インフレ圧力とボラティリティの上昇が見込まれるなか、投資家は市場において魅力的なアルファ(超過収益)獲得の機会を伺いつつも、保守的なポジションを望むかもしれません。以下では、ジョシュ・アンダーソンとともにPIMCOインカム戦略を運用するダニエル・アイバシンとアルフレッド・ムラタが、債券ストラテジストのエステバン・ブルバノとともに、PIMCOの経済と市場に対する見方を同戦略の現状のポジショニングも交えてご説明します。

問:今後1年の米国と世界経済の見通しを教えてください。インフレ圧力は継続するとみていますか。

アイバシン:世界の経済成長は引き続き回復基調をたどるとみています。新型コロナウイルスによる一時的な後退はみられるかもしれませんが、今回の悲惨なパンデミック(世界的流行)で最も大きな試練を受けた地域では、ウイルスの抑え込みに成功し始めていることから、経済的にも改善するでしょう。

喫緊の大きな課題はインフレです。インフレ圧力は依然として大きいものの、今後は次第に低下していくと考えています。とはいえ、経済が再稼働し始めると、財やサービスに対する需要は加速する可能性が高い一方で、経済の主要分野における極端な供給ボトルネックの素早い解消は困難とみられます。

PIMCOの基本シナリオでは、インフレ圧力の多くは一時的なものと考えています。ただし、当戦略では、リスクに対するヘッジコストを考慮し、インフレと金利上昇に対して保守的なポジションを維持しています。

問:金融政策および財政政策の見通しを教えてください。

アイバシン:中央銀行は世界的に緩和的な姿勢を維持してきました。今月、米連邦準備制度理事会(FRB)は購入プログラムの縮小を発表しました。今後の経済指標に陰りが見えれば、量的緩和の段階的縮小(テーパリング)プロセスを休止する意向も見えます。一方、長期的なインフレ期待の上昇に歯止めが掛からないようであれば、より積極的な対応をする姿勢も示しています。

米国の財政政策はさらに不透明です。財政による景気刺激は既にピークを過ぎたと考えています。インフラに関する2つの法案は年末までには成立するかもしれませんが、その規模は両者を合わせても、バイデン政権の当初提案していた規模よりも大幅に小さくなる可能性が高くなっています。さらに、もし共和党が来年の下院選挙で過半数を取れば(その可能性は高いようですが)、米国に再び政府の分断が生じ、将来の財政刺激が削減される見込みが高くなります。予期せぬ経済ショックが発生した場合、それは市場にとってリスクとなるでしょう。

問:向こう数年を見越した場合、ポートフォリオに影響を与えうる長期トレンドを教えてください。

アイバシン:ポートフォリオ全般のポジショニングに影響を及ぼす、今後5年からその先のテーマはいくつかあげられます。第一は過剰債務です。世界には、おそらく現実的に返済可能な額以上の債務が存在しています。これは、債務再編により元本が永久に毀損するリスクと、その債務返済のために金融政策が制限され、ひいてはインフレを促すリスクを孕んでいます。

第二に、気候変動に対する懸念から、グリーンテクノロジーへの投資促進に向けた規制の変化です。クリーンエネルギーに対する支出が増加することは、完全とは言わないまでも部分的に、石炭や石油などの伝統的なエネルギー部門に対する投資や資本が滅耗することを意味しています。

第三は、テクノロジーによる大きな創造的破壊です。主要産業では新技術を素早く取り入れている様子が伺え、パンデミックがさらにその傾向を加速させているようです。それが最近の生産性の向上に寄与し、そのうちの一部は持続可能なものになっていると考えています。生産性の向上は経済とインフレに、さらに実質金利の上昇にもつながる一方で、高格付けの債券にとっては価格下落圧力になる点には注意が必要です。

問:投資家の元本保全とインカム創出のバランスを図るうえで、インカム戦略ではどのようなポジショニングをとっていますか。

ムラタ:当戦略では、常にダウンサイドリスクを管理しながら、魅力的な水準のインカムを生み出すよう努めています。足元の投資環境は、金利水準が低く、かつ相対的にクレジットスプレッドが薄い、厳しい状況にあります。幸いにもインカム戦略は、120兆ドル規模を有する世界の債券市場において、PIMCOの投資アイデアに注力できる機動性を備えています。グローバルの200名以上のポートフォリオ・マネージャーとリサーチアナリストからなるPIMCOの運用チームが、魅力的な投資機会を探し続けています。

問:金利に対する見通しと、それがポートフォリオのポジショニングに与える影響について教えてください。

アイバシン:PIMCOの基本シナリオでは、インフレの上昇は一時的なものだとみています。しかし、インフレの鎮静化を見込んだポジションでは十分な見返りは期待できないと考え、引き続き金利に対しては保守的なポジションを取っています。同エクスポージャーは、PIMCOの長期的な平均水準に比べて、非常に小さくなっています。米物価連動国債(TIPS)には適度な資産配分を行っています。最近のインフレ懸念の上昇を受けて、これらのポジションは利益を上げています。現状のブレークイーブン・インフレ率が示すTIPSのバリュエーションは適切な水準とみています。インフレが予想以上に上昇した際のリスクを緩和するために、追加的なリターンは多少犠牲にしても良いと考えています。

金利が大きく上昇した場合には、デュレーションの長期化を考慮するかもしれませんが、現状では、インフレと金利上昇のリスクをより強く懸念しています。

問:米国の住宅市場ではどのような傾向がみられますか。また、米国の非政府系モーゲージ債(MBS)のポジションはどのようになっていますか。

ムラタ:今後2年間で、米国の住宅価格の上昇率は、年間3%程度に低下する可能性があると予想しています。しかし、重要な点は、この戦略では年数の経過した非政府系MBSを中心に保有している点です。それらは、概して過去10年の著しい住宅価格上昇の恩恵を受けています。それらの経年住宅の多くは資産価値負債比率(LTV)が50%を下回っています。そのような住宅ローンがマイナスの影響を受けるまでには、住宅価格が現在の水準より低下するだけでは不十分で、過去の利益を吐き出すほど下落しなくてはなりません。したがって、全体的には、米国の住宅価格に関してはやや楽観的にみていますが、過去10年間で大幅に信用力が改善した住宅ローンについては、非常に楽観的な見方をしています。

問:インカム戦略での米国の政府系MBSのポジションについてはいかがですか。

アイバシン:インカム戦略では、通常、FRBが直接買い入れるものと同じ種類のMBSで、流動性の高いパススルー証券を中心に保有しています。ボラティリティの高まった昨年の2月から3月には、政府系MBSのポジションを大きく積み増しました。それにより、ポートフォリオは、FRBの買取プログラムの恩恵を直接受けることができました。しかし、その後1年半を経て、政府系MBSは、非常に安価な水準から適正水準へ、さらにはやや割高なレベルまで上昇したと考えています。足元では、政府系MBSへの資産配分を縮小し、非常に保守的な見方へと変えています。

問:企業クレジットの見通しとポジションを教えてください。

アイバシン:企業クレジットの投資分野では、いくつか主要な分野に注目しています。金融セクターは、スプレッドは縮小したものの、引き続きインカム戦略のコアとなるテーマです。銀行セクターは、概して資本が非常に厚く、世界金融危機後の規制強化の恩恵を受けてきました。主にシニア債を中心としていますが、バンクキャピタルも、ハイイールド債の魅力的な代替として一部保有しています。

また、新型コロナウイルスからの回復も主要なテーマです。スプレッドが縮小傾向にある企業クレジット市場全体のなかで後れをとっている分野でありながら、加速しつつある経済再開プロセスの恩恵が期待できる、レジャー、観光、航空などのセクターに注目しています。

流動性がやや劣る企業クレジットへの投資については、ポートフォリオの比較的豊富な流動性を活かし、ポジションを売却してきました。昨年3月から第2四半期にかけて購入した、それらのクレジットのポジションの多くは、非常に高いパフォーマンスをあげたため、現在はより一般的な流動性の高い銘柄に入れ替えています。流動性の高い銘柄は、来年に向けて、ボラティリティが上昇する局面や市場の歪み生じる局面において、投資機会を捉える機動力を提供してくれるでしょう。

問:現在の市場において、その他の投資機会と比べたエマージング市場の相対価値をどう見ていますか。

アイバシン:長期的に見れば、エマージング市場のバリュエーションは非常に魅力的だと考えています。この見方は、幾分ネガティブに見ている市場センチメントと比べると、やや逆張り的といえるでしょう。エマージング市場は分散手段として望ましい投資先であると考えています。また、エマージング市場の一部の国では、新型コロナウイルスの封じ込めにおいて既に先進国に追いついており、魅力的な利益をもたらす可能性があると考えています。ただし、エマージング市場では、国ごとに見方が著しく異なります。エマージング市場全体ではボラティリティの上昇を予想していますので、インカム戦略のポートフォリオにおいては、エクスポージャーを広く分散しています。また、エマージング通貨を程よく分散して保有していますが、大半のエマージング市場のポジションは米ドルヘッジ付きです。

問:今後の債券市場と、特にインカム戦略において、投資家が期待できる点を教えてください。

アイバシン:金融および財政による支援の縮小を受けて、ボラティリティは向こう数年、やや上昇すると考えています。また、債券と株式はどちらも割高で、ここ数年に比べてベータのリターンは低くなるでしょう。しかし、アルファの獲得に対する見通しは非常に前向きになっています。

インカム戦略では、世界の債券市場において機動的に対応することができるため、我々ポートフォリオ・マネージャーのチームは、規制や政治の摩擦、ボラティリティの上昇、地政学的な衝突から発生する、魅力的な投資機会を狙うことができると考えています。景気サイクルの現状を踏まえ、忍耐強く保守的な姿勢を維持しながら、市場が過剰な動きを見せた際に、的確に投資機会を捉えるべく、機動性と流動性を高めていきたいと考えています。これが、PIMCOのプラットフォームの強みのひとつです。

著者

Daniel J. Ivascyn

グループ最高投資責任者(グループ CIO)

Alfred T. Murata

モーゲージ・クレジットチームのポートフォリオ・マネージャー

Esteban Burbano

債券ストラテジスト

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アルファとは、リスク調整後の運用成績を計る指標であり、ポートフォリオのリスク調整後の運用成績のボラティリティ(価格変動リスク)とベンチマーク・インデックスを比較することによって求められます。つまり、ベンチマークに対する超過リターンがアルファを構成します。アルファはプラスの場合もマイナスの場合もあります。ベータとは、市場変動に対する価格の感応度を計る指標であり、マーケット・ベータは1と定義されます。

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