世界の中央銀行動向

欧州中央銀行の量的緩和が世界に及ぼす影響

欧州中央銀行(ECB)は量的緩和策に踏み切ることで、ECBのマンデート(責務)であるインフレ目標の達成に果敢に挑む構えを見せています。全体としてみると、量的緩和策の導入、投資の促進、原油価格下落の効果が相俟って、2015年のユーロ圏の成長率は1.3%前後に押し上げられるとみています。世界各国の中央銀行のバランスシートは拡大を続けています。米連邦準備制度理事会(FRB)は2014年で債券買い入れを停止しましたが、日本銀行に続いてECBが債券買い入れに乗り出し、FRBが抜けた穴を埋めています。

州中央銀行(ECB)のマリオ・ドラギ総裁は、「我々に与えられたマンデート(責務)を追求しないことは法に反する」と述べて2014年最後の記者会見を締めくくりました。そして年明け最初の記者会見では、量的緩和を発表し、ECBのマンデートであるインフレ目標の達成に果敢に挑む構えを見せました。

ECBの量的緩和策の手順
ECBは今年3月から債券買い入れを開始し、月600億ユーロのペースで2016年9月まで買い入れを継続する意向です。買い入れ総額は1兆1,400億ユーロに達する見通しで、これにはユーロ圏の国債や政府機関債に加え、既存のカバードボンドや資産担保証券の購入も含まれています。PIMCOでは、月間の買い入れ額を国債400億~500億ユーロ、政府機関債50億~100億ユーロ、カバードボンドと資産担保証券で50億~100億ユーロと予想しています。政府機関債、カバードボンド、資産担保証券の市場は相対的に小さく、供給額も予想しづらいことから、月間600億ユーロの買い入れ目標を達成するために、毎月の買い入れに占める国債の比率はばらつくものとみられます。

ECBは量的緩和策の適用条件をインフレ率と関連づけることにより、ECBの債券買い入れには、必要とあれば緩和が継続されるという(期限を定めない)オープンエンド型の要素が含まれています。少なくとも2016年9月までは買い入れが継続され、さらに、ECBは「インフレ率向上の道筋が持続的に調整され、2%を若干下回る水準とするECBの中期的なインフレ目標との整合性が確認できるまで」継続するとしています(強調は筆者)。インフレ率は現在-0.6%であり、2016年もECB予想で1.3%にとどまることから(しかも、これは原油価格が1バレル50ドルまで下落する前の予測)、インフレ率が目標に沿って持続的に調整されるまでにはかなりの時間を要するとみられます。したがって、2016年以降も買い入れが続く可能性があり、ECBがいかに本腰を入れてマンデートに取り組もうとしているかがうかがえます。

買い入れの対象となる債券は、償還期限が2年から30年で、ギリシャ、キプロス国債については、欧州連合(EU)と国際通貨基金(IMF)が主導する改革プログラムのもとで要件を満たせば買い入れの対象となります。

量的緩和策で買い入れられる債券のうち、全体の20%がいわゆるリスク共有の対象となり、何らかの損失が発生した場合、ECBとその株主である19カ国の中央銀行が出資比率に応じて損失を分担します。残りの80%のリスクは共有されず、各国中央銀行が自国の国債を購入し、デフォルト・リスクを負担します。可能性は低いとみられますが、仮に国債の債務不履行が発生した場合でも、債務不履行に陥った国の中央銀行だけが損失を負担します。

こうした複数の負担の形式はユーロシステムにおける不統一の兆しとも受け止められかねませんが、そうではありません。リスク共有が適用されるのはバランスシートの資産サイドだけで、負債サイドには適用されないからです。量的緩和策では、ユーロシステム、ECB、各国中央銀行が準備預金と引き換えに金融機関から債券を買い入れますが、準備預金はユーロシステムの負債です。ユーロの準備預金は、ユーロ圏全域で代替可能であり、市中銀行は、量的緩和で生み出された準備預金をユーロ圏内のどこでも請求できます。仮にユーロ圏内のある国の国債が債務不履行になり、その国の中央銀行も債務不履行に陥った場合でも、準備預金の請求権は圏内の他の国で行使できるため、市中銀行の請求権は有効であり現金化できるのです。さらに、中央銀行は自己資本がマイナスでも業務の運営が可能です。つまり、リスク共有は、記者会見でのドラギ総裁の言葉を借りれば、そもそも「影響を及ぼさない」ことになります。

量的緩和は効果を発揮するか?
現実を甘く見てはなりません。金融政策は短期的に景気循環を後押しすることはできても、最終的に持続可能な成長を実現するのは、投資の拡大、生産性の上昇、そして人口の増加です。そのためには、民間部門と公的部門がそれぞれ寄与することが必要になります。

欧州の政策決定者の間では3分野で包括的合意が行なわれた模様であり、各国政府が協調すれば量的緩和策が奏功する可能性を示しています。合意の第1の分野は金融政策による景気刺激であり、ECBは量的緩和で金利を引き下げ、ユーロ安を促すことにより、これを実現しています。

第2の分野は投資です。欧州委員会は景気てこ入れのため、官民投資計画の具体案を打ち出しました。その目玉は、欧州投資銀行の資本拡充であり、欧州戦略投資基金(EFSI)の創設が含まれています。EFSIは、2015年から2017年にかけて、投資が最も不足している南欧を中心に、インフラ整備と中小企業による投資の支援を目指しています。EFSIに投入される公的資金は210億ユーロにとどまり、各投資プロジェクトの劣後債の購入に充てられますが、株式、優先証券への投資で、3,000億ユーロ弱の民間資金を呼び込むことを期待しています。EFSIによる投資は、成功すれば欧州圏内所得の約2%に相当します。

包括的合意がなされた第3の分野は、成長率と経済効率を高めるための改革です。この面では、ユーロ圏内の複数の政府がようやく本腰を入れて取り組みつつあります。イタリアのマッテオ・レンツィ首相は、同国の労働市場、選挙制度、そして銀行部門の構造改革を打ち出し、注目を集めています。すべての改革案が法制化されたわけではありませんが、この点において欧州は間違いなく良い方向に向かっています。

全体としてみると、量的緩和策の導入、投資の促進、原油価格下落の効果が相俟って、2015年のユーロ圏の経済成長率は約0.3%押し上げられ、1.3%に達するものとPIMCOでは予想しています。

投資への意味合い
米国、英国そして日本の量的緩和策の経験から、一般に量的緩和はリスク資産に有利に働き、デュレーションと自国通貨の対外価値に対しては不利に働くと言えます。国債利回りに関して、日本は例外的な動きをしています。米国と英国では、量的緩和を導入して以降、債券利回りが上昇したのに対し、日本では低下し続けているのです。おそらく日銀が大量の国債買い入れを継続していること、量的緩和以外の政府の政策が潜在成長率の押し上げにほとんど寄与していないことが原因だと考えられます。

ユーロ圏のリスク資産とユーロの動きは、他の量的緩和実施国と似た動きをすると考えています。ECBの目標買い入れ額に比べて、ユーロ圏における新規の国債発行額は低水準にあるため、ユーロ圏の利回りは日本国債のそれに似た経路を辿ることになるとみられます。2015年のユーロ圏国債の発行額は、(財政赤字の穴埋めを目的とした)ネットで約2,700億ユーロ、(既発債の借り換えと財政赤字の穴埋め分を合わせた)グロスで約9,000億ユーロになると予想しています。国別の内訳については図表1をご参照ください。2015年中のユーロシステムによる追加的な需要が4,000億~5,000億ユーロにのぼり、一部の投資家はユーロ圏の国債に投資せざるをえない点を考慮すれば、利回りが上昇する構図を思い描くのは難しいと言えます。

周縁国の国債はここ数年、高いパフォーマンスを示してきましたが、ここで売却する理由はほとんど見当たりません。イタリア、スペインの長期国債の利回りは2.5%前後と、同年限のドイツ国債を大きく上回っています。PIMCOでは、これらの利回り格差はいずれ縮小すると見込んでいます。

投資適格社債とハイイールド社債には、引き続き投資機会があると見ています。ユーロ圏の銀行関連株と劣後資本証券は、対応する最近の国債市場に対してアンダーパフォームしていますが、ECBの緩和策の効果により格差はいくぶん縮まるものと思われます。

ユーロ圏において魅力が乏しいと考えるのが、利回りがマイナスのものも含め、極端に利回りが低い中核国の国債と通貨ユーロです。

さらに、いわゆるPIMCOの投資の同心円において、より外側に位置する流動性が低くリスクの高い資産クラス、具体的には株式、ハイイールド債、バンクローン、ディストレスト債、不動産なども、世界的な金融緩和の恩恵を受けると予想されます。米連邦準備制度理事会(FRB)は2014年に債券の買い入れを停止しましたが、日銀に続いてECBが量的緩和に乗り出し、FRBが抜けた穴を埋めています(図表2を参照)。これら3つの中央銀行のバランスシートの合計を、世界通貨の1種と位置付けられる国際通貨基金(IMF)の特別引出権(SDR)を使って測ると、今年の年末には1兆SDR増加する見込みで、増加率は2009年初めから2012年にかけてのピーク時に匹敵します。歴史を踏まえると、こうした世界的な流動性の拡大はリスク資産の追い風になるはずです。

投資戦略にとっておそらく最も興味深くかつ重要なのが、ECBの量的緩和が世界経済に及ぼす影響でしょう。世界経済では35年もの間、ほぼ一貫してディスインフレ傾向が続いており、ついにはすべての主要先進国でゼロ金利政策と量的緩和策が実施されるに至りました。米国と英国では循環的な景気回復の動きが見え始めていますが、他の国々の景気鈍化は、特に中国をはじめとする新興国の状況や高齢化の傾向を踏まえると、米国の連邦準備制度理事会(FRB)とイングランド銀行による政策金利の正常化プロセスの進行に悪影響を与えます。

主要貿易相手国に対するインフレ調整後の通貨価値を示した実質実効為替レートで見た場合、中国人民元は、2000年以降、主要通通貨の中で最も上昇しています(図表3を参照)。中国では、信用膨張による典型的な不動産ブームが起こりましたが、ブームが弾けた今、中国人民銀行がより大胆な金融緩和に乗り出すかどうかは時間の問題です。法定準備率と政策金利の引き下げが、中国の景気減速の緩衝材として十分でないとすれば、人民元の切り下げの可能性も排除できません。その場合、FRBの金利正常化プロセスに水を差すことになるとみられます。米国債の利回り曲線が一貫して平坦化しており、その一因は世界的な影響にもある点から考えると、FRBが利上げに踏み切るよりも前に米国経済が次の景気後退局面に入る可能性を、市場は既にある程度織り込んでいるとみられます。

市場は、中央銀行の力によって経済的に望ましい結果が生み出されるだろうと、依然として信頼を置いています。しかし、(一例として)PIMCOが提唱する「ニュー・ニュートラル」の概念で、FRBの政策正常化に疑問を呈したのと同様に、仮に中央銀行への信頼に疑問が生じたなら、そして、各国の中央銀行がスイス国立銀行のようにタオルを投げ入れて試合を放棄したならば、数十年続いたディスインフレ傾向は債務デフレに陥りかねません。

著者

Andrew Bosomworth

ドイツ債券ポートフォリオ・マネジメント統括責任者

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