の1年、世界の金融市場でボラティリティが高まった背景には、1970年代初頭以来となる世界の金融秩序への重大かつ長期的な変化の台頭――中国のグローバル金融システムへの統合――があります。この変化のハイライトが、昨年11月に国際通貨基金(IMF)の国際準備資産である特別引出権(SDR)の構成通貨として人民元が採用されたことでした。SDRの価値は、米ドル、ユーロ、日本円、英ポンドなど主要な国際通貨バスケットによって決まります。

この統合は画期的であり、中国は世界の舞台でまた一歩大きく前進することになりました。グローバルな金融市場における中国の存在感はもはや動かしようがなく、その動向は外国為替市場、金利、資金フロー、株式市場ひいては世界各国の中央銀行の決定に影響を与えています。

 この中国の統合に伴う調整により、世界の株式市場では昨年8月と今年1月の2度にわたって激震が走り、主要市場は10%前後急落しました。こうした市場変動の苛烈さもあるため、投資家は「新しい秩序」に対する理解を深め、隠れた落とし穴を避け、潜在的な投資の好機を生かすことが必要です。

混乱のプラス面
中国のグローバル経済への統合が始まったのは40年近く前の1978年であり、以来、中国国内では一連の市場改革が行われてきました。2001年12月に世界貿易機関(WTO)に加盟して以降、統合は加速しています。今や中国は世界貿易の牽引役であり、世界最大の輸出国になりました。

中国は過去30年以上、平均10%前後という急激な成長を続けてきましたが、主要国の持続的成長率としては史上最も高い水準であり、中国のこの急成長が世界の舞台で成功を収める上で非常に重要でした。1 また、この急成長は国内にも目覚ましい成果をもたらし、とりわけ貧困層が激減しています。2(図表1)

 

中国の国民にとって貧困層の激減は最も顕著な成果だと言えますが、上海の写真を25年前と比較しても生活水準の向上は明らかです。(図表2)

 
 

中国のグローバル経済への統合が比較的順調に進んだのとは対照的に、最近のグローバル金融システムへの統合はおよそ円滑とは言い難く、投資家の関心が目先の悪影響に向かいがちです。

確かに懸念されて当然の材料は存在します。何よりまず国内の景気が減速しており、成長率は6%前後になるものとみられます。また中国社会では人口の高齢化が進んでいます。さらにそうしたなかで、未曾有の規模で投資主導の経済から消費主導の経済へと大転換が図られています。その実現には多くの改革が必要で、微妙な舵取りが求められますが、一歩間違えば、経済および金融システムが誤った方向に誘導されかねません。くわえて中国では債務が膨張していますが、政府は景気を失速させたり、成長モデルの転換計画に支障を来たすことなく、銀行部門の不良債権問題を慎重に処理しようとしています。

こうした懸念材料はありますが、考慮すべき好材料も存在します。中国はいずれ日本を抜いて世界最大の債権国になるとみられ(図表3)、世界各国に巨額の流動性を供給することが可能です。とりわけ近隣アジア諸国はいまや世界の経済成長の3分の1を占め、22%の米国、18%前後の欧州を大きく上回っています。



 

現時点で中国からの資本流出を懸念している人々は、そのプラス面を考慮すべきだと言えるでしょう。資本流出は中国に「囚われた」資本を開放し、諸外国への投資に振り向けることができるのです。また、2008年の金融危機の影響が残るなかで、各国中央銀行が徹底的かつ効果的に従ってきたバジョット・ルールを思い出す必要があるかもしれません。

「恐慌を回避するには、優良な担保を裏付けとして、早期かつ無制限に(限度なく)優良な銀行に貸出すべきである……」

このためには、人民元が決済手段として広く利用され、世界の中央銀行の外貨準備に占める比率が高まる必要がありますが、そうなれば、新しい秩序における主要な流動性の供給源として、中国の役割は今後大幅に高まる可能性があります。しかしながら現在、外貨準備が人民元で保有される例はきわめて少なく、米ドルで保有される現状は数十年来変わっていません。

世界各国が「メイド・イン・チャイナ」の製品を大量に消費することにより、中国の外貨準備は3兆2,000億ドルにまで積み上がり(世界全体では11兆ドル)、世界一を誇ります。したがって、中国は前出の課題をうまく乗り切れるだけの資金と意思を備えていると言えます。ただ、そのためには、うまくスキルを使いこなす必要があります。多くの人々から経済の「奇跡」と評される状況を、中国が既に実現しているという事実は安心材料でしょう。投資家は、ウォーレン・バフェットの「アメリカは買い」というモットーを、他に売る理由が見つかるまでは、中国にもあてはめることを考えるべきだと思います。


 


新しい秩序の下での大いなる不
確実性
中国の為替政策が原因でボラティリティが上昇したことを考えれば、投資家が中国のやり方を善意に解釈するのは容易ではありません。どのくらいの為替レートをターゲットにしているのか、どの通貨を操作の対象にするのか、どの程度のペースの為替変動を望んでいるのか、またしても「一回限り」の切り下げで市場を驚かせるつもりなのか。投資家は、こうした疑問を抱いています。

不確実性は金融市場を悩ませる要因ですが、とりわけ金融政策をめぐる不確実性は計り知れない苦悩をもたらします。PIMCOのアドバイザーのベン・バーナンキ米連邦準備制度理事会(FRB)前議長が、「金融政策はコミュニケーションが98%で、行動は2%」と発言したことはよく知られています。中国がより明確なコミュニケーションを取ることにより、グローバル市場において不確実性を減らし、落ち着きを取り戻すにはまだ多くの時間がかかりそうですが、ある程度の進歩は見られます。国際通貨基金(IMF)のクリスティーヌ・ラガルド専務理事は、最近の中国のコミュニケーション向上の努力を「喜ばしい」と発言しています。

今年2月には上海で主要20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議が開催されましたが、これ以降、中国は政策の透明性を高めています。この会議では、世界の通貨安競争の「休戦」が宣言された模様で、中国人民銀行の周小川総裁はその為替政策を明らかにしました。9月上旬の首脳会議を含め、中国はG20の一連の会議の議長国であり、安定感を演出したいと見られることから、年内は落ち着いた状態が続くものとみられます。

政府管理の復活
新しい世界の金融秩序は、これまでとどこが違うのでしょうか。グローバル金融システムへの中国の統合、とりわけ人民元がIMFのSDR通貨に採用されたことによって、1970年代初頭に崩壊したブレトン・ウッズ体制以降失われていた政府管理の要素が世界の外国為替制度に再び入り込むことになりました。約25年続いたブレトン・ウッズ体制は管理通貨制度でしたが、崩壊後の制度はまったく異なり、市場の自由な動きに任せる変動相場制が取られ、それが激しい為替変動の原因と考えられています。

では、グローバルな為替制度に政府管理の要素が再び取り込まれることのどこにそれほど問題があるのでしょうか。その答えは再び不確実性に戻ります。ブレトン・ウッズ体制の時代は、為替相場を管理する各国政府の意図を理解したうえで市場が動いていましたが、中国はコミュニケーションを取り始めたばかりで、投資家はその意図に確信が持てません。

人民元レートの変動の方向、大きさ、スピードをめぐる不確実性は、世界的に金融政策の立案を複雑化し、景気の見通しを不透明にする恐れがあります。貿易で中国と競争関係にある国にとっては特にそう言えます。水滴が波紋となって池に広がるように、中国の動向は波紋のように世界の経済および金融市場に影響を与えることになります。

その影響はFRBにも及んでいます。中国の動向がFRBの金利見通しを変えたという意味で、昨年来のFRBの金融政策は、まさしく「メイド・イン・チャイナ」と評することができます。欧州中央銀行(ECB)や日銀も影響を受けており、中国を震源とする世界経済と金融市場の動揺にそれぞれ対策を講じましたが、今度はそれらの行動が市場のボラティリティを高めることになりました。とりわけ日本のゼロ金利政策導入の影響は大きく、7兆ドルにのぼる日本の国債の3分の2の利回りがマイナス圏に押しやられています。(図表5)

 
 

政府管理は、それが生み出す確実性ゆえ吉と出る可能性はありますが、年初ほどではないものの、現時点では不確実性が勝っています。それでも投資家はいずれ新しい秩序に慣れることになるでしょう。そして、中国の経済の変革が順調に進む限り、中国をグローバルな金融システムに統合することのプラス面を目にする可能性が高いと言えるでしょう。

 
 
 
 
1http://www.worldbank.org/en/country/china/overview
 
2世界銀行
 
著者

Tony Crescenzi

マーケット・ストラテジスト

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