準に対する感応度が高い場合があり、期限前償還リスクを伴い、また、発行体の信用力に対する市場の認識に応じてその価格は変動する可能性があります。また、一般的には政府または民間保証機関による何らかの保証が付されていますが、民間保証機関が債務を履行する保証はありません。外貨建てあるいは外国籍の証券への投資には投資対象国の通貨価値の変動や経済及び政治情勢に起因するリスクを伴うことがあり、新興成長市場への投資ではかかるリスクが増大することがあります。為替レートは短期間に大きく変動する場合があり、ポートフォリオのリターンを減少させる可能性があります。高利回りで低格付けの証券はより高格付けの証券よりも高いリスクを伴います。また、それらへ投資しているポートフォリオは投資していないポートフォリオに比べてより高いクレジット・リスクと流動性リスクを伴う場合があります。株式の価値は一般的な市場、経済、産業の実体と見込み両方の状況によって減少する可能性があります。デリバティブ商品を利用することにより、コストが発生する可能性があり、また流動性リスク、金利リスク、市場リスク、信用リスク、経営リスク、そして最も有利な時点でポジションを清算できないリスクなどが発生する可能性もあります。デリバティブ商品への投資により、投資元本以上の損失を被る可能性もあります。分散投資によって、損失を完全に回避できるわけではありません。マネジメント・リスクとは、PIMCOが用いる投資手法およびリスク分析が望んだ結果を生まないリスク、また、政策や変更等が戦略の運用においてPIMCOが利用可能な投資手法に影響を及ぼしうるリスクを指します。

金融市場動向やポートフォリオ戦略に関する説明は現在の市場環境に基づくものであり、市場環境は変化します。本資料で言及した投資戦略が、あらゆる市場環境においても有効である、またはあらゆる投資家に相応しいという保証はありません。投資家は、自らの長期的な投資能力、特に市場が悪化した局面における投資能力を評価する必要があります。投資判断にあたっては、必要に応じて投資の専門家にご相談ください。見通しおよび戦略は予告なしに変更される場合があります。

アルファとは、リスク調整後の運用成績を計る指標であり、ポートフォリオのリスク調整後の運用成績のボラティリティ(価格変動リスク)とベンチマーク・インデックスを比較することによって求められます。つまり、ベンチマークに対する超過リターンがアルファを構成します。アルファはプラスの場合もマイナスの場合もあります。 ベータとは、市場変動に対する価格の感応度を計る指標です。マーケット・ベータは1と定義されます。

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