長期経済展望

急変に備えて

PIMCOでは、金融危機後の局面が終焉するとともに市場環境が一段と困難になり、多くの投資家にとって予期せぬ出来事が生じると予想しています。今後の投資機会を見据えてポジションを構築すべきタイミングです。

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金融危機から10年が経過した今、世界の経済と金融市場は、劇的な変化が生じうる新しい時代を迎える可能性があります。変化が生じれば、今後の10年間はこれまでの10年間とは大きく異なる姿となるでしょう。危機後と同じような展開が続くと想定している投資家は、一連の予期せぬ出来事に直面する可能性があります。PIMCOでは、先行きの難局に備え、実際に市場に混乱が生じた場合に攻めの姿勢に転じることを可能とするポジションを構築したいと考えています。

金融危機後のグローバルな環境の特徴として、(規制や中央銀行による大規模な金融政策を通じた)金融抑圧、総じて受動的かつ抑制的な財政政策、生産性と実質賃金の伸び悩み、インフレの低迷、制約の小さい貿易および資本のフロー、マクロ経済と市場のボラティリティの低位安定、などが挙げられます。その一方で、各国の総債務残高は増加し続けています。

長期的には、よかれあしかれ、マクロ環境は大きく変化すると予想しています。すでに重要な変化が進行しています。中央銀行が緩和を縮小する一方で財政政策が拡張的になるなど、金融政策と財政政策のポリシー・ミックスは変わりつつあります。また、規制の注目が金融セクターからITセクターにシフトしていることに加えて、経済のナショナリズムや保護主義が台頭しています。

実体経済が危機後の低迷から持続的に脱却するシナリオとして、企業投資の拡大を受けて新技術の普及がようやく加速する結果、生産性が大きく伸びるという展開が考えられます。もっとも、潜在成長率の上昇に合わせて実質金利が上昇する可能性は高いでしょう。

また、PIMCOは向こう3~5年の間に次の景気後退局面を迎えると予想しますが、その際に(またはその後に)生じるもう1つのシナリオとして、ポピュリズムの動きがこれまで以上に先鋭化することが挙げられます。その影響は所得と富の抜本的な再配分、保護主義への傾斜、主要企業や場合によっては主要業種の国有化、中央銀行の独立性に対する非難、など多方面に波及する可能性があります。

長期的展望を議論するフォーラム

PIMCOでは、5月前半に年次の長期経済予測会議(セキュラー・フォーラム)を開催しました。例年通り、向こう3~5年間の世界経済や金融市場を方向づける主要な経済および政治要因を明らかにすることに焦点が当てられました。

セキュラー・フォーラムでは、集団思考を回避して視野を広げるために、6名の著名なゲスト・スピーカーを招くとともに、MBAやPhDを取得したばかりの新入社員から斬新な意見を取り入れました。また、グローバル・アドバイザリー・ボードのメンバーも交えて、世界各地から集結したPIMCOの投資プロフェッショナルが活発な議論を展開しました。今回は、過去5年間にわたってセキュラー・フォーラムを取りまとめるとともに、今回も議題を準備したPIMCOのグローバル戦略アドバイザーのリチャード・クラリダが不在でした。クラリダは先日、米連邦準備制度理事会(FRB)の副議長に指名されたところです。

議論を始めるにあたり、昨年5月のセキュラー・フォーラムでの結論を簡単に振り返りました。昨年は、世界経済において、金融政策、財政政策、通商政策、外交政策、為替政策という5つの政策が長期的に重要な転換点を迎えると予想しました。2016年のセキュラー・フォーラムのテーマとなった「安定的だがその持続性には懸念」が残る世界において、これら5つの政策の転換点が市場にとって試練となり、リスクの再評価につながる可能性があります。実際、昨年5月のセキュラー・フォーラム終了後の1年を振り返ると、5つの政策すべてにおいて重要な変化がすでに確認されています。

  • FRBがバランスシートの縮小に着手する一方で、欧州中央銀行(ECB)は資産買い入れプログラムの終了に一歩近づいた。また、日本銀行は国債買い入れ額を減らし、他の複数の中央銀行は利上げを実施した。
  • 米国政府は今後数年にわたって減税と連邦政府支出の増加を実施する方針を示すなど、大規模な財政拡大政策に乗り出した。
  • 主要国間の貿易摩擦が深刻化するなか、全面的な貿易戦争に発展する懸念が浮上した。
  • 中東および朝鮮半島における地政学リスクが大きな注目を集めた。
  • 2017年は米ドルが予想以上に大幅に下落した。

足元では、これらの政策の転換が部分的に影響する形で、米金利の上昇、米ドルの反発、各国固有の要因が、エマージング市場の資産に下押し圧力を加えています。とはいえ、エマージング市場の多くの分野においては、長期的な投資環境は引き続き総じて良好です。

要約すると、2016年と2017年のセキュラー・フォーラムにおけるテーマがすでに実現し始めており、向こう数年間にさらに進展する可能性があります。また、過去1年間の経済政策、地政学リスクの状況、金融市場の動向は、議論の材料を数多く提供するとともに、長期および超長期の見通しに関して新たに重要な疑問を投げかけています。

PIMCOの長期的な基本シナリオでは景気後退入りも想定

始めに、米国経済は向こう3~5年間に景気後退入りする公算が大きく、その影響は多くの国に波及するという現在の基本シナリオを再点検しました。生産性の伸びが上向く一方で財政政策の効果が限定的となった場合、インフレ圧力は抑制されて大幅な金融引き締めが回避され、結果的に向こう5年間も緩やかな景気拡大が継続する、というシナリオについても議論しました。しかしながら、以下のいくつかの理由により、この穏健なシナリオの実現は容易ではないでしょう。

第1に、米国において、2020年に追加刺激策が導入されなければ、2018~2019年の財政刺激効果の減退が離脱症状につながり、循環的な景気の減速に拍車をかける恐れがあります。

第2に、失業率がすでに4%を下回るタイミングで財政刺激策が導入される結果、景気が短期的に過熱する恐れがあります。さらに、2020年の大統領選を見据えて、今年11月の米国中間選挙の結果次第では、公共インフラ投資および/または減税の恒久化という形で財政政策が追加的に緩和される可能性もあります。これはPIMCOの基本シナリオではありませんが、実現した場合には過熱感がさらに高まるでしょう。

第3に、財政政策に起因して過熱感が生じれば、FRBは政策金利を中立的な水準を大きく上回る水準へと引き上げる可能性があります。インフレ率が政策目標を20~30ベーシス・ポイント以上上回る状態が長期化することを、FRBは許容しない構えのようです。過去のサイクルでは、このような利上げは首尾良く行かない傾向がありました。

第4に、これはPIMCOの基本シナリオとは異なりますが、米国とその他の多くの国々の間の貿易摩擦が全面的な貿易戦争に発展し、消費者のマインドや企業のアニマル・スピリットを悪化させる可能性が、明確に存在しています。あるフォーラムの参加者が指摘したように、現在の貿易摩擦は「プロレス」のようなものであり、行動よりも威嚇の側面が強いショーであるとはいえ、本質的には参加者が怪我を負いかねない危険な行動と言えるでしょう。

浅いながらも長期化し、より高いリスクが伴う景気後退局面

PIMCOがフォーラムに先立ちセルサイドのエコノミストおよびストラテジストを対象に行なったアンケートでは、米国経済が向こう3~5年間に景気後退入りするとの見方がコンセンサスとなっていました。もっとも、リスク・スプレッドとボラティリティを見る限り、市場ではこのリスクは織り込まれていないようです。このためフォーラムでは、より興味深い論点として、次の景気後退局面の長さと深刻さ、そして考えられる政策対応について検討しました。これらはいずれも想像の域を出ませんが、深刻ながら短期間で終了する「V字型」の景気後退ではなく、軽微ながら長期化する「中華なべ型」の景気後退になるとの見方が優勢でした。

  • 浅めの景気後退にとどまる理由として、米国経済において企業や住宅の過剰投資や家計の過剰消費の兆しが現時点で確認されないことと、過去数回のサイクルと比べて世界の金融セクターがより安定している様子であることが挙げられます。この見解に対する主なリスクは、非金融系企業の財務レバレッジの高さであり、当初は浅めの景気後退だったとしても深刻な企業破綻のサイクルにつながるリスクが高まります。
  • 景気後退が長期化する理由として、金利水準が比較的低いこと、中央銀行のバランスシートが肥大化していること、(米国では)財政赤字の拡大を受けて世界的な景気後退に対処するための政策対応余地が限られていることが挙げられます。さらに、経済のナショナリズムや保護主義の広がりを踏まえると、景気後退が貿易の反グローバル化や通貨戦争を加熱させ、結果として、パイがさらに縮小する可能性があります。
  • 加えて、次の景気後退局面には、戦後の標準的な景気後退局面よりも高いリスクを伴う恐れがあります。その理由として、大方の国ではインフレ期待がすでに極めて低いこと、ユーロ圏の構造的な脆弱性が顕在化しかねないこと、景気後退によって富の再配分や没収を志向するポピュリズムが台頭するリスクが高まることが挙げられます。

より困難な環境が待ち受ける

この先数年間の景気サイクルの変化は、過熱化するかどうか、景気後退入りするかどうか、どの国がどのような景気後退局面に陥るのかを含めて、重要なポイントです。フォーラムでは、より広範な投資への意味合いを鑑みて検討すべき問題が存在するとの結論に至りました。

金融危機後のグローバル経済の特徴として、(規制や中央銀行による前例のない金融政策を通じた)金融抑圧、総じて受動的かつ抑制的な財政政策、生産性と実質賃金の伸び悩み、インフレの低迷、制約の小さい貿易および資本のフロー、ボラティリティの低位安定、などが挙げられます。その一方で、グローバルな総債務残高は増加し続けています。

長期的には、よかれあしかれ、マクロ環境は大きく変化すると予想しています。

長期的には、よかれあしかれ、マクロ環境は大きく変化すると予想しています。すでに多くの変化が進行しています。多くの中央銀行が危機後の金融政策の巻き戻しに着手する一方で、財政政策は拡張的になっています。また、規制の注目が金融セクターからITセクターにシフトしていることに加えて、多くの地域では、右派による経済のナショナリズムや保護主義の動きが勢いを増しています。

フォーラムでは、PIMCOの長期的な時間軸において大きな変化を生じさせうる数多くの要因の中で、生産性、財政政策、経済のナショナリズムやポピュリズムが現在よりも極端な形で発現する可能性に注目しました。

第1に、生産性について、一部の参加者は、数年にわたる低調な推移の後に平均回帰の動きが生じる見通しを提示しました。完全雇用状態に近い米国経済において職場でのトレーニングが実施されることなど、短期的な要因も寄与する見通しです。また、技術革新による効率性の向上によって、生産性と潜在成長率がより持続的に押し上げられる結果、自然実質金利がいずれ上昇するとの予想も聞かれました。しかしながら、セキュラー・フォーラムでも議論されたように、このような生産性の改善には時間がかかり、向こう3~5年間というよりも超長期的な時間軸において意味をなす可能性が高いとみられます。現在は、人工知能や機械学習がより広範な経済活動に広がる初期段階であるように思われます。長期的な時間軸において生産性に対して楽観的になるためには、まずはこの先数年間に投資支出が大きく増加する必要があります。

第2に、世界的に拡張的な財政政策や公共支出に前向きな姿勢が広がれば、世界の民間セクターにおける投資に対する貯蓄の超過分の一部または全部が相殺され、低インフレ、低金利という現在の状況を揺るがす可能性があります。これまでのところ、主要国の中で大規模な財政刺激策に踏み切ったのは米国だけであり、その効果はこの先数年間にわたって顕在化する見通しです。その結果、世界的な貯蓄余剰状態が解消されることはないにしても、2020年の米国大統領選を控えて更に追加的な刺激策が採用される可能性や、他の国が米国に追従する可能性は存在します。

長期的な時間軸では、特に景気後退局面が到来した場合には、ポピュリズムの動きが再び強まるリスクが高いでしょう。

第3に、前述の議論と関連して、長期的な時間軸では、特に景気後退局面が到来した場合には、ポピュリズムの動きが再び強まるリスクが高いでしょう。その影響は、グローバル化およびデジタル化というゲームの勝ち組から負け組への所得と富の再配分、保護主義への傾斜、主要企業や場合によっては主要業種の国有化、中央銀行の独立性への非難、など多方面に波及する可能性があります。富裕税の賦課、所得税の累進性の強化、場合によっては紙幣発行で調達された一律のベーシック・インカムの導入が実現する状況を想定してみてください。また、米国、英国、欧州において左派のポピュリズムが定着すれば、経済成長率の低下とインフレ率の上昇を招く公算が大きいでしょう。一方、合理的な再配分政策が実質所得を下支えするとともに、デジタル化やグローバル化の流れから取り残された人々に対して職業訓練や雇用が提供されるのであれば、経済には(可能性が高くはないにせよ)潜在的なアップサイドが存在することにも留意すべきでしょう。

中国、米国、トゥキディデスの罠

地政学リスクも、不都合なサプライズの要因になりうるでしょう。フォーラムでは、グローバル・アドバイザリー・ボードからアドバイスを仰ぎつつ、中国が積極姿勢を強めた場合の地政学的な意味合いについて議論しました。2035年までに先進国並みの所得水準に、人民共和国誕生100周年に当たる2049年までに「完全な先進国」のステータスに到達するという明確な長期目標を掲げた強力な指導者が主導するシナリオです。新興勢力(紀元前5世紀末のアテネ、19世紀末のドイツ、現在の中国など)が支配勢力(当時のスパルタ、大英帝国、現在の米国など)に対する脅威を増し、衝突する「トゥキディデスの罠」が生じるリスクを指摘する声が数多く聞かれています。「トゥキディデスの罠」は不可避ではありませんが、米国が貿易、知的財産、国防の分野における地位をより積極的に維持しようとするなかで、中国が世界的な経済軍事大国にのし上がる結果として生じうる緊張関係は、不確実性を生み出し、PIMCOの長期的な時間軸において問題の火種となりうるでしょう。

一方、プラス要因として、中国では結束を強めた強力な指導部が国有企業に対する影響力を取り戻すとともに、資本フローを抑制しているため、中国発の世界的なシステミック・ショックが生じる可能性が低いことを指摘しました。また、中国の指導部が長期的な観点に立っているのに対して、大統領選挙のサイクルを念頭にトランプ政権はより短期的なテーマに注力しているため、知的財産権のより適切な保護を含む「従来より公正で自由な貿易関係」が構築され、米国が短期的な目標を実現すると同時に中国が長期的な目標を追求することが可能になる公算は大きいでしょう。とはいえ、米国の政策には予測不能な側面が依然として大きく、また、国内では競争相手が不在で権力を完全に掌握する中国の指導者が、意図せざる政策判断ミスを犯すことも考えられます。

長期的な投資への意味合い

セキュラー・フォーラムは、PIMCOの投資プロセスにおいて長年にわたり中心的な役割を担い、投資戦略において長期的な視野を取り入れ、反対意見を歓迎し、投資のガードレールを設定する役割を果たしてきました。PIMCOでは、向こう3~5年間の展望として、2008年の金融危機以降の状態が継続するとは想定していません。より困難な環境に備えるとともに、予期せぬ出来事が顕在化した場合に攻めの姿勢に転じられるような体制を整える方針です。

確かに、安定的な状況が今後3~5年間にわたって続くことも考えられます。しかしながら、道のりは困難になると予想されます。バリュエーションが割高となり、落し穴やアクシデントが随所に潜むなかでは、対策を施す余地が非常に小さくなるでしょう。足元の回復局面では、中央銀行による政策支援が後退し、米国を中心に多くの中央銀行が引き締めに転じています。金融政策に対する予測可能性が低下し、市場に優しい中央銀行の姿勢が場合によって後退すれば、時間の経過とともにボラティリティが上昇する可能性があります。数十年間にわたって賃金が伸び悩んだ後に、インフレ圧力が上昇すれば、より困難度合いが増すでしょう。

過去10 年間は、金融資産は実体経済を大きくアウトパフォームしてきましたが、今後10 年間は、この関係が逆転することも十分に考えられます。

2008年の金融危機以降、政策当局の対応が迅速だったため、経済にとっての悪材料が金融資産にとっての好材料として解釈されるケースが頻繁に見られました。しかしながら、このような「価格下落は投資の好機」という考え方は長続きしない可能性があります。過去10 年間は、金融資産は実体経済を大きくアウトパフォームしてきましたが、今後10年間は、この関係が逆転することも十分に考えられます。

長期的には、経済にとっての好材料と悪材料は、予測外の形で市場に影響する可能性があります。たとえば、ポジティブなリスクとして、生産性の伸びが急速に拡大することが考えられます。一方で、実体経済における生産性の改善は金利の上昇を引き起こし、債券市場や株式市場において、多くの投資家に打撃を与える恐れがあります(ただし、PIMCOがたびたび指摘してきたように、金利上昇局面は、短期的には痛みを伴う可能性があるとしても、長期的な債券投資家にとっては必ずしも懸念材料ではありません)。

同時に、PIMCOの向こう3~5年間の基本シナリオでは、米国経済の景気後退入りが想定されており、その場合、世界経済と金融市場には多大な影響が波及すると予想しています。経済的なナショナリストやポピュリストによる圧力が増幅する可能性があります。中央銀行は再び救済に乗り出すかもしれませんが、そうした環境では中央銀行の独立性に対しても新たな脅威があるかもしれず、その帰結は予測不可能です。

経済、市場、政治の先行きを正確に予想することは不可能であり、また、右派および左派のポピュリズムの動きに伴うリスクを定量化することは容易ではありません。しかしながら、1つのバスケットに大量の卵を入れるようなリスクに備えることは可能です。先行きが安定するという見通しに過度に傾斜すると、このようなリスクが顕在化する恐れがあります。また、ポートフォリオにおいて、ダウンサイドやアップサイドのリスクやサプライズに対応する柔軟性を維持するよう努めることも可能です。たとえば流動性が高い短期投資商品の保有を増やすことによって柔軟性を確保した場合、利回りのアップサイドの一部が犠牲になる可能性があります。

PIMCOでは、幅広い戦略において、ポートフォリオを慎重に構築する一方で、インカムの必要性などお客様の目標の実現に引き続きコミットして参ります。戦術的、構造的に優れたアイデアを見出し、これを活用するとともに、企業クレジットに過度に依存することなく、可能な限り幅広い投資機会の中からインカムを創出する方針です。

柔軟性

多くの市場で、割安感が低下する一方でボラティリティが上昇しているなか、PIMCOの幅広い資産を対象とする柔軟な戦略は長期的に強みを発揮するでしょう。PIMCOでは世界の幅広い選択肢の中から選りすぐりの投資機会にアクセスし、各種の国債およびスプレッド商品を対象に分散を図ることができます。また、世界的に政策や政局が不透明なため、リスクを管理しながら非常に魅力的な投資機会を模索するための、グローバルなリサーチ体制の充実がより重要になるでしょう。

現在の景気拡大局面が最終段階に入り、マクロ経済や金融市場において「短期的なオーバーシュート」と「長期的な転換」を区別することが、一段と難しくなっています。市場のバリュエーションは判断ミスをする余地のない水準にきており、経済指標の変化が比較的小幅であるなか、短期的にオーバーシュートが生じる余地が潤沢に存在しています。市場の幅広いセクターにおいて、このような短期的なオーバーシュートや経済指標の「フェイント」が、取引機会を生むことも考えられます。

ESG投資

PIMCOでは引き続き、アクティブ運用のプロセスの中核に、環境、社会、ガバナンス(ESG)の要素を積極的に取り入れる方針です。ESGの要素は、社債、証券化商品、ソブリン・リスクを評価する上で重要な構成要因です。米国および全世界を対象とする特化型のコアESG戦略を立ち上げ、今後もESG戦略の提供を一層拡大する計画です。ESGは、お客様の目標を実現するとともに、投資プロセス全体を強化する目的において、PIMCOの分析能力や発行体とのリレーションを最大限に活用する分野になるでしょう。

低水準の均衡政策金利が世界の債券市場をつなぎとめる、「ニュー・ニュートラル」の枠組みが有益な指針になると、引き続き予想しています。

デュレーション、ボラティリティ、カーブ

米国の財政赤字拡大と国債供給増加の見通しをおそらく主因として金利が上昇するなかで、PIMCOでは、今年3月の短期経済予測会議(シクリカル・フォーラム)における議論の延長として、低水準の均衡政策金利が世界の債券市場をつなぎとめる、「ニュー・ニュートラル」の枠組みが有益な指針になると、引き続き予想しています。高齢化の進行、高水準の債務残高、生産性の低さ、世界的な過剰貯蓄の状態を踏まえると、実質金利、名目金利とも大きくは上昇しない見通しです。同時に、生産性の伸び、財政政策、経済のナショナリズムやポピュリズムのより極端な形での顕在化を、重要な波乱要因として捉えています。このため、各国の債券利回りがおおむねレンジ圏内で推移するという見通しと、フォワードのイールドカーブに対する上振れリスクと下振れリスクがほぼ均衡しているという見方を踏まえ、ポートフォリオではデュレーションをベンチマーク並みとする方針です。

PIMCOでは基本的に、各国の債券利回りの水準はおおむね安定的であるとみているものの、見通しの不確実性の高まりと中央銀行によるボラティリティの抑制効果が低下するという見方に鑑みると、債券市場のボラティリティは意外なほど低いように見受けられます。実際、FRBが引き締めサイクルを相応に進めた一方で、他の主要な中央銀行の多くは少なくとも金融危機後の政策支援の巻き戻しを図り、一部ではFRBに追従する動きが見られるなど、全般に金融政策はこれまでよりも予測が難しくなる可能性があるとみています。ボラティリティの上昇見通しを踏まえ、通常のボラティリティの環境ではPIMCOのポートフォリオの重要な一部を構成するボラティリティの売り取引への取り組みを、後退させる方針です。一方、ボラティリティの買いを通じて魅力的なリスクとリターンの関係を得ることが可能な、選別した投資機会が浮上する可能性もあります。

PIMCOでは、ボラティリティの上昇を受けてターム・プレミアムとリスク・プレミアムが拡大する結果、イールドカーブはスティープ化すると予想しています。また、実現の如何にかかわらず、インフレ圧力が高まれば、各国のイールドカーブはスティープ化する可能性があります。市場の非効率性を投資機会として捉える構造的な取引に注目するなかで、保険会社や年金基金に対する規制環境の変化に起因して、イールドカーブの長期ゾーンではテクニカルな需要が強いことを認識しています。一方、短期ゾーンでは、デュレーション1単位当たりの利回りやインカムが高い傾向が見受けられます。

実質リターン

米物価連動国債(TIPS)は価格水準が妥当であり、米国のインフレ上振れリスクに対するポートフォリオ・ヘッジとして機能すると考えています。長期的な時間軸において、インフレの急上昇は基本シナリオではありませんが、グローバルに労働市場の需給が逼迫するなかで、インフレの上昇リスクは過去10年間と比べて高まっている印象を受けます。TIPSと同じように、コモディティなどの実物資産にも一定のインフレ・ヘッジ効果が期待されます。

クレジット市場

PIMCOでは、金融危機後の長期的回復の最終局面にさしかかり、クレジット投資に際しては選別姿勢を強めるべきであると考えています。PIMCOがクレジット投資に対して総じて慎重な姿勢をとる根拠として、すでに大量の資金が流入したこと、企業の財務レバレッジが上昇していること、この10年間に短期年限の流動性資産の利回り低下を背景にクレジット市場へと向かわざるをえなかった多くの資産配分決定者にとって、この先数年間に短期投資の魅力が回復する見通しであることが挙げられます。

引き続き、ジェネリックな投資適格債とハイイールド社債に対するエクスポージャーは抑制し、グローバルなクレジット・ポートフォリオ・マネージャーとアナリストのチームが提供する魅力的なボトムアップの投資機会を重視する方針です。全般に企業のクレジット・リスクを削減し続ける一方で、短期のエクスポージャーや、デフォルト確率の低い「曲がっても折れない」社債およびストラクチャード商品のポジションを重視する方針です。また、構造的にシニアであり、実物資産に裏付けられた米国の住宅市場に関連する商品は、引き続き魅力的であると考えています。より一般的に、市場環境が一段と困難になった場合には、商業用不動産、金融、住宅などの規制が大幅に強化されたセクターは底堅さを発揮する可能性が高いのに対して、他の業種では、現在のバリュエーションが示唆するよりもボラティリティが高まる恐れがあります。

長期的に中央銀行の行動に関する不確実性が高まることを踏まえて、リスク・リターン特性が安定的で、中央銀行による政策支援に過度に依存しない投資機会に注目する方針です。

ユーロ圏における投資機会

長期的に中央銀行の行動に関する不確実性が高まることを踏まえて、リスク・リターン特性が安定的で、中央銀行による政策支援に過度に依存しない投資機会に注目する方針です。その意味で、ユーロ圏の周縁国のリスクに対しては、特に慎重な姿勢を維持する方針です。周縁国はECBに強く依存していること、ECBの今後の方向性が不透明であること、直近のユーロ圏危機の後に目立った制度改革が実行されなかったため、次のユーロ圏の景気後退局面では周縁国ソブリンおよびユーロ圏全体の根本的な脆弱性が再び顕在化すると予想されることが、背景にあります。ユーロ圏の基準からすればまずまずの経済成長があるなかで、ポピュリスト政党の台頭は、ユーロ圏におけるポピュリスト・リスクのまさに直近の例といえます。景気が減速すれば、政治リスクは増大すると予測します。

為替市場

米ドルはG10通貨(米ドルを除く)に対して総じて均衡した水準にあるとみています。背景要因として、各市場のバリュエーションに目立った違和感が存在しないことや、米国において、金利や成長力の格差に起因するドル高圧力と、双子の赤字(経常赤字と財政赤字)に由来するドル安圧力が均衡していることが挙げられます。

エマージング市場

エマージング市場では、PIMCOのスペシャリスト・チームのリサーチに基づき、幅広い国、業種において投資機会を見出していく方針です。固有のリスク、米国の政策金利や米ドルの方向性、短期的な不確実性と潜在的な先進国市場のボラティリティ上昇が、これまでと同様に、エマージング市場の投資と向かい合う上で重要になるでしょう。その一方で、ニュー・ニュートラルな環境が継続する見通しや、政策金利や先進国市場における各種利回りの全般的な低さが、エマージング市場の資産を下支えするとみられます。

困難な投資環境が想定されるものの、アクティブ運用者として有望な投資機会を見出していきます。

アクティブ運用のアプローチ

PIMCOでは、各セクターにおける足元のバリュエーションを踏まえ、2008年の危機以降の回復局面と比べて、名目リターンは全般に低くなると予想しています。困難な投資環境が想定される一方で、アクティブ運用者にとって魅力的な投資機会が浮上すると予想しています。ベータに由来する市場リターンが低下するため、堅固で確立された投資プロセスと精緻な分析をベースに得られるアルファが、トータルリターンの中で重要性を増すと予想しています。

プライベート投資

引き続き、流動性の低さと複雑性の高さから得られるプレミアムは魅力的であり、PIMCOの幅広い運用戦略の多くにおいて、有望な投資機会を提供するでしょう。なかでも、プライベートな投資手段においては、適度なロックアップ期間を設定することによって、景気サイクルの方向性如何によらず長期にわたって潜在的なリターンを獲得する機会、ならびに、規制環境の変化によって生じている金融システムの隙間を好機として捉えていく機会を提供するでしょう。PIMCOでは、金融危機後に特に規制が強化された市場のセグメントには、この先数年間も有望な投資機会が生じるとみています。また、ボラティリティの上昇や政治環境の不確実性を背景に、不動産やクレジットの分野で興味深いプライベート投資の機会が台頭することも考えられます。エマージング市場ではボラティリティが高止まりする公算が大きく、ポートフォリオの分散を図る魅力的な可能性が生じるでしょう。

不確実性を増すファンダメンタルズの状況と、センチメントの変化に伴い大規模な資金フローの転換が生じやすい需給環境を背景に、市場では引き続きオーバーシュートが生じやすいため、大方のセクターでは、なかでもプライベート投資の分野では、現金に類する資産の保有を増やすことが賢明であると考えています。PIMCOはプライベート・クレジットの運用体制を構築しました。今後も慎重に運用を進める方針です。プライベート・クレジットは敏捷性と注意深さが必要な分野であり、PIMCOの伝統的な債券戦略を補完し、分散を図るための魅力的なツールであると考えています。

ビデオ・コメンタリー

インベストメント・コミッティーの議論

長期経済予測会議の結論がPIMCOのポートフォリオの構成にどのように影響するのかについて、ご説明します。

PIMCOの2018年長期経済見通しの投資への意味合い

グループ最高投資責任者(CIO)のダニエル・アイバシンが、PIMCOが長期マクロ経済見通しを踏まえてポートフォリオをどのように構築するのかについて、ご説明します。

PIMCOのプロセス

PIMCOを支える多様な視点

PIMCOのトップダウンとボトムアップの観点に基づく独自の運用プロセスでは、新しい考え方や異なる視点を積極的にとり入れています。年1回開催する長期経済予測会議(セキュラー・フォーラム)では、向こう3~5年間のトレンドを予想し、ポートフォリオのポジションを構築する枠組みを提供しています。

PIMCOの運用プロセス

優れた運用成果を実現するには、第一に準備が必要であると考えています。PIMCOの投資プロセスによって、将来を見据えた革新的なソリューションをお客様に提供するために、世界の変わりゆくリスクと投資機会を継続的に評価することが可能になります。

2018年 長期経済予測会議のゲスト・スピーカー

Erik Brynjolfsson

エリック・ブリニョルフソン氏は、MITデジタル・エコノミー・イニシアチブの責任者であり、MITスローン経営大学院教授、全米経済研究所(NBER)のリサーチ・アソシエイト。情報技術(IT)が事業戦略や生産性、電子商取引、無形資産に与える影響の検証を主な研究テーマにしている。MITで情報の経済学と分析ラボのコースで教鞭を執る。

Stanley Fischer

スタンレー・フィッシャー氏は、米連邦準備制度理事会(FRB)元副議長を務め、2005年から2013年までイスラエル銀行総裁。シティグループ元副会長。IMF元筆頭副専務理事。MIT経済学教授。

Timothy Geithner

ティモシー・ガイトナー氏は、ウォーバーグ・ピンカス社長であり、会社全体の戦略・管理、投資・資産運用、組織構造・資金調達、投資家向け広報を統括。2009年から2013年まで第75代米財務長官。2003年から2009年までニューヨーク連銀総裁。

Dina Powell

ディナ・パウエル氏は、2017年ドナルド・トランプ政権の国家安全保障担当副補佐官。ジョージ・W・ブッシュ政権の広報文化外交担当政務次官。ゴールドマン・サックスでの以前の在籍時には、インパクト投資事業および環境市場グループを統括。2018年3月にゴールドマン・サックスに復帰。

Eswar Prasad

エスワー・プラサード氏は、コーネル大学の貿易政策上級教授兼経済学教授。ブルッキングス研究所の上級研究員で、国際貿易・経済に関する新世紀委員会の委員長を務める。また全米経済研究所(NBER)のリサーチ・アソシエイトでもある。IMFでは中国部門の責任者を務めた。

Andres Velasco

アンドレ・ベラスコ氏は、コロンビア大学国際開発・実務教授。チリのミシェル・バチェレ政権における財務大臣。2000年から2011年まで、ハーバード大学公共政策大学院(ケネディ・スクール)にて国際金融・開発担当、住友-FASID特別教授。

PIMCOグローバル・アドバイザリー・ボード

PIMCO では、外部の専門家を招聘しその知見を共有してもらうことで、グローバルな経済・市場を形成する動向について、異なる視点を積極的に取り入れるよう日々努力しています。

Featured Expert

Ben Bernanke 

米連邦準備制度理事会(FRB)元議長

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Joshua Bolten 

ビジネスラウンドテーブル社CEO/社長

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Gordon Brown 

英国元首相および英国元財務大臣

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Ng Kok Song 

シンガポール政府投資公社(GIC)元グループ最高投資責任者(CIO)

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Anne-Marie Slaughter 

新アメリカ財団(New America Foundation)理事長兼最高経営責任者(CEO)

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Jean-Claude Trichet 

欧州中央銀行前総裁

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アドバイザリー・ボード外部の定例参加者

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Robert Arnott 

リサーチ・アフィリエイツ創業者、会長

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Gene Sperling 

Sperling Economic Strategies社長、 元米国家経済会議(NEC)委員長

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ご留意事項

過去の実績は将来の運用成果を保証または示唆するものではありません。

全ての投資にはリスクが伴い、価値は下落する場合があります。債券市場への投資は市場、金利、発行体、信用、インフレ、流動性などに関するリスクを伴うことがあります。ほぼ全ての債券及び債券戦略の価値は金利変動の影響を受けます。デュレーションの長い債券及び債券戦略は、より短い債券及び債券戦略と比べて金利感応度と価格変動性が高い傾向にあります。一般に債券価格は金利が上昇すると下落し、現在のような低金利環境ではリスクが高まります。債券取引におけるカウンターパーティーの取引能力の低下が市場流動性の低下や価格変動制の上昇をもたらす可能性があります。債券への投資では換金時に当初元本を上回ることも下回ることもあります。社債には、発行体が元利金の支払い不能に陥るリスクがあります。また社債の価格は金利感応度や発行体の信用力に対する市場の認識、市場の全般的な流動性といった要因の影響により、変動する可能性があります。政府が発行する物価連動債(ILB)は、元本価値がインフレ率に連動して定期的に調整される債券です。実質金利が上がった場合、物価連動債(ILB)の価値は減少します。インフレ連動国債(TIPS)は、米国政府が発行する物価連動債(ILB)です。外貨建てあるいは外国籍の証券への投資には投資対象国の通貨価値の変動や経済及び政治情勢に起因するリスクを伴うことがあり、新興成長市場への投資ではかかるリスクが増大することがあります。為替レートは短期間に大きく変動する場合があり、ポートフォリオのリターンを減少させる可能性があります。高利回りで低格付けの証券はより高格付けの証券よりも高いリスクを伴います。また、それらへ投資しているポートフォリオは投資していないポートフォリオに比べてより高いクレジット・リスクと流動性リスクを伴う場合があります。コモディティは市場、政治、規制、自然などの条件により高まるリスクを伴い、全ての投資家に適しているとは限りません。不動産及び不動産に投資するポートフォリオの価値は損害または収用、地域経済または経済全般の状況の変化、需給、金利、固定資産税率、家賃に関する規制、都市計画法また運営費などにより変動します。プライベート投資は高いリスクを内包しています。投資をお考えの場合には、これらの戦略が、運用に関して流動性を必要とせず、投資元本すべての損失の可能性を含む経済的リスクに耐えうる、十分な金融手段を保有している投資家にのみ適している点にご留意ください。社会的責任投資は、定性的で主観的な性質上、PIMCOが活用する基準や行使する判断が、特定の投資家の見解や価値を反映することを保証するものではありません。責任ある行動についての情報は、自発的な発表や第三者による報告から得たものであり、正確性や完全性を欠いている可能性がありますが、PIMCOはこうした情報に基づいて、企業の責任ある行動へのコミットメントや執行を評価しています。社会的責任の規範は、地域によって異なります。社会的責任投資の投資戦略や手法の成功が保証されているわけではありません。マネジメント・リスクとは、PIMCOが用いる投資手法およびリスク分析が望んだ結果を生まないリスク、また、政策や変更等が戦略の運用においてPIMCOが利用可能な投資手法に影響を及ぼしうるリスクを指します。分散投資によって、損失を完全に回避できるわけではありません。

本資料で言及した投資戦略が、あらゆる市場環境においても有効である、またはあらゆる投資家に適するという保証はありません。投資家は、自らの長期的な投資能力、特に市場が悪化した局面における投資能力を評価する必要があります。 投資判断にあたっては、必要に応じて投資の専門家にご相談ください。

本資料には、本資料作成時点でのPIMCOの見解が含まれていますが、その見解は、予告なしに変更される場合があります。本資料は情報提供を目的として配布されるものであり、投資助言や特定の証券、戦略、もしくは投資商品の推奨を目的としたものではありません。本資料に記載されている情報は、信頼に足ると判断した情報源から得たものですが、その信頼性について保証するものではありません。