初にお断りしておきますが、私は2020年に景気が後退すると実際に予想しているわけではありません。数年先の景気循環の波を予想することなどできないのは、皆さんよくご存知だと思います。6カ月から12カ月先ですら、正確に景気後退入りを宣言するのはきわめて難しく、ほとんどのエコノミストは景気が後退し始めてから予想しているのが実情です。PIMCOでは、我々のビジネスには謙虚さが必要不可欠であるとの認識から、四半期ごとに真摯に短期見通しを見直しています。エコノミストは、後講釈については名人ですが、予想にかけては見習いに近いと言えるでしょう。

では、なぜ「2020年の景気後退」というタイトルにしたのでしょうか。1つは、景気後退のリスクについて、小論をお読みいただきたいと考えたからですが、より重要な理由がもう1つあります。現在、金融市場や専門家の間では、今年後半にも米国の景気が後退する確率がきわめて高いとする予想が増えていますが、私は次の景気後退は2016年ではなく、2020年前後、あるいは、それまでのどこかの時点で起きる可能性がはるかに高いとの見方を変えていないからです。

もちろん、だからといって、今回の景気循環において、向こう6カ月から12カ月の景気後退のリスクが無視できるほど小さい、と言いたいわけではありません。たとえ火星の長期探査から帰還したばかりで、CNBCの経済番組を見たり最近の経済統計を目にしたりする機会がなかったとしても、向こう1年に景気が後退する確率については、無条件に15%前後をみておく必要があります。米国経済は、1945年以降、平均で6年に1回の割合で後退しているのですから。

また、年内に景気が後退し始めるリスクがここ数カ月で上がったとする議論に異を唱えているわけでもありません。その理由は2つあります。まず第1に、重要なのは年初の初期状態ですが、2015年央から年明けにかけて景気の勢いが失われたことは否定できません。米国の国内総生産(GDP)成長率(季節調整済み、年率)は、2014年にはトレンドを上回る2.5%でしたが、2015年は1.9%に、第4四半期だけをみるとわずか1.0%にまで低下しており、2016年はすばらしいスタートを切ったとは決して言えません。やや心強いのは、現時点で入手可能なデータから推計される第1四半期の成長率が1.5%から2.5%のレンジとみられていることですが、これほど早い段階での予想は確かなものとは言えません。更に、初期状態に関する注意点を改めて強調しておくと、失速に近いスピードで航行している経済は、急落するリスクも必然的に高いという点です。

第2に、昨年12月以降、金融状況は引き締まっています。米連邦準備制度理事会(FRB)の9年ぶりの利上げを受けて、株式が売られ、クレジット・スプレッドが拡大し、米ドルの実効為替レートが一段と上昇しています。債券利回りの低下はプラス材料ですが、債券以外の資産クラスの悪化を部分的に穴埋めしているに過ぎません。PIMCO独自の米国金融状況指数(FCI)は、昨年12月初旬以降、50ベーシスポイント近く引き締まっています(図表1を参照)。FRBのFRB/米国マクロ・モデルを使ってシミュレーションをしたところ、仮に現在の状態が続いた場合、今年のGDP成長率は約0.25%剥げ落ちるという結果になっています。しかしながら、この種のモデルは、非線形的な動きを捉えることはできません。そして、非線形の動きは、中国のとっぴな経済政策や結果が読めない米大統領選を思い浮かべていただければわかるとおり、現在のグローバルおよび米国内の不確実性に表れていると言えるでしょう。

 以上を総合すると、景気の勢いの鈍化と金融環境の引き締まりは、年内の景気後退の確率が数カ月前より高まったことを示唆しています。

データに聞く
PIMCOのポートフォリオ・マネージャー、ヴィナヤク・セシャサイーは、7つの経済・金融指標(製造業ISM、鉱工業生産指数、建築許可件数、実質マネーサプライ(M1)、3カ月物から10年物までの米国債の利回り曲線、BBB格債のクレジット・スプレッド、S&P500のリターン)を組み合わせたモデルで、景気後退の確率を予測しています。図表2のように、現時点でこのモデルで予想される6カ月先の景気後退の確率は17%となっていますが、これは、今回の景気拡大局面ではもっとも高いものの、過去の景気後退の直前期と比較すると大幅に低くなっています。

留意すべきなのは、経済指標だけを含んだ派生モデルでは景気後退の確率が低くなる一方、金融関連指標だけを含んだ派生モデルでは確率が高くなる点です。この違いの1つの解釈としては、足元の金融市場が景気後退のリスクを過大に映し出している可能性が考えられますが、金融市場のパフォーマンスの悪化は、金融状況の引き締まりを通じて個人消費と設備投資の悪化に跳ね返る可能性があり、こうしたフィードバック・ループの存在は、景気後退の確率予想モデルに金融指標を含めるべきであることを示しています。

PIMCOの景気後退の確率予想モデルには、もう1つ、エマニュエル・シャレフが開発したニューラル・ネットワーク・システムがあります。このモデルでは、幅広い経済指標や金融指標のなかで、過去の景気後退期の直前と似たパターンを探そうとします。この「ブラックボックス」的な手法の強みは、非線形的な動きを容認し、いかなる理論や先入観を押し付けることなく幅広い情報源からの情報を活用しようとする点にあります。その結果は、従来型の確率予想モデルのそれと似通っており、景気後退の確率は足元で高まっているものの、依然として、過去の景気後退の直前の時期の水準を大幅に下回っています(図表3を参照)。

景気拡大はなぜ終わるのか

ヴィナヤクおよびエマニュエルの計量モデルで確認されるメッセージは、過去の景気後退を引き起こした要因が現時点では見受けられないため、景気後退の可能性は(もちろん、あり得ないとは言えないものの)低いとする私の定性的な分析と一致しています。確かに、今回の景気拡大局面は既に成熟しており、1945年以降の景気拡大期が平均58カ月であるのに対し、現時点で80カ月を数え、尚も更新しています。しかしながら、景気拡大局面は、期間が長くなったからといって終わるわけではありません。通常は、著しい経済の不均衡と行き過ぎた金融引き締めが相俟って景気拡大は終わりを迎えます。そして、現時点の米国には、いずれの兆候も見受けられません。

不均衡の可能性について言えば、2008年の景気後退前の時期のように、家計のバランスシートが圧迫されているとか、個人消費が過剰である、と主張するには無理があります。企業セクターを見てみると、ここ数年、レバレッジ比率は上昇していますが、追加的なレバレッジは、2001年の景気後退の前のように過大な設備投資に回されたわけではなく、主にファイナンシャル・エンジニアリングで使われたものです。顕著な例外は米国のエネルギー・セクターで、シェールブームに乗じて過剰投資が行われ、レバレッジが積み上がった結果不況に陥っていますが、米経済全体の足を引っ張るほど規模は大きくありません。また、これまでのところ、経済全般で賃金および物価の圧力もみられません。むしろ上昇率は、高過ぎるというよりは低過ぎるほどです。要すれば、米経済には、過剰消費、過剰投資、賃金・物価の過熱といった過去の景気後退局面に先立って表れた兆候は、これまでのところ見当たらないのです。

また、過去の景気後退局面では、FRBの過度の引き締めがきっかけとなるのが一般的でしたが、今回はそうした兆候もありません。確かに、振り返ってみれば、2015年初頭から始まったFRBの(当初は口先の)引き締めキャンペーンは間違いだったと言えます。これにより、ドル建て債務を抱えるエマージング諸国の多くの企業が痛手を負い、中国はドルペッグ制の廃止を余儀なくされ、それが世界的な景気減速につながり、ドル高が一段と進み、金融状況が引き締まったのですから。それによって、昨年には米景気が減速し、前述のような弱い初期状態につながったのは確かです。しかしながら、このキャンペーンと昨年12月についに実施された0.25%の利上げが、景気後退の引き金として十分だと主張するには無理があります。さらに、最近の経験を踏まえると、FRBは3月の連邦公開市場委員会(FOMC)での利上げを見送る公算が高く、利上げのペースはこれまで予想されていた以上に緩慢で慎重なものになるとみられます。そして最後になりましたが重要な点として、今年は久しぶりに米国の財政政策が景気に小幅プラスになることを挙げておかねばなりません。

もっともこれらすべてが、大部分の米企業の収益が減退している、という事実を否定するものではありません。この点については、しばらく前から同僚のジェラルディン・サンドストロムとチー・ワンが適切に指摘しています。S&P500に代表される米国の産業界は、世界的な景気、強いドル、エネルギー価格の低迷による打撃を明らかに受けています。しかし、だからと言って、米国経済全体が景気後退に直面しているか否かという問いが、無駄というわけではありません。むしろ、その答えは将来の資産価格にとって極めて重要なものです。景気全般が後退すれば雇用が失われ、失業率が上昇し、それに伴って消費が減退します。企業の債務不履行が相次ぎ、株価は大幅に下落し、クレジット・スプレッドはさらに拡大して、現状でも低い水準にある債券利回りが大幅に低下する可能性があります。景気後退は大いに問題なのです。

結論としては、景気後退の確率を予想する計量モデルでも定性的な分析からも、2016年の景気後退の懸念は行き過ぎているとPIMCOではみています。今年、米国の景気が後退する可能性は、2020年前後に比べてかなり低いと言えます。

著者

Joachim Fels

グローバル 経済アドバイザー

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