れで公式に「利上げサイクル」が始まった――米連邦準備理事会(FRB)が3月にFF(フェデラル・ファンド)金利を引き上げて以来、専門家はそう評しています。3月の利上げは、3カ月で2度目、 (実に9年半ぶりの利上げとなった)2015年12月以来3度目となります。ただ、専門家がどう評しようとも、投資家としては、一連のFF金利の引き上げを、米国における金融引き締めサイクルの始まりではなく、現在進行中で、今後しばらく続くとみられる緩和策―世界の金融システムに潤沢な資金を供給してきた大規模な金融緩和策―の解除プロセスの始まりと捉えた方が有益だと考えられます。

緩和の度合いは、いくつかの方法で計測することができます。3月の利上げ後の実効FF金利(名目金利)は約0.9%で、FRBがインフレ指標として重要視する個人消費支出(PCE)価格指数(総合)の1.9%を依然として大幅に下回っています。言い換えれば、(インフレ調整後の)実質実効FF金利はマイナスにとどまっており、依然として緩和的だと言えます。完全雇用とインフレ目標のPCE2%と整合的な(緩和的でも引締め的でもない)均衡中立実質政策金利r*は、現時点で0%前後と推定され、FRBも概ねこれに同意しているように見受けられます。(PIMCOでは、中立金利は過去の平均よりも低くなっていることに早くから気づき、2014年にニュー・ニュートラルの概念を提唱しました。)r*が0%であれば、定義上、(名目)FF金利が2%に達するまで、政策金利が「緩和的」であり続けることを意味します。

フォワード・ルッキング型のテイラー・ルールを見れば、この概念がよくわかります(図表1を参照)。テイラー・ルールは金利予測モデルであり、目標とするインフレ率と失業率に対して実際の指標がどの水準にあるかを踏まえ、中央銀行が政策金利を決定する際の目安となります。これを修正したフォワード・ルッキング型は、長期インフレ予想を重視し、より緩慢で漸進的な引き締めプロセスを示唆する傾向があります。r*が0%前後という現状で、フォワード・ルッキング型テイラー・ルールから理論的に導かれるFF金利は、(いわゆる利上げサイクルが始まった後でも)実際のFF金利を大幅に上回る状態が続いており、この乖離が緩和の度合いとなります。

では、FF金利はいつ2%に達するのでしょうか。直近のドット・チャートに示された政策金利見通しの中央値からは、2018年末までFF金利が2%に達することはないとFRBが見ていることが伺えます。そのため、「緩和解除(removal of accommodation)」サイクル――音節が9つもあり発音しにくいので「ROA」と略しましょう――の先はまだ長いと言えます。利上げ直後の市場では、株価が上昇し、信用スプレッドがタイト化し、ドル安が進みましたが、こうした反応は、FRBが正常化に向けて漸進的なプロセスをたどる、との解釈とも合致しています。これをハト派的な緩和解除(ROA)と呼びましょう。

政策経路:険しい道のり
では投資家は、実質FF金利が0に戻り、本当の意味での引き締めサイクルが始まる来年末頃まで、専門家の 見方を雑音として無視してもいいのでしょうか。そうした誘惑に駆られますが、FRBが緩和解除を進めるうえ で、FRBにとって(ひいては市場にとって)リスクとなりうる課題が少なくとも3つあることを念頭においておくべきです。

第1に、4兆5,000億ドルにも膨らんだFRBのバランスシートを縮小するには、いくつもの重要な点を詰めていく必要がありますが、FRBはまだ解決しておらず、決めかねているように見えます。具体的には、バランスシートの縮小プロセスをどう進めるのか、いつ開始するのか、どのようなペースで進めるのか、どのくらいの時間軸で進めるのか、最終的な水準をどうするのか、といった点が問題となります。言うまでもありませんが、仮に世界的金融危機の後、何年にもわたってFRBが進めてきた3段階の資産買い入れプログラム、いわゆる「量的緩和(QE)」プログラムが長期の米国債や住宅ローン金利のターム・プレミアムを引き下げたとすれば(FRBはそう考えており、私も同意しますが)、そのポートフォリオの解消は、ターム・プレミアム、ひいては長期債利回りや住宅ローン金利の上昇圧力となる、ということです。注意していただきたいのは、QE3は2014年10月に終了したものの、米国債市場でもモーゲージ債(MBS)市場でも、FRBは依然としてビッグ・プレーヤーであるという点です。バランスシートの規模を維持するため、FRBは既発債の満期やMBSの期限前償還分を依然として買い続けています。

「バラ色」の緩和解除シナリオに対する第2の課題として、貿易動向やリスク選好を阻害し、金融市場や為替相場を攪乱させかねない、金融、政治、および地政学的イベントが世界のどこかで発生する脅威が常に存在している点が挙げられます。いみじくもFRBは追加の緩和解除を行うかどうかを会合ごとに判断する際に、世界の動向を注視していくとしています。2015年の夏、6月の中国の株価急落や8月の人民元切り下げで見られたように、こうした世界の動向は、ゲームプランを攪乱し、ブルー・ドットやツイートで伝えられるFRBの方針をわかりにくくする可能性があります。

ドット分布に示された緩和解除の予想経路に対する第3の課題として、FRBの理事の構成が挙げられます。 ジャネット・イエレン議長の任期は2018年初めに終了し(スタンレー・フィッシャー副議長の任期は2018年 半ばに終了)、まもなく理事会は3人が空席となります。タカ派色が強まるかどうかはともかく、近い将来、FRBの理事の構成はかなり変わることになりますが、緩和解除の計画がどうであれ、そうした新メンバーを現在のイエレン議長が縛ることはできません。

要約すると、イエレン議長率いるFRBは緩和解除に乗り出し、市場はこれまでのところその計画を受け入れています。しかしながら投資家は引き続き、FRBがバランスシートをどうするのか、トランプ政権が空席となる FRB理事に誰を指名するのかを注意深く見守っていくことが賢明だと言えるでしょう。もちろん、世界的な「ホットスポット」にも注意が必要です。

著者

Richard Clarida

元グローバル戦略アドバイザー、2006~2018年

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