経済見通し

米国、カナダでは潜在的な問題を抱えつつも景気回復が継続

​PIMCOでは引き続き、米国の消費者が労働市場における需給ギャップの縮小とコモディティ価格の下落に伴う可処分所得の増加の恩恵を享受する結果、経済成長率は2.5~3%に上昇すると予想しています。これに対して、原油価格の下落に伴う設備投資の減少と米ドル高の影響というマイナス要因が、これらのプラス要因を相殺する見通しです。カナダ経済には、プラス、マイナス相反する要因が重要な影響を及ぼす可能性があります。プラス要因としては米国の経済成長の継続が、マイナス要因としては原油価格の劇的な下落が挙げられます。とはいえ、2015年の実質GDP成長率の見通し(1.75~2.25%)に対するリスクとしては、どちらかと言えば上振れ方向であると考えています。米国では、米金利の短期ゾーンをアンダーウエイトとすることが適切であると考えており、一方、非政府機関系モーゲージ債(MBS)や米物価連動国債(TIPS)、クレジット市場では個人消費や住宅関連のセクターをオーバーウエイトとしています。カナダでは、物価連動債が名目債をアウトパフォームするとみており、また、カナダ国債を保有するよりも、比較的利回りの上乗せ幅が大きい州政府や銀行が発行する債券を購入する方が望ましいと考えています。

PIMCOでは四半期に一度、世界各地からPIMCOの投資プロフェッショナルがニューポートビーチに集まり、世界経済と金融市場の見通しについて議論をします。以下のインタビューでは、PIMCOのカナダ経済と米国経済の短期見通しについて、ポートフォリオ・マネージャーのエド・デブリンとマイク・クジルが語ります。

問:昨年12月時点では、PIMCOの2015年の米国経済見通しは楽観的なものでした。米国にはグローバル先進国経済の牽引役としての役割が引き続き期待されるのでしょうか。
クジル:PIMCOでは、米国経済は短期的には2.5~3%の成長を達成すると予想しています。また、米国の消費者は、労働市場における需給ギャップの縮小とコモディティ価格の下落に伴う可処分所得の増加の恩恵を享受するという見方を依然として持っています。米国では、国内総生産(GDP)の中で個人消費が70%近くを占めることから、このように良好な流れが今後も経済成長を後押しする見通しです。

とはいえ、昨年12月の短期経済予測会議以降も、原油安と米ドル高傾向が続いています。

  • PIMCOでは、原油価格の下落は最終的には米国経済全体にプラスに作用するとみていますが、その過程では勝ち組と負け組に分かれるとみられます。消費者が恩恵を享受するという側面がある反面、エネルギー関連や鉱業関連の企業にはある程度の悪影響や不利益が及ぶでしょう。その結果、これらのセクターにおける設備投資が減少することによって、GDPは0.2~0.5%ほど押し下げられる可能性があります。
  • 急速な米ドル高は、純輸出へのマイナスの影響を通じてGDPを下押しするとともに、企業利益を損なうとみられます。

このような変動要因がある分だけ、PIMCOの短期経済成長見通しの不確実性は高まっていますが、米国経済の堅固な基盤は損なわれていません。

問:カナダ経済の回復の持続性についてのPIMCOの見通しを教えてください。
デブリン:カナダ経済には、プラス、マイナス相反する要因が重要な影響を及ぼす可能性があります。つまり、一方では、米国経済が成長し続ける結果、カナダの輸出の伸びを今後も大きく後押しする見通しですが、他方では、カナダはエネルギーの生産国であり、輸出国でもあるため、原油価格の劇的な下落はカナダ経済にマイナスに作用することが確実です。PIMCOでは、「エネルギー・ショック」がエネルギーの生産企業に与える悪影響は2015年の早い段階で確認されるのに対して、カナダドルとガソリン価格の下落によって輸出企業と消費者がそれぞれ享受する恩恵は緩やかに顕在化するというカナダ銀行(中央銀行)の見方に賛同しています。また、原油価格が年末までに1バレル当たり10~15ドル上昇するという基本シナリオを踏まえ、2015年の実質GDP成長率の見通し(1.75~2.25%)に対するリスクとしては、どちらかと言えば上振れ方向であると考えています。

2015年は、低金利環境を背景に、カナダ中銀が1月21日に市場の予想に反して0.25%の利下げを実行したことも手伝い、個人消費と住宅投資は引き続き堅調に推移する見通しです。超低金利の環境において、住宅価格が過大評価されるとともに、消費者が過剰債務を抱えることによって、将来的に金融システムの安定が損なわれる可能性はありますが、これは2016年以降の問題であるとみています。

PIMCOでは、カナダのコアインフレ率は現在の2%という水準近辺にとどまると予想しています。原油価格の下落は総合インフレ率には影響する見通しですが、主要なコアインフレ率に対する影響は概ね遮断されています。2015年も引き続き、カナダドルの下落が輸入品価格の上昇を通じてコアインフレ率に上昇圧力を加えることになるでしょう。

このため、PIMCOでは、2015年もカナダ経済が変動を伴いながらも拡大し続ける中で、原油、米国経済、カナダ中銀の政策の動向を非常に注意深く見守っていきます。

問:近年では、米国の雇用情勢は着実に改善しており、賃金が上昇する兆しもようやく見られています。今後、物価は幅広く上昇するのでしょうか。
クジル:米国では失業率がインフレを加速させない水準(NAIRU)に近づく一方で、賃金は従来の景気回復局面の2分の1から3分の2程度までしか回復していないことから、この先は正常化の兆しが確認されるようになるでしょう。企業が最低賃金を引き上げたという声が一部で聞かれているほか、各種の調査や貨幣の流通速度の指標はいずれも賃金が短期的に上昇する見通しを示しています。求人労働異動調査(JOLTS)における総求人件数および離職率の数字や、米独立事業者協会(NFIB)小企業調査における「採用枠が埋まらない」および「賃上げを計画中」という設問に対する回答は、いずれも景気後退前の水準かそれに近い水準まで回復し、賃金が上昇する見通しを示唆しています。

PIMCOでは、賃金に関連するこのような動向を踏まえ、米国のインフレ率は市場予想よりもやや高い水準まで上昇すると予想していますが、PIMCOの短期予測期間には米連邦準備制度理事会(FRB)の長期目標に届くことはないでしょう。また、賃金は上昇傾向にあるものの、昨年12月の短期経済予測会議以降の大幅な米ドル高とコモディティ価格の下落を背景に、インフレ率は伸び悩む可能性が高いとみています。最近の原油価格の下落を受けて、総合インフレ率はこれから夏にかけてゼロまたはマイナス圏内まで低下するものの、コア消費者物価指数(CPI)は夏場に1.5~1.6%で底打ちした後に、年末にかけて1.75~2%まで回復すると予想しています。このほか、基本シナリオとして、グローバルな総需要不足を背景に非常に多くの国の中央銀行が金融を緩和し、一部の国では量的緩和政策が導入されている状況に鑑み、米国のインフレ率の上昇は年末までは緩やかなペースにとどまるとみています。

問:PIMCOでは、FRBは9年ぶりに利上げに着手すると予想しています。その潜在的な影響を教えてください。ゼロ金利政策から脱却する過程には大きな変動が伴うのでしょうか。住宅市場にはどのような影響が及ぶのでしょうか。
クジル:PIMCOでは、米国の労働市場の改善が続く中でインフレ率が短期的に上昇するとみていることから、FRBはこの先3~6カ月間に政策金利を引き上げ、金融政策の正常化のプロセスを開始するとみています。平時経済において中央銀行がゼロ金利政策から脱却した前例がないことを踏まえると、その過程には確実にリスクが伴うでしょう。FRBは、失業率がNAIRUという目標水準に向けて低下し続け、インフレ率が中期的には長期目標に向けて上昇する見通しに相応の自信が持てる限りは、金利の正常化を開始するとみています。また、FRBは、利上げに着手した後も、金利を緩やかに引き上げ続けることが適切かどうかを確認するために、金融市場や経済情勢を注意深く見守るでしょう。PIMCOでは、これが重要なポイントであると考えており、FRBは、市場や経済の状況が許容する場合に限って、利上げと金融政策の正常化を継続するとみています。経済成長に減速の兆しや、市場において資金調達状況が過度に速いペースで逼迫化する兆しが確認された場合には、FRBは引き締めのペースをさらに緩めるか、完全に停止する可能性があります。反対に、インフレ率や失業率が目標に達し、市場が健全に機能していれば、FRBはより正常なペースで利上げを行なうでしょう。このほか、FRBは、政府債務残高の高止まりを背景に、実質的なフェデラル・ファンド(FF)金利の長期的な中立水準が0%近くであると最終的に判断するとみられるため、今回のサイクルではFF金利の到達地点は通常のサイクルよりも低い水準になると予想しています。

PIMCOでは、FRBには、金融政策が単独で住宅市場に大きな影響を与えるような展開を避けたいという心理が働くとみています。2013年のテーパリング癇癪(量的緩和縮小に対する市場の過剰な反応)の事例では、金利が経済やインフレの動きとは切り離されて真空状態で急上昇したため、住宅市場の活動が冷や水を浴びる結果になりました。FF金利の引き上げ判断においてFRBは資金調達状況や経済活動を重視するというPIMCOの基本シナリオに基づくと、FRBは、経済や市場の受け入れ態勢が整った場合に限って、正常化プロセスに着手する(またはこれを継続する)でしょう。また、賃金や雇用の情勢が改善傾向にあるという理由で金利が上昇するのであれば、住宅市場に悪影響が及ぶことはないとみています。PIMCOでは、基本シナリオとして、新世紀世代(ミレニアルズ)が両親の住居から独立して自ら家計を形成し始める過程で住宅の回転率が高まるため、住宅価格はこの先2年間は年3%のペースで上昇すると引き続き考えています。

問:カナダ中銀はなぜ今年1月に政策金利を引き下げたのでしょうか。今後の政策見通しを教えてください。
デブリン:カナダ中銀は、1月21日に実行した0.25%の政策金利の引き下げを「保険的な」政策と位置付けています。また、原油価格の大幅な下落が消費者や企業の景況感に影響する可能性や、その結果として従来の経済予測モデルが示唆するよりも経済成長率が低下するリスクを懸念しています。ポロズ総裁率いるカナダ中銀は、カーニー前総裁の時代よりもハト派寄りであることははっきりしています。ポロズ総裁率いるカナダ中銀は、強い経済指標には注目せず、弱い経済指標を重視する姿勢を示しています。このため、PIMCOでは、カナダ中銀は年末までに「保険」としてさらに0.25%の利下げを行なうと予想しています。また、カナダ中銀は経済成長を保守的に下支えする姿勢を維持するとみており、2015年の景気回復の道のりには多くの不確実性が伴うことから、原油価格がさらに下落する場合には、年後半に3度目の利下げが実施される可能性も否定できません。

問:PIMCOの米国経済見通しは投資家にとってどのような意味を持つのでしょうか。
クジル:PIMCOでは引き続き、「ニュー・ニュートラル」の見通しを維持していますが、一方で、市場はこの新しい現実を既に十分に織り込んだとみています。このため、米金利の短期ゾーンをアンダーウエイトとすることが適切であると考えています。消費者が雇用情勢の改善や原油価格の下落を背景とする可処分所得の増加の恩恵を今後も享受する結果、個人消費や住宅関連の経済活動は下支えされるでしょう。また、非政府機関系モーゲージ債(MBS)や、クレジット市場では価格決定力や高い参入障壁を有する厳選したセクターを引き続き選好しています。このほか、コンセンサス予想や市場価格が示唆するよりもインフレが上昇するとの見方に基づき、米物価連動国債(TIPS)に投資妙味を見出しています。

問:PIMCOのカナダ経済見通しは投資家にとってどのような意味を持つのでしょうか。
デブリン:10年債が1.4%、30年債が2.0%という長期ゾーンの名目債の利回りは割安ではないようです。長期にわたって2%のインフレ目標を達成してきたカナダ中銀の実績に鑑みると、30年物の物価連動債は、ブレーク・イーブン・インフレ率が3月30日現在で1.7%程度であるため、名目債をアウトパフォームするとPIMCOではみています。また、クレジット・スプレッドの縮小ペースがカナダ国債金利の低下ペースに追いついていないことから、カナダ国債を保有するよりも、比較的利回りの上乗せ幅が大きい州政府や銀行が発行する債券を購入する方が望ましいと考えています。

著者

Ed Devlin

ジェネラリスト・ポートフォリオ・マネージャー

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全ての投資にはリスクが伴い、価値は下落する場合があります。債券市場への投資は市場、金利、発行者、信用、インフレ、流動性などに関するリスクを伴うことがあります。ほぼ全ての債券及び債券戦略の価値は金利変動の影響を受けます。デュレーションの長い債券及び債券戦略は、より短い債券及び債券戦略と比べて金利感応度と価格変動性が高い傾向にあります。一般に債券価格は金利が上昇すると下落し、現在のような低金利環境ではリスクが高まります。債券取引におけるカウンターパーティーの取引能力の低下が市場流動性の低下や価格変動制の上昇をもたらす可能性があります。債券への投資では換金時に当初元本を上回ることも下回ることもあります。株式の価値は一般的な市場、経済、産業の実体と見込み両方の状況によって減少する可能性があります。外貨建てあるいは外国籍の証券への投資には投資対象国の通貨価値の変動や経済及び政治情勢に起因するリスクを伴うことがあり、新興成長市場への投資ではかかるリスクが増大することがあります。モーゲージ担保証券と資産担保証券は金利水準に対する感応度が高い場合があり、期限前償還リスクを伴い、また、発行体の信用力に対する市場の認識に応じてその価格は変動する可能性があります。また、一般的には政府または民間保証機関による何らかの保証が付されていますが、民間保証機関が債務を履行する保証はありません。ソブリン証券は通常、発行体政府によって保証されています。米国政府機関の債務は米国政府からさまざまな形で支援を受けていますが、政府による全面的な保証は付与されないことが一般的です。こうした証券に投資するポートフォリオに対する保証はなく、ポートフォリオの価値は変動します。政府が発行する物価連動債(ILB)は、元本価値がインフレ率に連動して定期的に調整される債券です。実質金利が上がった場合、物価連動債(ILB)の価値は減少します。インフレ連動国債(TIPS)は、米国政府が発行する物価連動債(ILB)です。

金融市場の動向に関する記述は現在の市場環境に基づくものであり、市場環境は変化します。本資料で言及した投資戦略が、あらゆる市場環境においても有効である、またはあらゆる投資家に適するという保証はありません。投資家は、自らの長期的な投資能力、特に市場が悪化した局面における投資能力を評価する必要があります。投資判断にあたっては、必要に応じて投資の専門家にご相談ください。