運用戦略

商業不動産ローン:景気サイクル後期の市場における構造的な耐性

商業不動産(CRE)デットは弾力性を有し、魅力的なリスク調整後リターンを生み出す力を持っており、CREローンは現在の景気サイクルの環境下において魅力的な投資戦略です。

商業不動産市場は健全な状態が続いているものの、価格上昇の鈍化と年末のボラティリティ上昇により、一部の投資家の間では緊張感が高まっています。ポートフォリオ・マネージャーのデビン・チェンとジェフリー・トンプソンが最新のマーケットの状況と、守りの姿勢を強めたポートフォリオのポジショニングについてご説明します。

問:現在の米国の商業不動産市場の状況について教えてください。

デビン・チェン :商業不動産(CRE)市場は概して安定しており、環境も比較的良好です。しかし、ファンダメンタルズは少しずつ悪化し、最近の投資家の懸念を反映し価格上昇も鈍化しています。

昨年は、強弱入り混じった年で、経済全般と同様にCRE市場も景気サイクルの後期に入った可能性を示唆しています。米国CREの価格は昨年6.2%上昇しました1 が、上昇率は月を追って低下しています。状況はセクター毎にまちまちで、小売業向け不動産の流動性は引き続き低く、取引量は昨年20%低下しました。一方、ホテルの取引量は60%、産業用向けは20%それぞれ上昇しました2。現在、建設活動拡大の一方で雇用創出が低下する景気局面にあり、賃貸の上昇率は鈍化しやすい状況です。金利が落ち着いてくると、キャップレートの更なる低下による価格上昇は見込めないでしょう。

とはいえ、大きな価格調整が起こるとも考えていません。北米CREのクローズ・エンド・ファンドは1,690億ドルに達する記録的な「ドライパウダー(投資を待つ余剰資金)」を抱えていますが、これは米国のCRE資産に対する潜在需要が非常に大きいことをあらわしているといえます.3 。さらに、全体のレバレッジ水準はまだ十分コントロール可能な水準で、特に金融危機以前に比べると、大半の債務構造と財務制限条項(コベナンツ)は健全です。またマクロ経済も安定しています。

これらをすべて考え合わせた上で、PIMCO ではこの数年間で最も慎重にCRE市場を見ており、全般的に守りの運用に傾いています。

ジェフリー・トンプソン :それらを背景に、不動産デット市場では3つのポイントが注目されます。第一に、取引量はまだ過去の平均を大きく上回っており、十分すぎるほどのクレジットに対する需要があります。これは貸し手市場を意味し、特にブリッジ・ローンストレッチ・シニア・ローンなどで顕著です。第二に、資本市場の環境は確固としており、強力なコベナンツを含む構造で、魅力的な水準でローンを実行することができます。第三に、景気サイクル後期のこの時期、守りが重要になってきますが、資本構成の中で劣位のものよりも上位のポジションを取る方が相対的に有利な場合が多く見られます。従って、現状ではデットに注目することは自然な流れです。

問:昨年最後の2ヶ月に、公開市場ではボラティリティが高まりましたが、私募不動産市場に影響は見られましたか。今年に入ってからはどうですか。

トンプソン:11月と12月には、商業不動産担保証券(CMBS)のスプレッドは最大0.5%広がりました。私募市場に波及するまではやや時間が掛かりましたが、年末までにはいくつか価格修正したものもありました。単純なCREの案件ではなく、より複雑な仕組みの案件です。PIMCOはそのボラティリティの高まりを活かし、高いスプレッド幅で多くの案件に投資しました。年初来、昨年第4四半期に拡大したCMBSのスプレッドの多くが元に戻りましたが、まだボラティリティの火が消えたわけではないため、好機到来に備えたポジション取りをしたいと考えています。

チェン:PIMCOのエクイティ投資でもローンのプラットフォームでも、昨年第4四半期のようにボラティリティが高まった時期は、必要とする主体に流動性を提供する格好の機会です。世界の政治情勢の不透明感と中央銀行がボラティリティ抑制への関与を弱めたことで、向こう数年は市場の不透明感が高まると予想しています。PIMCOのデット投資はダウンサイドリスクを緩和するような仕組みを備えており、財務レバレッジの使用については慎重な姿勢を維持することで守りの強化につながると同時に、ボラティリティが高まった時には攻めに転じることができます。

問:ところで、この数年で私募のCREデットの運用会社は多額の資金を積み上げたと言われています。現在の業界の構図はどのようになっていますか。

トンプソン:金融危機以降、CREデット運用の分野に新規参入がありましたが、PIMCOも注目しているセグメントのブリッジ・ローンやストレッチ・シニア・ローンは、供給に比べてまだまだ資金調達需要が高い分野です。

CREデット市場に最近参入してきた多くのファンドは、建設ローンやシニア向けの集合住宅への貸出分野などに特化しています。また、取引規模の面でもPIMCOの競合相手は限定されてきます。PIMCOでは通常1億ドル以上のローンをターゲットにしますが、Preqin 社のデータによれば、3月時点で積極的に資金を集めている北米CREのクローズドエンド・デットファンドうち、10億ドル以上の資金を目標にしているのは10ファンドにすぎません。しかもそのなかには不良債権ファンドなど、多岐にわたる投資マンデートが含まれています。もう一つの視点は地域、資産タイプ、スポンサーの集中制限です。これらによっても、特定の案件について資金の出し手が減ります。これがこの分野で大手が有利となるポイントの一つです。

問:少ない競合相手のなかで、PIMCOはどのように差別化していますか。

チェン:借り手は実行の確実性とスピードを重視します。PIMCOは全社のリソースを活用することで、複雑なローンの案件を効率的に評価し、クリエイティブなソリューションを提供することができます。私たちは借り手にとって単なる貸し手ではなく、ソリューションを提供する長期的なパートナーだと考えています。

アクティブなCREエクイティ業務により、引受と資産運用のシナジーをおこしています。また、CMBS市場の最大の投資家のひとつでもあり、担保となるローンの全国的なパフォーマンスとCREリスクに対する価格設定の見通しを得ることができます。

CRE以外の分野では、テナントの潜在的なリスク評価を手助けしてくれるクレジット・アナリストとも連携しています。また、アナリティクス・グループと協業し、内包されるオプションも含めたローン構造の複雑性の分析も行っています。そして最後に、経済の方向性に関してのPIMCOのマクロ経済の見方も活用しています。社内のこのような機能によって、借り手に対して信頼できる資金提供者となることができるのです。

問:ダウンサイドリスクをどのように管理していますか。

トンプソン:PIMCOでは、CREデット運用の強固なプラットフォームを構築するにあたって、スポンサーシップ、引受、コベナンツの3つの柱にこだわってダウンサイドリスクの緩和に努めています。

まずスポンサーシップに関しては、自己資本の充実した、堅実で実績のある賢明な投資家に貸し出します。次に、PIMCOで自らボトムアップの引受作業を実施します。鑑定評価はプロセスの一部ですが、一時点のデータに過ぎず、そこに依存することはありません。PIMCOでは、賃料の上昇率、リースの回転率、キャップレート、占有率など、その他多くの情報について独自の推定値に基づくキャッシュフローを予想します。引受は厳重に幅広く吟味され、すべての前提条件と関連情報について議論し、組織としての価値の評価を確定します。その後に適切なリスク調整後のリターン決定に向けて、ローンそのものを見直し、分析します。そのプロセスのなかで、ディフェンシブなローンポートフォリオ構築の第三の柱であるコベナンツと仕組みを重視します。

一般的にデットは大きなダウンサイドリスク――つまりデフォルトによる損失――があり、コベナンツはそのような損失から守るためのものです。コベナンツはローンを監視しキャッシュフローのコントロールを促し、ローンの第一の目標である元本回収の達成に貢献してくれます。

問:ローン構造に関し、第一順位モーゲージローンとメザニンローンの間のトレードオフをどのように考えていますか。

チェン:これはお客様からもよく受ける質問で、簡単に言えば、第一順位モーゲージローンは、担保となる不動産に第一順位の抵当権が付与され、投資家はそれに付随するあらゆるコントロールが可能となり、保護されますが、メザニンローンには借り手の所有者持ち分の質入れが含まれます。担保権執行(フォークロ―ジャー)の際には、第一抵当権ローンの方がメザニンの場合よりも強制執行までに時間を要しますが、メザニンローンの貸し手は債務者と当該資産の持つすべての債務を負うことになります。状況に応じて、資本構成上どちらのローンにも合理性はあるものですが、両者の間の構造的な違いを理解することが重要です。

景気サイクルの現時点では、よりリスクの高い、資本構成上の下位のローンよりも、適度な財務レバレッジで質の高い資産への優先的な請求権を持つ上位のローンを選好しています。PIMCOでは多くの場合、包括的にローンを組成することにフォーカスしています。借り手との間に第三者を挟むことなく直接交渉することが可能となり、効率の良い計画的なクロージングプロセスが期待できるためです。また、借り手のニーズに沿いつつ、当方の優先事項に基づいた包括的なローンを組成することもできます。さらに、包括的にローンを組成することで、さまざまな資金調達の選択肢が増え、PIMCOにとって最も魅力的な条件を選択することができるようになります。

問:どのような投資特性にターゲットを絞っていますか。回避しているセクターや案件のタイプはありますか。

トンプソン:投資案件の分析にあたっては、借り手の質・評判・実績の評価が中心となります。PIMCOでは、同様の資産に対するスポンサーのトラックレコード、同タイプの資産への付加価値の提供能力、およびその案件向けに準備しているキャッシュの資本額を考慮します。また、市場において、流動性が高く、キャッシュフローが予測しやすい案件を探します。

セクターに関して完全に回避しているものはありませんが、一部の分野に対して非常に警戒し、ローンの実行を控える場合もあります。例えば、高度看護施設のように専門的で規制が極度に厳しい環境にある資産向けのローンには極めて慎重です。また、リテールなど、マクロ経済の逆風が吹いているセクターも敬遠しています。たとえ食料品店を中心とした物件でも見通しは不安定で、大手の大規模資本の企業がその分野を攪乱し、ボラティリティが高まる可能性があると見ています。

また、借り手があらゆる選択手段を持つ仕組みの案件も避けるようにしています。例えば、資産が明らかに劣化しているにもかかわらず、資金が借り手に流れるような案件や、借り手がさまざまな期限延長の選択肢を有する一方で、貸し手には期限前返済に対し限定的な防御しかできない場合です。ダウンサイドのシナリオでも確実に投資を守る術を確保したいと考えています。

最終的には、ある程度複雑であっても引受が可能で、PIMCOの投資方針に沿い、適切な価格設定が可能な珠玉の案件発掘に努力していると言えます。

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1 RCA CPPI –米国全プロパティ指数
2 Eastdil Secured社調べ
3 Preqin社 2019年3月現在

著者

Devin Chen

米国商業用不動産チームの共同統括責任者

Jeffrey Thompson

不動産担当のポートフォリオ・マネージャー

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ご留意事項

過去の実績は将来の運用成果を保証または示唆するものではありません。

全ての投資にはリスクが伴い、価値は下落する場合があります。商業モーゲージローンと商業不動産ローンへの投資 には、期限前返済、支払遅延、担保権執行(フォークロージャ―)に関するリスク、損失リスク、サービシングのリスク、不良債権の場合には促進される可能性のある規制変更リスクを伴います。私募クレジットへの投資ポートフォリオにはレバレッジが利用される場合があり、投資の損失のリスクを増加させる可能性のある投機的な投資行動を行うことがあります。私募クレジットへの投資は、新たな規制もしくは法律の改定、不動産物件の魅力と所在地、テナントの財務状況、環境関連及びその他の法律下での潜在的な法的義務、自然災害やその他のやむを得ない事由による不動産関連のリスクを伴うかもしれません。株式投資 の価値は一般的な市場、経済、産業の実体と見込み両方の状況によって減少する可能性があり、債務投資は信用、金利、その他のリスクを伴います。マネジメント・リスクとは、PIMCOが用いる投資手法およびリスク分析が望んだ結果を生まないリスク、また、政策や変更等が戦略の運用においてPIMCOが利用可能な投資手法に影響を及ぼしうるリスクを指します。

金融市場動向やポートフォリオ戦略に関する説明は現在の市場環境に基づくものであり、市場環境は変化します。本資料で言及した投資戦略が、あらゆる市場環境においても有効である、またはあらゆる投資家に適するという保証はありません。投資家は、自らの長期的な投資能力、特に市場が悪化した局面における投資能力を評価する必要があります。見通しおよび戦略は予告なしに変更される場合があります。投資判断にあたっては、必要に応じて投資の専門家にご相談ください。

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