資家は少しでも低いコストでより高いリターンを追求することが常ですが、現在の市場環境ではこの傾向が従来以上に鮮明です。アクティブ運用者が共通のリスク・ファクターから超過リターンの大半を獲得するという「ファクター投資」が、多くの投資家の人気を呼んでいることは意外なことではありません。共通のファクターを規則的に組み込んだポートフォリオを構築することによって、伝統的なアクティブ戦略よりも大幅に低いコストで、株式市場全体を上回るリターンを実現できる可能性はあります。

「より低いコストで高いリターンを実現」というと、完璧な解決策のように響きますが、ファクター投資は本当に株式投資家が待ち望んでいた万能薬なのでしょうか。

構造的な超過リターンの源泉は存在し、これを取り入れることによってポートフォリオの価値を強力に高めることは可能であるという見方には同意しますが、そのような投資には注意が必要です。戦略が適切に実行されなければ、ファクターによるリターンが損なわれ、平均以下の(たいていは予想外の)結果に終わる可能性があります。投資家は、以下の3つの重要な質問に答える必要があります。

どのファクターをターゲットとするべきか
「多面的なリスク・ファクター」という概念が1970年代半ばにRoss、Famaらによって導入され、その後1990年代初めにFama、Frenchによって広く分析されて以来、ファクターに関する研究は大きく前進しました。ここ数年間に、数百もの新しいファクターが「発見」されています。最近の研究では、学者と実務家によって提唱された600種類のファクターを分析した結果、それらの49%はサンプルデータのプレミアムがゼロ以下であることがわかりました(参考文献1)。リサーチ・アフィリエイツ社においても、同様の調査においてファクターを幅広く分析し、異なる期間や地域におけるパフォーマンスの違いや、定義を微妙に変化させた場合のパフォーマンスの違いを計測しましたが、付加価値を生み出すファクターはほんの一握りであるという結論になりました。長期にわたって最も安定的にアウトパフォームしたファクターは「バリュー」であり、そのほか「低ボラティリティ」、「モメンタム」、「低流動性」にも大きな寄与度が確認されましたが、常に人気の高い「クオリティ」を含めて、他に主張されている“ファクター”の寄与度は小さいことがわかりました(参考文献2)。

この分析結果は、現在注目されている “ファクター”の多くが、投資家にとってより詳細な分析には値しないことを意味します。

現在のバリュエーションは魅力的か
ここ数年間に、ファクター戦略には多額の投資資金が流入しています。その多くは、「理論上の」または「バックテストに基づく」優れたトラックレコードを裏付けとしています。このようにパフォーマンスを後追いする投資判断は投資家が陥りやすい罠であり、好結果につながることはほとんどありません。

投資家は、ファクター投資を検討する際に、微妙な違いに留意するべきでしょう。アウトパフォームの要因がすべて同じというわけではなく、付加価値が構造的な要因(将来の超過リターンの源泉となる可能性が高い)に基づく場合と、一時的な要因(当該ファクターに関する注目度やバリュエーションが一時的に上昇した結果)に基づく場合があります。

リサーチ・アフィリエイツ社の分析では、一般的に利用される多くのファクターの超過リターンは、単に割高になった結果であることがわかりました。つまり、そのような戦略は構造的に超過リターンを生み出したわけではなく、タイミングが良かったために「アルファ」が生じたということです(参考文献3)。

これは投資家にとって注意すべき問題です。仮に現在のバリュエーションの水準が持続した場合でも、投資時に割高であれば将来のリターンの見通しは悪化します。また、多くのファクターには循環性があるため、割高なバリュエーションが過去の標準的な水準に平均回帰する恐れもあり、十分な注意が必要です。

結論としては、株式を買う場合でもファクターを選択する場合でも、投資時の価格が重要であり、パフォーマンスを後追いすることは合理的ではありません。実際には、その逆の方が適切な場合が多く、過去にアンダーパフォームして割安になったファクターの方が、将来的に超過リターンを生み出す公算は大きいと言えるでしょう。

戦略を効率的に実践することは可能か
あるファクター戦略が理論上は有望に映ったとしても、それを適切に実践できるかどうかが極めて重要です。たとえば、「モメンタム」では、単に受動的に実行すると、取引費用がリターン・プレミアムを上回ってしまいます(参考文献4)。だからと言って、「モメンタム」が完全に排除されるべきではありませんが、投資家は、トレーディングの巧拙がファクター自体よりも重要になり得ることを認識するべきでしょう。

また、投資家はコア株式ポートフォリオにおいて、リターン以外にも流動性、透明性、分散度、安定性なども重視するべきでしょう。採用する戦略が直観的に理解可能であり、投資委員会に説明しやすいことの方がより重要な場合もあります。多くのファクター戦略にはこのような観点が欠けており、不透明で複雑な定量モデルをベースとしている結果、分散度が低く不安定なポートフォリオが構築されるケースが頻繁に見受けられます。

このような懸念を踏まえ、投資家はファクター投資をどのように活用するべきなのでしょうか。

我々は株式市場にはたしかに構造的な超過リターンの源泉は存在すると考えていますが、「バリュー」、「モメンタム」、「低ボラティリティ」など、十分に調査、議論された少数のファクターを除いて、新たに「発見」されたファクターの多くについては懐疑的です。現在、幅広く推奨されているファクターのバリュエーションが割高であることも懸念材料であり、なかでも、「低ボラティリティ」や「クオリティ」の割高さが際立ちます。これに対して、ハイテク・バブルが崩壊して以来、「バリュー」のバリュエーションの水準は非常に魅力的です(参考文献5)。足元のアンダーパフォーマンスに多少の不安は感じながらも、新たにポジションを構築することをいとわない投資家には、将来的に高いリターンをもたらす可能性があります。

純粋なファクター戦略は一時的に有益なこともありますが、コア株式として組み入れることについては慎重に考えています。ファクター戦略のポートフォリオの構築にあたっては、ファクターを単に同等に組み合わせると非効率的となり、定量モデルや最適化技術を活用すれば過度に複雑になってしまいます。前者の場合、各ファクター戦略を単純に組み合わせる結果、不必要な取引費用が発生して効率が悪化します。一方後者では、複雑なアプローチを理解することが難しく、投資委員会に説明することはさらに困難となるでしょう。このようなアプローチを本当にコア株式ポートフォリオとして組み入れるべきでしょうか。

PIMCOとリサーチ・アフィリエイツ社では、これらとは異なるアプローチのPIMCO RAE(リサーチ・アフィリエイツ・エクイティ)ファンダメンタル戦略を協力して運用しています。この戦略は、他のファクター戦略と同じように、コストが低く規則的な方法で構造的なリターンの源泉を捉えることを目標としていますが、複数のファクターを単純に組み合わせる代わりに「バリュー」を重視しています。また、割安な株式の比重を高めるため、伝統的なものとは異なるポートフォリオのウエイトの決定方法(時価総額ではなくファンダメンタルズを基準とするウエイト配分)を柱としています。さらに、構造的なリターンの源泉に関する調査に基づいた、数多くの知見も取り入れています。これらの結果、この戦略は、「バリュー」を最重視しつつ、「クオリティ」、「モメンタム」、「規模」も取り入れるなど、一連の株式のファクターに対してダイナミックなエクスポージャーを持つポートフォリオとなっています。私たちのアプローチでは、ファクターのエクスポージャーはポートフォリオの構成要素ではなく、ポートフォリオ構築の産物と位置付けられており、このアプローチによって、より直観的にわかりやすく、ファクター戦略の恩恵を享受できると考えています。

参考文献

1 Yaron Levi and Ivo Welch. 2014. “Long-Term Capital Budgeting,” SSRN (March 29).
2 Jason Hsu and Vitali Kalesnik. 2014. “Finding Smart Beta in the Factor Zoo,” Research Affiliates Fundamentals (July).
Robert D. Arnott, Noah Beck, Vitali Kalesnik, and John West. 2016. “How Can “Smart Beta” Go Horribly Wrong?” Research Affiliates Fundamentals (February).
4 Robert Novy-Marx and Mihail Velikov. 2014. “A Taxonomy of Anomalies and Their Trading Costs,” NBER Working Paper No. 220721 (December). 
 Arnott et al. 2016.

著者

Joe Steidl

リサーチ・アフィリエイツ・グローバル・アドバイザーズ(ヨーロッパ)リミテッド

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