年1月29日に日銀が市場の意表を突いてマイナス金利を導入すると、収益が圧迫されるとの懸念から、日本の銀行株は大きく下落しました。日本の銀行債についても、その魅力は大きく下落したとみるべきでしょうか。PIMCOでは、そのようにはみていません。

株価の下落は、日銀がマイナス金利幅を大幅(例えば-1%)に拡大することを示唆していますが、PIMCOのベースシナリオではそのリスクは低いとみています。なぜなら、それほどマイナス金利幅を拡大すれば、地方銀行の収益が大きく落ち込み、日本の金融システムを重大なリスクにさらすことになりかねないからです。実際、日銀の動きは慎重で、マイナス金利の適用が当座預金のごく一部にとどまるよう(2月29日現在、253兆円のうち23兆円)三層構造の金利体系を導入しています。日銀は、これにより金融システムへの直接的影響は最小限に抑えられ、必要とあればマイナス幅を拡大する余地があるとしています。

しかしながら、日銀がマイナス金利幅を-1%に拡大するリスクシナリオでは、貸出金利と再投資利回りが大幅に下がる間接的影響が甚大になる可能性があります。すでにマイナス金利を導入している欧州の場合、例えばスカンジナビア諸国の銀行はホールセール・ファンディングに依存しているため、マイナス金利の導入で銀行の資金調達コストも低下します。一方、邦銀の負債は欧州と異なり大半が個人の円建て預金であり、マイナス金利を転嫁することが容易ではありません。そのため、前述のリスクシナリオが継続した場合、地方銀行の経常利益は今後60%減少する可能性があるとPIMCOではみています。こうした間接的影響の大きさを勘案すれば、日銀が当初示唆したほどマイナス金利幅を拡大する可能性は低いと考えられます。

さらに、グローバルなシステム上重要な日本の銀行(G-SIFIs)――主な債券発行体でもある大手金融機関――は、マイナス金利幅が1%のリスクシナリオでも、乗り切ることができるとPIMCOでは考えています。リスクシナリオにおけるこれら大手金融機関(三菱UFJフィナンシャルグループ、三井住友フィナンシャルグループ、みずほフィナンシャルグループ)の経常利益の減少幅は22%程度になるとPIMCOでは予想しています。

これは大幅な減益ですが、60%減が予想される地方銀行に比べると、打撃はかなり小さいと言えます。G-SIFIsへの影響が小さいのは、地方銀行に比べて国内の利ざや事業への依存度が低いからです。たとえば、収益に占める国内の利ざや事業の割合は、地方銀行の約85%に対してG-SIFIsは25%~30%に過ぎません。残りは海外融資や手数料収入で得ています。このため日本のG-SIFIsは、22%の減益が予想されるPIMCOのリスクシナリオの下でも、普通株式等Tier1の比率を年間0.4%から0.7%引き上げることが可能だとみられます。

日本のG-SIFIsのクレジットへの投資機会
PIMCOでは、日本のG-SIFIsが発行するバーゼルIII対応のTier2債券、および今春、銀行持ち株会社が初めて発行した総損失吸収力(TLAC)規制対応の適格シニア債に注視しています。これらのバンクキャピタルはユニークな特性を持ち、ファンダメンタルズが堅固で、さらに一定の供給があることからバリュエーションが魅力的だと考えます。したがって、特にミドル・リスクのインカム商品を求める国内および海外の投資家にとって、魅力的な投資機会を提供すると考えています。

グローバルでは一般に、バンクキャピタルの多くは政府支援の可能性は低く、個社のリスクによりさらされており、債券のスプレッドはこのリスクを反映したものとなっています。しかし、規制や破綻処理に関する日本のアプローチは、世界的にみてユニークな特徴を持っています。例えば、前述の債券においては、元本を毀損することなく政府が資本を注入することが容認されています。

日本においては、銀行への政府支援の可能性が依然として高く、政府が支援する場合、バーゼルIII対応のTier2債券であれTLAC適格債であれ、バードンシェアリング(負担の分担)の対象にならないとPIMCOでは考えます。波乱の展開となった1月、2月の市場で、邦銀のバーゼルIII対応のTier 2債券のボラティリティが、他の資産クラスに比べて大幅に低かった理由は、こうした構造的優位性で説明できます。リスク/リターンがクレジット投資家に有利に偏っていることから、世界的にこの資産クラスがミドル・リスク・インカムの魅力的な源泉になるとPIMCOではみています。

ファンダメンタルズは引き続き底堅いとみられます。前述のように、グローバルなシステム上重要な日本の大手金融機関は収益源を多様化させており、経済変動への耐性を大幅に高めています。しかも、規制対応のためこれらの銀行は資本を積み増しています。自己資本比率は、2008年3月以降、毎年0.5%引き上げられ、2008年3月末の約7%(バーゼルII対応のTier 1)から2015年3月末時点には約12%(バーゼルIII対応の普通株等Tier 1)に上昇しており、この趨勢は今後も続くとみられます。

その他の主要指標も堅調です。不良債権比率は0.8%~1.0%と歴史的な低水準にあり、流動性は潤沢な国内預金で裏付けられています(預貸率は66%前後)。国内株式のエクスポージャー(普通株等Tier 1の48%)、世界的な景気減速による不良債権比率の上昇など、リスク要因はあるものの、全体として、これらのリスク、および資金利ざやの圧迫は管理可能な範囲であるとPIMCOではみています。

バーゼルIII対応の外貨建てTier 2債券およびTLAC適格のシニア債のバリュエーションも、円ヘッジ後でも魅力的だとみています。規制対応によるサプライプレッシャーのため、スプレッドは拡大する傾向にありますがそれは一時的なものです。一方、これらの資本性債券の発行は最終的に銀行の資本を高めることになります。日本のG-SIFIsは、積極的に外貨建ての債券を発行しており、2013年以降、本邦企業による外貨建て債の29%を占めています。大量発行の背景には、過去5年の年平均成長率が23%と急拡大している海外融資向けの原資調達がありますが、もう一つの理由として規制要件の充足が挙げられます。バーゼルIIIでは、自己資本比率を高めるため劣後債(バーゼルIII対応のTier 2債券/その他Tier 1債券)の発行が求められています。さらに、G-SIFIsは、2019年までに最低でもリスク資産の16%のTLAC適格債の積み増しが求められています。

投資へインプリケーション
日銀のマイナス金利政策は、日本の銀行セクターの収益圧迫要因であり、G-SIFIsも例外ではありません。しかしながら、日本のG-SIFIsの場合、クレジットのファンダメンタルズが健全であり、(バーゼルIII対応のTier2債券、TLAC適格債)などのバンクキャピタルの独特の構造が、ユニークな投資機会を提供しています。規制を背景とした供給圧力によって、これら債券のバリュエーションは割安になりえます。バーゼルIII対応の外貨建てTier2債券およびTLAC適格債にも魅力的な投資機会があり、とりわけ、比較的リスクの低い、インカム関連商品を求める投資家にとって魅力的であるとみられます。

著者

Tadashi Kakuchi

ポートフォリオ・マネージャー

Takanori Miyoshi

クレジット・アナリスト

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