1年前、PIMCOでは、金融危機後の回復が長期化するグローバル経済の状況を「ニュー・ニュートラル」と名付けました。5月に開催された年に1度の長期経済予測会議(セキュラー・フォーラム)では、世界中のPIMCOの投資プロフェッショナルが集結して長期見通しを議論した結果、この状況が継続していることを再確認しました。会議の終了後、PIMCOの見解をアップデートしつつ詳細に議論したレポート「ニュー・ニュートラル再考」を公表しています。以下のインタビューでは、米国コア戦略担当最高投資責任者(CIO)であるスコット・マザーが、米国経済の見通しが他の主要国とどのように異なるのかについてご説明します。

問:PIMCOの米国経済に関する長期見通しを教えてください。
スコット・マザー:ニュー・ニュートラルという状況の大きな特徴は、主要国経済が多速度で成長するものの、その速度は金融危機前と比べて全般に緩やかになるというものです。米国にとっての意味合いは、金融危機後に蔓延していた経済成長の制約条件やレフト・テール(ネガティブ)リスクの多くが解消されつつあるということです。これらは完全に解消されたわけではありませんが、デレバレッジが経済成長に与える負の影響は相当程度小さくなっています。

もっとも、現在、米国経済はトレンド以上の成長が可能なものの、近年では、物的、人的資本に対する投資不足によって、潜在的なトレンド成長率は低下しています。人口動態の傾向、規制の強化、与信基準の厳格化という状況を合わせて考えると、現在、実質経済成長率の潜在的なトレンドは2%を下回っています。このため、向こう数年間の成長率は近年の水準を上回るとPIMCOでは予想しているものの、金融危機前にノーマルと考えられていた水準に戻る可能性は低いでしょう。

とはいえ、米国経済にとっての向かい風が一定程度弱まったため、米連邦準備制度理事会(FRB)は、中立的な水準、すなわちPIMCOの考えでは名目ベースで2~2.5%程度にまで、政策金利を引き上げ始めるでしょう。

問:先進国の中では、金融危機後の正常化の動きが最も進んでいるのは米国のようですが、これはなぜでしょうか。また、経済成長やインフレが上振れする可能性はどの程度あるのでしょうか。
ー:米国が最も先行している理由は、主に次の3つです。第1に、米国は金融危機に対して、利下げや量的緩和などの金融政策を通じてより積極的に対応しました。第2に、破綻事例は見られたものの、民間部門のバランスシートはより速いスピードで整理されました。第3に、新しい金融規制の導入を受けて、米銀は他国の銀行よりも速いスピードで自己資本の強化を進めてきました。多くの先進国では、さまざまな理由によって金融危機への対応により長い時間を要したことを考えるだけでも、米国が正常化プロセスにおいて先行しているのは意外なことではありません。

もっとも、PIMCOでは、潜在成長率の長期トレンドの低さを踏まえ、経済成長が上振れする可能性が大きいとは考えていません。しかしながら、過去数年間の異例な政策対応の結果、インフレ率が予想よりも上昇する可能性はあるとみています。

現在、多くの投資家の頭には、過去6~7年にわたるディスインフレ圧力が鮮明に焼き付いていますが、非常に緩和的な金融政策が続く中でこの状態は解消に向かうでしょう。金融政策の効果が表れるまでには、長い時間を要する場合があります。

問:PIMCOでは、公共政策を長期見通しにどのように反映させているのでしょうか。たとえば、将来的に移民政策、貿易、エネルギーに関して飛躍的な政策対応がなされた場合、長期見通しはどのような影響を受けるでしょうか。
ー:過去10年の間、ほとんどの先進国では、公共政策への取り組みが比較的低調であり、また、効果的ではありませんでした。構造改革の潜在的な恩恵およびそれに対する必要性がかつてなく大きいタイミングにおいて、消極的な姿勢が勢いを弱めてしまいました。しかし、米国では、PIMCOの長期的な時間軸のまさに中心に位置する2016年に大統領選挙が予定されていることが、希望を持つべき理由になります。

移民政策、貿易促進、インフラ投資、税制改革はいずれも、比較的速やかに経済成長を後押しし、効果が長年にわたって持続する政策です。このうち2、3の政策に真剣に取り組むだけでも、経済システムに新たな刺激を強力に与える可能性があります。PIMCOでは、政策面で非常に有益なサプライズが生じるとは予想していませんが、長年にわたる政策の停滞時期を経て、政治システムが柔軟性を増し、潜在成長力の低下に対する意味ある政策対応が見られ始める公算は大きいでしょう。

問:PIMCOでは、FRBが政策金利の引き上げを開始するのはいつになると予想しているのでしょうか。また、その予想はニュー・ニュートラルの状況にどのように組み入れられていくのでしょうか。
マザー:PIMCOでは、FRBは今夏の後半、おそらく9月に利上げを開始し、数年間にわたる正常化のプロセスが始まると予想しています。そのプロセスは、過去の利上げサイクルよりも緩やかになる見通しですが、FRBがインフレ率を目標の2%近辺で安定させることができれば、2~3年以内には2~2.5%という中立的な政策金利に達するでしょう。中立的な金利とは、景気に対して刺激的でも抑制的でもない均衡水準を意味します。

中立的な政策金利に関して、FRBはPIMCOとは異なる見方であることには留意が必要です。「青いドット」予測に鑑みると、FRBは3.5%近辺を目標としているようであり、その場合、目標達成には長時間を要します。このことは、早期の利上げ予想の強力な根拠と言えるでしょう。

政策は常時変化するものであり、時間とともに経済への刺激効果は強まります。このため、FRBは決断を遅らせるほど、速いペースでの利上げを余儀なくされる可能性が強まり、景気後退を生じさせる恐れが台頭します。金融政策においては、景気拡大の長期化を目標とするべきであり、そのためには金利を中立的な水準に誘導することが必要です。FRBが早期にこれを実現すれば、足元の景気拡大局面が第2次世界大戦以降で最も長期化する可能性も高まります。

問:PIMCOでは昨年、米ドル高を予想していました。予想が的中した現在、今後の動きをどのようにみているのでしょうか。
マザー:PIMCOでは、米ドルは少なくとも向こう数年間は大方の通貨に対して上昇し続けるとみています。年間の上昇率はこれまでの10~15%から5%程度に低下するかもしれませんが、米ドル高という大きなトレンドは継続する見通しです。

過去を振り返ると、米ドル相場のトレンドは長い年数をかけて形成されてきました。米ドルは、10年以上にわたって大方の通貨に対して下落し、最近の上昇局面が始まるまでは世界で最も割安な通貨の1つだったことは、見過ごされやすい事実です。また、多くの国が引き続き利下げ局面にあるのに対して、米国は金融政策の段階的な引き締めに向かっているため、米ドルが今後も上昇すると予想することは合理的と思われます。

この先、ボラティリティが上昇する局面はあるでしょうし、ここ最近よりもさらに高いボラティリティ水準に達することも予想されますが、各国の金融政策が分化する中で、これは予想の範囲と言えるでしょう。

問:PIMCOの米国とその他諸国に対する見通しを踏まえ、長期的な時間軸における主な投資機会とリスクを教えてください。
マザー:ニュー・ニュートラルな政策金利と正常化プロセスを見通しの軸に据えることによって、向こう数年間の市場の動きやこの先のリスク・リターンのトレードオフをうまく捉えることが可能でしょう。その先については、いくつかの要因を検討する必要があります。

過去半年間、市場ではボラティリティがテーマとなっており、金融政策の分化を考えた場合には特に、今後もこのような状況が続く公算が大きいでしょう。このため、PIMCOではボラティリティがプラスに作用するようにポートフォリオを構成しています。貯蓄に対する実質的な課税を意味する厳しい金融抑圧の時代は、PIMCOの長期的な時間軸では終わりを迎える見通しです。これは投資家にとって好ましいことですが、金利の上昇に伴いボラティリティも上昇することが考えられます。投資家は、ボラティリティの上昇を念頭にポジションを構築するべきであり、金融資産価格が過度に変動することによって投資機会が到来するでしょう。もっとも、足元では幅広い金融資産のリスクプレミアムが比較的抑制されているため、多くの分野においては、過去数年間よりもリスク量を抑えることを検討すべきタイミングと言えるでしょう。

PIMCOでは、社債、モーゲージ関連投資、その他多くのクレジットのセクターに対して引き続き強気ですが、これらの市場ではボラティリティの上昇見通しが完全には織り込まれていないとみています。長年にわたる低金利と量的緩和政策がボラティリティを抑制してきましたが、このような状況は近い将来に取り除かれる見通しです。

個別の投資機会に関しては、PIMCOでは、インフレは政策の目標水準まで比較的早く戻り、場合によっては数年にわたって目標水準を超えるという見方を踏まえ、米国インフレ連動債は割安であると考えています。

また、金融政策のサイクルの違いは、グローバルに魅力的な投資機会を生じさせる見通しです。たとえば、米国金利の上昇の影響は、金利が依然として安定的か低下傾向にある地域に投資することによって、相殺できる可能性があります。魅力的な投資対象を見出すためには、エネルギーを始めとするさまざまなセクターにおいてボトムアップの銘柄選別(特にクレジットの選別)が重要になるでしょう。

全般に、PIMCOでは、トータル・リターンのより重要な構成要素として、アクティブ運用による超過収益に注目することを推奨しています。過去3~4年間は、何に投資をするかよりも、より多く投資することが重要でした。言うまでもなく、大きなレフト・テール・リスクに鑑みると、過去においても慎重になる理由はあったわけですが、振り返ってみれば、幅広い金融資産により多く投資することが優れた戦略でした。しかし、向こう数年間はこのような戦略が実を結ぶ可能性は低いでしょう。この先、リターンは低下する公算が大きく、株式やクレジット商品への投資を始めとする伝統的な金利上昇への対応策は、ボラティリティが高い環境ではそれほど奏功しない可能性があります。米国において金利が上昇して正常化プロセスが進む中で、投資に成功するためには、より多くの裁量の余地と高い運用技術が求められるでしょう。

著者

Scott A. Mather

米国コア戦略担当最高投資責任者(CIO)

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