アジアクレジット展望

中国の鉄鋼需要は長年の過剰建設期を経て減少に向かうか

中国においてインフラ支出が頭打ちとなり、これまでの住宅建設の増加ペースが持続不能となる中で、鉄鋼需要の下振れリスクは今後も顕在化するとPIMCOでは予想しています。また、その他の鉄鋼消費部門が国全体の鉄鋼需要拡大の原動力になる可能性は低いでしょう。鉄鉱石と原料炭の市場情勢も厳しく、価格が大きく回復する可能性は低いとみられます。中国の鉄鋼業界では、国内の鉄鋼需要が伸び悩む中で生産能力が過剰な状態が続き、輸出の下押し圧力を受けるグローバルな製鉄企業にとって、引き続きマイナス要因になる見通しです。

国の住宅開発市場の急成長期が終了したことを受けて、グローバルな鉄鋼業界は長期的に厳しい時代を迎えようとしています。中国においてインフラ支出が頭打ちとなり、これまでの住宅建設の増加ペースが持続不能となる中で、鉄鋼需要の下振れリスクは今後も顕在化するとPIMCOでは予想しています。また、鉄鉱石や原料炭などの製鉄原料についても、輸出額全体に占める割合が高いオーストラリアやブラジルを中心とする国において、交易条件が悪化したり場合によっては通貨が下落したりする傾向が強まる見通しの中で、厳しい状況が続くでしょう。

中国の鉄鋼需要見通しを考える上で最も重要なセクターは建設業であり、2013年には不動産およびインフラからの需要を含め、中国の鉄鋼需要の50~60%(推計)を占めました(図表1)。

中国の住宅建設は勢いを失う見込み
PIMCOでは、2000~2014年に建設された新築住宅は、累積で、中国の全人口が居住するのに必要な空間の42%に相当すると分析しています。また、住宅建設が2014年と同水準で推移した場合、この比率は2018年までに64%に達する見通しですが(図表2)、このような伸び率が持続する可能性は低いとみています。この間、中国の家計は、これまで民間の住宅需要を下支えしてきた住宅セクター投資から、他の分野に投資対象を広げ始めています。中国の家計に関する分析の分野で第一人者である甘犁(ガン・リー)教授による2013年の独自の調査によれば、住宅取得の50%程度が投資目的によるものでした。

また、別の要因から住宅需要が長期的に減少傾向にあることも示されています。2014年12月3日付のモルガン・スタンレーの調査レポートによると、中国の従属人口指数は一人っ子政策を背景に2015年に底打ちします。その結果、1組の夫婦は、それぞれの両親から住宅を相続することが可能になり、住宅が過剰に供給されることになります。住宅の需給動向は地域ごとに異なりますが、下位のTierに分類される都市では過剰供給の傾向が鮮明であり、開発業者がこれらの需要がない地域において販売を拡大することが難しい状況がうかがえます。一方、Tier1、Tier2に分類される都市のように、実需の存在する魅力的な地域の住宅価格は、多くの国民にとっては現実的な水準ではないようです。

インフラ関連の建設の伸びは鈍化する見通し
中国では、不動産市場が困難な状況に直面する中、2014年はインフラ関連の建設が鉄鋼の消費を下支えする上で重要な役割を果たしました。PIMCOでは、国内総生産(GDP)の成長率の維持のためには、依然として一部の地域で都市交通システムや環境保全に関連する分野などにおいてインフラ整備が必要となるとみています。また、国民1人当たりの資本形成は、発展段階の進んだ国々を依然として下回っています。

しかしながら、インフラ支出の拡大余地は無限ではありません。従来、地方政府は、インフラ支出を拡大する上で、金融市場の環境や自らの借り入れ能力に依存していました。地方政府債務残高の対GDP比率がすでに高い水準にあり、また、過去のインフラ投資のリターンが低く、レバレッジを大きく引き下げることが難しいため、地方政府が新たに負債を増やすことは困難になるとPIMCOではみています(図表3)。

また、PIMCOでは、インフラ支出と信用の拡大によって近年大きく押し上げられてきた中国のGDPに占める固定資本形成の割合が高いことを踏まえ、インフラ支出の伸びはこの先数年間に減速せざるを得ないとみています(図表4)。インフラ支出が減少に転じ中国のGDP成長率を大きく押し下げるとは予想していませんが、これまでの支出拡大ペースを持続することは難しいでしょう。

その他の鉄鋼消費部門が需要を下支えする可能性は低い
鉄鋼需要は機械、自動車、白物家電といった分野にも存在しますが、国全体の鉄鋼需要拡大の原動力になる可能性は低いとPIMCOではみています。

従来から、機械製造と建設業界の動向の間には密接な関係がありました。このため、向こう数年間に、建設の動きが鈍化する影響によって、機械製造の伸びが制約されると予想しています。

自動車生産はこの先年率5%の伸びが予想されるなど、鉄鋼需要に関する明るい話題と言えるでしょう。中国では、自動車普及率が7%と依然として低く(米国は44%)、家計所得が伸び続ける中で普及率も上昇すると予想されています。もっとも、2013年には、自動車業界の需要は国全体の鉄鋼消費量(推計)の6~7%程度に過ぎなかったとみられるなど、鉄鋼需要に与える影響は限定的になるでしょう。

また、中国では、家計所得が伸び続ける中で、家庭用品などの白物家電に対する需要も拡大する見通しです。不動産に対する需要は以前ほど強くないものの、高品質の製品に対する需要や新技術の導入を背景に、白物家電に対する需要は引き続き増加する可能性があるとPIMCOではみています。もっとも、この分野においても、鉄鋼需要は中国の鉄鋼消費量の2%程度に過ぎなかったと推計されるため、需要拡大が国全体の鉄鋼需要に与える影響も限定的になるでしょう。

原材料価格は低水準で推移する見通し
PIMCOでは、鉄鉱石と原料炭についても厳しい状況が続き、価格が大きく回復する可能性は低いとみています。一方、長期的には最終消費部門の需要拡大の余地が限られ、鉄鉱石価格が明確には底打ちしていない状況において、海運による鉄鉱石の供給量が急増したため、高コスト体質の生産企業の撤退を通じて供給量が調整されるまでには時間がかかる見通しです。供給が過剰であり、生産コストが大幅に削減され、生産地域では通貨が下落している現状に鑑み、限界費用の観点からは価格はほとんど下支えされないとみています。一方、中国の鉄鉱石採掘企業による生産に関しては、市場が想定するよりも下方硬直性が高いかもしれません。中国では、鉄鋼の消費需要が減少傾向にあることを踏まえると、おそらくは2017年以降に新規の生産が全て吸収された後に、鉄鉱石価格(純度62%、中国までの運賃込み条件)は長期的には1ドライメトリックトンあたり60~70ドルに収斂するとみています。しかし、それまでの間、海運による鉄鉱石市場が生産量の拡大を吸収する過程で、鉄鉱石のスポット価格にはPIMCOが長期的な底値と考える水準(1ドライメトリックトンあたり60ドル)よりも低下する圧力がかかるでしょう。

また、輸出額全体に占める製鉄原料の割合が高いオーストラリアやブラジルを中心とする国は、交易条件のさらなる悪化圧力や潜在的には通貨の下落圧力を受ける可能性が高いでしょう。もっとも、海運による鉄鉱石市場の中では、主要な製鉄地域(アジア)に近接しているオーストラリアの生産企業は、価格下落時にも好条件を確保することが可能であることから、比較的優位な立場にあるとPIMCOではみています。

中国の鉄鋼業界では生産能力が過剰な状態が続く見通し
PIMCOでは、中国の鉄鋼需要が将来的に拡大する余地は非常に小さいとみています。昨年11月の政策金利の引き下げが住宅市場にプラスに作用する可能性があり、追加利下げも予想されるものの、2015年はうまくいっても、不動産販売の伸びは1桁台、鉄鋼需要の伸びは1桁台前半にとどまる見通しです。また、昨年11月の利下げ直後の12月には住宅着工件数が減少しており、不動産開発業者は依然として住宅在庫の削減に注力している様子がうかがえます。

PIMCOでは、インフラ支出は拡大し続けるものの、地方政府が資金調達面での制約に直面している状況に鑑みると、そのペースは鈍化するとみています。また、公務員の汚職に対する捜査が続いていることも、今年度のインフラ投資プロジェクトの認可が遅延するという意図せざる結果を招く可能性があります。

中国の鉄鋼業界では、国内の鉄鋼需要が伸び悩む中で生産能力が過剰な状態が続き、輸出の下押し圧力を受けるグローバルな製鉄企業にとって、引き続きマイナス要因になる見通しです。また、中国政府は、国内の鉄鋼業界の再編を望む姿勢をほとんど見せておらず、仮に再編が進んだとしても、そのプロセスは長く厳しいものになる公算が大きいでしょう。

総合的に見ると、原材料コストの低下を背景に、製鉄企業は短期的には勝ち組に属することになるとPIMCOでは予想しています。しかし、長期的には、鉄鋼業界に改革や再編の流れが生まれない限り、中国における過剰生産能力が引き続きマイナス要因になるでしょう。また、グローバルに見ても、鉄鋼業界では、大幅な通貨安を経験したロシアや日本ですら低付加価値の鉄鋼の輸出を伸ばしており、この種の鉄鋼生産に対するエクスポージャーの大きい製鉄企業には偏った影響が及び、供給動向がさらに歪むことになるでしょう。

著者

Emily Y. Au-Yeung

クレジット・アナリスト

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