央銀行に独立性がなければどうなるか――この長期的な問題について考えてみてください。

PIMCOでは年に1度の長期経済予測会議を終えたばかりですが、この会議では、世界経済に影響を与える要因について話し合い、向こう3年から5年を見通した基本シナリオと、それに対するリスクをまとめます(会議のより詳しい情報は弊社ホームページよりご覧ください。リチャード・クラリダのレポートをはじめ、講演者のリストが掲載されています)。会議の自由な発想と前向きな議論に触発され、本稿では、当たり前とされている現状――中央銀行の独立性について改めて考えてみたいと思います。

中央銀行の独立性は、実効性のある金融政策を遂行するために必要な前提条件として広く受け入れられています。しかしながら、最近の政治情勢と、過去数十年にわたってインフレ率が低下している事実を鑑みれば、この独立性は問い直す余地があるように思われます。仮に問い直したとしても、それは読者がお考えになるような恐ろしいシナリオではありませんので、最後までお読みください。

>最大の敵が高インフレである場合、中央銀行の信認を高め、政治的な干渉を受けることなく苛烈な政策を断行できることから、政府と政治プロセスからの独立は明らかに助けになります。一例が1980年代初めの「ポール・ボルカー不況」であり、大インフレ(グレート・インフレーション)を終息させるのに必要でした。

しかしながら、最大の敵がインフレではなく、デフレ、過剰債務、そして金融危機である場合、つまり2008年以降の世界ではどうでしょうか。迅速にこれらの問題に対処し、最も直接的かつ効率的な政策を実行するうえで(例えばヘリコプター・マネーや、経営難の金融機関の債券や国債の買い入れといった形で公的部門が最後の貸し手の役割を果たすうえで)、中央銀行の独立性の死守が障害になっているとする批判があります。独立した中央銀行は量的緩和(QE)やマイナス金利といった次善の介入策を取らざるをえなかったわけですが、これらの政策は金融市場を歪め、深刻な富の分配の問題を引き起こす可能性があります。実際、中央銀行は2つの面から厳しい批判にさらされています。第1に、次善の政策の効果は不透明でリターンが低下しているとする批判、第2に、意思決定は選挙で国民の負託を受けた政治家に委ねるべきとする批判です。

さほど遠くない過去
中央銀行の独立性は比較的新しい現象であるという事実は、思い起こす価値があると思われます。先進国で中央銀行が金融政策の立案における独立性を獲得したのは、1980年代か90年代になってからである場合がほとんどです。イングランド銀行の創立は1694年ですが、(政府が決定した)2%のインフレ目標を達成するために運営上の独立性を獲得したのは1997年で、創立303年目のことです。中央銀行を独立させる主な根拠としては、インフレ・ターゲティングという金融政策の信認を高めることが挙げられました。インフレ・ターゲティングは、金本位制が崩壊し、1970年代から1980年代初めの大インフレの後、標準的な政策になりました。高水準で変動の激しいインフレ率が経済の最大の敵になったことから、その対策はもっぱらインフレ率を低水準に抑える金融政策に委ねられ、中央銀行が独立している方が任務を遂行しやすかったのです。

しかしながら、金融政策には非対称性があり、中央銀行はインフレを刺激するよりも抑制する手段を数多く備えています。ところが、目下の最大の課題であり、長期的にも問題だと考えられるのは、世界的に根強いディスインフレないしデフレ圧力、公的および民間部門の過剰債務、そして新たな金融危機の可能性です。こうしたなか、中央銀行が伝統的な政策手段と金融危機以降に導入した異例の政策手段を使い尽くしたか否かについて、多くの議論が巻き起こっています。一部の論者は、中央銀行が民主的に負託を受けた政府と一体化し、政府の管理のもとで動くのであれば、現在の経済が直面する難題にうまく対応できると主張しています。

政府が直接関与し責任を負うべきであるとする主張の背景には、主要な問題の解決に必要な決定の多くが富の分配に重大な影響を及ぼしかねず、したがって金融政策ではなく財政政策の範疇に入る、という見方があります。1つの大手金融機関を救済する、あるいは別の大手金融機関を破綻させる、という決定について考えてみてください(2008年から2009年の金融危機の際の社名が数多く思い浮かびます)。または弱体化した国の最後の貸し手となる決定について考えてみてください(最近の欧州危機での複数の国名が浮かんできます)。あるいは、公的および民間部門の資産を大量に買い入れ、マイナス金利を導入してインフレ率を目標水準に押し上げる(またはそう試みる)決定について考えてみてください。これらはいずれも難しい判断を迫られる決定であり、独立した中央銀行がこれらの決定をしようとすれば、この決定に伴う再分配で割りを食う人たちから激しく非難されることになります。

中央銀行家はまた、みずから厳しい決断を下すことに二の足を踏む政治家からスケープゴートにされやすい存在でもあります。ユーロ圏の危機において、各国政府はソブリン危機および銀行危機を財政手段で全面的に解決することから何度も逃げました。その代わり、欧州中央銀行(ECB)の介入に頼ったわけですが、後になって金融政策の領域を逸脱しているとして非難しています。

目的に照準を合わせる
(ほぼ)ありえないことが実現し、政策決定において中央銀行が政府の管理下に戻されたとすれば、現実的に経済および市場にどのような影響が出るのでしょうか。金融政策に対する政府の影響力が強まることから、ただちにインフレ期待が上昇する効果があると考えられます。また、中央銀行が金融市場を完全に迂回し、(FRBが財務省の口座に直接入金するなど)新たに創造された通貨を政府に直接付与し、政府がこれを税還付や財政支出の拡大といった形で分配する、いわゆるヘリコプター・マネーが可能になるのです。需要不足を克服し、インフレ期待を高めるための政策としては、量的緩和策を活用して需要が旺盛な金融資産(国債や高格付けの社債)を吸収したり、効果が不透明なマイナス金利政策という実験に乗り出したりするよりも、はるかに直接的で実効性が期待できるでしょう。

実は、中央銀行の独立性を正式に剥奪しなくても、ヘリコプター・マネーを実現する方法は他にもあります。ベン・バーナンキ前米連邦準備制度理事会(FRB)議長は、この仕組みについてきわめて興味深い提案をしています。そのポイントは、雇用の最大化と物価の安定という使命を果たすためにどれだけ資金を注入する必要があるかを独立したFRBが決定し、その分だけ財務省の口座に入金する、というもので、その後そのマネーを相応しい形で分配するのは政府の役割になります。

現在の課題に取り組む
中央銀行の独立性について何より問題なのは、そもそも独立性を与える契機となった高インフレの克服という課題が最早存在しないことである、とする批判があります。現在直面している課題を直接的かつ効率的に解決するうえで、中央銀行の独立性は障害になっているのでしょうか。ドイツに生まれ育ち、ドイツ連邦銀行の独立性がすべての中央銀行にとって規範であるべきだと考えるエコノミストの私にとって、これは簡単に答えが出せる問いではありません。しかしながら、独立した中央銀行による積極的な金融政策が世界各国で実施されてもインフレは目標水準に達せず、財政が足枷となる現状が目の前にあります。今後先行きが変わらないのであれば、財政政策と金融政策の一体化はひとつの選択肢となるかもしれません。

著者

Joachim Fels

グローバル 経済アドバイザー

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