世界の中央銀行動向

中立政策金利のグローバル要因

グローバルな要因は、各国の中央銀行の政策に相関性が見られる理由を説明するのに役立ちます。

米連邦準備制度理事会(FRB)のリサーチャーなどにr*と呼ばれる中立フェデラル・ファンド金利(FF金利)の概念は、FRBがバランスシートの縮小プロセスを開始しながら同時に政策の正常化を進める計画を、どう考え、どう伝えようとしているのかを理解する上で中心的な概念になっています。

PIMCOでは2014年以来、グローバルな視点から 金融政策の「ニュー・ニュートラル」 について書いてきました。この間、FRBの考え方と市場に織り込まれた見方は、米経済において2%のインフレ率と完全雇用状態が併存するFF金利のr*は、金融危機以前の4%強ではなく2%に近い、との見方に収斂されてきています。

しかし、様々な国の中立金利を動かすグローバルな要因については、そこまで見方が固まっていないように思われます。中立的な政策金利に重要なグローバル要因が存在する事実を認識することは、中央銀行の政策に国や地域を越えた相関性がみられるのはなぜか、為替レートや市場が政策変化にどう反応するかを理解するうえで不可欠です。

各国の中立金利はグローバルな景気循環も反映していると考えられます。

6月に行われた国際決済銀行(BIS)の年次総会で私は、「中立政策金利のグローバル要因」1に関する論文を発表しました。主な内容は、r*のショックに相関性がある世界における金融政策と為替レートへの実際のインプリケーションで、その要約をご紹介します。

モデルの仕組み

当初のテイラー・ルールでは、r*は一定で、一国のインフレ率と需給ギャップだけが政策金利の変化に影響すると想定されています。ただ、このテイラー・ルールを少し改変すれば、r*は時とともに変化し、グローバルな経済状況にも依存すると想定することができます。

たとえば、ホルストン、ローバック、ウィリアムズ(図表1を参照)は、米国、英国、ユーロ圏、カナダの中立実質政策金利が、各国の予想潜在成長率の関数であることを実証しました。そのため、各国の生産性伸び率に共通要因があるとすれば、中立政策金利にも共通要因が存在することになります。BISの論文で私は、多くの中央銀行が政策シミュレーションに活用するマクロモデルでは、各国のr*がグローバルな景気循環の状態の関数でもあることを示しました。自国と諸外国のファンダメンタルズが統計上は独立している場合でも、中立実質金利を動かすグローバルなショックに反応して各国が政策を調整すれば、政策協力や協調がなかったとしても、結果として、政策に正の相関性が存在すると考えられます。(中央銀行の相関性、協調、協力については後述しますが、 過去のレポートでも論じています。)

通貨の影響

r*のショックの世界において、為替 レートは、r*のグローバル要因ではなく一国のr*の各国平均からの乖離に反応する傾向があるとみられます (図表2を参照。貿易加重ドル指数は、ユーロ圏、英国、カナダの中立金利からの米国の中立金利の乖離に、 時間差を伴って反応していることがわかります)。その場合、一国固有の要因によるr*低下というショックを受けての通貨下落は、それ自体は「近隣窮乏化」政策を示すものではないと考えられます。一方、(一国に固有ではなく)グローバルな要因のr*のショックについては、為替レートによる調整は不要かもしれません。グローバルなショックに対しては、各国の実質政策金利が揃って低下することで、必要なマクロ経済の調整が行われるのです。これは、他国が金利を引き下げる中、各国が金利差と自国通貨上昇を回避しようと政策金利の「底辺への競争」を繰り広げる、グローバルな「通貨戦争」のように見えますが、必ずしもそうではありません。

各国間の協調

各国が金融政策の協調で得られるメリットとは、どのようなものでしょうか。一国の中央銀行が、自国の生産性伸び率や景気循環、政策反応関数、 さらにはr *の「ナウキャスティング (現在予測)」あるいは将来予測で比較優位があるとすれば、そうした情報を他国の中央銀行と共有すれば、各国中央銀行は国内の目標を達成する上で政策の有効性を高められるのではないかと考えられます。r*は実際に観察できないことから、より良い推定を行うために、こうした協調努力は非常に貴重なものになりえます。

拘束による束縛

しかし、そのようなモデルは理論上は機能しますが、協力によってグローバルな金融政策を一歩進める上で、現実的な問題はないのでしょうか。実際には、協力ゲーム理論の意味で、政策協力体制のコストが理論上のメリットを上回る恐れがあり、以下のような問題点が挙げられます。協力によって、自国のインフレだけでなく、他国のインフレ目標からの乖離に対応するために、政策の選択が拘束される場合、中央銀行の信認が脅かされる可能性、中央銀行のコミュニケーションの難しさ、結果として、ルールに基づく政策当局の健全な意思決定に対する国民の支持が得られない可能性、です。たとえば、自国のインフレ率は目標を上回っているのに他国のインフレ率が目標を下回っている場合、協力時の最適な政策ルールでは、自国の(実質)政策金利を低くすること、つまり、政策協力がない場合に比べて緩和的にすることが求められます。自国の経済状況と、協力的な政策の下で決められる政策金利の乖離は、政治的な批判に耐えられないでしょう。グローバルな金融政策協力を正式に導入するには、こうした課題がついてまわることを踏まえれば、現状でそうした体制になっていないのは意外ではなく、むしろ好ましいことである可能性が高いと言えます。世界各国の中立政策金利r*に共通するグローバル要因は、情報をもたらし政策決定に影響を与えると共に、有用な協調を促す可能性はありますが、最終的に世界経済に資することになる拘束力のある協力にはなりえないでしょう。



1リチャードH.クラリダ「中立政策金利のグローバル要因:為替レート、金融政策、政策協調にとってのインプリケーション」全米経済研究所、ワーキングペーパーNo.23562(2017年6月)http://www.nber.org/papers/w23562.2017年6月23日のBIS年次会議で発表。http://www.bis.org/events/conf170623/clarida.pdf

著者

Richard Clarida

元グローバル戦略アドバイザー、2006~2018年

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