マクロ経済

金利:スーパースター企業がいかにR*を抑えているのか

マクロ経済の主要な現象の背景には、スーパースター企業の重要性が増していることがあります。

去4半世紀、多くの産業で、大企業が業界シェアを大幅に高め、巨大化し続ける状況が続いてきました。こうしたスーパースター企業は――頭文字を取ってFAANG(ファング)銘柄と呼ばれる、フェイスブック、アマゾン、アップル、ネットフリックス、現アルファベットのグーグルが代表格ですが――売上高、利益、株式時価総額の点で、各業界での支配力を強めています。勝者総取りとまではいかなくても、勝者が大半を取っているのが現状です。

こうした「勝者が大半を取る」トレンドの背景には、何があるのでしょうか。最も説得力がある要因として挙げられるのが、技術変化とグローバル化です。グローバル化で市場の規模が拡大する中、大企業が競争上の優位性を活かし、規模の経済のメリットを享受しています。技術進歩も集中を促します。検索エンジンと価格比較サイトで、消費者は最も競争力があるサプライヤーを簡単に探すことができるため、売上が業界のトップ企業に集中し、その他の企業は取り残されることになります。

さらに、最近の全米経済研究所(NBER)のワーキングペーパーでも明らかにされていますが、全要素生産性や特許請求で測った技術進歩が速いダイナミックな産業ほど、企業の集中が進んでいます(D. Autor, D. Dorn, L. Katz, C. Patterson and J. Van Reenen, The Fall of Labor Share and the Rise of Superstar Firms, May 2017「労働分配率の低下とスーパースター企業の台頭」を参照)。多くのスーパースター企業は、ネットワーク効果の恩恵も受けています。ネットワーク効果は、利用者数が増えるほどサービスの価値が高まるソーシャルメディアやソフトウエアのプラットフォームでとりわけ強力であり、規模が規模を呼ぶ循環が生まれます。

金利の長期的低下

長期的なスーパースター企業の台頭で、マクロ経済の主要なトレンドをかなりの程度説明でき、トレンドはいずれも、自然利子率(r*)および現実の利子率の長期的な低下を促しています。

第1に、スーパースター企業は、高い利益率を誇りますが、配当や自社株の買い戻しの形で利益を株主に還元するのではなく、その大半を貯め込んでいます。

一般に、スーパースター企業は貯蓄が投資を上回っており、他の経済主体に対するネットの貸し手になっています。この結果、多くの企業が多額の現金を積み上げ、国債や社債などの金融資産に投資しています。多くの現金を手元に保有する重要な理由として、無形資本――人材、研究開発、特許権や商標権などの知的財産――に対する投資の大半は、銀行融資で簡単に資金調達できないことがあるようです。

スーパースター企業をはじめとする企業の貯蓄余剰は、自然利子率および現実の金利の低下に寄与してきました。実際、ミネアポリス連銀が最近発表した論文では、過去数十年で、世界の企業部門がネットの借り手からネットの貸し手に転換したことが明らかにされています。(P. Chen, L. Karabarbounis and B. Neiman, The Global Rise of Corporate Saving, March 2017 「企業貯蓄の世界的増加」)

第2に、スーパースター企業の台頭は、労働分配率の低下など、経済全般に占める労働者の割合の低下をもたらしています。これは、スーパースター企業の収益の増加と表裏の関係にあります。スーパースター企業の利益が平均を上回る一方、雇用者報酬が平均を下回っている状況では、経済に占めるスーパースター企業の重要性が高まるにつれ、経済全体の労働分配率は低下します(Autor et al.を参照)。低熟練労働者の重要性が低下し、簡単に代替できるようになったことで、賃金上昇圧力は弱まり、フィリップス曲線はフラット化し、ひいてはインフレ率と(名目)金利が低水準に抑えられています。

第3に、スーパースター企業の重要性が増すことで、賃金および資産の格差が拡大しています。スーパースター企業の従業員は一般にスキルが高く、その賃金には、主に株式の形で、スキルに付随するプレミアムと、企業固有のプレミアムが上乗せされています。その一方で、スーパースター企業は、かつては社内で行っていた幅広い業務を、請負業者や派遣業者、フリーランサーにアウトソーシングする傾向を強めている現状があります。こうした職場の分断は、(大企業では社員に支払われていた賃金プレミアムを節減することで)雇用者報酬を減らすと共に、社内外の労働者の交渉力を弱めます。さらに、高所得の富裕層は低所得で資産のない層に比べて貯蓄性向が高いことから、賃金および所得の格差が拡大すると、世界的な貯蓄余剰が加速することになります。

スーパースター企業を止められるのは何か

差し当たって、スーパースター企業の巨大化の流れは止められないように見えます。スーパースター企業の多くは、ネットワーク外部性の恩恵を受けており、その収益性の高さが最高の人材やアイデアを惹きつけています。さらに高い収益性によって、内部調達による投資が可能であり、競争相手を呑み込み、必要とあれば、市場の実質的な競争を減らすためのロビー活動にも多額を投じることができます。スーパースター企業の強大化、ひいてはr*の低下を反転させるものはあるのでしょうか。スーパースター企業に対する潜在的な脅威が3つあるとみられます。

  • 反グローバル化を加速させる、保護主義の台頭。保護主義が台頭すると、スーパースター企業の実質的な市場規模は狭められ、強みの源泉である世界的なサプライチェーンが阻害されるとみられます。
  • スーパースター企業の準独占利潤を抑え、潜在的な競争相手を利する、積極的な独占禁止政策。ドナルド・トランプ大統領やスティーブン・バノン首席戦略官が、一部のファング企業を封じ込めると脅してきたことを想起すべきです。
  • 労働者の交渉力の急速な向上で、大多数の労働者に大幅な賃金上昇をもたらす。

これらのリスクは注視する必要がありますが、いずれも、すぐに実現するとはみられません。しばらくは、スーパースター企業が力を持ち続け、超低水準の自然利子率が続くことになるとみられます。

世界経済と金利についてのより詳しい見解は、PIMCOの長期経済見通しをご覧ください。

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著者

Joachim Fels

グローバル 経済アドバイザー

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