グローバル・クレジット展望

​健康と集中力

多くの強力な要因、なかでも、「グローバルな金融政策」、「テクニカル要因」、「ファンダメンタルズ」が、市場や資産価格を動かしています。PIMCOでは、世界中から最も優れたセクターや企業を見出すために、精緻なトップダウンおよびボトムアップの分析を活用しています。PIMCOでは、米国(景気循環型の消費財、住宅セクター)、欧州(株式、銀行の資本性証券、ハイイールド債、ハイブリッド事業債)、中国(不動産、テクノロジー、マカオ)、日本(景気循環型の産業、輸出企業、金融セクター)に投資機会を見出しています。

PIMCOでは、リサーチ・レポートをはじめとする幅広いテーマについてお客様のご意見を耳にする機会があります。私個人としても、以前に実体験をベースに住宅市場について執筆した時のように(2006年6月付「For Sale(売家)」、2012年5月付「住宅市場への回帰(Back In)」)、もう少しレポートには個性を出すべきだというご提案を頂きました。今回は、そのご提案を念頭に執筆します。

健康志向
PIMCOのあるシニアなマネージング・ディレクターは、以前の本社オフィスの大会議室に時計を設置する権限を得たとき、自分も社内で権力をふるうことができるようになったと冗談を言ったものでした。そして、1年ほど前、PIMCOの「フィットネス・マニア」の数人は、現在のオフィスに設置されたスポーツクラブの開館時間について意見を聞かれ、その結果、開館時間は午前2時と決定されたのです(そして実際に、そのような早い時間から利用しているのです)。

PIMCOでは、社員の健康に注目しています。スポーツクラブを設置したほか、社員食堂ではヘルシーなメニューが増えており、また、私個人としても、エネルギーを最大化するために栄養士と相談しながら最適な食生活を模索しています。私の隣の席には、空手の黒帯四段を取得しワールドカップで2回優勝した同僚がいるほか、周りには本格的なアスリートや以前にデカスロン(十種競技)を行なっていた者が少なくないため、私も「対抗」する必要があるのです。これがPIMCOの実態です。

それでは、健康と運用はどのように関連しているのでしょうか。運用は短距離走ではなくマラソンのようなものです。私は熱心なグローバルな運用の専門家として、健康を維持しつつ、足元で存在する魅力的な投資機会を生かすことに集中する必要があると強く考えています。

早起きは三文の徳
また、私たちは、目覚まし時計を早い時間に設定し、米州、アジア、欧州の同僚とのビデオ会議などに参加して、世界中のあらゆる重要なトップダウンおよびボトムアップの投資機会を確実に把握するよう努めています。以下に議論の対象となるテーマや疑問点を例示しましょう。

  • 米州では、米連邦準備制度理事会(FRB)が年内に金融政策を引き締める可能性が高い米国を中心に、どのような最適な投資機会が存在するか。
  • 欧州中央銀行(ECB)が大規模な量的緩和プログラムを開始したことを受けて、欧州ではどの分野に投資機会が存在するか。
  • 中国では、政府が経済成長モデルと景気の減速要因となった反汚職政策のバランスをとる必要に迫られる中で、投資機会は存在するか。
  • 中国では将来的にどのような金融政策が採用されるとPIMCOでは予想するか。中国人民銀行(PBOC)が金融を緩和した場合、投資機会は生じるか。
  • 日本銀行の積極的な量的緩和プログラムの恩恵を受けるために、投資家はどのようにポジションを構築するべきか。

全体像に注目
PIMCOでは、金融市場を動かす主要なトップダウンのマクロ的テーマを整理することによって、これらの疑問点に対する答えを見つけようとしています。数年前から現在に至るまで、多くの強力な要因が市場や資産価格を動かしていますが、なかでも、「グローバルな金融政策」、「テクニカル要因」、「ファンダメンタルズ」に注目するべきでしょう。

グローバルな金融政策
中央銀行は、グローバルなデフレ圧力、財政政策の余地の縮小、全般的な総需要の伸びの鈍化という問題を緩和するために、政策を「総動員」する姿勢を強めています。多くの先進国の中央銀行は、積極的にバランスシートを広げ、量的緩和プログラムを拡大し、「ゼロへの競争」の中で短期金利を引き下げてきました(図表1)。このような政策を背景に、為替レートは大きく変動しています。

為替市場以外でも、世界中の投資家は、将来的に中央銀行の買い入れ対象になると予想する長期債の購入を通じてデュレーションを長期化するとともに、社債、ハイイールド債、株式、不動産のようにPIMCOが投資の同心円の「外周部」に位置付けるリスク資産にまで投資対象を広げています(図表2)。近年では、このような投資戦略が実を結ぶ結果となりました。世界各国の中央銀行が一斉に、次の景気後退のタイミングを先送りして景気拡大の長期化を後押しすることによってレフト・テール・リスク(ネガティブ・シナリオ)を削減していることを踏まえると、これは意外なことではありません。このような趨勢を把握した投資家は、各国の中央銀行が、徐々に改善基調にある民間セクターとともにほとんどの資産の価格を押し上げる中で、恩恵を享受しています。また、長期金利の低下も、株価のみならず不動産価格を押し上げる要因となっています。

テクニカル要因
市場のテクニカル要因とは、実質的には債券の需給を意味します。単純化すると、世界的に貯蓄が投資を上回る状況を背景に、信用力が高くインカムを生む資産に関しては、足元では需要の方が供給よりも大きい状態となっています。また、貯蓄が過剰な一方で、新規投資に対する「アニマル・スピリット」が不足する状態が続いています。世界的に総需要不足が続く中で、中央銀行は、手元資金に対するリターンを押し下げることによって、余剰な貯蓄を外周部の資産に向かわせようとしており、その結果、多くの欧州諸国と日本では、現在、安全性の高い短期の債券や国債の利回りがマイナスとなっています。

多くの投資家は、このような状況を踏まえて、その他の分野に資金をシフトしています。一部の国債市場では、中央銀行が純発行額を上回る規模の買い入れを進めており、このようなテクニカル要因に鑑みると、投資家は引き続き、株式や社債に対する資産配分を増やす可能性が高いでしょう。このようなグローバルな投資フローは、特にPIMCOが掲げる5つのファンダメンタルズ関連の判断基準(以下参照)を満たす企業の株式や高利回りの社債の価格を下支えするとみられます。

  • 高い参入障壁(図表3)
  • 堅固な短長期の成長性
  • 価格決定力
  • 優れた保有資産
  • 健全なバランスシートと流動性

トップダウンとボトムアップ
世界の国々や企業はどの程度健全なのでしょうか。現実問題として、公的セクターと民間セクターのファンダメンタルズは大きく異なります。このため、PIMCOでは、世界中の各拠点の260人のポートフォリオ・マネージャーと61人のアナリストから構成されるグローバルチームの連携を図ることに常に注力しています。

一部の地域には引き続きデフレ圧力が残るため、PIMCOでは、ボトムアップとトップダウンの投資判断における規律を維持することによって、前向きながらも慎重な姿勢を強めています。FRBが金融引き締め過程で想定外にタカ派的になる可能性や中国の経済成長が大幅に鈍化する可能性など、リスクは短期的にも長期的にも高まっています。また、エネルギー価格やコモディティ価格のボラティリティが、一部の国や企業に重大な影響を及ぼすことも考えられます。このほか、最近では、高い参入障壁、堅固な短長期の成長性、価格決定力、優れた保有資産といった強みを持たない企業も少なくありません。

幸いなことに、PIMCOでは、こうした企業を回避し、世界中のさまざまな分野においてPIMCOのファンダメンタルズ関連の判断基準を満たすとともに魅力的なリスク・リターン特性(たとえば、効率的な下方リスクのヘッジ)を提供する特定の投資機会に注目するなど、このようなリスクをアクティブに管理することを通じて、全体としてアルファの追加的な創出に成功することもあります。

グローバルな投資機会
このような全体的なテーマに基づき、現在、最も魅力的な投資機会はどこにあるのでしょうか。前述のように、「グローバルな金融政策」、「テクニカル要因」、「ファンダメンタルズ」といった資産価格を左右する重要な要因のいくつかは、多くの地域のクレジット、株式市場に対して、なかでも、米国、欧州、中国、日本の幅広いセクターの厳選した企業に対して、プラスに作用しています。

米国
FRBはこの夏にも、フェデラル・ファンド金利をゼロから引き上げることによって、金融緩和策を解除する第一段階に着手する可能性が高いでしょう。PIMCOでは、グローバル経済の動向やドル高というマイナス要因に鑑み、利上げのペースは緩やかになると予想しています。FRBは、雇用が持続的かつ堅調に増加する傾向だけでなく、賃金がさらに上昇する傾向を確認したいと考えています。積極的な金融政策のサポートを受けて、消費者、企業、銀行をはじめとする民間セクターの状況は、引き続き修復、改善しています。

このため、米国では、娯楽、ホテル、航空、テーマパーク、自動車セクターのような景気循環型の消費者セクターを、PIMCOでは引き続き選好しています。また、雇用の堅固な伸びを背景に世帯形成数は増加するとみており、その結果、住宅建設、リフォーム、権原保険、建材などの住宅、住宅関連業種は引き続き下支えされるでしょう。さらには、金融や銀行セクターも、経済全体や民間セクターの状況改善の恩恵を今後も受ける見通しです。このほか、原油、ガス価格の下落を背景に、北米のパイプライン、中流部門、探査・生産(E&P)関連の厳選した企業にも、魅力的なボトムアップの投資機会が生じています。

欧州
ECBは、ユーロ圏の経済成長を刺激してデフレを回避するために、大規模な量的緩和プログラムを導入しました。3年ほど前には、「スーパーマリオ」ことドラギECB総裁の「必要なことは何でもする」という公約に懐疑的な見方もありましたが、現在では疑う余地はないでしょう。ECBは使命を負っているのです。実際、ドラギ総裁は、欧州のインフレ率が2%近い水準に向けて上昇軌道に入るまでは、ECBが量的緩和プログラムに上限を設定しないことを非常に明確にしています。他方では、FRBは年内にも政策金利を引き上げる構えを見せていることから、ECBによる継続的な政策支援によって、ユーロが下落するとともに、欧州のインフレ率は極めて低い水準からとはいえ徐々に上昇する可能性が高いでしょう。

投資における意味合いは明確であり、欧州では外周部のリスク資産を保有することです。PIMCOでは、欧州の株式、銀行の資本性証券、ハイイールド債、ハイブリッド事業債を選好してきました。これらの資産は、ECBの極めて緩和的な金融政策だけでなく、ユーロ安と原油価格の下落に起因する欧州の経済成長見通しの改善の恩恵を享受する見通しです。PIMCOが一部の地域について想定しているように、欧州で新芽(グリーン・シュート)が芽生えれば、投資家はPIMCOのボトムアップの判断基準を満たす外周部の資産を追求するようになるでしょう。また、ユーロ安の恩恵を受ける輸出企業や、価格決定力を徐々に回復する可能性のある欧州のテレコム・ケーブル、建材企業にも、足元では投資妙味が見受けられます。

中国
中国経済は現在、重要な政治的、経済的な構造変化に取り組んでおり、それが成長の鈍化要因となっています。政治面では、大方の予想よりも広範に展開されている反汚職キャンペーンが、高級品の消費や企業投資の「アニマル・スピリット」を弱めることを通じて、大きな経済的影響を及ぼしています。また、中国の不動産市場に下落圧力が残存し、政府が公共投資主導型から民間消費主導型への経済モデルの転換を試みているタイミングとも重なっています。

それならば、投資家は中国を回避するべきかと問われれば、答えは「No」です。そのような考え方は後ろ向きな見方であり、短期的なマイナス要因はあるものの、中国政府による反汚職キャンペーンによって、政府、公的セクター全般のガバナンスや効率性は改善される見通しです。

実際、中国の不動産セクター、テクノロジーおよびインターネット・セクター、マカオの娯楽セクターには、短中期的にいくつかの投資機会が浮上しています。何がカタリストとなるのでしょうか。短期的には、中国はすでに金融政策の緩和に着手しています。PBOCは今年、より積極的に政策金利を引き下げるとともに、市場に追加的に流動性を供給するでしょう。このような政策やこの先予想される財政刺激策によって、リスク選好度や不動産セクターは短期的に下支えされる見通しです。一方、中期的には、携帯電話、インターネットの利用者やネット販売の急拡大が、中国の消費者に特化した一部の企業にプラスに作用するとともに、インフラの改善や中産階級の拡大が続く結果、マカオへの訪問者が増加するとみられます。

日本
米国、欧州、中国と同様に、日本もエネルギー価格下落の恩恵を享受しています。また、日本の消費者にとっては、低い失業率、賃金の緩やかな増加見通し、不動産価格の上昇、安倍首相による2回目の消費増税の延期決定がプラス要因と言えるでしょう。一方、円安が輸出企業や企業利益の追い風になるとともに、導入が予定される法人減税や企業統治規範の改革などのビジネス促進策も、企業セクターを下支えする可能性が高いでしょう。

また、日銀のこれまでの量的緩和プログラムは「大胆」の一言に尽きるでしょう。実際、主要先進国の中央銀行の中でも、名目国内総生産(GDP)に占めるバランスシートの割合が最も高いのは日銀です。ECBと同じように、日銀は2%のインフレ率を目標としており、この目標が達成されるまでは、上限を設定せずに量的緩和に取り組むでしょう。

PIMCOは日本において投資機会を見出しており、円安が追い風となる見通しの景気循環型セクターや輸出企業、積極的な量的緩和プログラムや民間セクターの緩やかな回復の恩恵を受ける銀行や金融機関に注目しています。

マーク・キーセル
グローバル・クレジット担当最高投資責任者(CIO)

著者

Mark R. Kiesel

グローバル・クレジット担当最高投資責任者(CIO)

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ご留意事項

全ての投資にはリスクが伴い、価値は下落する場合があります。債券市場への投資は市場、金利、発行者、信用、インフレ、流動性などに関するリスクを伴うことがあります。ほぼ全ての債券及び債券戦略の価値は金利変動の影響を受けます。デュレーションの長い債券及び債券戦略は、より短い債券及び債券戦略と比べて金利感応度と価格変動性が高い傾向にあります。一般に債券価格は金利が上昇すると下落し、現在のような低金利環境ではリスクが高まります。債券取引におけるカウンターパーティーの取引能力の低下が市場流動性の低下や価格変動制の上昇をもたらす可能性があります。債券への投資では換金時に当初元本を上回ることも下回ることもあります。社債には、発行体が元利金の支払い不能に陥るリスクがあります。また社債の価格は金利感応度や発行体の信用力に対する市場の認識、市場の全般的な流動性といった要因の影響により、変動する可能性があります。外貨建てあるいは外国籍の証券への投資には投資対象国の通貨価値の変動や経済及び政治情勢に起因するリスクを伴うことがあり、新興成長市場への投資ではかかるリスクが増大することがあります。為替レートは短期間に大きく変動する場合があり、ポートフォリオのリターンを減少させる可能性があります。高利回りで低格付けの証券はより高格付けの証券よりも高いリスクを伴います。また、それらへ投資しているポートフォリオは投資していないポートフォリオに比べてより高いクレジット・リスクと流動性リスクを伴う場合があります。担保付きバンクローンの担保が実行されても借り手の債務を満たす保証はなく、また担保が実行される保証もありません。株式の価値は一般的な市場、経済、産業の実体と見込み両方の状況によって減少する可能性があります。特定の証券や種類の証券の信用格付により、ポートフォリオ全体の安定性や安全性が確保されるわけではありません。

金融市場の動向に関する記述は現在の市場環境に基づくものであり、市場環境は変化します。本資料で言及した投資戦略が、あらゆる市場環境においても有効である、またはあらゆる投資家に適するという保証はありません。投資家は、自らの長期的な投資能力、特に市場が悪化した局面における投資能力を評価する必要があります。投資判断にあたっては、必要に応じて投資の専門家にご相談ください。