米国経済が実質GDP成長率約2.5%という、素晴らしいとは言えないまでも順調な成長を見せる一方、世界の製造業の活動が鈍化したことや、エマージング市場の成長に対する懸念、および中国の最近の通貨切り下げの動きなどにより、市場のボラティリティが上昇し、金融情勢は逼迫しました。グローバルな見通しは若干不透明かもしれませんが、米国経済のファンダメンタルズは引き続き堅調です。失業率は、過去2年間で2%以上も改善し5.1%になったことでも裏付けされるように、潜在成長率を上回る成長は、米国の労働市場を逼迫させています。過去1年で、米国経済は民間部門において280万の雇用を生み出し、求人数は21%増の100万以上となりました。

労働市場が逼迫する中、投資家は、米連邦準備制度理事会(FRB)が最終的に短期金利の引き上げに動くだろうと感じています。企業は予想されるFRBの利上げに先んじて積極的に社債を発行しており、その結果、債券市場は昨年比15%増となる過去最高の1兆1500億ドルにものぼる新発の投資適格社債の消化を余儀なくされています。新規発行が相次いだことによって、クレジットスプレッドは拡大する一方、株式市場では、企業収益の成長鈍化、市場のボラティリティの上昇、グローバル成長を取り巻く不透明性、およびFRBの金利引き上げなど、調整要因が相次ぎました。

これらの懸念にも拘わらず、先進国のクレジット市場、特に米国のクレジット市場の見通しは依然として明るいままです。以下では、足元のクレジット投資が支持される3つの理由を説明します。

1. 景気拡大によって、デフォルトは引き続き低水準を維持する見込み

クレジット市場は、景気拡大期においてパフォーマンスが良く、景気後退期において軟調になる傾向があります。米国における2.25%-2.75%の実質経済成長率は「冷た過ぎず、熱過ぎず」の状態で、クレジットスプレッドも、景気拡大の市場においてはほぼ適正水準(スイート・スポット)にあります。重要なのは、現在のクレジットスプレッドの水準が、足元の経済成長率を考えると、歴史的水準と比較して魅力的に見える点です(図表1)。

 

さらに、先進国市場の経済成長見通しは、安定的または改善しつつあるファンダメンタルズ、自己資本が厚いグローバル銀行セクター、そして民間セクターの不均衡の小ささによって支えられています。どこかの時点でFRBは短期金利を引き上げ、ゆっくりとしたペースで金融緩和政策の正常化を図って行くものと思われます。また、重要なことは、欧州と日本を含むほとんどの先進国の中央銀行の政策は引き続き非常に緩和的であり、アジアの新興国、特に中国においてもさらなる金融緩和の可能性が高いことです。エネルギーおよびコモディティー関連セクターにおいては、一部リスクの高い銘柄によるデフォルト率上昇の可能性がありますが、それらを除けば、民間部門の健全なファンダメンタルズと、それを支える世界の中央銀行の後押しによる景気拡大の恩恵を受け、クレジット市場はデフォルト率の低い好環境が続くでしょう。

現在のハイイールド市場におけるスプレッドの高さは、主にコモディティー関連セクターに起因するデフォルト率上昇の可能性を示唆しています(図表2)。しかし、PIMCOでは、先進国の経済成長に関して明るい見通しを持っており、同セクターを除くとハイイールド市場の全体的な見通しは健全だと考えています。また、エネルギーと鉱業を除いたハイイールド市場の利回り水準は上昇しており、とりわけファンダメンタルズが健全な米国市場においては、魅力的であるとみています(図表3)。

 
 

2. 金利の上昇はクレジットスプレッドの縮小に繋がる可能性


低金利環境の下では、企業が安価な資金調達を確保するため、社債の新規発行が増加する傾向にあります。ここ数年間、企業は実際に相当額の社債を新規発行し、借り換えによって債務の長期化を図っています(図表4)。一方で、多くの投資家は最低利回りや収益率の目標値を持っているため、金利の絶対水準が低いと、需要はそれほど高くありません。

 

しかし、向こう1年間にかけて、民間部門におけるファンダメンタルズの改善や、インフレ率の緩やかな上昇、FRBによる金融政策の緩やかな引き締めを背景に、金利の上昇が見込まれます。金利上昇の環境では、社債の新規発行が減少する一方、クレジット関連資産に対する投資家の需要は、利回りの上昇を受けて高まると考えられます。過去を振り返ると、FRBの利上げ後、最初の利上げから早ければ6カ月後にはクレジットスプレッドが縮小し、クレジット市場はアウトパフォームする傾向が観察されています(図表5)。

 

さらに、株式市場がボックス圏での動きを見せる中では、社債の高い利回りが株式から社債へのアセットアロケーションの調整を促すものと考えられます。特に、来年、企業の収益が鈍化すると考える場合には、全体的に株式のフリーキャッシュフロー利回りに対して社債の利回りが魅力的となるでしょう (図表6)。

 

また、金利上昇局面ではバンクローンも魅力的です。金利が上昇すると、全て込みのオールイン・クーポンが上昇するため、変動金利の金融商品であるバンクローンのパフォーマンスが良くなる傾向にあるからです。過去の傾向から、利上げサイクルにおいては、投資家はより金利感応度の高い戦略や株式から、金利上昇の恩恵を受けられる戦略にシフトするため、変動金利ローンの需要が高まるといえます。

3.クレジットスプレッドは魅力的な水準に


投資家にとって、社債の新規発行増加による主なメリットは、年初来みられているようなクレジットスプレッドの拡大といえます(図表7)。

 

巨額の新規発行は企業にとって、債務を長期化し、デフォルト率を低水準に保つための重要な役割を果たしてきました。償還期限の近い債務が少なく、経済成長見通しが堅調であれば、コモディティー関連の分野を除けば、短期的にデフォルト率の急上昇を引き起こす要因は少ないと考えられます。現在のバリュエーションがデフォルト率の上昇を織り込み済みの水準であることを考えると、足元の環境はクレジット投資にとって魅力的であり、投資家は選別的とはいえクレジット・リスクを追加することを検討すべきだと考えます。

クレジット市場のエクスポージャーを取る方法として、投資家には二つの選択肢があります:(1)社債を現物で買うか、または(2)クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)で合成的にエクスポージャーを加えることです。CDSスプレッドは通常、クレジットおよびデフォルト・リスクを価格に反映し、社債市場のテクニカルな動きに影響を受けません。しかし、社債スプレッドは通常、クレジットおよびデフォルト・リスクに加えて、需要と供給というテクニカル要因にも影響を受けます。今年は新規発行による供給が多いことから、現物社債のスプレッドはCDSスプレッドと比べて相対的に拡大しています(図表8)。そのため、クレジット市場で選別的にエクスポージャーを取るには、新発債を含む現物社債による方法を選好しています。

 

経済成長見通しが明るいこと、またデフォルト率が低く推移する見通しであることを踏まえ、足元のクレジット市場のバリュエーションは魅力的といえます。なかでも、米国の住宅および住宅関連セクター、消費財、通信、ヘルスケア、銀行および金融セクターなどに数多くの投資機会があると考えています。今後のクレジットスプレッドの一層の拡大や、FRBの利上げ前後に想定される市場のボラティリティの高まりは、投資家がクレジットへのエクスポージャーを増やすための魅力的なエントリー・ポイントを提供するでしょう。

著者

Mark R. Kiesel

グローバル・クレジット担当最高投資責任者(CIO)

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