注目の運用戦略

PIMCOインカム戦略アップデート:利回り追求よりも責任ある運用を重視

景気は減速し始め、多くの市場でバリュエーションが過去最も割高となっている現在、インカム戦略では粘り強さを重視しています。

年第2四半期は、特に米国での金融緩和政策への方向転換の兆しを主な背景として、高利回り債券、高格付け債券ともに反騰しました。PIMCOインカム戦略のポートフォリオ・マネージャーのダニエル・アイバシン、アルフレッド・ムラタ、ジョシュア・アンダーソンが、市場とその見通し、および当戦略のポジショニングについてご説明します。

問:いま、世界経済では何が起こり、それがインカム戦略にどのように影響するのでしょうか。

ダニエル・アイバシン:ここ数カ月、製造業を中心に世界経済は軟化しており、米中貿易摩擦の激化や英国のEU離脱(ブレグジット)問題など、政治的にも混迷が深まっています。世界の中央銀行は急激にハト派に傾き、その結果債券市場は反騰、利回りは大きく低下しました。今日ではほぼ15兆ドルの債券の利回りが、実際に0%を下回っています*。

世界経済と市場に対するPIMCOの長期見通しでは、向こう数年、不透明性の拡大を予想しています。中国の経済成長や米国との貿易摩擦の激化、ポピュリズムの拡大、技術革新など、現在進行中の出来事が、今後の展開によっては世界経済を脅かす可能性があるとみています。

このような見方を背景に、元本保全を重視する方針から、インカム戦略では過度に積極的な姿勢はとっていません。むしろPIMCOが予想するよりもはるかに大きな景気後退の状況にも耐えられるよう、信頼のおけるインカムの源泉を求め、長く確立された基本方針に沿ってポートフォリオを構築しています。実際には世界の市場をくまなく調査し、引き受け基準がより厳格で過剰感の少ない分野やセクターに焦点を絞っています。 そのようなセクターとは、住宅セクターや金融セクターなどで、皮肉にも金融危機以降、規制が強化されてきた分野です。

問:インカム戦略の現在の金利エクスポージャー(デュレーション)について教えてください。

アイバシン:中央銀行の利下げについて、市場はやや前のめりになっているとPIMCOでは考えています。先月の利下げに次いで、米連邦準備制度理事会(FRB)は今後何度か利下げをするにしても、その後は再び経済データに注目するようになるでしょう。6月の米国の雇用統計のように、予想を上回るデータもみられます。一方で、PIMCOの長期経済見通しの中で触れた中国をはじめとするいくつかの破壊的要因が、すでに短期的に市場に影響を与えており、こうした懸念が中央銀行の政策にも影響を及ぼすとみています。

投資家にしてみれば、政策金利を的確に見通すことで多少のプラスリターンは得られるかもしれませんが、利回りの非常に低い、場合によってはマイナスである現状では、それを見誤った場合の代償ははるかに大きなものになるでしょう。そのためPIMCOでは、金利に対するエクスポージャーについても、守りの姿勢を重視しています。

アルフレッド・ムラタ:一般的に、ポートフォリオのデュレーションには二つの理由があります。一つは、金利が長期的には低下すると考えるため、もう一つは株式などの高リスク資産下落に対するヘッジのためです。

現在PIMCOでは、長期金利は低下するのではなく緩やかに上昇するとみており、一つ目の理由は当てはまらず、今年ポートフォリオのデュレーションを減らしてきました。FRBはかねてより緩和的な姿勢をガイダンスで示してきたため、今年金利は低下しています。アイバシンが指摘した通り、市場は利下げ期待について非常にアグレッシブになっていると考えています。

しかし、二つ目の理由については、リスク資産が急落した場合にもポートフォリオを守れるよう配慮し、ある程度のデュレーションは保持したいと考えています。

イールドカーブ上のポジションについては、米国の中期ゾーンが最も魅力的だとみています。米国金利は他の大半の先進国よりも高く、中期ゾーンでポジションをとることにより、市場が期待するほど中央銀行が利下げしなかった場合に備え、短期ゾーンのエクスポージャーによるリスクを減らすことができます。また、政府の財政赤字拡大により、今後金利上昇が見込まれる長期ゾーンへのエクスポージャーも少なくなっています。

問:第2四半期のパフォーマンスの全体的な要因を教えてください。

ムラタ:以前からお話ししているように、インカム戦略は大きく2つの分野に分かれています。一つは利回りの高い資産への投資で、好景気時に高いパフォーマンスを生む傾向がある分野、もう一つは米国債などの信用力の高い資産への投資で、景気停滞時にパフォーマンスが高くなる場合が多い分野です。今年前半は、高利回りクレジット資産のスプレッドは縮小し、さらに金利も低下したため、両分野とも好パフォーマンスとなりました。

通常は、二つの分野のうちのどちらか一方が、他方のパフォーマンスを上回ることを想定しています。長年このような分散が、本戦略のパフォーマンスに寄与してきました。

問:第2四半期、インカム戦略のポートフォリオのポジションに変更はみられますか。

ジョシュア・アンダーソン:継続的な中央銀行の緩和政策の恩恵を受ける信用力の高い債券に注目し、相対的な価値に基づいて、緩やかにポジションをシフトしました。

具体的には、政府機関系モーゲージ債(MBS)を積み増しています。季節的な要因に加え、FRBがそれらを売却していることから、他の資産に比べて20~30bps割安とみられるためです。また、投資適格社債も増やしました。一方で政府関連の債券は減らし、満期となったエマージング債は積み戻しをせず、「ロールオフ」しました。

ただし、他の高利回り資産よりも非政府機関系MBSを選好する点、および流動性の強化という2つのテーマについては、変わりないことも強調したいと思います。

問:非政府機関系MBSの供給が減るなかで、PIMCOはどのようにポジションを維持しているのでしょうか。

アイバシン:まず、流通市場で非常に活発に取引を行っています。おそらくPIMCOは、この市場で最もアクティブな運用会社の一つでしょう。

もう一つは、利払い再開住宅ローンに注目し、銀行に流動性と柔軟性を提供すべく、それらのローンの証券化に協力しています。最近いくつかの銀行が、このポジションを売却しています。これらのローンはこの数年良好なパフォーマンスをみせており、LTV(Loan-to-Value)比率が低く、数年にわたって支払い遅延も発生していません。

そのような資産はオークションを通じて獲得する場合が多いものの、市場でも日々積極的にそれらを取得するように努めています。

問:社債よりも住宅関連資産のほうが魅力的との見方が、現在も変わっていない理由を教えてください。

アイバシン:社債に比べ、住宅関連資産のファンダメンタルズのほうがはるかに健全だからです。

米国ではすでに10年以上も雇用拡大が続き、かつての住宅ローン債務者の住宅自己保有部分(自己資本)は増え続け、ローンの割合は大きく低下しています。また、このセクターの構造は特に複雑でもなく、キャッシュフローは一般的に予測可能で、新規発行も限られていることから、市場のセンチメントが後退してもテクニカル要因の負の影響を受けにくいためです。さらに、現在の利回りは魅力的で、AAAやAAの信用力に近いとみられるリスクで、BBB-(マイナス)や、時にはBB並みのスプレッドを提供してくれます。そして最後に、賃料や所得と比較した現在の米国の住宅価格は、まだ十分妥当な水準にあると考えられる点も理由の一つです。

これらの要素に加え、融資環境の厳格さを考え合わせれば、住宅関連の市場は健全で、さらに一層厳しい経済環境にも耐えられる、強い耐性を備えていると考えています。

一方、向こう数年のうちに投資家を最も失望させる可能性の高いセクターは、金融以外の社債セクターだと思われます。引き受け基準は一方的に劣化しており、レバレッジは上昇し、過去のパターンと比べても発行額は警戒水準にあります。社債に関しては、魅力的で耐性が強いとみられる分野に焦点を絞り、時には戦術的なトレードを行うこともありますが、流動性に関する特性が魅力的な銘柄に絞っています。

その中で魅力的とみられるのが金融セクターです。金融危機以降、銀行は極めて厳しい規制を受けてきました。その結果、今日、資本は厚くなり、ビジネスモデルのリスクは低くなっています。これにより、金融システムのボラティリティは低下してきました。

問:インカム戦略ではどのような流動性管理を行っていますか。

アイバシン:金融危機の時期を含めて、PIMCOには流動性を重視してきた歴史があります。事実、市場に流動性を供給することで、しばしばお客様に付加価値を提供してきました。

インカム戦略については、流動性重視がアプローチの中に組み込まれています。設定初日以来、決してインカム獲得だけを唯一の目的とすることはありませんでした。インカムを追えば、利回りは高くても、一般的にはボラティリティや株式との相関の高い低格付け資産に目が向きがちになるためです。低格付け債券の投資戦略は、株式のパフォーマンスが良好な、息の長い景気拡大期に好ましい成果をもたらす傾向があります。しかし、そのような戦略では高格付け債券投資によって得られる分散効果は期待できず、流動性や柔軟性に欠けるとPIMCOでは考えています。

現在、大手の銀行は市場への流動性提供を抑制気味にしており、インカム戦略内における流動性はますます重要になっていると考えています。追加的なリスクをとることで大きな見返りが期待できる場合(例えば市場混乱期など)を除いて、通常は、市場のなかでもディフェンシブ流動性の高い分野に注目しています。

景気は減速し始め、本戦略では、投資家にダウンサイドリスクへの守りを提供できる粘り強さを重視しています。いずれまたボラティリティが上昇するような時が来れば、高いトータルリターンが期待できる利回りの高い資産をターゲットに、積極姿勢に転じることもできます。それまでは、安定感と分散による守りに徹した運用が得策だと考えています。

*ブルームバーグのデータによる

著者

Daniel J. Ivascyn

グループ最高投資責任者(グループ CIO)

Alfred T. Murata

モーゲージ・クレジットチームのポートフォリオ・マネージャー

Joshua Anderson

グローバルABSポートフォリオ・マネジメントチーム統括

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