注目の運用戦略

PIMCOインカム戦略アップデート:今日の市場における投資機会の発掘に注力

世界経済の回復は不透明で慎重さが求められる時ですが、世界を見渡せば、魅力的な利回りの投資機会は見つけることができます。

治まらないパンデミックのなかで景気回復の道は不透明感が強く、投資家にとってはリスクと共にチャンスの時でもあります。PIMCOインカム戦略のリード・ポートフォリオ・マネージャーのダニエル・アイバシン、アルフレッド・ムラタ、ジョシュア・アンダーソンが、現在のポートフォリオのポジショニングと経済や市場に対する見通しをご説明します。

問:PIMCOの全般的な経済見通しを教えてください。

ダニエル・アイバシン:世界ではさまざまな新型コロナウイルス対策の進展がみられ、早ければ来年の初めにも新型コロナウイルスに対するワクチンが使用可能になる可能性もあり、PIMCOでは、警戒しつつもやや楽観的な基本シナリオを想定しています。主として金融と財政両政策の圧倒的な支援を背景に、景気は劇的な下落局面からの回復の様子が見えつつあります。いずれは弱まるものの、少なくとも初期段階ではかなり急速な回復を予想しています。回復状況は国や地域よって、またタイミングにおいても異なるでしょう。米国は、2019年末の成長水準には2022年まで戻らないと予想しています。

しかし、見通しに関しては依然として極めて大きな不確実性があります。パンデミック以外にも地政学上のリスクなどの要因も考えられます。また、これほどまでの政策支援を行っても、経済の一部は壊滅的なダメージを被るでしょう。そのように資本棄損のリスクがある環境下では、十分に警戒し、守りを重視する心構えを持ち続けることが大切です。

問:世界の債券市場にとってはどのような意味がありますか。

アイバシン:3月には著しく拡大したスプレッドは、多くの債券セクターで回復し、特に中央銀行が支援するセクターではその傾向が顕著です。しかし、セクターレベルでのスプレッド縮小を見ていても、痛手を受けた部分は隠れて見えません。投資家から見れば、全体的には縮小したスプレッドと、まだ十分に回復していない(あるいはおそらく二度と回復しない)分野が同時にあることが、ポートフォリオ内で耐性が強く魅力的な利回りを追求するプロセスを複雑なものにしています。

企業セクターにおいては、中央銀行が介入したことにより、苦境に陥っていた多くの高クオリティー企業が市場で債務を再発行できるようになり、景気の回復が見込まれる将来まで生き延びることが可能となりました。しかし、この状態になる以前から、企業セクターは既に高い債務を抱えていました。今後、債務水準がさらに高まれば、長期的には、社債市場の一部で不安定要素が積み上がるかもしれません。

債券市場全体でスプレッドが縮小する中で、インカムと長期的な価格上昇が見込める魅力的な投資機会が数多く見られますが、依然としてアクティブ運用は重要な要件です。

問:PIMCOインカム戦略の現在の大きな投資テーマはなんでしょうか。

アイバシン:低利回りの市場環境でも魅力的な分配を続けるため、そして、同じく重要な第二の目標である長期的な元本成長という当戦略の目標に照らしても、モーゲージ関連のセクターについては引き続き強い確信を持っています。これらの証券には、利回りだけでなく魅力的なトータルリターンを提供してくれる可能性があり、さらに厳しいダウンサイドのシナリオにも耐えうる力があると考えています。住宅関連セクターは、この最近の回復の勢いに少々乗り遅れていることは確かですが、スプレッドが大きく回復したあと、市場の高格付けのセグメントは、耐性の強いリスク資産として、非常に魅力的な水準で取引されています。

その他の市場では、企業クレジットで戦術的に魅力的な投資機会がみられます。この市場では新規発行が増加し、発行市場での新規発行時に、またリバース・インクワイアリー(投資家から発行条件を提案する債券発行)によって、PIMCOが好条件と考える債券に投資することが可能だと考えています。しかしながら、価格が大きく上昇し、スプレッドも急速に縮まったことから、このセクターについては、現在再びやや慎重な見方に戻しています。

また、例えばストラクチャード・プロダクトの複雑なリスクや、エマージング市場のリスクの高いセグメントに対するエクスポージャーは最小限にとどめ、相対的に弁済順位が高く流動性の高い証券を選好しています。

さらに、ドル安の恩恵を受ける分野にもある程度投資しています。ドルが崩壊するとは考えていませんが、世界の他の国々に比べ、苦戦する新型コロナウイルス対策や、政策による支援がより積極的なため、ドルは引き続き安くなるとみています。

問:住宅関連のセクターについて、もう少し詳しく教えてください。米国の政府系モーゲージ債(MBS)ではどのようなことが起こり、なぜ引き続き魅力的なのでしょうか。

ジョシュア・アンダーソン:政府系MBSセクターは、ポートフォリオ内の米国債や他の流動性の高い資産と比較し、魅力的な利回りで価格上昇の可能性を持つクオリティーの高い市場だと考えています。

流動性が主導した3月のボラティリティ高騰時には、政府系MBSのスプレッドは劇的に拡大し、世界金融危機の水準も上回りました。米連邦準備制度理事会(FRB)介入後スプレッドは縮小しましたが、引き続きFRBは支援を継続し、さらにスプレッドは縮小するとみられることから、バリュエーションは依然として魅力的だとみています。

このセクターでは、相対価値を見極めるうえで、アクティブ運用が非常に重要だと考えています。現在は、来年あたりまで緩やかな元本返済が見込まれる、低クーポンの銘柄に注目しています。

問:PIMCOが確信をもつセクターとして長く注目してきた非政府機関系MBSの見通しはどうですか。

アルフレッド・ムラタ:PIMCOの基本シナリオでは、米国の住宅価格は、向こう2年フラットな状態が続くと予想しています。より長期的には、低金利が続くため住宅価格は緩やかに上昇するとみています。しかし、例えば今後2年のうちに住宅価格が30%低下するようなネガティブなシナリオの場合でも、非政府系MBSは、損失調整後の利回りがマイナスにはならず、継続的に安定したキャッシュフローを提供してくれる可能性が高いと考えています。基本シナリオ下での利回り水準は魅力的で、さらに高くなる可能性もあります。

非政府系MBSは、インカム戦略において重視している「曲がっても折れない」投資の代表的な例です。経済が厳しい環境下でも打たれ強さがあります。非政府系MBSにはダウンサイドシナリオにも耐え得る特徴がいくつかあり、そのひとつが担保となっているローンです。PIMCOでは、世界金融危機以前に借りられた、第一抵当順位の多様なレガシー住宅ローンのプールを担保とした証券に注目しています。それらのローンは当初の借入れ以降返済が進み、自己保有分が十分大きくなり、苦しい経済環境のなかにあっても、耐性は非常に強くなっているとPIMCOでは考えています。

どのような投資においてもそうですが、投資のリスクとチャンスを評価するには厳格な分析が非常に大切です。魅力的なアップサイドの可能性を持つ物件や場所を特定するため、GeoScoreマッピング分析などのPIMCO独自の分析ツールにより、極めて詳細なレベルで世界の住宅市場と価格動向を評価することが可能となっています。

問:グローバル市場での企業クレジットに対する見方と、PIMCOインカム戦略のポートフォリオにそれがどのように反映されているのかを教えてください。

アイバシン:一年前に比べ、企業クレジットにおける投資機会は非常に興味深いものになっていると考えています。今では借り手市場から、取引条件を貸し手が有利に進めることができる、貸し手市場になってきました。とはいえ、いまは3月時点よりも、企業クレジットを厳しく見極める必要があります。中央銀行や海外からの投資によって3月以降縮小したスプレッドは、今後それほど大きく縮小することはないでしょう。既に述べたように、このセクターでのすべての新規発行は、不透明な経済環境のなかでさらに大きな債務を抱えることを意味しています。

全体的には慎重な姿勢を維持していますが、インカム戦略の中では、この数カ月でクオリティーの高い企業クレジットを一部追加しました。引き続き注目しているセクターのひとつが金融セクターです。欧州においては特に厳しい収益状況が続き、米国ではばらつきが見られますが、金融業界の資本状況は現在でも健全な水準といえます。過去の水準に照らしても、それほど高いリスクを抱えている状態ではありません。金融セクターは企業クレジット市場のなかでも比較的流動性の高いセクターのひとつで、相対価値は引き続き高いと考えています。

問:エマージング市場のポジションはどうなっていますか。

アイバシン:大きく変わってはいません。ポートフォリオにおけるこのセクターの割合は依然として限定的で、分散を目的とするものです。エマージング市場は、少なくとも過去の長期的な水準と比較するかぎり、他の多くのスプレッドセクターと比べて割安とみています。コロナウイルス、政策、政治に関する目先の不透明感を考えれば、これは妥当な水準だといえるでしょう。顕著なアップサイドが期待できる場合でも、ダウンサイドのリスクにしても、エマージング投資は各地域の経済成長の影響を強く受けるでしょう。

インカム戦略のポートフォリオでは、これまでディフェンシブでクオリティーの高いエマージング国債や準ソブリン債を中心に保有してきましたが、現在、ポジションを微調整しています。エマージング社債など、流動性の低いセグメントへの対象拡大には躊躇しています。

問:この環境下でデュレーションに関する見通しを教えてください。

アイバシン:金利は歴史的な低水準で、世界の多くの国や地域で国債金利はほぼゼロかマイナスとなり、中央銀行は当面その水準を維持する方針とみられます。短期から中期にかけて、金利はレンジ内で推移するとみています。

このポートフォリオにおいては、常に魅力的なインカムの提供に注力しており、記録的に低い絶対利回りの水準でも、デュレーションの果たす役割は重要です。現在の状況では、以前ほど有効ではないとはいえ、デュレーションはポートフォリオの高リスク部分に対するヘッジの役割があります。従って、多くはヘッジなしの長期ポジションによって、金利エクスポージャーを多少引き上げました。景気に対するショックがさらに加われば、他の高格付けの金利市場よりも名目利回りにまだ低下余地があるため、米国のデュレーションを選考しています。

問:最後に現在のPIMCOインカム戦略の全体的なアプローチ姿勢を教えてください。

アイバシン:パンデミックが進行し景気不透明感が高まるなかで、債券も株式も価格が上昇したいま、運用にはより慎重になるべき時だと考えています。金融政策と財政政策が経済と市場を支えていますが、それを当てにすべきではないと思っています。何層かの耐性を持たせたいと考えており、インカム創出に対してやや守りの姿勢をとっています。

グローバルに投資機会を見渡せば、インカム戦略に与えられた柔軟性を活かす方法は数多くあります。この数カ月の当戦略の成長軌跡には満足しており、今後もボトムアップ分析を重視し、世界中で魅力的な投資アイデアを求めて、PIMCOの投資プロセスを大いに活かした運用を行っていきたいと考えています。

著者

Daniel J. Ivascyn

グループ最高投資責任者(グループ CIO)

Alfred T. Murata

モーゲージ・クレジットチームのポートフォリオ・マネージャー

Joshua Anderson

グローバルABSポートフォリオ・マネジメントチーム統括

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