世界の中央銀行動向

​市場の掌握力を(徐々に)失いつつあるサプライサイド重視のイエレノミクス

米連邦準備制度理事会(FRB)は、拙速な利上げをした場合、何年にもわたってリスク・スペクトラムの外側へと(常により高い価格で)移行を続けてきた投資家の無秩序な退場を促すことになり、景気に打撃を与えかねない点を懸念しています。FRBは最近、市場の懸念の多くに共感する姿勢を示しました。政策金利予測を引き下げると共に、景気およびインフレ見通しも引き下げています。投資ポートフォリオの組成に際し、投資家は、FRBの利上げ開始時期ではなく、将来の利上げのペースと幅、さらには米国外の金利見通しに注目するようお勧めします。FRBの利上げのペースは遅くなり、利上げ幅は低水準にとどまる可能性があります。

内に米連邦準備制度理事会(FRB)が利上げに転じる可能性を、投資家は懸念すべきでしょうか。ドル高が経済に及ぼす悪影響については、懸念すべきでしょうか。「タカ派」のFRBは間違っているのでしょうか。

これらに関して言えるのは、FRBは市場を永遠に掌握し続けることはできないし、そのつもりもない、ということです。過剰な労働供給を根拠に異例の金融緩和策の維持を正当化してきた「イエレノミクス」の時代は、徐々に終焉に近づきつつあります。

とはいえ、投資ポートフォリオの組成に際して、投資家はあくまで冷静に、FRBの政策金利の経路と最終的な着地点、さらには米国外の政策金利に注目することをお勧めします。米国外の金利は2010年代末までの向こう5年間は低水準にとどまり、投資家により高い利回りとリターンを求めることを促す見通しです。さらには、FRBの利上げに反応して市場が不安定になる時期に、株式市場やクレジット市場で浮上する好機にも注目すべきです。

イエレン議長をはじめとするFOMCは市場をなだめる声明を発表
金融市場に与える自らの影響力を常に意識しているFRBは、3月19日のFOMC声明文でも四半期に1度の経済予測でも、最近の市場の懸念の多くに共感する姿勢を示しました。イエレン議長もFOMC後の記者会見で、この点を強調しています。

投資家を最も安堵させたのは、政策金利であるフェデラル・ファンド(FF)金利の予測値の引き下げでした。具体的には、年内から2017年にかけて予測される利上げ幅の合計を約0.5%下方修正しました。賢明にもFRBは、予想成長率と予想インフレ率も引き下げています(図表1)。FRB自身が明らかに懸念している点がいくつかあります。

FRBは世界経済における自らの影響力を自覚していることを示しつつ、「国際情勢」と、足元のドル高が米国の輸出に与える影響への懸念を表明しました。直近の米貿易統計を見れば、もっともな懸念だと言えます(図表2)。

FOMCの声明、四半期経済予測、さらにはイエレン議長の記者会見で、ドル相場と国際情勢を取り上げることで、FRBはこれらに対する市場のセンチメントに寄り添う姿勢をみせています。これは、金融政策を決定するうえで、FRBがいかに金融状況に重きを置いているかを物語るものです。FRBが金融市場の人質に取られることはありえませんが、その政策が市場を通して経済全般に波及するがゆえに、金融市場を重視する姿勢を示さなければならないと自覚しているのです。金融政策は、特に以下の5つの経路を通じて経済全般に波及します。

  1. 株価
  2. 債券利回り
  3. クレジット・スプレッド
  4. 銀行貸出基準
  5. 米ドルの価値

最近特に注目を集めているのが5番目のドルの価値です。残りの4つの方が経済活動に及ぼす影響は、はるかに大きいにもかかわらずです。(図表3)。

市場に対する自らの影響力を自覚するFRBは、拙速な利上げをした場合、何年にもわたってリスク・スペクトラムの外側へと(より高い価格で)移行を続けてきた投資家の無秩序な退場を促すことになり、景気に打撃を与えかねない点を懸念しています。この点についてFRBは、債券買い入れプログラム終了を示唆した2013年に市場の大波乱を引き起こした「テーパリング癇癪」で経験を積んでいます。結局、市場が力強く反発したことは注目に値します。

とはいえ、最近のFRBは、十分な警戒感から、金利上昇のリスクを管理するとともに、経済活動にみられる大幅な改善を維持するために、万全の対策を取っています。ここ数年、実際には何世紀にもわたって取ってきた行動を継続するよう投資家を説得することに尽力しています。主としてFRBが金利については慎重に行動すると投資家を納得させることで、従来通り揺るぎない信頼のもと、利益を上げることを期待して投資を続けるよう促しているのです。

サプライサイド重視のイエレノミクスが徐々に失いつつある市場の掌握力
足元のドル高の進行は、金融危機後に市場価格に影響を与えようとしてきたFRBの努力が、より一般的な要因、とりわけ経済指標と経済のファンダメンタルズに敗れつつあることを明確に示しています。FRBは8年近くにわたり、債券買い入れとゼロ金利政策を通して、以下のいくつかの点で市場に影響を与えることを目指してきました。

  1. 予想先物金利の引き下げ
  2. 金利ボラティリティの抑制
  3. リスク・スペクトラムの外側への投資促進

いまや雇用を中心に、経済の需給ギャップの解消が進んだことから、FRBは投資家がいずれ実施される利上げを織り込むことをいつまでも抑止できなくなりました。この点は現在、主としてドル相場に表れています。米国の金融政策と、欧州および日本の金融政策の方向性の違いが顕著になっており、FRBが利上げの構えを見せる一方、欧州中央銀行(ECB)と日銀は金融緩和を継続しており、利上げに転じるのは何年も先の見通しです。

急ピッチのドル高の進行は、米経済が完全雇用に近づきつつあるとの見方が市場参加者の間に広がっていることを示唆しています。FRBの見方で完全雇用とは、失業率が5.0%から5.2%に達した状態を指します(図表1)。換言すれば、FRBの発言ではなく、あくまでファンダメンタルズが市場価格を動かすようになっていいます。

FRBが実質的、短期的に政策のフォワード・ガイダンスを提示する時代は終わりました。経済指標がこれに取って代わり、いまやFRBの会合はどれも筋書きのない「生中継」の場になったのです。

だとすれば、有効活用されていない労働資源の減少が続く中で、FRBが市場価格をコントロールする力も弱まるものとみられます。というのは、FRBが緊急避難的な政策金利を終了すると市場が予想し、そのことがFRBのフォワード・ガイダンスよりも市場価格を動かす要因になるとみられるからです。ここ数年来、膨大な余剰労働力の存在によって賃金ひいてはインフレ率の伸びが抑えられるとの論理で、ゼロ金利政策の継続を容易に納得させられたことからすると、状況は様変わりしたと言えます。失業率が5.5%という相対的に低い水準にある現在、市場価格を形成するうえで、余剰労働力の議論は説得力を失いつつあります。

言い換えれば、イエレノミクス――すなわち異例の金融緩和スタンスを維持する根拠として、サプライサイドの議論を活用するイエレン議長時代の政策フレームワークは、徐々にではあるものの後退しつつあります。労働供給が明らかに過剰といえる状態から、明らかとはいえない状態に移行しつつあるからです。

多少の欠点はあるものの、何より説得力があるのが米国の失業率データです。(図表4)

職探しを断念したために労働市場から外れた人々と、正社員を望みながらパートタイムで働かざるをえない人々を合わせた広義の失業率U6でも同じことが言えます(図表5)。通常の水準にまでは戻っていないものの、U6は急速に低下しており、FRBがゼロ金利政策を継続する根拠としては弱くなっているのです。

イエレン議長よ、彼らはどこへ
金融危機後の労働参加率の低下について考える中で、市場参加者は首をかしげ始めています。イエレン議長、彼らはどこへ行ったのかと。イエレン議長はじめ多くの論者によれば、雇用情勢が改善すれば労働市場に戻るはずだった大勢の人々のことです。こうした非正規労働者の存在は、失業率の低下の速度を鈍化させ、ひいては将来のインフレ圧力を弱めると見込まれていました。しかしながら、労働市場は少し前に改善に転じたにもかかわらず、労働参加率(図表6)と労働市場に新規および再び参入した人数(図表7)は、きわめて低い水準です。これらのデータが示唆しているのは、こうしたサプライサイドの議論は、ゼロ金利を継続する根拠としては薄弱になっている、ということです。

求人数のデータも、FRBがゼロ金利政策を解除する有力な根拠となります。1月の求人数は500万人と14年ぶりの高水準で、前年同月比で100万人増加しました(図表8)。2014年の雇用者数が300万人増加した中での出来事です。サプライサイド論者は過剰な労働供給が残っているとしていますが、雇用が力強く伸びる中で求人数がこれほど大幅に伸びたという事実は、それらの大半を吸収できるだけの新規労働者に対する需要が強いことを示唆しています。

テールを断ち切る
過剰な労働供給の縮小を示す指標が増えている点を勘案すれば、FRBの動きが早いほど、後で動く必要性が減るとも議論できます。詳しく説明しましょう。これまでのFRBのリスク管理は、拙速な動きを回避することでした。PIMCOの直近の四半期経済予測会議に参加いただいたベン・バーナンキ前FRB議長は、平時にゼロ金利制約を免れた国は1つもないと指摘しました。つまり、拙速に過ぎるのは良くないことになります。

とはいえ、後手に回ることも良いことではありません。というのは、FRBが早く動く場合よりも大幅な利上げを市場が織り込み始め、望ましい水準以上に金融状況が引き締まる可能性があるからです。このことは、FRBのリスク管理を後手に回るのを避けることにシフトさせる根拠となります。FRBのハト派がこうした考えのもとに結集し、市場がFRBの望む以上の利上げ幅を織り込むシナリオのテールを断ち切ることを目的に、利上げ票を投じる可能性があります。

引き締めは引き締めにあらず
利上げに至るまでの間にFRBが伝えたいであろう主たるメッセージは、「引き締めは引き締めにあらず」ということです。FRBのスタンリー・フィッシャー副議長は、3月の会合後に行なわれた講演で、FRBの最初の利上げは、政策スタンスが「超緩和的」から「極めて緩和的」に移行する動きに過ぎないと述べました。

また、イエレン議長は3月27日のサンフランシスコ連銀の講演で、「経済の実質均衡FF金利は、……歴史的にきわめて低い水準にある」と発言しました。この発言は、「ニュー・ニュートラル」の政策金利に関するPIMCOの見方と完全に一致しています。

FRBの政策金利は歴史的な低水準にとどまる見通しです。とりわけ米国の失業率の水準と比べて低い水準で、この状況は数年にわたって続く見通しです。加えて、FRBの4兆4,500億ドルにのぼるバランスシートは、従来よりも金利を低く抑えることで、米経済を刺激し続ける材料になるとみられます。FRBが債券を保有することで、従来の投資家が購入量できる量が減り、債券価格を引き上げ、利回りを引き下げるからです。

投資に関する意味合い:利上げの経路を重視する
ここでPIMCOの主たる投資テーマを確認しておきたいと思います。投資ポートフォリオの組成に際し、投資家は、FRBの利上げ開始のタイミングよりも、将来の利上げのペースと幅、さらには米国外の政策金利の見通しに注目するようお勧めします。FRBの利上げのペースは遅く、幅は小さくなる可能性があります。

第2に、ここ数カ月来の米ドル相場に見られるように、「イエレノミクス」は市場価格をコントロールする力を失い、市場ボラティリティが高まると予想されます。さらに、差し迫ったFRBの利上げに伴い懸念が高まるのは避けられず、市場のボラティリティが一段と高まると予想されますが、それはリスクだけでなく好機を生み出すはずです。来るべき好機に備えるようお勧めします。

要約しましょう。投資家の皆様には、FRBの利上げ開始後を見通し、長期で考えることを提案します。とりわけ、金利は向こう5年は低い水準にとどまる公算が大きく、投資家は引き続き、より高い利回りやリターンを追求すると予想されます。これに応じて、クレジット・リスクと株式リスクのオーバーウエイト・ポジションをお勧めします。よくあることですが市場に不安が台頭した際に、好機を生かせるようにしておくべきだと考えます。また米国債のデュレーションのアンダーウェイト、イールド・カーブのフラット化バイアス、FRBの利上げサイクルに先立つドル高のポジションも選好すべきでしょう。

FRBは市場の掌握力を失いつつあります。警戒を怠らず、動きを逃さないようご準備ください。

著者

Tony Crescenzi

マーケット・ストラテジスト

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金融市場の動向に関する記述は現在の市場環境に基づくものであり、市場環境は変化します。本資料で言及した投資戦略が、あらゆる市場環境においても有効である、またはあらゆる投資家に適するという保証はありません。投資家は、自らの長期的な投資能力、特に市場が悪化した局面における投資能力を評価する必要があります。見通しおよび戦略は予告なしに変更される場合があります。