経済見通し

財政統合なき金融政策の限界を試す

向こう1年間にユーロ圏の経済成長率は、現在の年率0.5%から依然として極めて低い1%程度に加速するとPIMCOでは予想していますが、インフレ率が極めて低いことは、需要に問題があることを示しています。 ECBが短期的にバランスシートを拡大すると見込まれる中で、ECBが国債を大量に買い入れる一方、政府が何も政策を講じないことが、経済成長にとっての最大のリスクになるでしょう。PIMCOでは、欧州周縁国および金融銘柄を中心とする欧州の社債を引き続きオーバーウエイトとする一方、中核国のイールドカーブの超長期ゾーンおよび対米ドルでユーロをアンダーウエイトとする見通しです。

下のインタビューでは、グローバル債券担当CIOのアンドリュー・ボールズ、マネージング・ディレクターのアンドリュー・ボゾムワースとロレンツォ・パガーニが、12月に開催された四半期に1度のPIMCO短期経済予測会議(シクリカル・フォーラム)からの結論と、その結論がPIMCOの欧州投資戦略に与える影響についてご説明します。また、欧州の経済情勢がグローバル経済に与える影響についてもご説明します。

問: 主要国の経済成長は二極化しつつあります。この傾向はいつまで続き、どのような展開が予想されるのでしょうか。
ボールズ: 短期的には、米国の経済成長率は潜在成長率とコンセンサス予想を超え、ユーロ圏と日本を大きく上回るとPIMCOでは予想しています。このようにファンダメンタルズの観点ではグローバルな経済成長が二極化するほか、金融政策の二極化も進むと予想しています。米連邦準備制度理事会(FRB)が量的緩和を終了して、2015年には政策の引き締めに着手する方向であるのに対し、日本銀行は量的緩和の拡大を決定しており、さらに欧州中央銀行(ECB)は買い入れ資産の対象を拡大して国債の買い入れに踏み切るとPIMCOでは考えています。

インフレに関しては、原油価格の下落を背景に総合インフレ率が低下しつつある一方で、米国のコアインフレ率は、水準が極めて低いユーロ圏やまだら模様の日本とは対照的に、健全な水準にあるとPIMCOではみています。

このような先進国のファンダメンタルズと政策における二極化傾向は、向こう2~3年間は続く可能性が高く、アクティブ投資家には相対価値に基づく投資機会が提供され、また、重要な点として、米ドルはとりわけユーロと円に対して上昇し続けるとPIMCOでは予想しています。

問: 向こう1年間の欧州の見通しについてこの他に考慮すべき点と、それがグローバル経済に与え得る影響を教えてください。
ボールズ: FRBが金融政策を徐々に引き締めていくタイミングにおいて、ECBがバランスシートの拡大ペースを加速させ、日銀が保有資産を拡大する結果、グローバルな流動性や資産価格は引き続き下支えされるとPIMCOでは予想しています。同様に、ECBによる量的緩和の方針が市場の期待を下回った場合、その影響はユーロ圏にとどまらず、グローバルなリスク資産にも波及すると予想しています。

経済活動が米国以外では低調である現状は、とりわけドル高という経済、金融市場の経路を通じて、FRBの政策サイクルがニュー・ニュートラルな方向に向かうというPIMCOの見方を強めています。また、このようにファンダメンタルズが二極化しつつある環境下で、ドイツ国債の金利が低いことが、米国を始めとする世界各国のイールドカーブを押し下げる要因になると予想しています。

問: ECBのこれまでの対応をどのように評価していますか。また、この先どのような展開が予想されるのでしょうか。
ボゾムワース: ECBが政策金利をゼロという下限まで引き下げたにもかかわらず、インフレ率がECBの予想を一貫して下回っている状況に鑑みると、ユーロ圏経済においてECBのモデルでは的確に捕捉されない状況が生じているようです。PIMCOでは、ECBは現在の労働市場の柔軟性や、定量化することが極めて困難な需給ギャップの大きさを過小評価しているのではないかと推測しています。たとえば、需給ギャップに関しては、ECBが信用の供給を増やそうと試みているにもかかわらず、欧州の民間セクターはレバレッジを積極的に削減してきました。また、インフレが下振れしている状況は、需要に問題があることを示しています。総需要がさらに縮小して潜在供給力を下回り、物価に下押し圧力が生じた結果、ECBの対応が不十分で後手に回るようになっています。

中核を成すリスクフリー資産のない、18カ国による通貨統合という特殊な状況下で、ECBは複雑な政策対応を余儀なくされています。ECBはこれまで、量的緩和以外のあらゆる金融政策を実行してきたことから、次の一手としては、量的緩和を導入する可能性が高いようです。

PIMCOでは、ECBは2015年の1月か3月の政策理事会において、5,000億~1兆ユーロ規模の量的緩和プログラムを発表すると予想しています。この規模に鑑みると、国債がプログラムの中心となり、ECBに対する出資比率(ECBの総資本に対する各国中央銀行の出資額の比率)に応じて加盟国の国債が幅広く買い入れられるでしょう。買い入れ額の決定に際しては、各国の国債の時価総額の違いが出資比率に加味される可能性もあります。また、非金融銘柄の社債も買い入れ対象になる見通しですが、社債の買い入れ額は市場規模が相対的に大きい国債よりも小さくなるでしょう。

問: 本格的な量的緩和は欧州にどのような影響を与えるのでしょうか。また、このようなECBの政策を市場はどのように受け止めるのでしょうか。
ボゾムワース: 広範な量的緩和の効果は、インフレ期待、借入コスト、外国為替市場という3つの経路を通じて反映されるでしょう。

前述した量的緩和政策は、ECBがインフレ・ターゲットの達成に真剣に取り組んでいるという重要なメッセージを送ることになり、企業と家計のインフレ期待を高める効果が期待されます。

ECBが非金融銘柄の社債を買い入れた場合、その効果は社債発行体企業の資金調達コストに直接反映される可能性が高く、また、トリクルダウン効果(浸透効果)を通じて、規模の小さい企業の借入コストが間接的に押し下げられることも考えられます。一方、国債の買い入れは、リスクフリー金利のイールドカーブをさらに下方シフトさせ、期待実質金利を押し下げる効果を発揮するでしょう。また、手元資金を減らそうとする市場参加者が、国債を売却した後にECBの買い入れ対象資産よりもリスクの高い資産を積極的に買い、その利回りを押し下げるという広範なポートフォリオ効果が実現するとPIMCOでは予想しています。たとえば、銀行の場合、保有国債を売却して融資を実行することが、ポートフォリオ効果に該当する可能性があります。これは、銀行融資における機会費用に実質的に関連するものであり、政府向けの貸出金利(国債金利)の低下が、企業向け融資を実行するインセンティブになるでしょう。

また、量的緩和政策は、ユーロの流通量を相対的に増やすことを通じて、他通貨に対するユーロの対外価値を低下させる可能性が高いでしょう。

一方で、量的緩和の限界を理解することも重要です。持続可能な真の経済成長は、結局は生産性の改善と人口の増加によって実現するものであり、これはユーロ圏の政府が取り組むべき課題です。ユーロ圏の政府は、理想的な世界では、自動安定装置の効果を一層高め、潜在成長率を押し上げる改革を実行することによって、ECBの政策を短期的にも長期的にもサポートするでしょう。政府が構造改革にコミットしている限り、市場が財政赤字の拡大を懸念することはないとPIMCOでは考えています。

政治、財政統合なしに通貨統合が持続した前例はなく、ユーロ圏はいずれその方向に進まざるを得なくなるでしょう。このため、ECBが国債を大量に買い入れる一方で政府が何も政策を講じないことが、投資家にとっての最大のリスクであり、経済成長を後押しするECBのあらゆる取り組みの効果が失われることになるでしょう。

問: PIMCOの見通しは欧州の中核国と周縁国ではどのように異なるのでしょうか。
パガーニ: 向こう1年間にユーロ圏の経済成長率は、現在の年率0.5%から、依然として極めて低い1%程度に加速するとPIMCOでは予想しています。原油価格の急落、ユーロ安、ECBによる追加刺激策が、この先数四半期の経済成長率を押し上げる見通しであるのに対し、ユーロ圏では、レバレッジの削減圧力が残存し、構造改革が必要とされているため、経済成長率の上昇余地は限定的でしょう。

ユーロ圏内では、各国の経済成長は明暗が大きく分かれるでしょう。困難な政策に取り組み、財政、構造改革に成功した加盟国は、比較的高い経済成長率を達成する見通しです。なかでもスペインは、1.75%程度のペースで成長するとPIMCOでは予想しています。これに対して、さらなる改革やコスト調整の必要性を抱える国の経済成長率は見劣りし、イタリアとフランスの経済成長率はそれぞれ0.25%、0.5%程度にとどまるでしょう。また、ドイツの経済成長率は1.5%とユーロ圏平均よりは高いものの、企業セクターが依然として慎重姿勢を崩さず、大規模な財政刺激策も期待されないため、低水準にとどまる見通しです。

現在のユーロ圏の経済成長の勢いはインフレ率を大きく押し上げるほど強くないため、インフレ率はECBのターゲットである2%を大きく下回る水準にとどまり、1年後には0.75%程度になるとPIMCOではみています。スペインとイタリアでは、スラックすなわち需給の緩みが大きいため、インフレ率は辛うじてゼロを上回る程度になる公算が大きいでしょう(PIMCO予想は0.25%)。ユーロ圏中核国でも、コスト調整の必要性を抱えるフランスでは0.5%、コスト抑制型の経済モデルが定着したドイツでは1.25%と低水準にとどまると予想しています。ユーロ圏の政府と民間セクターがバランスシートのレバレッジを削減する上で、インフレ率の低さが引き続き大きな問題になるでしょう。

問: 英国経済の見通しを教えてください。イングランド銀行には何が期待されるのでしょうか。
パガーニ: PIMCOでは、英国の経済成長率は足元の3%をやや下回るものの、来年1年間を通して引き続きトレンドを上回ると予想しています。脆弱なユーロ圏経済の影響を受けるものの、英国では消費者、企業の景況感がいずれも良好な水準で推移するなど、内需は依然として堅調です。このような環境において、失業率は引き続き低下し、実質賃金は労働市場の需給が引き締まる中で上昇すると予想しています。一方、インフレ率は、食料品、エネルギー価格の下落を一因として、足元ではイングランド銀行(BOE)のターゲットである2%を大きく下回っています。短期的には、最近のコモディティ価格の下落の影響が全面的に顕在化する中で、総合インフレ率は1%を下回る可能性が高く、その後は、1.5%程度の水準でコアインフレ率に収斂すると予想しています。

インフレが抑制されているため、実質賃金の上昇基調やグローバル経済の情勢がより明確になるまでの間、BOEは政策金利を現在の0.5%という水準に据え置くことが可能でしょう。英国では、2015年後半から政策が引き締め方向に転換する公算が大きく、BOEによる利上げはFRBに遅れる見通しです。

問: 欧州における経済成長、インフレ、中央銀行の政策に関するPIMCOの見通しは、投資戦略にどのように影響するのでしょうか。
パガーニ: ユーロ圏の名目経済成長率が低いことを理由にECBが当面は緩和的な金融政策を維持する結果、債券の投資環境は良好になり、プラスのリターンが安定的に確保されるとPIMCOでは予想しています。足元の安定的な環境下で収益を上げるため、中核国のイールドカーブの7~10年ゾーンを引き続きオーバーウエイトとする一方、ドイツの超長期国債金利が1.5%近辺まで低下して日本型のシナリオをすでに織り込んだことを踏まえ、ユーロ圏国債の超長期ゾーンをアンダーウエイトとしています。

PIMCOでは、ECBはインフレ期待を押し上げるために2015年初頭に国債の買い入れに着手すると予想しています。この決定は、ユーロ圏周縁国国債を中心にスプレッドにはプラスに作用するとみられるため、イタリア国債とスペイン国債のオーバーウエイトを据え置きます。

英国に関しては、イールドカーブにはBOEが2015年後半に利上げを開始するという予想が織り込まれているため、PIMCOではデュレーションをニュートラルにしています。

重要な点として、PIMCOでは、ボラティリティは概ね抑制された状態が続く見通しであるものの、FRBの引き締めサイクルの始まりが近づくにつれて一時的に急上昇する可能性があるとみており、また、一時的な市場の調整局面において積極的に利益を獲得するために、ポートフォリオに一定の流動性を確保することが重要であると考えています。

著者

Andrew Balls

グローバル債券担当最高投資責任者(CIO)

Andrew Bosomworth

ドイツ債券ポートフォリオ・マネジメント統括責任者

Lorenzo Pagani

ポートフォリオ・マネージャー

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