私は最近、フーバー研究所主催のパネルディスカッション「ルールに基づく国際的な金融政策改革」に参加し、テイラー・ルールで有名なスタンフォード大学のジョン・テイラー教授、財務長官や国務長官を歴任したジョージ・シュルツ氏と共にパネラーを務めました。このパネルの狙いは、グローバルな金融政策について、政策ルールに際立った役割を付与する経済モデルだけでなく、非伝統的な金融手段、ゼロ金利さらにはマイナス金利など、金融危機以降の世界で観察される実情を踏まえて、新たな視座を提供することでした。

世界各国で導入されている政策を証拠として挙げて、「どこもやっているようだから、各国の中央銀行は協力しているに違いない!」と言われる方がいるかもしれませんが、そう急がないでください。(世界的な金融緩和期や世界的な利上げサイクルなど)各国の金融政策には往々にして相関性があり、時に協調しているように見えますが(結局のところ、G7やG20、IMF、バーゼル会議で中央銀行がやっていることと言えば、協調以外にはないでしょう)、主要中央銀行が実際に協力的な政策――国内の物価安定と雇用拡大という自国の目標達成のみを目指した非協力的な政策とは一線を画した政策へのコミットメントを尊重することは(仮にあったとしても)稀です。

真の意味での中央銀行の政策協力は、世界経済に恩恵をもたらすのでしょうか。各国に恩恵をもたらすのでしょうか。全般的に異例の金融政策に対するリターンが全般的に低下しつつあるマクロ経済環境において、こうした疑問を提起する識者が増えています。そのうちの1人、欧州中央銀行(ECB)のマリオ・ドラギ総裁は、世界の投資家を震撼させた英国のEU離脱決定の数日後に講演し、「グローバル化した世界では、グローバルな政策ミックスが重要であり、各国経済の統合が進むにつれ、その重要性は増すとみられる。したがって、国内の金融政策が適切かどうかだけでなく、自国の管轄を越えて政策が適切に調整されているかどうかを検討する必要がある」と述べました。しかしながら、政策の調整あるいは協調から強制力のある政策協力へと進化する過程で、リスクとリターンのバランスはどこにあるのでしょうか。

学術的な理論によれば、開放経済のマクロモデルでは、金融政策の完全な国際協力によってもたらされるとされるメリットは、現在のナッシュ均衡(他国が分別ある政策を取ることを前提に、各国が分別ある政策をとる場合)の下で達成された成長率やインフレ率の成果に比べて小さいとされます。しかしながら私は、金融政策の国際協力に対して、やや異なる見解、あまり議論されていない見解を述べたいと思います。具体的には、各国が協力的な金融政策を導入したり、従ったりすることは、中央銀行の信認を低下させ、健全でルールに基づいた政策への国民の支持を失わせる可能性がある、ということです。私の見解が正しいとすれば、各国の政策協力を前提としたレジームは、理論上考えられるわずかなメリットを吹き飛ばす恐れがあります。だとすれば、正式な金融政策の協力が存在しない現状を嘆くべきではなく、むしろ喜ぶべきだと言えます。

協調以上のことには警戒が必要

一国の金融政策にとって、政策ルールが重要な参照点や指針になるという意味において、国際協調は、基本となる一国の政策ルールの設計や実効性を向上させる可能性があります。ここで協調の具体例として念頭に置いているのは、データや分析の共有であり、観察不可能なデータの推計を均衡実質金利や潜在成長率といった政策ルールに反映させます。また情報の共有も考えられ、中央銀行の反応関数や、基本的な政策(ルール)のタイミングや経路に影響を与えることになります。

確かに金融政策の国際協調は、政策ルールに基づく枠組みの実効性を高める可能性がありますが、協調以上の取り組みについて私は懐疑的です。現実に、少なくとも主要先進7カ国(G7)、あるいは変動相場制と比較的開放的な資本勘定をもつエマージング諸国まで含めて拘束力のある金融政策の協力体制を正式に導入したとしても、それによって実質的で信頼でき、確固とした成果が得られるとは思えません。(拘束力のある)協力体制では、連帯して世界全体への効果を最大化するために、どの国も国内の金融政策が制約されることになります。

拘束力のある協力体制モデルでは、理論上はメリットをもたらす外部要因が存在します。しかしながら、私や他の識者が、米連邦準備制度理事会(FRB)をはじめとする中央銀行で活用されている「ニュー・ケインジアン」マクロモデルで示したように、こうした理論上のメリットを実現するには、どの国も自国だけなく他国のインフレ率が目標からどれだけ乖離しているかを参照しながら政策を決定する必要があります。言い換えれば、協力体制がない中では、国内のインフレ率、需給ギャップ、適切な均衡(中立)金利に対応した政策ルールに基づいて最適な政策が実行できるのに対して、世界全体への効果を志向した協力体制をとる場合、各国中央銀行は国内のインフレ率だけでなく他国のインフレ率にも対応した政策ルールに縛られることになります。これらの政策ルールは、拘束されていなければ選択することのないものです。ここに、いわゆる時間不整合問題があります。コミットメントの背景となる要因が変化した結果、ある時点のコミットメントが将来の時点で陳腐化し、整合性が取れなくなる問題です。

信認を考える

金融政策の国際協力に関しては、理論的な議論ではほとんど取り上げられない別の問題も存在します。単純化して言えば、国際的な政策協力は、中央銀行の信認を損なう恐れがあるのです。

中央銀行のコミュニケーションは、いかなる状況でも綱渡りですが、政策協力が行なわれると根本的にさらに難しくなると考えられます。中央銀行は国内のインフレ率や失業率だけでなく、他国のインフレ目標からの乖離にも対応する必要がありますが、こうした政策決定は国民の支持が得られないとみられます。たとえば、国内のインフレ率が目標を上回る一方、他国のインフレ率が目標を下回っている場合、最適な政策ルールの下での自国の(実質)政策金利は、協力体制がない時よりも低く、より景気刺激的なものになります。理論モデルでは、インフレ目標へのコミットメントは信頼性があるとされていますが、信認は中央銀行のコミュニケーションと、インフレ率を目標水準に誘導し、ショックがなければその水準で維持するために採用されている政策の関数だと考えられます。現実に、自国のインフレ率が低過ぎるからではなく、他国のインフレ率が低過ぎるために国内の実質金利を低めに誘導し、極端なケースではマイナスに維持する政策を実施するには、中央銀行は信認を維持し、政策を説明するのに苦労することになるでしょう。あるいは逆のケース、国内のインフレ率は目標を下回る一方、他国のインフレ率が目標を上回っている場合を想像してみてください。このケースで、国際協力体制で求められる最適な政策ルールでは、協力体制がなかった場合に比べて国内の(実質)政策金利を高めにし、景気抑制的にすることになります。国内のインフレ率が高過ぎるからではなく、他国のインフレ率が高過ぎるという理由で!こうした決定をした後の記者会見を想像してみてください。

情報の共有

おそらくこれまで述べてきたような理由により、純粋な意味での金融政策の国際協力は確認できませんが、いわゆる政策協調と考えられる例は見受けられます。たとえば、ある国の中央銀行が、平常時にはテイラー・ルールに基づく政策を実施し、中立政策金利がマイナスの時には量的緩和(QE)を実施する例を考えてみてください。理論から予想されるとおり、また、FRBの政策担当のキャスリン・ホルストン、トーマス・ローバッハ、ジョン・C・ウィリアムズの最新の論文で論証されているとおり、各国の中立政策金利を動かす重要なグローバル要因が存在しており、それは世界の平均潜在成長率と連動しています。つまり、ある中央銀行が、自国の経済成長率や均衡実質金利の動向を把握し、予想するうえで比較優位がある分だけ、こうした情報を他国の中央銀行と共有すれば、各国中央銀行が自国の均衡実質金利を推計する際の精度が向上し、ひいては国内の目標を達成するうえでの政策ルールの実効性は高まる可能性があります。

要約しましょう。理論的に金融政策の国際協力によってもたらされるとされるメリットを実現するには、国内の変数のみに基づくルールに従うだけでは十分ではありません。協力体制のもとでは、自国だけでなく他国の変数――特に自国および他国のインフレ率を関数として政策金利を決定する必要があります。時間的に整合性のない政策協力がもたらすメリットは量的にはごくわずかです。また、協力的な政策を実施するのに必要な政策ルールを説明したり、インフレ目標や政策の枠組み自体の信頼性を損なうことなく政策ルールを順守したりするのは容易ではありません。このため、各国の金融政策には往々にして相関性があるものの、各国の中央銀行が協力にコミットする――コミットメントを尊重することは滅多にないのです。

参考文献
Holston, K, Laubach, T., & Williams, J. (2016). “Measuring the Natural Rate of Interest: International Trends and Determinants,” Federal Reserve Bank of San Francisco Working Paper 2016-11.

Clarida, R., Gail, J., & Gertler, M. (2002). “ A Simple Framework for International Monetary Policy Analysis,” Journal of Monetary Economics, 49, 879-904.

Obstfeld, M. & Rogoff, K. (2002, May). “Global Implication of Self-Oriented National Monetary Rules,” The Quarterly Journal of Economics, 117,503-505.

Taylor, J.(1985). “International Coordination in the Design of Macroeconomic Policy Rules,” European Economic Review, 28, 53-81.

著者

Richard Clarida

元グローバル戦略アドバイザー、2006~2018年

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