注目の運用戦略

PIMCOインカム戦略アップデート:景気回復のなかでの運用

世界の経済活動は加速していますが、リスクは依然として高く、バリュエーションは割高となっています。投資対象が広く柔軟なポートフォリオが極めて重要です。

界経済の成長加速への期待により、ほとんどの市場がほぼ全面的に回復しましたが、これから先の数年を乗り切るには、慎重なアプローチが非常に重要になります。PIMCOインカム戦略をアルフレッド・ムラタ、ジョシュア・アンダーソンとともに担当しているダニエル・アイバシンが、債券ストラテジストのエステバン・ブルバノとともに、同戦略の現状のポートフォリオのポジショニングとPIMCOの経済と市場に対する見方をご説明します。

問:昨年はさまざまな意味で厳しい一年でしたが、そこで得られた運用上の教訓と、PIMCOの今年の見通しを教えてください。

ダニエル・アイバシン:2020年は、投資キャリアのうちで一度あるかないかの負のマーケット・サプライズが、リスクに対する強烈な価格調整を招きうることを教えられた1年でした。昨年3月に起こった市場ボラティリティの急上昇は、積極的な流動性管理とリスクマネジメントの重要性を改めて浮き彫りにしました。また、耐性の強いポートフォリオ構築のためには、分散が重要なことも明らかとなりました。ご承知の通り、分散は常にPIMCOインカム戦略の大きな特徴です。

PIMCOの2021年の基本的な経済見通しは、短期経済展望「現実的な楽観論」でとりあげたワクチン流通の効率性が高まることです。一方で、財政・金融政策による力強い支援は継続するでしょう。これによって、世界経済は今年後半には揃って回復し、リスク資産に対しては楽観的な見方が戻るかもしれませんが、守り重視の姿勢は必須と考えています(詳細については、短期経済展望「現実的な楽観論」をご覧ください)。

回復の勢いが増すにつれ、財政刺激の効果に加えパンデミックの影響による供給制約から、短期的なインフレ圧力は頂点に達する可能性もあります。しかし、PIMCOの一般的な見方としては、強力なディスインフレ圧力は変わらず、インフレは穏やかな範囲に止まるとみています。

このような見通しに対するリスクとしては、依然として続く米中間の政治的緊張、株式や債券市場における一部のセグメントの過熱化(バブルと呼ぶほどではないにせよ、歴史的には高水準)、そして短期的には、依然として経済の大きな不透明性が残っていることがあげられます。リターン獲得はますます困難になるとみられることから、投資機会追求の範囲を広げ、戦略の着実な実行が非常に大切となるでしょう。

問:特に米国における財政・金融政策による支援に関する見通し、その債券利回りへの影響について、もう少し詳しく教えてください。

アイバシン:財政支出の拡大は主に新型コロナウイルス対策とインフラ整備に向けられると予想していますが、民主党がかろうじて過半数は確保しているため、インフレ見通しや債務の持続可能性に対する懸念を増大させるような、大胆な財政政策のシナリオは想定していません。

中央銀行は経済支援の姿勢を維持し、この先数年、政策金利は変わらないとみています。2013年のテーパリング癇癪の教訓から、米連邦準備制度銀行(FRB)は徐々に、且つ慎重に対応するとみられ、米国債やモーゲージ債などの購入によるバランスシートの変化については、市場との慎重な対話に配慮すると考えています。(詳しくは、FRBの2021年の政策に関する最近のPIMCOブログをご参照ください)もちろん、FRBが緩やかにテーパリングを実施したとしても、今年後半か来年には、市場である程度波紋が広がる可能性はあります。

政策による支援もあり、総じて債券利回りは上昇トレンドを維持するとみられますが、相対的にはレンジ内の動きに止まると考えています。

問:インカム戦略の現在の大きな投資テーマを教えてください。

アイバシン:通常の投資適格債や高格付けのハイイールド市場セグメントなど中央銀行が支援しているセクターでは、スプレッドが大きく縮小し、インカムを確保することがますます難しくなってきました。そこで、PIMCOインカム戦略では、世界の債券市場をほぼ隈なく見直し、投資機会の可能性を戦術的に広げています。セクターの観点からは、恐らくかつてないほど分散されています。

多くの投資家が、いとも容易く大きな利益をあげたようです。金利やクレジット・エクスポージャーに対するスプレッドは非常に小さくなっています。市場では特に伝統的な債券セクターで、数多くのリスクが見られます。従って、インカム戦略では、インカムを獲得しつつダウンサイドリスクの低減に配慮し、柔軟性を保ちながら保守的な運用を行っています。また、デュレーション(金利リスク)は約2年で、多くの一般的な債券インデックスよりも短くなっています。現在の高いバリュエーションの要因である、中央銀行による継続的な債券購入活動に依存しない運用を目指しています。構造的にも強固な実物資産や、社債市場において強力な制限条項のついた銘柄、またはファンダメンタルズが全体的に良好な分野に注目しています。ダウンサイドの守りを強化するためには、多少の利回りを犠牲にしても良いと考えています。そのようにしても、ポートフォリオの高い柔軟性により、当戦略はパッシブ運用や一般的な債券インデックスと比較して上手くいくと確信しています。

問:住宅市場とその関連投資に関するPIMCOの最新の見方を教えてください。

アイバシン:政府系、非政府系とも、モーゲージ債(MBS)については前向きな方針を継続しています。住宅関連の投資機会は依然として魅力的で、米国でも、そして英国や欧州でも、ファンダメンタルズは概ね良好です。昨年の第1四半期に価格を一時的に急落させた広範なデレバレッジ(債務削減)後も、このセクターは素早く回復しています。さらに、世界金融危機後に導入された厳格な引き受け条件と規制により、住宅市場での過剰な供給は見られません。非政府系MBSはこれまで既にファンダメンタルズ改善の恩恵を受けてきましたが、このポジションにとって、そのような状況は好ましいことです。重要な点は、住宅価格が上昇し続ける必要はなく、価格が変わらなくても、あるいはやや下がったとしても、このポジションには底堅さが期待できることです。

一方、政府系MBSのバリュエーションは、昨年3月の非常に魅力的な水準から、現在のやや魅力的な水準に変わりましたが、本セクターは高品質な基盤としてポートフォリオを今後も支えるものと考えています。当戦略では、引き続きFRBが直接支持する質の高い政府系MBSを選好しています。期限前返済は高止まりしていますが、これは、高格付けのその他多くの債券に比べてMBSのプレミアムの源泉である、キャッシュフローの不透明性を示すもので、大規模なモーゲージ債チームと分析リソースを抱えるPIMCOにとっては有利な状況です。また、政府系MBSの持つ高い流動性も魅力的で、他に好ましい投資対象が見つかった場合、比較的容易にその市場へのシフトが可能です。政府系MBSのほぼすべては、最も流動性の高いパススルー証券やその関連証券で、中央銀行によって直接購入されるものです。

PIMCOのマクロ経済の見通しと、インカム戦略の広範な投資機会を勘案すると、政府系MBSへの配分割合は、過去のピーク時に比べてやや少なめになる可能性がありますが、全体の投資機会の中で、質の高い当セグメントへの大幅な配分は維持する方針です。

問:企業クレジット市場については、どこに投資機会とリスクがあるとみていますか。

アイバシン:企業クレジットのスプレッドは、景気回復と財政支援により、現状の水準で推移するか、あるいはさらに若干縮小する可能性もあると考えています。とはいえ、このセクターのレバレッジは、パンデミック突入時において既に高く、昨年も記録的な額の発行があり、さらに多額の債務が積み上がっています。現状、新型コロナウイルスの直接的な影響をさほど受けなかった多くのセグメントでは、スプレッドがコロナ危機以前よりも低い水準にまで低下しています。

昨年は投資適格債と高格付けのハイイールド市場へのエクスポージャーをかなり増やしましたが、現在では銘柄をより厳選し、パフォーマンスに大きく貢献してきた分野のリスクも減らしています。

現状では、スプレッドが大きく投資家のための財務制限条項も魅力的な、ホスピタリティ、レジャー、ゲーム、小売りの各セクターや、不動産投資信託(REIT)の一部など、パンデミックの影響を直接受けたクレジット・セグメントに注目しています。

さらに、米国を中心に、自己資本比率の高い金融セクターも引き続き選好しています。金融危機後の規制強化により、多くの金融機関でリスクテイクが制限されてきたことに加え、今年見込まれる景気回復も、短期的に当セクターの追い風になると考えています。

問:バンクローン市場について、担保付きシニア・バンクローンのリスクに対する潜在メリットをどうみていますか。

アイバシン:バンクローンのバリュエーションは、他のクレジット市場の資産と比べても妥当とみています。バンクローンは変動金利で、投資家が金利リスクを憂慮した時にパフォーマンスが高くなる投資資産ですが、昨今の見通しの不透明感により、投資家の選好が変動金利と固定金利の資産の間で目まぐるしく変わったことから、この市場のボラティリティは上昇しました。PIMCOでは、金利のポジショニングはクレジットの銘柄選択と切り離してみており、幅広い投資機会の中で、バンクローンは引き続き重要な位置を占めています。現在、インカム戦略では、流動性が高い大手の高格付け企業の銘柄に絞って、少額の戦術的なエクスポージャーを取っています。

問:インフレ関連の投資についてはどうでしょう。

アイバシン:先ほど述べたように、今年後半か来年初めにはインフレ圧力が高まるかもしれませんが、中期的にはそれほど心配する必要はないと考えています。ここ数カ月、米物価連動国債(TIPS)は名目金利の米国債を上回る高いパフォーマンスをあげていますが、価格は適正に近い水準にあると考えています。インカム戦略では保守的な資産配分として、ある程度TIPSのエクスポージャーを維持していますが、少しずつ中立に戻しています。

問:エマージング市場のポジションはどうなっていますか。通貨についてはどうでしょう。

アイバシン:エマージング市場については前向きにみています。このセクターは分散のための重要な投資対象で、PIMCOのマクロの見通しからも、リターン向上に寄与する可能性が高いセクターです。当戦略で保有するポジションは、相対的に高格付けで流動性の高いソブリン債または準ソブリン債と、分散された、流動性の高い現地通貨建ての銘柄です。

PIMCOでは、世界経済の成長加速により米ドルはさらに弱くなる可能性が高いと考えており、当戦略でも米ドルに対してネガティブにみています。通貨エクスポージャーについては、高格付けのエマージング通貨と先進国通貨を織り交ぜています。ただし、現状ドル安ポジションにはやや過密感もあり、それほど極端に大きなポジションは取らない方針です。

問:最後に現在のPIMCOインカム戦略の全体的なアプローチについて教えてください。

アイバシン:投資家は、政策担当者の強力なサポートを受け、一般的なパッシブ債券インデックスに代表されるような市場のセグメントにおいて、責任ある方法で利回りを生み出すことがより困難に感じるかもしれません。PIMCOインカム戦略は特定のベンチマークにとらわれず、世界の市場を対象とし、柔軟性が高く、リスクをしっかりと意識した債券の運用アプローチを取っており、投資家にこれからも安定的なインカムと魅力的なリターンを提供するのに相応しい戦略だと考えています。

著者

Daniel J. Ivascyn

グループ最高投資責任者(グループ CIO)

Esteban Burbano

債券ストラテジスト

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債券市場への投資は市場、金利、発行体、信用、インフレ、流動性などに関するリスクを伴うことがあります。ほぼ全ての債券及び債券戦略の価値は金利変動の影響を受けます。デュレーションの長い債券及び債券戦略は、より短い債券及び債券戦略と比べて金利感応度と価格変動性が高い傾向にあります。一般に債券価格は金利が上昇すると下落します。低金利環境ではリスクが高まります。債券取引におけるカウンターパーティーの取引能力の低下が市場流動性の低下や価格変動制の上昇をもたらす可能性があります。債券への投資では換金時に当初元本を上回ることも下回ることもあります。政府が発行する物価連動債(ILB)は、元本価値がインフレ率に連動して定期的に調整される債券です。実質金利が上がった場合、物価連動債(ILB)の価値は減少します。インフレ連動国債(TIPS)は、米国政府が発行する物価連動債(ILB)です。モーゲージ担保証券と資産担保証券は金利水準に対する感応度が高い場合があり、期限前償還リスクを伴い、また、発行体の信用力に対する市場の認識に応じてその価格は変動する可能性があります。また、一般的には政府または民間保証機関による何らかの保証が付されていますが、民間保証機関が債務を履行する保証はありません。外貨建てあるいは外国籍の証券への投資には投資対象国の通貨価値の変動や経済及び政治情勢に起因するリスクを伴うことがあり、新興成長市場への投資ではかかるリスクが増大することがあります。為替レートは短期間に大きく変動する場合があり、ポートフォリオのリターンを減少させる可能性があります。高利回りで低格付けの証券はより高格付けの証券よりも高いリスクを伴います。また、それらへ投資しているポートフォリオは投資していないポートフォリオに比べてより高いクレジット・リスクと流動性リスクを伴う場合があります。株式の価値は一般的な市場、経済、産業の実体と見込み両方の状況によって減少する可能性があります。デリバティブ商品を利用することにより、コストが発生する可能性があり、また流動性リスク、金利リスク、市場リスク、信用リスク、経営リスク、そして最も有利な時点でポジションを清算できないリスクなどが発生する可能性もあります。デリバティブ商品への投資により、投資元本以上の損失を被る可能性もあります。分散投資によって、損失を完全に回避できるわけではありません。マネジメント・リスクとは、PIMCOが用いる投資手法およびリスク分析が望んだ結果を生まないリスク、また、政策や変更等が戦略の運用においてPIMCOが利用可能な投資手法に影響を及ぼしうるリスクを指します。

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