長期経済予測

創造的破壊

向こう3~5年の世界経済と金融市場を攪乱する可能性のある主な要因が存在します。今後のリスクと投資機会についてのPIMCOの見解をお伝えします。

5月上旬、世界中の拠点からPIMCOの投資プロフェッショナルがニューポートビーチに集結し、第38回長期経済予測会議(セキュラー・フォーラム)が開催されました。ゲスト・スピーカー(下記にある運用プロセスのセクションをご覧ください)をはじめ、PIMCOのグローバル・アドバイザリー・ボードのメンバー、その他のコンサルタントの意見を踏まえ、向こう3~5年の世界経済、金融市場、さらには投資家のポートフォリオを大きく攪乱させる可能性のある主な要因に焦点をあて、投資家が創造的破壊の要因にいかに対処できるかについて議論を重ねました。その結論を本レポートではご紹介します。

何が織り込まれているか?

マクロ経済および市場の見通しを検討するには、将来の成長率、インフレ率、政策に関して、どの資産クラスの市場が今何を織り込んでいるかを出発点として考えなければなりません。そこで年次の長期経済予測会議を控え、私共は、ニュー・ノーマル(2009)/ニュー・ニュートラル(2014)でPIMCOがかねて提唱してきたテーマである低成長、低インフレ率、ニュー・ニュートラル金利が完全に織り込まれていることを確認しました。短期金利とインフレ率は低水準で推移することが見込まれ、利回り曲線はフラット化しており、クレジット・スプレッドはタイトで、株式は十分に評価され、ボラティリティは最低水準にあります。

つまり、貿易摩擦、中国の景気減速、欧州の政治情勢により時に「予期せぬ急変」があるとはいえ、必要とあらば中央銀行が介入する用意があるため、長期的に悪い結果になることは何もないニュー・ニュートラルの世界に、投資家は快適に辿り着いたようにみえます。直近のケースでは、米連邦準備制度理事会(FRB)が1月に、金利、バランスシート、インフレ戦略の3つについてハト派色を打ち出したことで、昨年末売られたリスク資産の回復につながりました。

PIMCOの基本シナリオでは浅めの景気後退を想定

今後についてフォーラムで議論し、再確認した向こう3~5年の世界経済に関するPIMCOの基本シナリオは、少なくとも一見したところでは比較的良好です(詳細については、下記「PIMCOの長期経済見通し基本シナリオ:主要10項目の要約」をご覧ください)。要約すると、概して精彩を欠いた経済成長の継続を予測しており、生産性の伸びが小幅上向くことで、労働力の伸び鈍化の影響は概ね穴埋めされるとみています。低インフレは続き、中央銀行は政策金利をニュー・ニュートラルの水準以下にとどめると予想しています。

重要なのは、PIMCOの基本シナリオでは、長期予測の対象期間中のどこかの段階で世界的な景気後退入りを引き続き想定している、ということです。主要な民間セクターの経済的不均衡や、タカ派的な中央銀行が見当たらないなか、景気後退は浅いものになるとみられます。ただ、伝統的な金融政策の余地が限られ、量的緩和策の効果が限定的な中で、経済的成果から判断すると、回復は緩慢なものになるでしょう。景気後退を克服するため財政政策がより積極的になる可能性があります。あるフォーラム参加者の言葉を借りれば、現在は、中央銀行が残された手段で「空の樽の底を必死に掻き取っている」なか、金融政策のタカ派と同様、財政政策のタカ派も見当たらない状況です。

ファット・テールと極端な不確実性に注意

しかしながら、この比較的穏当な基本シナリオは、長期予測期間中に投資家が検討すべき、いくつか存在する現実的なシナリオのうちの1つに過ぎません。PIMCOの見方では、向こう3~5年の経済的結果の確率分布は通常よりテールが太くなっています(ファット・テール)。さらに、地政学やポピュリズムといった要因に関しては、起こりうる結果に確率を付与することは不可能であり、「極端な不確実性」が生じます。このため、昨年の長期経済予測で既に強調したように、過去5~10年の比較的良好なマクロ経済および市場環境をもとに将来を推定するだけの投資家は、「予期せぬ急変」に見舞われる可能性があります。

理由:連続する創造的破壊要因

「向こう3~5年の世界経済、金融市場、投資家のポートフォリオを大きく攪乱する可能性がある5つのトレンドが存在します。」

3日間にわたる議論の中で私共は、向こう3~5年に世界経済、金融市場、投資家のポートフォリオを攪乱する可能性のある5つの要因と、さらに長期的な視点でお客様や資産運用業界、PIMCO自体にとって重要だと考えられる「超長期」の要因を特定しました。

#1:中国

中国が世界経済および市場を攪乱させる可能性として、少なくとも3つの異なるシナリオが挙げられます。

第一に、PIMCOの基本シナリオでは、向こう3~5年の中国経済について管理された段階的な景気減速を予想していますが、米国との貿易戦争が一段と激化した場合は特に、その道のりは予想以上に困難なものになる可能性があります。また、中国経済が急減速した場合、過去10年で積み上げてきた巨額の国内債務の消化が一段と難しくなり、景気をさらに悪化させる可能性があります。こうした悪化シナリオでは、中国当局は大胆な人民元の切り下げを実施する可能性があり、そうなれば世界経済全般にデフレの衝撃波を送ることになります。

第二に、比較的穏当な中国の成長シナリオでも、中国が進めている最先端技術を駆使した製造業のバリューチェーンにおける高付加価値化の取り組みは、欧州、日本、米国、東南アジアの既存企業を脅かすことになりそうです。

第三に、中国の高まる経済力と、(一帯一路構想などを通じて)世界的な覇権確立を目指す野望は、米国が支配する既存の地政学的秩序を破壊し、現在の貿易摩擦の行方にかかわらず、今後、米中間の継続的な経済的、政治的緊張につながるとみられます。昨年の長期経済予測では、迫りくる「トゥキディデスの罠」について論じましたが、それ以降の米中関係の悪化は、高まる地政学的緊張とそれを受けた市場ボラティリティの上昇が、投資家が念頭においておくべき長期要因である、との見解を裏付けるものだと言えるでしょう。

#2:ポピュリズム

ポピュリズムが既にピークに達したのか、それとも今後、世界中でさらに影響力を増していくのかについて、会議では明確なコンセンサスは形成されませんでしたが、向こう3~5年は、大衆迎合的な運動や政党、候補者が国内よび国際政治と政策決定を引き続き攪乱するとの見方で一致しました。

確かに、経済・金融市場は、既存政党や政府に対する政治的スペクトルの両側からのポピュリストの要求によって、プラスにもマイナスにも転じる可能性があります。ポピュリスト政府や、ポピュリストの反対派から圧力を受けた伝統的政府が、過度な規制の緩和や税負担の軽減、極端な格差の是正に取り組むとすれば、経済成長と資産価格は支えられることになるでしょう。

他方、ポピュリズムが特に移民排斥や財・サービスのクロスボーダー取引、資本フローの制限を強化することでグローバル化の流れを鈍化ないし反転させる狙いがある場合、経済成長や資産価格には打撃となりえます。一般にポピュリスト運動は、政治的スペクトルのどちらの側でも内向きになり、障壁を築きがちです。国家主義または排外主義を信奉していること、あるいは自国政府の非正統的な政策の追求が制限されることになる世界的な競争圧力に反対していることがその理由です。そのため多くの場合、ポピュリズムは保護主義と歩調を合わせることになりますが、これは複雑な国際サプライチェーンと無数の金融が連携し成り立っている世界の経済システムにとって、差し迫った脅威であるのは明らかです。

ポピュリズムの台頭とそれが多様な形態をとっているという事実には、もうひとつ別の意味合いがあります。国ごとの経済政策と成果のばらつきが大きくなる、ということです。過去20年にわたり、いわゆるワシントン・コンセンサスで、国際通貨基金(IMF)が財政の清廉性を求め、市場開放、インフレ・ターゲット、柔軟な為替レートの導入を進めたことにより、多くの先進国とエマージング諸国の経済政策には一定の収斂がみられました。向こう3~5年の間に政策は多様化し、極端な政策アプローチがとられる場合もありうると予想しています。そうなれば、資産価格決定において国別要因の重要性が増すとともに、為替レートの変動が大きくなる可能性があるとみています。

#3: 人口動態

主要国における人口の伸び鈍化と長寿化は、精彩を欠く経済成長、低インフレ率、世界的貯蓄余剰の重要な要因であり、均衡金利(中立金利)が抑えられています。このため主要中央銀行は、引き続き政策金利を低水準ないしマイナスに維持せざるをえないとみられます。景気後退期はもちろん、後退期以外でも、金利が下限制約に陥った時には資産買い入れを実施する可能性が高いでしょう。こうした環境はまた、退職後の計画を立てる個人にとっても、いくつもの課題を突き付けます。p.15の長期戦略をご参照ください。

こうしたトレンドは長期化するほど、そして、それらが人口動態に誘発される限り続くとすると、いくつかの点でより破壊的な性格を帯びます。第一に、長期にわたる低金利とフラットなイールド・カーブは、金融政策の重要な波及経路である金融セクターの舵取りを難しくします。

第二に、長期にわたる低金利を背景に企業の債務比率は上昇し、多くの投資家が利回りを求めてよりリスクの高い資産へと移行してきました。これにより、主要な資産市場で修正が起きた場合の、民間セクターのバランスシートの脆弱性が高まっています(詳細は後述します)。

第三に、低金利環境下で中央銀行の政策手段が限られ、政府の借入コストが低い中で、より積極的で拡張的な財政政策を求める声が高まっており、その方向への誘惑が増しています。これは両刃の剣です。一方で、需要やインフレ率が好ましくないほど低水準にあり、いわゆる安全資産の需要が高まっている場合には、拡張的な財政政策は歓迎されます。他方、財政規律が失われ、それにより将来の金利、成長、あるいは企業信頼感へのショックが起きた場合、公共セクターのバランスシートが脆弱になる可能性があります。

「主要先進国の中で、最も「日本化(ジャパニフィケーション)」―人口動態が重しとなり、低成長、ゼロに近いインフレ、超低金利という困難なマクロ経済環境――で混乱する可能性が高いのはユーロ圏である。」

主要先進国の中で、最も「日本化(ジャパニフィケーション)」―人口動態が重しとなり、低成長、ゼロに近いインフレ、超低金利という困難なマクロ経済環境――で混乱する可能性が高いのはユーロ圏である、との結論に達しました。フォーラムで日本人の同僚が的確に指摘したことですが、日本はこのシナリオにうまく対処してきており、1人あたり実質GDPの底堅い伸び、社会の一体感、格差の小ささ、コンセンサスを重視する文化をとおして高い生活水準を維持し、さらにそれを高めています。これに対し、ユーロ圏のほとんどの国は比較的寛大な福祉制度を備えていますが、単一通貨圏は共通の財政政策を欠いており、政治的に分裂しています。要するに、ジャパニフィケーションは日本には悪くはなかったかもしれませんが、社会、財政、政治の一体性を欠くユーロ圏にとっては著しい混乱を招く可能性があると言えます。

#4: テクノロジー

最新テクノロジーの性能向上とコストの低下で、幅広い企業がテクノロジーを利用できるようになった結果、生産性の伸びへのテクノロジーの寄与が目立つようになっています。過去1年間、米国の非農業セクターの時間あたり生産量、すなわち労働生産性は、過去5年の冴えないペースから回復し、研究開発(R&D)、ソフトウエア、テクノロジー・ハードウエアへの投資は加速しました。初期とはいえ、これらは、テクノロジーの普及が、生産性でリードする各業界の大手企業から、多くの後発企業にまで及んだことを示す最初の兆候と言えるでしょう。

他方、テクノロジーというコインの裏側には、負の側面があります。テクノロジーは、企業セクターにおいて既存のビジネスモデルを創造的に破壊し勝者を生み出す一方、多くの敗者を生み出すことになるとみられます。フォーラムでスピーカーの1人が言及したように、スーパースターと目される大企業すら、規制当局ばかりでなく、その地位を脅かす新規参入者によって破壊されるリスクに直面しています。こうした文脈の中で、エマージング諸国および企業が、最新テクノロジーを武器に先進国の競争相手を「跳び越える」可能性についても議論しました。

さらに、PIMCOの基本シナリオではないものの明確な可能性として、生産性の伸びが急上昇した場合、一時的ないし長期にわたって技術的失業が生じ、それが政治的不満となって跳ね返り、ポピュリスト政党や候補者への支持を高める恐れがあります。フォーラムの参加者の1人は、テクノロジーが可能にする「無限の豊かさ」について述べていましたが、そこに至る道のりは、結果的に長く曲がりくねっていて、深い穴だらけであるかもしれません。

#5:金融市場の脆弱性

準公的な判定機関である全米経済研究所(NBER)の定義によると、米国の景気後退は、過去50年で7回を数えます。2000年以前の5回の景気後退では、オイルショックの影響をはじめ、過熱とFRBの引き締めがきっかけとなりました。2001年と2008年の2回の景気後退は、金融市場の不均衡の巻き戻しが主たる引き金でした。PIMCOの投資プロフェッショナルの1人が述べたとおり、ニュースとなる材料に反応するのではなく、そのニュースの材料を作っているのは金融市場である、というリスクに細心の注意を払う必要があります。

向こう3~5年を見通すと、FRBが方針を転換し、景気後退リスクを高めることになる引き締め一辺倒のスタンスではなく、ニュー・ニュートラルの金利に近い水準で引き締めサイクルを終える見通しですが、これによりクレジットを中心にバリュエーションが非常に割高になり、世界的金融危機が始まる前の2000年代半ばの状況に近づく可能性があります。現時点でそこまでには至っていませんが、マクロ要因の観点から、ただし、あくまで規律ある投資プロセスの一環として、行き過ぎや修正の可能性を注視することが理に適っています。

足元で、行き過ぎを示す落とし穴がないわけではありませんが、金融市場のバリュエーションの大半は引き続き妥当だとみています。ただ、2008年の世界的金融危機の開始時から10年以上が経過した今も、異例の政策スタンスと金融抑圧を特徴とする環境は変わらず、投資家や資産運用会社は利回り追求を迫られることになります。流動性への懸念からクレジット市場において特に顕著ですが、市場構造に関して、至極真っ当な懸念が存在しています。それはセンチメントが大きく変化したり、大規模なリスク移転が起きた場合、調整がきわめて難しく、市場の大混乱を伴うというリスクを高めている、との懸念です。

気候関連の攪乱要因

フォーラムでのもう1つの注目点は、気候変動などの環境リスクが、人々の生活や経済活動、金融市場に及ぼす長期、超長期の破壊的影響でした。

「気候関連のショックは頻度が増しているだけでなく、常態化、深刻化しています。巨大災害のファット・テールの確率を高める可能性があります。」

地球の温暖化とともに気象関連のショックは頻度を増しているように見受けられ、経済活動やインフレに大混乱をもたらす可能性があります。そのため投資家や中央銀行にとってはシグナルからノイズを切り離すことが、一段と難しくなる恐れがあります。気候関連のショックは頻度が増しているだけでなく、常態化、深刻化しています。巨大災害のファット・テールの確率を高める可能性があります。

さらに投資家は、規制や炭素税、公共投資の形での政府の追加的な気候・環境リスク対策を考慮に入れる必要があります。これらは企業セクターにおいて多くの勝者と敗者を生み出すことになるため、クレジット・リスクとデフォルト・リスクの積極的な管理が求められることになります。PIMCOにおいて、環境・社会・ガバナンス(ESG)分析を投資プロセスに統合する方法について、詳しくは「長期的な創造的破壊に備えた戦略」のセクションをご覧ください。

投資への意味合い

長期経済予測会議(セキュラー・フォーラム)はPIMCOの投資プロセスの中心的な役割を担い、マクロ要因や市場要因に関する長期的な見方を戦略やポートフォリオ構築の意思決定に取り入れ、リスクポジションのガードレールを設定することを目指しています。幅広いシナリオを検討し、外部有識者を招いて、集団思考を回避し、PIMCOのマクロと投資の枠組みを検証します。向こう3~5年を見通すと、市場はPIMCOが「ニュー・ノーマル」や「ニュー・ニュートラル」で設定した基本シナリオに近い見通しを織り込んでいるように見えます。しかしながらPIMCOでは、基本シナリオからの乖離を促すマクロ要因や市場要因に加え、極端な不確実性や幅広い攪乱要因にさらされるなど、困難な投資環境を予想しています。攪乱要因としては、ポピュリズム、地政学、デフレ圧力をもたらす継続的な人口動態トレンド、勝者と敗者を生み出すテクノロジーと持続可能性といった問題が挙げられます。

デュレーション

「ニュー・ニュートラル」下での中央銀行の政策金利は、世界の債券市場をかなり狭い範囲で固定しており、FRBの金利サイクルは、PIMCOがかねて提唱してきた2%~3%というニュー・ニュートラルの名目金利のレンジの半ば近くで打ち止めになる見通しです。他の主要中央銀行はそれぞれ低水準の中立金利に留まっており、FRBの利上げサイクルが終了した場合、大幅な引き締めを開始する可能性は低いと言えます。

世界の利回りについては、基本シナリオ近辺でかなりリスクのバランスが取れており、向こう3年~5年に米国が景気後退入りする可能性が、予想以上にインフレ率が上昇するリスクを相殺しているとみています。その背景となる環境として、FRBが予想外のインフレを歓迎するとみられること、また予想を上回る生産性の伸びによって過去10年のニュー・ノーマルに比べて成長環境が改善され、実質金利の上昇につながる可能性があることが挙げられます。リスク資産の減価に対するヘッジ手段として、もっとも魅力的なデュレーションを提供するのは引き続き米国債だとみています。FRBは緩やかな利上げサイクルを実現し、ユーロ圏や日本とは対照的に、中長期債の利回りをゼロから引き離すことに寄与しているのがその理由です。

クレジット市場と資産担保証券

「クレジットに慎重であるとは、社債市場に混乱が生じた際にはクレジット・リスクを上乗せできる余力を持ち、特定の機会が浮上した時にそれを捉える準備ができていて、流動性を需要する側ではなく供給する側に回れることを意味します。」

クレジット市場のバリュエーションはタイトで、一部のクレジット・セクターには割高な兆候が見られます。前述のように、金融市場の過大な成長と痛みを伴う修正が、向こう3~5年の間に対応すべき可能性のある、主要な攪乱要因の一つです。しかしながら、より安定的な基本シナリオが継続する場合でも、クレジットの市場構造と、社債の市場流動性の低下とは対照的に伸びている社債発行と投資家のクレジットへの配分については、引き続き懸念しています。流動性が低いということは、クレジット・リスクにより多くの補償が必要になると考えていることを意味します。景気後退が回避されたとしても、おそらくトレンドを下回る成長が長期化する中で、デフォルト・サイクルに変化が生じる可能性があります。上記で強調したように、クレジット需要に大きな変化が生じた場合、大きな価格変動を伴うことなく、大規模なリスク移転を促進する余地が市場にはないのではないかと懸念しています。PIMCOでは、クレジットに慎重な姿勢を取り、ポートフォリオにおける質と流動性を重視しつつ、こうした環境に備えたいと考えています。クレジットに慎重であるとは、社債市場に混乱が生じた際にはクレジット・リスクを上乗せできる余力を持ち、特定の機会が浮上した時にそれを捉える準備ができていて、流動性を需要する側ではなく供給する側に回れることを意味します。

2006年から2007年にかけては、かなり過大なバリュエーション、民間金融システムの高レバレッジがもたらすリスク、米国の住宅市場の調整の可能性を理由に、極度に保守的なスタンスを取り、ポートフォリオのキャリーをマイナスにするのが理に適っていると考えていました。対照的に現在は、企業クレジットに過度に依存することなく、ポートフォリオにおけるインカムの源泉重視を維持するのが理に適っていると考えています。米国の政府機関系モーゲージ債については、比較的安定的で保守的なインカム確保の手段だとみています。米国の非政府機関系モーゲージ債(MBS)や米国および世界の幅広い資産担保証券については、資本構成上の優先度が高く、過密なクレジット市場に比べて需給要因が良好で、マクロ経済やクレジット市場が悪化した場合にダウンサイドのリスク特性が優れているとの見方を継続します。

為替市場

先進国の外国為替レートのバリュエーションに、大きなズレがあるとは見ていません。一部のエマージング通貨は引き続き割安であると見ており、特定のエマージング通貨のエクスポージャーを流動性確保の手段とし、インカム獲得と分散の手段としてエマージング通貨のエクスポージャーを取っています。過去3~5年は、中国・人民元の動向が世界市場の主要なリスク要因となってきましたが、向こう3~5年もこの状況は変わらないとみられます。中国経済が減速するか貿易戦争が激化して、通貨安圧力につながる場合は特に、その傾向が強まるでしょう。

通貨に関して大きな長期トレンドは見当たりませんが、創造的破壊要因が相次ぐリスクや、次第に政策のばらつきが大きくなる可能性を踏まえると、捉えるべき循環的な機会は引き続き存在すると言えます。景気後退入りした場合、世界の多くの中央銀行には伝統的、非伝統的な政策余地がいくらか残されてはいますが、限定的であり、中央銀行が唯一の主役であった過去10年に比べて、政策介入の効果は疑問視されています。一つの疑問は、どの程度積極的な財政政策が取られるのか、もう一つの疑問は、金融政策と財政政策がどこまで協調するかで、通貨にとって、さらにはより広い市場全般にとっての意味合いが変わってきます。

ユーロ圏

ここ数年、ユーロ圏のソブリン債とクレジット・リスクについては慎重なスタンスを強調してきました。その理由として、ユーロ圏の根本的な脆弱性、ポピュリズムのリスク、ユーロ全般が景気後退入りした際の有効な金融政策手段の欠如、財政政策に関わる膨大な調整の問題が挙げられます。向こう3~5年も、これらの懸念はすべて残りますが、とりわけ懸念されるのがイタリアで、同国での問題悪化が周縁国に波及する恐れがあります。

ドイツは、輸出市場主導でユーロ圏では最も明るさが見られましたが、その成長見通しに対する懸念が高まっています。その背景には、中国経済が減速していること、同国がより付加価値の高い製品分野での競争に乗り出していることがあります。より広い意味では、ユーロ圏経済は米国経済よりも開放的であり、圏内需要が伸び悩んでいることから、景気浮揚を世界貿易の成長に依存しています。米国をはじめ世界で保護主義圧力が高まった場合、ユーロ圏は先進国最大の敗者になる可能性があるでしょう。低成長の環境下では、コア諸国のデュレーションは比較的安定的だとみられますが、マクロ経済への懸念は、ユーロ圏のソブリン債と社債市場については慎重であるべき、との見方を後押ししています。

エマージング市場

エマージング諸国は、ユーロ圏同様、中国の成長モデルの変化や保護主義の脅威を前に、不確実性にさらされています。しかしながら、エマージング諸国の堅固なファンダメンタルズや、終了ないし終了間近と見られるFRBの引き締めサイクルなどの明るい材料が、その不確実性を相殺するとみています。金融や貿易のグローバル化のトレンドが大きく反転しなければ、グローバル投資家の分散投資の拡大や、エマージング諸国のアセット・クラスへの継続的資金流入が、引き続きエマージング諸国の追い風になるとみられます。

株式市場

ディスインフレ成長が長期にわたり、政策立案者の目を緩和に向けさせることは、株式市場にとってはプラスとなりそうですが、絶対的リターンは低く、ボラティリティは高まりそうです。政策、地政学、経済要因、イノベーションのスピードに関連する創造的破壊要因は、周期的に市場リスク・プレミアムの重しとなり、ボラティリティの一時的上昇を招きますが、同時に機会も生み出すとみられます。株式市場においては、創造的破壊により競争が激化し、結果的に勝者と敗者が生まれてきたという、長い歴史があります。

予想される創造的破壊の時期をうまく乗り切る態勢が最も整っているのは、米国株、信用力の高いディフェンシブ株だとみています。ただし、資産価格のバリュエーションが上昇し、安全マージンが薄くなっていることから、その経路は狭まりつつあります。PIMCOが予想する名目成長率が低い環境では、成長が希少な資産であるなか、価格決定力を持ちバランスシートの柔軟性がある、高水準で持続可能な収益を確保できる企業が有利になるとみています。株式市場の創造的破壊に対応するには、収益の伸びの転換点を見極め、政策反応関数の変化を管理し、地政学的変化を注視していくことがカギとなるでしょう。

コモディティ市場

コモディティについてはかなり中立的な見方をしており、基本シナリオではインフレ率に沿ったリターンを予想しています。とはいえ、PIMCOのアセット・アロケーションのポートフォリオにおいて、コモディティは引き続き重要な役割を担うと考えています。過去数年、各コモディティ市場のミクロ要因が相対的パフォーマンスを左右する最大の要因となったことから、コモディティ内部のばらつきは歴史的な標準値に戻っています。ポジティブ・キャリーと関連していることが多いコモディティのアクティブ運用は、コモディティ市場全般が伸び悩む中でも、全体としてプラスのリターンにつながる可能性があります。

アクティブ運用

上記で強調したとおり、過去10年は金融資産が実体経済を大きく上回る成長をみせたという点で、異例の時期であり、これは今後10年も続く持続可能なパターンであると想定すべきではありません。過去10年の強い市場リターンが続くという保証はなく、実際、出発点のバリュエーションの高さから、その可能性は低いでしょう。資産全般のボラティリティは、歴史的な低水準にあります。基本シナリオの中でこの状況が継続する可能性はありますが、マクロ経済のボラティリティの高まりや政治的混乱の観点から、様々なリスクを想定しており、ボラティリティの上昇につながる可能性があるとみています。ここ数年はボラティリティが頻繁に上昇したものの一時的なもので終わっていましたが、それと比べると、ボラティリティ上昇が長期化する可能性があります。

「創造的破壊を予感させる現在の状況は、アクティブ運用会社に優れた投資機会をもたらすものと考えています。」

PIMCOはアクティブ運用会社として、ポートフォリオ構築において慎重さと柔軟性を重んじ、「ニュー・ノーマル」や「ニュー・ニュートラル」の基本シナリオの継続を過度に重視しないことが理に適っていると考えています。難しい環境になるとは思いますが、創造的破壊を予感させる現在の状況は、PIMCOのようなアクティブ運用会社にとって、優れた投資機会をもたらすものと考えています。

PIMCOでは、市場の基本シナリオを大きく破壊する要因を特定するとともに、リスク・スプレッドにクッションがほとんどなく、ノイズが過度な短期的影響を及ぼしかねない時期に発生するイベントに対し、著しく過大な反応を特定するよう努めていきます。世界各地でトップダウンとボトムアップにより最善の機会を模索していきます。一般的な企業クレジットのベータについては慎重ですが、クレジット・ポートフォリオ・マネージャーとアナリスト・チームによる確かな銘柄選択と相対バリューのアイデアに注目しています。お客様の投資目標を達成する上でも、PIMCOの投資プロセス全般を強化する上でも、環境・社会・ガバナンス(ESG)の要素が、アクティブ運用プロセスの中心的役割を果たすことになります。

PIMCOの長期経済見通しのテーマで示したとおり、イベントに対応できる柔軟性を重視し、ある程度の手元資金を保持し、最高の利回りを追い求めるよりも流動性を重視します。PIMCOは、常に創造的破壊要因に対処しながら、分散的なリスク・テークときめ細かいリスク管理を通じて、お客様の投資目標の達成に務めて参ります。

ビデオ等関連コンテンツ

PIMCOの投資プロフェッショナルが語る

長期経済予測会議での結論が、ポートフォリオにどう反映されていくのをご説明します

 

2019年長期経済予測:投資家にとっての意味合い

向こう3~5年に投資家は何を期待できるでしょうか。グループCIOのダン・アイバシンとグローバル・エコノミック・アドバイザーのヨアヒム・フェルズが、向こう3~5年の経済及び市場の状況と投資家が考慮すべきことについて論じます。


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PIMCOの運用プロセス

PIMCO長期経済予測会議のプロセス

PIMCOのトップダウンとボトムアップの観点に基づく独自の運用プロセスでは、新しい考え方や異なる視点を積極的にとり入れています。年1回開催する長期経済予測会議(セキュラー・フォーラム)では、向こう3~5年間のトレンドを予想し、ポートフォリオのポジションを構築する枠組みを提供しています。

1982年以来、PIMCOの投資プロセスの目玉となっている長期経済予測会議(セキュラー・フォーラム)は、向こう3~5年間の世界経済や金融市場を方向づける主要な経済および政治要因を明らかにすることを目指しています。世界的に著名な学界の第一人者、政策立案者、その他の外部専門家の協力を得ながら、世界中に散らばるPIMCOの投資プロフェッショナル数百人が、厳格で活発な討論に貢献します。PIMCOでは最近、最新テクノロジーを導入し、デジタル・コラボレーション・ツールを通じて世界各地からの参加を強化しました。これによりリアルタイムでの世界的な交流が可能になり、社内の幅広く深い知見をフル活用しながら、既存の考え方を問い直す能力が向上することになります。

PIMCO長期経済見通し「創造的破壊」の主なポイント 

PIMCOの運用プロセス

優れた運用成果を実現するには、第一に準備が必要であると考えています。PIMCOの投資プロセスによって、将来を見据えた革新的なソリューションをお客様に提供するために、世界の変わりゆくリスクと投資機会を継続的に評価することが可能になります。

2019年PIMCO長期経済予測会議(セキュラー・フォーラム)ゲスト・スピーカー略歴

ジャネット・イエレン

イエレン博士は、ブルッキングス研究所ハッチンス財政・金融センター専属の特別研究員。米連邦準備制度理事会(FRB)元議長。

アダム・トゥーゼ

トゥーゼ博士は、コロンビア大学のキャサリン・シェルビー・カラム・デイビス歴史学教授および欧州研究所所長。著書に“Crashed: How A Decade of Financial Crises Changed the World” (「クラッシュ――金融危機の10年は世界をどう変えたか」) (2018)、“The Deluge”(「大洪水」)(2015)、“Wages of Destruction”(「破壊の賃金」)(2008)がある。

ウルリケ・マルメンディア

マルメンディア博士は、ハース・ビジネス・スクールのエドワードJ・モリー・アーノルド、ファイナンス教授で、カリフォルニア大学バークレー校の経済学部教授。全米経済研究所(NBER)のリサーチ・アソシエイト、IZAのファカルティ―・リサーチ・フェロー、独CESifoifo研究所のアフィリエイト、経済政策研究センター(CEPR)のリサーチ・アソシエイトでもある。

マラ・ガオンカル

ガオンカル氏は、投資会社ローン・パイン・キャピタルの共同ポートフォリオ・マネージャーであり、クリントン・ヘルス・アクセス・イニシアチブ(CHAI)理事。アリアドネ研究所、エリザベス女王技術賞、サーゴ財団の創設理事。さらに、英エコノミストの諮問委員会のメンバーであり、ランド研究所と英テートの評議員。

リセ・キンゴ

キンゴ氏は、世界最大の企業の持続可能性イニシアチブである国連グローバル・コンパクトのCEO兼事務局長。これまでに、デンマークの大手製薬会社ノボノルディスクのチーフ・オブ・スタッフ、上級副社長、エグゼクティブ・マネジメント・チームのメンバーを務めた。

PIMCOグローバル・アドバイザリー・ボード

PIMCO では、外部の専門家を招聘しその知見を共有してもらうことで、グローバルな経済・市場を形成する動向について、異なる視点を積極的に取り入れるよう日々努力しています。

Featured Expert

Ben Bernanke 

米連邦準備制度理事会(FRB)元議長

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Featured Expert

Joshua Bolten 

ビジネスラウンドテーブル社CEO/社長

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Featured Expert

Gordon Brown 

英国元首相および英国元財務大臣

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Featured Expert

Ng Kok Song 

シンガポール政府投資公社(GIC)元グループ最高投資責任者(CIO)

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Featured Expert

Anne-Marie Slaughter 

新アメリカ財団(New America Foundation)理事長兼最高経営責任者(CEO)

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Featured Expert

Jean-Claude Trichet 

欧州中央銀行前総裁

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アドバイザリー・ボード外部の定例参加者

Featured Expert

Richard Thaler 

シカゴ大学ブース・スクール・オブ・ビジネス 経済学・行動科学専門特別教授

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Featured Expert

Robert Arnott 

リサーチ・アフィリエイツ創業者、会長

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Featured Expert

Gene Sperling 

Sperling Economic Strategies社長、 元米国家経済会議(NEC)委員長

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