こう3~5年間にわたりグローバル経済はニュー・ニュートラルの枠組みの中で推移し、主要国の経済成長率は概ね低い水準にとどまるとPIMCOでは予想しています。5月に開催された年に1度の長期経済予測会議(セキュラー・フォーラム)では、世界中のPIMCOの投資プロフェッショナルが世界経済と金融市場についての長期見通しをきめ細かく議論し、その全体的な結論は「ニュー・ニュートラル再考」にて詳述されています。以下のインタビューでは、リアル・リターンおよびアセットアロケーション担当最高投資責任者(CIO)であるミヒル・ウォラーが、インフレ見通しおよびインフレと経済成長の予測におけるコモディティの位置付けについてのPIMCOの見解をご説明します。

問:PIMCOの長期的なインフレ見通しと、その見通しに対するリスクを教えてください。
ミヒル・ウォラー:PIMCOの長期的なニュー・ニュートラルの考え方において、インフレ見通しは重要な構成要素であり、主要な中央銀行が経済成長を下支えするためにリフレ的な金融政策を実行することを前提としています。PIMCOのベースラインの見方は、グローバルなインフレ率が現在の非常に低い水準から中央銀行が目標とする2%近辺に向けて向こう数年間に緩やかに上昇し、米国経済がこの流れを先導するというものです。

ベースライン予想には常に上振れ、下振れリスクが伴いますが、インフレに関しては上振れして中央銀行の目標を上回るリスクの方が大きいとPIMCOではみています。長期的には、米国では上振れリスクが極めて現実的であるのに対し、欧州と日本ではそれほどでもありません。米連邦準備制度理事会(FRB)がバランスシートを大幅に拡大し、異例の金融政策を採用したにもかかわらず、インフレ率は十分に上昇していないという状況には留意が必要です。しかしながら、米国経済が回復に向かい、需給の緩みが縮小する過程で、過剰なマネーが過少な財を追い求めるという従来のインフレの定義が蘇るかもしれません。率直に言って、おそらく多くの中央銀行はインフレの小幅な上振れを歓迎するでしょう。

PIMCOでは、向こう数年間にデフレという下振れリスクが顕在化する可能性は低いとみています。経済が世界金融危機から抜け出そうとしていた時期には、デフレに陥る可能性が常に意識されていました。その要因は、世界的に総需要が不足していたことや、コモディティ価格が過剰供給を背景に下落したことでした。その後、FRB、欧州中央銀行(ECB)、日本銀行を始めとする主要な中央銀行の前例のない政策を主因として、デフレ発生の可能性は後退しています。PIMCOでは、インフレは2%というFRBの目標をやや上振れするもののそれ以上は加速しないと予想していますが、この予想は、依然として大きなデフレ・リスクを想定する多くのエコノミストや市場参加者の一般的な見方とは異なることを強調しておきたいと思います。

問:世界のインフレを主に牽引するのはどのような要因でしょうか。
ウォラー:長期的には、サービスと財の価格がともに上昇するなど、インフレ要因の偏りは小さくなる見通しです。過去数年間、財の価格は大きく変動し、「コモディティのスーパーサイクル」の時期に総合インフレ率を左右した後、コモディティ価格の下落に合わせてデフレ基調に転じています。価格の調整局面が概ね終了したとみられる現在、財の価格のデフレ圧力は緩和する見通しですが、米ドル高に起因するインフレの低下圧力はある程度残存する可能性があります。

一方、サービスの価格は、オバマケアの影響で医療費が一時的に大幅に下落した以外は、全般に安定的に推移してきました。長期的には、経済成長の拡大と賃金、賃料の上昇がサービスの価格を下支えするとみられます。この先5年間は、従来とは大きく異なり、財とサービスの価格がともに上昇し、コモディティ・セクターを中心に財の価格変動率が大幅に低下する見通しです。

問:PIMCOのコモディティについての全般的な長期見通しを教えてください。
ウォラー:まず、コモディティのスーパーサイクルは明確に終了したというPIMCOの見解を繰り返したいと思います。2000年代初頭には、グローバル経済の急拡大や中国を始めとするエマージング諸国における急速なインフラ整備の動きに起因する需要の増加に対し、供給の増加が追いつくことができず、コモディティ価格は大きく上昇しました。このような価格上昇に伴い供給量が調整された結果、コモディティ価格は下落し、一部では劇的に下落する局面も見られました。足元では、調整局面が概ね終了した結果、需給バランスは改善し、コモディティ価格が長期的に大きく変動するケースは少なくなるとPIMCOでは考えています。

コモディティ価格のボラティリティが全般に低下するとみられるのに対して、過去10~15年間のように、各種コモディティの価格が1つの資産クラスとして一斉に変動することはなくなる見通しです。原油、金、産業用金属、穀物などの個々のコモディティの価格は、経済成長、地政学リスク、天候変動、場合によっては各国の政策や優先順位の変化(バイオ燃料基準の変更やエネルギー輸出の制約緩和など)といった個別の需給要因に対して、以前よりも独立して反応する可能性が高いでしょう。

また、PIMCOでは、コモディティ価格が安定する結果、総合インフレ率とコアインフレ率の格差が、過去5~10年間に特徴的だったように、大きくあるいは頻繁に拡大することはなくなるとみていることを、付け加えたいと思います。

問:PIMCOの原油についての見通しを教えてください。
ウォラー:原油市場では、前述した他のコモディティ市場と同様に需給関係が非常に良好です。少なくともグローバルな経済成長が現状の見通し通りに推移すれば、長期的には、原油価格は他のコモディティと足並みをそろえて緩やかに上昇する可能性が高いでしょう。需要サイドに注目すると、全世界の原油消費量は、前年を1日当り100万バレル上回るペースで引き続き増加するとPIMCOではみています。供給サイドでは、シェール・エネルギーやその他の非伝統的資源の供給が増加する需要を引き続き満たすほか、市場シェアの確保を目指す石油輸出国機構(OPEC)加盟国の動きも需給バランス改善にある程度は寄与するとみています。向こう3~5年間は、ブレント原油価格は1バレル=70ドル台前半から半ば近辺で安定する見通しです。

地政学リスクは常に原油見通しに何らかの影響を与えますが、足元では、市場参加者は地域紛争を重視していないようです。なかでも歴史的に中東情勢は、原油供給を断絶させて価格の上昇要因になる傾向がありました。このようなリスクは現在でも残存していますが、一方でPIMCOでは、イランとの平和条約の締結によって供給が増加し、長い間なかったことですが、同地域が主導する形で原油価格が下振れする可能性もあると考えていることを、付け加えたいと思います。

問:インフレが非常に低い水準から長期的には緩やかに上昇するというPIMCOの見通しを踏まえると、投資家はインフレ・ヘッジ機能のある資産へのアロケーションをどのように考えるべきでしょうか。
ウォラー:PIMCOでは、そのようなアロケーションは、次の2つの理由によって合理的であるとみています。第1に、一般的に分散の効いたポートフォリオは、インフレ・リスクを含む幅広い長期的リスクに対するヘッジとなります。たとえば、インフレの急上昇がベースライン予想ではないにしても、インフレが予想比上振れした場合には株式、債券ともにインフレヘッジ効果をもたらさず、それに対して別途ヘッジをしておくことが適切となるかもしれません。第2に、PIMCOでは、ベースラインの長期見通しとして、インフレ率が中央銀行の目標に向けて上昇すると予想していますが、向こう5年間のリスクシナリオは、インフレの低下や場合によってはデフレを予想していた過去5年間とは異なり、上振れ方向に傾斜しています。

PIMCOでは現在、おそらく多くの市場参加者はデフレや「低インフレ(lowflation)」を懸念することが正当化されていた過去に依然としてとらわれているため、米インフレ連動国債(TIPS)を始めとする多くのインフレ・ヘッジ商品は割安であるとみています。具体的には、TIPSの価格にはリスク・プレミアムが十分に反映されていないと考えています。TIPSや米国以外の数カ国のインフレ連動債は、各投資家の具体的な運用方針によっては、インフレ・ヘッジ資産から構成されるポートフォリオの中核になり得るでしょう。

また、分散されたポートフォリオにおいては、インフレの短期的な上昇リスクに対するヘッジに寄与する傾向のあるコモディティを組み入れることも選択肢になるでしょう。地政学的な対立、干ばつ、厳冬を背景に、食料品やガソリンの価格が上昇するリスクが存在しますが、一般にコモディティは、価格の変動性は高い傾向があるものの、このような短期的な価格の急変動リスクに対する流動性のあるヘッジの選択肢と言えるでしょう。もっとも、金に関しては、PIMCOが上昇を予想する実質金利や米ドルとは価格が反対に動く傾向があるため、例外的にインフレ・ヘッジ機能が失われたとみています。

言うまでもなく、流動性をある程度犠牲にしてでも長期的な視点に立とうとする投資家にとっては、長期的には割安なインフレ・ヘッジ機能を提供し得る不動産も、検討対象になるでしょう。

要約すると、PIMCOでは、インフレの長期見通しを踏まえ、インフレ連動資産から構成される分散の効いたポートフォリオは、インフレがポートフォリオの購買力を損なうリスクに対して価値の高いヘッジを提供する可能性があるとみています。

著者

Mihir P. Worah

アセットアロケーションおよびリアル・リターン担当最高投資責任者(CIO)

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全ての投資にはリスクが伴い、価値は下落する場合があります。債券市場への投資は市場、金利、発行者、信用、インフレ、流動性などに関するリスクを伴うことがあります。ほぼ全ての債券及び債券戦略の価値は金利変動の影響を受けます。デュレーションの長い債券及び債券戦略は、より短い債券及び債券戦略と比べて金利感応度と価格変動性が高い傾向にあります。一般に債券価格は金利が上昇すると下落し、現在のような低金利環境ではリスクが高まります。債券取引におけるカウンターパーティーの取引能力の低下が市場流動性の低下や価格変動制の上昇をもたらす可能性があります。債券への投資では換金時に当初元本を上回ることも下回ることもあります。コモディティは市場、政治、規制、自然などの条件により高まるリスクを伴い、全ての投資家に適しているとは限りません。株式の価値は一般的な市場、経済、産業の実体と見込み両方の状況によって減少する可能性があります。政府が発行する物価連動債(ILB)は、元本価値がインフレ率に連動して定期的に調整される債券です。実質金利が上がった場合、物価連動債(ILB)の価値は減少します。インフレ連動国債(TIPS)は、米国政府が発行する物価連動債(ILB)です。ソブリン証券は通常、発行体政府によって保証されています。米国政府機関の債務は米国政府からさまざまな形で支援を受けていますが、政府による全面的な保証は付与されないことが一般的です。こうした証券に投資するポートフォリオに対する保証はなく、ポートフォリオの価値は変動します。不動産及び不動産に投資するポートフォリオの価値は損害または収用、地域経済または経済の全般的な状況の変化、需給、金利、固定資産税率、家賃に関する規制、都市計画法また運営費などにより変動します。本資料で言及した投資戦略が、あらゆる市場環境においても有効である、またはあらゆる投資家に適するという保証はありません。投資家は、自らの長期的な投資能力、特に市場が悪化した局面における投資能力を評価する必要があります。投資判断にあたっては、必要に応じて投資の専門家にご相談ください。

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