経済見通し

回復の勢いが強まる米国経済

​米国の経済成長は、雇用ギャップの縮小と可処分所得の増加を背景とする個人消費の拡大の恩恵を受けて、当面は堅調に推移する見通しです。カナダ経済の回復は継続する見通しですが、米国経済の回復や原油価格の下落などのプラス、マイナス相反する要因が景気に重要な意味合いを持つ可能性があります。ラテンアメリカ地域の経済成長は低水準にとどまり、米国経済の改善の恩恵を受ける国とユーロ圏や中国の景気減速がマイナス要因になる国に分かれるでしょう。

PIMCOでは四半期に一度、世界各地からPIMCOの投資プロフェッショナルがニューポートビーチに集まり、世界経済と金融市場の見通しについて議論をします。以下のインタビューでは、ポートフォリオ・マネージャーのマイケル・クジル、エド・デブリン、ルピン・ラーマンが、PIMCOの米州(南北アメリカ)経済の短期見通しについて語ります。

問: PIMCOの2015年の米国の見通しを、米連邦準備制度理事会(FRB)の政策を含めて教えてください。
クジル: PIMCOでは、2015年の米国の国内総生産(GDP)の成長率は2.75~3.25%となり、グローバルな経済成長の主要な牽引役になるとみています。

GDPの構成要素の中では、継続的な個人消費と政府支出の拡大が経済成長率を押し上げる見通しです。政府支出はもはやマイナス要因ではなく、州、地方レベルでの雇用の拡大と連邦政府レベルでの国防費の増加を通じて、GDPを0.3%程度押し上げるでしょう。また、個人消費は直近の景気後退局面以降で最も良好な状態です。足元の雇用者数は過去最高水準にあり、過去1年間に創出された雇用の大半はフルタイム雇用でした。完全失業率は5.8%まで低下し、縁辺労働者や経済的事情による短時間就業者を含む「U-6」失業率は11.4%に低下してさらに速いペースで低下し続けるなど、雇用ギャップは引き続き縮小しています。

個人所得は、雇用ギャップが縮小する中で賃金が正常化に向かう見通しであること、最近の原油価格の下落が消費性向の高い消費者にとって減税同様の効果をもたらすことを理由に、拡大し続ける見通しです。

 

個人の純資産残高は2014年第1、第2四半期に過去最高水準に達しました。一方、株価も過去最高に近い水準に達し、住宅価格は引き続き上昇しています。

市場金利は低下傾向にあり、住宅ローン金利を中心に個人の借り入れコストも足並みを揃えて低下した結果、個人の金融負債率は過去40年間で最も低い水準まで低下しています。
PIMCOのニュー・ニュートラルの見通しでは、米連邦準備制度理事会(FRB)は2015年半ばに翌日物の貸出金利を0%から緩やかに引き上げ始めた後、最終的には従来よりも低い水準で利上げサイクルを終了すると予想されます。PIMCOでは、中立的なフェデラル・ファンド金利の水準を名目ベースでは2%程度、実質ベースでは0%とみていますが、利上げサイクル終了時までには潜在成長率を上回る成長がかなりの期間続いていると考えられ、FRBは、経済を沈静化するため中立的な水準を超える水準まで金利を引き上げる可能性が極めて高いでしょう。

問: 原油価格の下落は米国の経済成長とインフレにどのような影響を及ぼすのでしょうか。
クジル: 原油価格の下落は、米国の経済成長にとってプラス要因になるでしょう。米国では、従来よりもエネルギー効率が改善したことに加えて、1日当たりの原油の生産、抽出量が過去最高水準に達しているものの、依然として輸入量が輸出量を上回っています。経済成長率については、原油価格が40%程度下落した場合、設備投資や純輸出額の減少などの要因が上げ幅の一部を帳消しにするものの、0.5~0.7%程度押し上げられるとPIMCOでは予想しています。また、エネルギー価格の下落は総合インフレ率に大きなベース効果をもたらし、消費者物価指数は2015年前半にゼロ近辺まで低下した後に、上昇に転じる見通しです。一方、FRBの注目度が高い個人消費支出(PCE)インフレ率のコア指数については、2015年、原油価格の下落の影響はマイナス0.1~0.2%程度にとどまると予想しています。

 

問: PIMCOの経済成長見通しのリスク要因を教えてください。
クジル: PIMCOでは米国の経済成長の先行きに楽観的ですが、いくつかのリスク要因に注意しています。
FRBの政策は依然として緩和的であり、これまで数年間にわたって資産価格を押し上げてきました。PIMCOでは、2015年の経済成長率を3%程度、失業率を5.5%と予想していますが、フェデラル・ファンド金利を6年半ぶりにゼロ近辺から引き上げることによって、経済や金融市場に未知の影響が及ぶ可能性があります。基本シナリオとして、FRBが資産価格を決定する局面から、ファンダメンタルズや持続的な成長をベースに市場が資産価格を決定する局面に徐々に移行するとみています。

原油価格の下落は消費者にとってはプラス材料ですが、設備投資の減少や資本市場の混乱に起因する悪影響には注意しています。もっとも、PIMCOでは引き続き基本シナリオとして、消費の拡大効果が設備投資の減少の影響を上回り、資本市場は引き続き開放的で、流動性が高い状態を維持するとみています。

米ドルの上昇は、企業利益や輸出に与える影響を通じて経済成長にマイナスに作用する可能性があります。しかし、PIMCOの基本シナリオでは、輸出が経済成長に与える影響は小幅にとどまり、内需の拡大が国際競争力の低下の影響を帳消しにする結果、企業利益はわずかな影響を受けるのみであると考えています。

このほか、この1年間に政策の不確実性はかなり低下しています。共和党が優位に立った米議会では、膠着状態が悪化したり、全くの機能不全に陥ったりする可能性はあるものの、いずれにしても米議会に多くは期待できないというのが、引き続きPIMCOの基本シナリオです。

問: PIMCOの2015年のカナダ経済の見通しを教えてください。
デブリン: PIMCOでは、カナダ経済の回復は継続するとみていますが、プラス、マイナス相反する要因が景気に重要な意味合いを持つ可能性があります。つまり、一方では、米国経済の回復が勢いを増し、カナダの輸出の伸びを引き続き押し上げる見通しですが、他方では、カナダはエネルギーの生産国であり、輸出国でもあるため、最近の原油価格の劇的な下落はカナダ経済にマイナスに作用するおそれがあります。この2つの要因に鑑み、2015年のカナダのGDP成長率は2.25~2.75%となり、米国の回復ペースをやや下回ると予想しています。

低金利環境を背景に、個人消費と住宅投資は堅調に推移する見通しです。これは短期的にはプラス要因ですが、長期的には金融システムの安定に懸念を生じさせるため、個人債務の増加が問題に発展する兆しがないかどうか、この分野を注意深く見守っています。

また、PIMCOでは、エネルギー価格の下落とそれがインフレに与える影響に対するカナダ銀行(中央銀行)の対応を注視していきます。カナダ中銀は通常、エネルギー価格を除外したコアインフレ率をベースに金融政策を決定します。注目すべきはエネルギー価格とカナダドルの相関であり、エネルギー価格が下落した場合、一般にカナダドルも下落します。しかしながら、エネルギー価格の下落がインフレを抑制する一方で、カナダドルの下落は実際にコアインフレ率を押し上げます。このため、全体としては、インフレ率は向こう1年間に1.75~2.25%のレンジに収まる見通しですが、これはカナダ中銀の予想よりも高い水準であり、また、2015年にFRBが利上げを開始する中でカナダの金利も上昇するとPIMCOが予想する理由の1つです。

このほか、エネルギー価格はPIMCOの見通しの下振れ要因でもあります。PIMCOでは、基本シナリオとして、エネルギー価格の動きは経済成長にわずかながらもマイナスに作用するとみていますが、さらに激しく無秩序な動きとなれば、GDP成長率を予想以上に押し下げることも考えられます。現在、エネルギー価格は底値に近く、小幅に持ち直すにしても低い水準にとどまる公算が大きいと予想していますが、さらに下落するか地政学的なショックが強まれば、エネルギー市場は個人や企業の景況感に影響するため、カナダの経済成長率はさらに低下する可能性があります。

問: カナダ中銀は最近、カナダの住宅価格は30%も過大評価されている可能性があると指摘しました。PIMCOでは、住宅市場は引き続きソフトランディングに向かいつつあるというカナダ中銀の見方を支持しますか。
デブリン: カナダ中銀は事実上、住宅市場が20~30%程度過大評価されているというPIMCOの1年前の予想の妥当性を認めるかたちになりました。PIMCOでは、短期的には、貸出基準が厳格であり、金利水準がかなり低く、雇用が比較的堅調であることを踏まえ、住宅市場が急速に調整するとは想定していませんが、長期的には、住宅価格は横ばいとなるか、10%程度下落するとみています。これは名目ベースでの基本シナリオであり、インフレ率がこの先5年間に2%程度で推移すれば、実質ベースでは、5年後の住宅価格は10~20%程度調整していることになります。このため、住宅市場はソフトランディングすると予想しているものの、金利水準が極端に低い環境下で住宅市場が再び勢いを増した場合、いずれは金融システムの安定の問題に発展する可能性があります。

問: PIMCOの2015年のラテンアメリカ地域の見通しを教えてください。コモディティ価格の下落の影響はどの程度深刻なのでしょうか。
ラーマン: PIMCOでは、ラテンアメリカの主要国にとって2015年は重要な変化の年になると予想しています。ブラジルでは、第2次ルセフ政権の新しい経済チームの下で、マクロ経済政策は従来よりもオーソドックスになるとみられ、メキシコでは、エネルギー・セクター関連の改革が始まる見通しです。政治関連のテーマとしては、アルゼンチンでは大統領選が予定されており、2000年代に国債の債務交換に応じなかった債権者に対する対応が変化するかどうか大いに注目されます。また、ベネズエラでは、予定される議会選挙において、マドゥロ政権に対する信認が強く問われるでしょう。

このような動きは、FRBの金融政策が正常化に向かい、コモディティ価格が従来の想定よりも低い水準で推移する環境において進行します。コモディティ価格の下落は、原油(ベネズエラ、コロンビアなど)、金属・鉱業製品(ブラジル、チリなど)、ソフト・コモディティ(アルゼンチンなど)の輸出に大きく依存する同地域にとって、全般にマイナスに作用します。とはいえ、一部の例外を除いて大半の地域では、対外的なレバレッジが低く、外貨準備の水準が高く、為替レートが柔軟であり、財政、経常収支が適切な水準にあるなど、初期条件が良好であることが短期的な影響を緩和する見通しであることは認識するべきでしょう 。

 

問: ラテンアメリカ地域ではインフレが上昇基調にありますが、PIMCOではインフレ抑制政策をどのように評価しているのでしょうか。
ラーマン: PIMCOでは、2015年の経済成長とインフレの見通しに関しては、最近の数四半期と比べて国ごとのばらつきが小さくなると予想しています。同地域全体の経済成長率は、平均で前年比プラス2%程度と低水準にとどまり、米国経済の改善の恩恵を受ける国とユーロ圏や中国の景気減速がマイナス要因になる国に分かれると予想しています。また、同地域のインフレ率は4%程度に抑えられ(アルゼンチンやベネズエラなどの高インフレ国を除く)、一部の国は需給ギャップがマイナスとなっていることやコモディティ価格の下落に起因するディスインフレ圧力を受ける見通しです。FRBが金融政策の正常化を進める中で、ラテンアメリカの中央銀行も利上げに着手する結果、通貨の下落圧力や波及的なインフレの上昇圧力は緩和されると予想しています。

問:  PIMCOの米州見通しは投資家にとってどのような意味を持つのでしょうか。
クジル: 以上の見通しと現在の市場価格水準を踏まえ、リスク・フリー金利の上昇余地は限定的であるとPIMCOではみています。市場では将来の利上げが織り込まれ、市場の見方がPIMCOの見方に収斂する中で上記のシナリオの上振れ余地は限定的ですが、米国経済が当面の間堅調に推移することによって、銀行、金融、建築素材、航空セクターなどを中心とするクレジット投資の環境は良好になるでしょう。また、住宅市場の改善が続くというPIMCOの見通しは、非政府機関系モーゲージ債市場を下支えするでしょう。

著者

Ed Devlin

ジェネラリスト・ポートフォリオ・マネージャー

Lupin Rahman

ソブリン・クレジットのグローバル統括責任者

ご留意事項

全ての投資にはリスクが伴い、価値は下落する場合があります。債券市場への投資は市場、金利、発行者、信用、インフレ、流動性などに関するリスクを伴うことがあります。ほぼ全ての債券及び債券戦略の価値は金利変動の影響を受けます。デュレーションの長い債券及び債券戦略は、より短い債券及び債券戦略と比べて金利感応度と価格変動性が高い傾向にあります。一般に債券価格は金利が上昇すると下落し、現在のような低金利環境ではリスクが高まります。債券取引におけるカウンターパーティーの取引能力の低下が市場流動性の低下や価格変動制の上昇をもたらす可能性があります。債券への投資では換金時に当初元本を上回ることも下回ることもあります。外貨建てあるいは外国籍の証券への投資には投資対象国の通貨価値の変動や経済及び政治情勢に起因するリスクを伴うことがあり、新興成長市場への投資ではかかるリスクが増大することがあります。為替レートは短期間に大きく変動する場合があり、ポートフォリオのリターンを減少させる可能性があります。モーゲージ担保証券や資産担保証券は金利水準の変化に対する感応度が高い場合があり、期限前償還リスクを伴い、また、一般的には政府または民間保証機関による何らかの保証が付されていますが、民間保証機関が債務を履行する保証はありません。

本資料で紹介した投資戦略が、あらゆる市場環境においても有効である、またはあらゆる投資家に適するという保証はありません。投資家は、自らの長期的な投資能力、特に市場が悪化した局面における投資能力を評価する必要があります。