世界の中央銀行動向

カナダ中銀のもとで、カナダ経済は安泰か?

​エネルギー価格の無秩序な下落は、個人や企業の景況感に影響を与え、カナダの経済成長率を一段と低下させかねません。カナダ中銀の基本シナリオには、年内の追加利下げが組み込まれているものとみられます。投資家は、カナダの銀行のシニア債やオンタリオ州政府債など、信用力の高い信用スプレッドに投資することで、リターンを高められる可能性があります。

2015年1月21日、カナダ銀行(中央銀行)は、市場の意表を突いて、政策金利を0.25%引き下げて年0.75%としました。この利下げにはいささか驚かされましたが、PIMCOばかりでなく、ブルームバーグがエコノミスト22人を対象にまとめた調査でも、利下げを予想した人は誰もいませんでした。カナダ中銀は同日、エネルギー価格の低下を理由に2015年の国内総生産(GDP)予想成長率を0.3%引き下げました。この点は、昨年12月にPIMCOが発表した同国の短期見通しとも一致しています。しかしながら、米国の景気回復に伴い輸出の増加が見込まれることから、PIMCOではカナダ中銀の予想が金融政策を変更するほどネガティブなものだと見ていませんでした。

カナダ中銀はなぜ、原油価格の下落に対する「保険」ともいえる政策を実施したのでしょうか。原油価格については、比較的秩序ある下落が(図表1)、無秩序な動きに変わりつつあることが懸念されています。エネルギー価格の無秩序な下落は、個人や企業の景況感に影響を与え、従来のボトムアップ型モデルで予想される以上の景気の大幅な落ち込みを招きかねません。

2015年中、カナダ中銀はさらなる「保険」をかけると予想
はっきりしているのは、スティーブン・ポロズ総裁率いるカナダ中銀が明白なハト派であり、マーク・カーニー前総裁の指揮下にあった頃よりも圧倒的にハト派色が濃いということです。カーニー前総裁が金融安定性のリスクをより懸念していたのに対し、ポロズ現総裁は景気の動向をより懸念していると言えます。ポロズ総裁率いるカナダ中銀は、一貫して強い経済指標には注目せず、弱い経済指標を重視しています。例えば1年前には、注目されるコアインフレ率が低過ぎる(2014年の予想は1.5%)ことが懸念されるとして、引き締めバイアスを解除しました。現時点のコアインフレ率は2.2%と、カナダ中銀が目標とする2%を優に上回っているにもかかわらず、一時的な現象だとして退けています。(図表2を参照)。

何よりも興味深いのは、何十年も機能してきたインフレ・ターゲティングの反応関数を、ポロズ総裁が変更した点です。カナダ中銀のインフレ目標は、CPIの総合指数で2%であり、(1%~3%の幅を持たせています)。総合インフレ指数は変動が激しい点を踏まえ、インフレ基調の判断の目安としては、(特に変動の激しい8つの品目を除いた)コア指数を使っています。2014年にコアCPIが上昇して、カナダ中銀のハト派の姿勢が正当化できなくなると、コンポーネントCPIという指標を新たに設定しました。同指数はコア指数を約0.5%下回っています。需給ギャップの予想についても同様です。従来の指標で需給ギャップがほぼ解消されたことが示されると、新たに「統合」需給ギャップ指標を創出し、約1.5%の需給ギャップがあるとしました。

では、2015年をどう予想すべきでしょうか。ハト派が飛び続けないと信じる理由はありません。1月21日以降、原油価格は若干回復していますが、カナダ中銀は、春先に0.25%の追加利下げを実施し、さらには、(原油価格と経済指標の動向次第で)おそらく年後半に3度目の利下げを実施するという形で、景気にさらなる「保険」をかけるものとPIMCOではみています。直近の金融政策報告の補論で、カナダ中銀は、足元の原油価格の下落が景気に与える影響を(金融政策が変わらないことを前提として)シミュレートし、2015年の成長率を1%押し下げると予想しています。2015年の予想成長率の引き下げ幅が0.3%にとどまっていることから、カナダ中銀の基本シナリオには、追加利下げが組み込まれているとみるのが妥当だと言えます。

カナダ中銀の運営は連邦政府からは独立しているとはいえ、今年は連邦議会の選挙の年にあたっています。エネルギー税収入の減少で、連邦政府が財政均衡計画を堅持しつつ、減税の公約を守ることは一段と難しくなるでしょう。財政の選択肢を評価する連邦政府にとって、カナダ中銀による「保険としての金融政策」は助けになるものとみられます。

カナダ中銀の今回の決定がもつ幅広い意味合い
世界的に各中央銀行はコミュニケーション戦略に苦慮しています。ゼロ金利政策や量的緩和プログラムから抜け出せない中央銀行は、引き続きフォワード・ガイダンスを使って期間プレミアムを引き下げようとしていますが、ポロズ総裁は、先行きを明示しない方式を好んでいます。この点を際立たせたのが、現実的な可能性を事前に示唆することなく実施された先月の利下げでした。米連邦準備制度理事会(FRB)が1月28日に公開した連邦公開市場委員会(FOMC)の議事録では、多くのFOMC委員もフォワード・ガイダンスに消極的な姿勢を示したことが明らかになりました。カナダ中銀は、中央銀行がフォワード・ガイダンスを抑制することで当面の選択肢を最大限に維持しようとする新たなトレンドの先頭に立っていると言えるかもしれません。(量的緩和プログラムやゼロ金利政策に縛られていない)こうした中央銀行は、FRBによる緩やかなペースの引き締めや、カナダ中銀による「保険」の性格を帯びた利下げなど、中期的な目標を強調するようになるとみられます。投資家が中央銀行の新たなコミュニケーション・スタイルに慣れていく間、中央銀行は短期的な市場のオーバーシュートに見舞われる可能性があります。

カナダの場合、中銀が金融政策の引き締めを決断した暁には、他のほとんどの市場に比べて激しい変動に見舞われる恐れがあるとPIMCOではみています。投資家はカナダ中銀からフォワード・ガイダンスを得られないだけでなく、カナダ中銀の新たな反応関数を見極める必要があります。投資家は、(過去20年にわたり主要指標であった)コアインフレ率に注目すべきでしょうか、それともコンポーネントCPIに注目すべきでしょうか。従来の需給ギャップの指標が悪化する一方、新たな統合需給ギャップ指標が改善した場合、何が起きるのでしょうか。

名目利回りは割高に見えるが、投資家は忍耐強くあるべき
カナダ中銀は、短期的に中長期の反応関数には多少の混乱をもたらしましたが、不明瞭な点はありません。あくまでハト派です。当面、強い指標は重視せず、弱い指標を重視し続けるものと予想されます。

カナダ中銀が長期にわたって2%のインフレ目標を達成してきた実績を鑑みれば、10年物が1.4%、30年債が2.0%の長期物の名目債の利回りは魅力に欠けると言えます。現時点で、30年物の物価連動債のブレーク・イーブン・インフレ率は1.7%です。この先30年のインフレ率の平均が1.7%になり、30年物の物価連動債が30年物の名目債をアウトパフォームする可能性は限りなく低いと考えられます。

とはいえ、ハト派のカナダ中銀が、政策金利を金融危機時の0.25%に切り下げる過程にあるとみられるなかで、2015年に投資家がカナダの債券をアンダーウエイトとする理由はありません。カナダ中銀の金融政策が過度に緩和的であることが明確に経済指標で示されるまで、その1つの目安として、原油価格が1バレル=60ドルを超える水準で安定するまで、投資家はわずかな利回りを拾っていくべきだと考えます。

その間、投資家は、信用力の高いスプレッドを購入することで、リターンを向上させられる可能性があります。利回りが0.8%の5年物国債ではなく、1.75%の銀行のシニア債を購入することで、利回りを2倍以上に引き上げられます。利回りが1.4%の10年物国債ではなく、2.15%のオンタリオ州政府債を購入することで、利回りを50%以上高めることができるのです。(図表3を参照)。

投資環境はさほど魅力的ではないかもしれませんが、投資家が政府の金融抑圧から逃れ、リターンを向上させる方法はあるのです。

著者

Ed Devlin

ジェネラリスト・ポートフォリオ・マネージャー

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