注目の運用戦略

PIMCOインカム戦略アップデート:インフレ懸念と低利回り環境下での運用

強い耐性と高い機動性を持つポートフォリオ構築に向けて、グローバル債券市場で投資機会を見出しています。

インフレと新型コロナ変異株による不透明感が高まるなかにおいても、世界経済は回復しています。かかる環境下において、安定した利回りを求める投資家は、より慎重で機動性の高い運用を意識したいと考えるかもしれません。PIMCOインカム戦略の運用を、アルフレッド・ムラタ、ジョシュア・アンダーソンとともに担当しているダニエル・アイバシンが、債券ストラテジストのエステバン・ブルバノとともに、同戦略の現状のポジショニングとPIMCOの経済と市場に対する見方をご説明します。

問:2021年の金利動向、バリュエーション、流動性などに関するPIMCOの見方と、投資への意味合いを教えてください。

ダニエル・アイバシン: ここ数カ月は、主に全体的に高い水準にある流動性が、市場をけん引してきました。世界的な低金利に加え、多くのセクターでスプレッドが低下した現状において、投資家は高格付けの低利回り債券ではなく、クレジット感応度のより高いセクターで利回りを物色する動きが見られます。

また、国・地域ごとに景気回復への道のりが異なる点も重要です。最近の経済指標からは、市場参加者の一部が年初に想定していたよりも、緩やかでばらつきのある回復過程を辿っているようにみえます。先進国のうち何カ国かは、既に回復のピークに到達しているかもしれません。PIMCOは経済成長については引き続き前向きに見ていますが、世界経済の景気回復はトレンドを上回るペースを維持するものの、2022年には成長は緩やかな上昇になると予想しています。投資家の立場から世界金融危機後の数年と、コロナの世界的流行後の回復を比較した場合、失敗の余地ははるかに狭くなっているとみています。株式市場でも債券市場においても、好材料の多くは既に市場価格に織り込まれています。一部の分野ではバリュエーションが懸念されています。

金利はこの数カ月間、緩やかに低下してきました。今後はボラティリティがある程度高まる時期が予想され、金利も最近の低水準から上昇するとみられます。PIMCOでは金利リスクへのエクスポージャーに対するリターンの水準は相対的に低いと見ています。

特に大きく上昇してきた分野では十分に警戒し、徐々にリスクを減らすべき環境にあると考えています。今は高い創造力を持ってポートフォリオを構築し、目先の利回りを犠牲にしても、ボラティリティに備えた耐性を優先すべきでしょう。PIMCOインカム戦略では、市場が過剰な反応を見せた場合に有利となるよう、流動性と機動性の向上に努めてきました。特定のセクターを著しくオーバーウェイトするのではなく、分散と実行に注力しています。そして従来どおり、PIMCOの運用チームの知見を活かし、世界中の投資機会に目を向けています。

問:今年の春先は「見せかけのインフレ」を予想していました。その見方に変化はありますか。

アイバシン: いいえ、大きくは変わっていません。インフレは相対的にレンジ内に収まるとみており、慎重ながらも楽観的な見方をしています。今後数カ月間のうちには、インフレ率は多くの投資家が懸念する、中央銀行の目標を上回るかもしれません。つまり、混乱期をまだ脱してはいません。回復にはばらつきがみられ、新型コロナの変異株など、経済を脅かす大きな懸念材料もあります。しかし、全体的には世界経済の成長は回復がみられ、重大な供給制約と需要側の問題もいくつか見られます。今後数四半期にわたって、未使用の景気刺激策の資金が景気を刺激するかもしれません。インフレ圧力は一時的なものというPIMCOの基本シナリオの見方は変わっていませんが、インフレリスクは確かに高まっています。

ただし、市場を見るとインフレを見込んだ投資から多くの見返りが得られているわけではありません。PIMCOインカム戦略のポートフォリオでは、自分たちの見方に十分に謙虚であり、インフレリスクを適切にヘッジしたいと考えています。

問:インフレの現状を踏まえ、PIMCOの米国連邦準備理事会(FRB)の政策に対する見方を教えてください。

アイバシン: PIMCOの基本シナリオでは、ハト派寄りで経済指標を重視するFRBは緩和的な姿勢を維持すると考えています。2022年年初にはテーパリング(資産買い入れプログラムの縮小)を始めるかもしれませんが、資産購入は継続するでしょう。しかし、インフレ状態がより長引き、長期的なインフレ期待が不快な水準で高止まりすれば、FRBはインフレに対峙する行動に出ると考えています。

問:ポートフォリオのポジショニングについて教えてください。現在、金利はやや低下していますが、PIMCOインカム戦略において、デュレーションとイールドカーブをどう見ていますか。

アイバシン: ポートフォリオにおいて考慮すべき重要な点は、金利リスクと信用リスクの相互の関連性です。インフレ圧力のある現在の市場環境を考慮すれば、高格付け債券による大量のデュレーションの確保は、ポートフォリオ全体のボラティリティ緩和にそれほど有効とは思えません。長期的な観点からみると、金利に対するエクスポージャーは割高です。PIMCOインカム戦略のポートフォリオでは、金利リスクについてはやや保守的な姿勢を維持しています。

今後、金利がさらに低下した場合にはトータルリターン獲得の可能性を多少犠牲にしても構わないと考えています。というのも、PIMCOインカム戦略のポートフォリオ全体では、より確信度の高い分野においてリターンを獲得できる手段が十分あると考えているためです。

デュレーションの配分においては、相対的に米国市場と一部の先進国市場を引き続き選好しています。また、イールドカーブについては全体的に中立に近く、主に中期ゾーンに注目しています。

問:PIMCOインカム戦略ポートフォリオのクレジットの部分についてですが、まず長年注目してきたモーゲージ債について説明してください。米国の住宅価格は昨今急激に上昇していますが、PIMCOインカム戦略にとってどのような影響がありますか。

アイバシン: PIMCOでは10年以上、主に米国と一部の先進国において、住宅市場が持つ耐性と魅力的なバリュエーションに注目してきました。米国における最近の住宅価格の急上昇後、PIMCOでは、一部の地域やリスクの高いセグメントに対しては、警戒姿勢をやや強めています。豊富な流動性により、住宅市場では予想以上のボラティリティがみられています。しかし、この質の高いセクターへの投資には依然として魅力的があるとPIMCOでは考えています。

PIMCOインカム戦略がターゲットとする住宅関連の投資の多く、特に質の高い米国の非政府系モーゲージ債(MBS)は、依然として強い耐性を持っています。住宅市場から資金が引いた場合に最初に損失を被るポジションは避け、長期の返済実績があるローンを担保とした投資を選好しています。これらのローンの多くは、最近の住宅価格上昇により借入人の自己資本保有分が増えていることから恩恵を受けています。期限前返済は上昇していますが、投資家にとっては、それらが通常の利息の支払いに加えて追加的なリターンになる場合もあります。非政府系MBSに重きを置いた配分はPIMCOインカム戦略の大きな特徴だと考えています。

一方で、米国の政府系MBSに対する見方は変更しました。昨年3月、政府系MBSのスプレッドは大きく拡大しましたが、これは、実質的に政府保証がある高格付けのスプレッドセクターをオーバーウェイトする、運用担当者にとって一生に一度あるかないかの好機だったと言えるでしょう。FRBによる大量の買い取りの結果、現在、このセクターはほぼ適正か、むしろ割高な水準で取引されているとみています。したがって、このセクターへのエクスポージャーは減らしてきました。このまま割高な状態が続けば、エクスポージャーをさらに削減するかもしれません。

問:PIMCOインカム戦略の企業クレジットの部分について教えてください。このセクターをどうみていますか。

アイバシン: 企業クレジットは、基本的にはある意味でしっかりしていると言えます。景気回復が見込まれ、インフレ圧力も一時的であり、中央銀行は緩和的だと考えられるからです。このようなファンダメンタルズにより、短期的には、企業クレジットについては概ね前向きにみていますが、バリュエーションが懸念材料になりつつあります。また、社債発行の引き受け基準についても注意深く評価しており、一部の株式のセクター同様、債券の一部の企業セクターでも、ミニバブルを警戒しています。過剰な流動性と利回り追求を主な背景に、売上の少ない企業や、売上がない企業でも、引き続きスプレッドが縮小している様子が見られます。

流動性に関して言えば、当ポートフォリオの企業クレジットでは、この数カ月間、流動性水準を引き上げてきました。流動性を高めることによって、ポートフォリオの機動性は向上します。PIMCOインカム戦略のポートフォリオにおけるクレジット内の配分については、コロナ危機回復をテーマとするセクターに焦点を当てています。例えば、一部の商業用モーゲージ債や、レジャー、ゲーミング、サービスセクターなどで投資機会を厳選しています。

問:最後に、PIMCOインカム戦略のエマージング市場に対する投資について教えてください。ボラティリティとリターンのバランスをどのように取っていますか。

アイバシン: PIMCOインカム戦略のポートフォリオでは、エマージング市場のエクスポージャーは大きく変えてはいません。エマージング市場の中では最も保守的とみられる、厳選した高格付けの外貨建てソブリン債や準ソブリン債のエクスポージャーを中心に据えています。戦術的には、現地通貨建てのエマージング債のエクスポージャーもある程度取っていますが、割合は比較的小さく、ポートフォリオ全体のボラティリティに与える影響は限定的なものに絞っています。ボラティリティを注意深く管理することが大切で、エマージング・ポートフォリオ運用グループや分析チームと密接に連携し、ボラティリティがポジショニングに与える影響を入念に考慮しています。

また、個々の通貨の割合が適度に抑えられた、エマージング通貨バスケットのエクスポージャーも保有しています。2021年後半から2022年にかけて、世界経済の同時回復の恩恵を受け得るエマージングの現地市場を探しています。これらのポジションはボラティリティが高い特性を持っているため、ポートフォリオ全体における割合を限定しています。これらは、他の国で見られたスプレッド縮小の波に乗り遅れた投資機会とみられ、高い利回りとトータルリターンの可能性とともに、ポートフォリオにグローバルな分散と機動性をもたらしてくれると考えています。

著者

Daniel J. Ivascyn

グループ最高投資責任者(グループ CIO)

Esteban Burbano

債券ストラテジスト

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過去の実績は将来の運用成果を保証または示唆するものではありません。

全ての投資にはリスクが伴い、価値は下落する場合があります。債券市場への投資は市場、金利、発行体、信用、インフレ、流動性などに関するリスクを伴うことがあります。ほぼ全ての債券及び債券戦略の価値は金利変動の影響を受けます。デュレーションの長い債券及び債券戦略は、より短い債券及び債券戦略と比べて金利感応度と価格変動性が高い傾向にあります。一般に債券価格は金利が上昇すると下落します。低金利環境ではリスクが高まります。債券取引におけるカウンターパーティーの取引能力の低下が市場流動性の低下や価格変動制の上昇をもたらす可能性があります。債券への投資では換金時に当初元本を上回ることも下回ることもあります。外貨建てあるいは外国籍の証券への投資には投資対象国の通貨価値の変動や経済及び政治情勢に起因するリスクを伴うことがあり、新興成長市場への投資ではかかるリスクが増大することがあります。モーゲージ担保証券と資産担保証券は金利水準に対する感応度が高い場合があり、期限前償還リスクを伴い、また、発行体の信用力に対する市場の認識に応じてその価格は変動する可能性があります。また、一般的には政府または民間保証機関による何らかの保証が付されていますが、民間保証機関が債務を履行する保証はありません。高利回りで低格付けの証券はより高格付けの証券よりも高いリスクを伴います。また、それらへ投資しているポートフォリオは投資していないポートフォリオに比べてより高いクレジット・リスクと流動性リスクを伴う場合があります。株式の価値は一般的な市場、経済、産業の実体と見込み両方の状況によって減少する可能性があります。デリバティブ商品を利用することにより、コストが発生する可能性があり、また流動性リスク、金利リスク、市場リスク、信用リスク、経営リスク、そして最も有利な時点でポジションを清算できないリスクなどが発生する可能性もあります。デリバティブ商品への投資により、投資元本以上の損失を被る可能性もあります。

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