米連邦準備制度理事会(FRB)が政策金利を正常化する一方で、年内にマネー・マーケット改革の導入が予定されるなど、短期債券市場に注目が集まっています。最近、市場でボラティリティが上昇したことも、キャッシュ(現金および現金同等物)に対するアロケーションを慎重に決定することの重要性をさらに浮き彫りにしています。以下のインタビューでは、PIMCOのショートターム運用統括責任者で、先日、米国モーニングスター社より2015年最優秀債券マネージャー賞をチームとともに受賞したジェローム・シュナイダーと、ポートフォリオ・マネージャーのアンドリュー・ウィットコップが、短期金融市場のダイナミクスと、PIMCOのキャッシュ管理および短期運用のアプローチについてご説明します。 問: FRBが9年ぶりに利上げを実行してから1カ月以上が経過しました。利上げ後のキャッシュのパフォーマンスと、2016年を展望するキャッシュの投資家にとっての意味合いを説明してください。 シュナイダー: キャッシュの市場では、昨年12月のFRBによる25ベーシスポイントの利上げに対する反応は極めて限定的でした。需要が旺盛な短期国債(Tビル)の利回りの上昇圧力は鈍く、また、運用報酬の一部が引き上げられたことを受けて、短期国債ファンドの利回り(ネット)は依然として基本的にゼロ近辺で推移しています。また、多くの投資家の予想に反して銀行の預金金利がほとんど変わらなかっただけでなく、一部の大手銀行は特定の顧客の預金に手数料を上乗せし始めると表明しています。このような傾向が続いているため、FRBの2回目の利上げに際しても、キャッシュの利回りはほとんど上昇しないとPIMCOでは予想しています。 より大局的な観点からは、キャッシュの投資家にとって、金融政策の世界的な二極化傾向が極めて重要な意味を持っています。FRBが昨年12月に利上げを実行したのに対して、欧州中央銀行(ECB)、日本銀行、中国人民銀行は依然として金融緩和に取り組んでいます。FRBが政策の正常化を目指す姿勢が弱まったとしても、すべての債券投資家、なかでもイールドカーブの短期ゾーンに特化した投資家にとって、金融政策の世界的な二極化の影響は極めて大きくなるでしょう。イールドカーブ上では、中央銀行の政策の影響を最も強く受ける短期ゾーンのボラティリティが最も上昇することも考えられます。 ここ数年間、キャッシュは、多くの投資家の運用ポートフォリオにおいて不可欠な、構造的アロケーションの対象となりました。このため、このようなマクロ経済環境の影響は、キャッシュや短期運用商品の投資家にとって重要になっています。 問: 年初来、グローバル市場においてボラティリティが上昇したことを受けて、FRBは利上げのペースを緩めるのでしょうか。 シュナイダー: FRB自身は、2016年に4回利上げを実行すると予想していますが、実際の利上げペースはこれよりも遅くなるとPIMCOでは予想しています。FRBが引き続き経済指標に注目することは明らかです。この先数カ月間に発表される経済指標は、予想を上振れすることも下振れすることもあると考えられますが、FRBは各指標を考慮した上で、金融政策の方向性を調整していくでしょう。 投資家にとっての意味合いを考えると、このように経済指標に依存する姿勢は、市場のボラティリティの上昇につながるでしょう。FRBは、前回の利上げサイクルでは規則的に利上げを実行し、毎回の連邦公開市場委員会(FOMC)において概ね25ベーシスポイントずつ政策金利を引き上げたため、市場はFRBの行動を予想し、備えることが可能でした。 今後については、FRBは経済情勢の改善に合わせて政策金利を引き上げ、その結果、イールドカーブの短期ゾーンの利回りは緩やかに上昇するとPIMCOでは予想しています。しかし、だからと言ってすべての利回りが上昇するわけではありません。投資家は、マネー・マーケット・ファンドやその他の運用商品(ほとんどが短期国債)を含む一部の資産クラスの利回りが今後も構造的に上昇しにくいことを、認識するべきでしょう。これらの商品に関しては、マネー・マーケット改革や銀行の自己資本規制の強化を背景に需要が高まっているため、利回りは低水準で推移する見通しです。また、短期国債や政府機関債の発行が以前の水準を下回っていることも、利回りをさらに下押しする要因になり得るでしょう。 問: 短期運用において、アクティブ運用はなぜそれほどに重要なのでしょうか。 : 投資家が市場環境の変化にアクティブに対応することは、かつてなく重要になっています。世界経済の成長鈍化、金融政策の二極化、米国における雇用者数の増加といった要因でさえも、プラス材料であるかマイナス材料であるかを問わず、市場のボラティリティを上昇させます。PIMCOでは、短期金融市場におけるアクティブ・マネージャーとして、ボラティリティを押し下げ、投資元本を保全し、流動性を管理し、最終的には収益を生むための方法を確立することに注力しています。 多くの投資家は、流動性の源泉として、キャッシュや短期金融商品へのアロケーションに依存していますが、自己ポジションを積極的にとる銀行やブローカーの数は減少し、過去数年間にわたって市場の流動性は大幅に低下しています。このような環境では、アクティブ運用であれば、慎重な銘柄選択を通じて短期ポートフォリオの流動性を確保することが可能になります。また、大手のアクティブ・マネージャーは、市場に流動性を提供することも可能であり、流動性が相対的に低い有価証券の売買を通じてプレミアムを稼ぎ、場合によってはポートフォリオのリターンを高めることさえ可能です。 一般に短期投資家にとって、投資元本の保全も非常に重要であることから、現在の市場環境では、パッシブ運用を通じてリターンがマイナスになる可能性や、場合によって元本が毀損する可能性が高まる場合があることを認識する必要があります。パッシブ運用では、投資家はインデックスを構成する有価証券を保有し、各発行体の発行残高を基にインデックスと同様のアロケーションを構築します。その結果、短期投資家のポートフォリオでは、米国債や金利感応度が非常に高いその他の金融商品のエクスポージャーが大きくなることがあり、金利上昇局面では絶対リターンがマイナスになるリスクが高まります。また、パッシブ運用では、すべてのインデックス構成銘柄をその信用力とは無関係に保有するため、破綻リスクのある銘柄のエクスポージャーが増加することもあります。原油価格の下落がエネルギー・セクターを揺るがし、その他のセクターへの影響の波及も想定されるなかで、これは特に重要なポイントと言えるでしょう。さらに、パッシブ運用では、投資対象はインデックス構成銘柄に限定されますが、これらは需要が高く割高なケースも珍しくありません。 これに対して、アクティブ・マネージャーは、リサーチ、分析、市場のバリュエーションに基づいてポートフォリオの構成銘柄を選択する裁量が大きいため、魅力的な投資機会を模索し、必要に応じて特定の有価証券やセクターに対するエクスポージャーを調整し、リスクに陥ることを回避することも可能です。 問: PIMCOのショートターム運用チームの運用に対するアプローチを教えてください。 シュナイダー: 他の多くの短期金融市場の運用会社とは、運用プロセスが異なります。私たちのチームは、PIMCO全体の運用方針を設定するインベストメント・コミッティーから、特定の地域のリサーチ、モニタリング、投資アイデアの構築を担当する各拠点のポートフォリオ・コミッティー、及び経済や金融市場の見通しを形成する四半期ごとの経済予測会議に至るまで、PIMCOのより大きな運用プロセスに完全に統合されています。そして、短期金融市場に関する知見をPIMCO全体に提供する代わりに、一分野に特化するその他の多くの運用会社が見過ごしてしまうような投資機会の発見に寄与する、PIMCOのグローバルな専門性を活用しています。 ショートターム運用チームは、ウィットコップと私を含めて10名のポートフォリオ・マネージャーから構成され、短期金融市場に関する幅広い専門性と同市場のさまざまなサブセクター(いくつか例を挙げると、政府保証債、クレジット、金利エクスポージャー、グローバル・ソブリン債、仕組み商品、担保付き取引など)に対する造詣の深さを兼ね備えています。私たちのチームは、短期国債やレポのような伝統的なマネー・マーケット商品を取引する一方で、その他にも幅広い商品を投資対象としており、この体制が、PIMCOの充実したグローバル・カバレッジと合わせて、一般的な米ドル建てキャッシュ商品よりもリスク調整後利回りが高い投資機会を発見する上で、中心的な役割を果たしています。 また、幅広いセクターにわたって専門性を確保することは、リスクを回避するためにも有益でした。私たちのチームは、多くの金利変動サイクルや2008年の金融危機の時期を含めて、長期にわたって短期ポートフォリオを運用してきました。この専門性に基づき、投資機会を発見することや、そしてさらに重要な点として、潜在的にボラティリティが高いセクターの回避を通じてポートフォリオを保守的に運用することが可能になります。また、PIMCOでは、過去40年間以上にわたって、あらゆる種類の流動性環境において投資資金を運用した実績があり、キャッシュや短期金融商品の市場において現在進行中の構造的な変化を乗り切る上で、この実績を生かすことが可能です。 問: 2016年に投資家がキャッシュのアロケーションを決定する上で、その他に何を考慮するべきでしょうか。 ウィットコップ: 先ほどシュナイダーが言及したように、マクロ経済の動向、なかでも中央銀行の政策が短期金融市場に多大な影響を与えている状況を認識することが重要であると考えています。長年にわたってもっぱら利回りを追求してきたキャッシュの投資家は、リスクが高まりつつある現状に対応することが求められています。FRBが政策の正常化を進める結果、ボラティリティは上昇し、金利の変動レンジは広がる見通しとなり、デフォルト率は上昇し始めています。投資家は、FRBの利上げを好機とするために、流動性としてのキャッシュをアクティブに運用する方法をより総合的に考え、当面はデュレーション(金利エクスポージャー)を短期化する 一方でエクスポージャーを分散する必要があると考えられます。 シュナイダー: 今年は構造的な変化も進行しています。マネー・マーケット改革が第3四半期に予定されている一方で、銀行規制も進みつつあり、市場の流動性と質の高い短期資産の供給が引き続き制約される見通しです。 従来は、投資家はキャッシュへのアロケーションを事後的に考えることも珍しくありませんでした。しかし現在では、ポートフォリオにおいてキャッシュや短期金融商品に対する運用を重視する投資家が増えたことを受けて、キャッシュへのアロケーションの重要性が高まっています。このため、この先1年間のリターンと流動性のニーズを満たすために、投資家は進行中の変化に積極的な姿勢で臨む必要があります。