経済見通し

不安定な足取り-足元のグローバル経済についての議論

世界経済の平均的な成長率が低いため、主要国において興味深い二極化が生じていることが見えにくくなっています。世界の主要な中央銀行のいくつかは、世界的なマネーの余剰をさらに拡大する構えをみせています。これとは対照的に、FRBは非常に緩やかな政策の正常化に踏み切る可能性が高いでしょう。PIMCOの投資プロフェッショナルは、12月に開催されるシクリカル・フォーラムにおいて、多速度の世界が各国経済や投資家に意味することを掘り下げて議論する予定です。 

ローバル経済は今年も全般に緩やかなトレンド成長を持続してきましたが、原油価格、中央銀行の政策、中国情勢などの複雑な要因の影響で、その道のりは決して安定的ではありませんでした。以下のインタビューでは、グローバル戦略アドバイザーのリチャード・クラリダとグローバル経済アドバイザーのヨアヒム・フェルズが、世界主要国に関連する重要な問題について議論します。

問:9月に開催されたPIMCOの短期経済予測会議(シクリカル・フォーラム)において取りまとめられたグローバル・マクロ経済の主な見通しについて、説明してください。
クラリダ:世界経済の成長率は、少なくとも来年半ばまでは、とりわけ目を見張るような水準ではないものの2.5~3%のレンジで推移すると予想しています。このレンジは、より広い意味で、PIMCOが考えるニュー・ニュートラルにおける全般的な低水準の成長トレンドです。原油価格の下落や低金利、大規模な金融緩和政策などの強い後押しがあるにもかかわらず、世界の総需要は世界の潤沢な供給を下回ったままであり、経済成長が停滞する要因となっています。

しかしながら、世界経済の平均的な成長率が低いため、グローバル経済で興味深い二極化が生じていることが見えにくくなっていることに注意するべきでしょう。中国を始めとする主要なエマージング諸国の経済成長率が減速するなかで、米国、ユーロ圏、英国、そしておそらく日本でも経済成長率はトレンドを上回るとPIMCOでは予想しています。このように、世界は多速度で進んでいます。

一方インフレ率に関しては、原油価格の下落(および米国の場合にはドル高)が物価指数に与える影響が剥落する結果、世界的に緩やかに上昇する見通しで、2~2.5%のレンジで推移すると予想しています。

問:PIMCOの予想に伴う上振れリスクと下振れリスクを説明してください。
フェルズ:ポジティブなテール・リスクとしては、原油価格の下落と金融政策の拡大の影響が、多くの市場参加者の予想をはるかに上回る形で顕在化するシナリオが考えられます。この場合、先進国を中心に経済成長率は世界的に上昇する可能性があります。

また、これはテール・リスクではなく現時点ではどちらかというと現実的なシナリオですが、米国、ユーロ圏、日本の財政政策が、近年では初めて経済成長を(緩やかに)後押しする方向に変化する見通しであることを付け加えたいと思います。ただし、経済成長率やインフレ率を大きく変化させるほどではないでしょう。

一方、足元のグローバル経済が直面する下振れリスクは、エマージング市場に集中しています。8月以降、投資家は中国情勢を特に注意深く見守っています。まず、PIMCOの基本シナリオでは、中国の経済成長率はコンセンサス予想を下回るものであり、政策担当者は景気を安定的に減速させる「意思と資金」を持っていることも指摘したいと思います。実際、ここ1カ月ほどの政策によって、市場はある程度は落ち着いてきました。もっとも、不確実性は数多く存在しています。中国当局は色々な政策手段を有しており、複雑な移行期を安定的に乗り切る必要がありますが、PIMCOでは、グローバル投資家として、細部に至るまで十分な透明性が確保されているのかどうか、疑問に感じています。引き続き、おそらくは人民元の極めて大幅な切り下げを伴う、中国の深刻なハードランディングがテール・リスクと言えるでしょう。これはPIMCOの基本シナリオではありませんが、注目すべき重要なリスクです。

問:米連邦準備制度理事会(FRB)は12月に、そしてその後長期的にどのような政策を講じるのでしょうか。
クラリダ:初回の利上げのタイミングに関するFRBのシグナルに市場全体の注目が集まるなかで、より重要なメッセージが見過ごされることがあります。FRBは、PIMCOの見方と同じように、今回の利上げサイクルが過去のサイクルと大きく異なる見通しを強調しています。今回の利上げペースは非常に緩慢なものとなり、サイクルが2018~2019年まで長期化し、金利は低い水準で推移するでしょう。多くのFRB理事も、中立的な政策金利が従来の水準を下回ることを認めています。PIMCOでは、この水準をニュー・ニュートラルと呼んでいますが、FRB自身が中立金利の具体的な水準に確信を持てずにいることが、サイクルが緩やかに進む理由の1つと言えるでしょう。現在のFRBが、タカ派にシフトする余地は限られています。大胆に利上げサイクルを進めれば、大幅なドル高とリスク資産の価格下落を招くことはほぼ確実であり、その場合、FRBがさらにタカ派的に利上げを進める柔軟性は大幅に制限されるでしょう。

要約すると、PIMCOでは基本シナリオとして、FRBは12月にゼロ金利を解除した後に、自らの政策のグローバルなインプリケーションに注目しながら、極めて緩やかに引き締めを進めるとみています。

問:2008年の金融危機以降、金融政策はグローバル経済の見通しを考える上で非常に重要でしたが、FRB以外の世界の主要な中央銀行の短期的な政策見通しを教えてください。
フェルズ:世界の主要な中央銀行のいくつかは、世界的なマネーの余剰をさらに拡大する構えをみせています。中国人民銀行はすでに追加緩和に踏み切りましたが、オールド・エコノミーには強いデフレ圧力が、ニュー・エコノミーには株式バブル崩壊の影響が残存していることを考えると、これに追従する中央銀行が現れる公算は大きいでしょう。

ユーロ圏では、物価に関する懸念(すなわちデフレ懸念)や経済成長が低迷する懸念から、欧州中央銀行(ECB)は資産買い入れプログラムの修正余地の検討を進めてきました。12月3日に開催予定の政策理事会では、おそらくは月間買い入れ額の増加や来年9月に予定される終了時期の延長などの形で、プログラムが拡大される可能性があります。ECBは、必要なことは何でもする構えを維持しています。

日本では、日本銀行が10月の政策決定会合において、経済成長とインフレの見通しを下方修正したものの、金融政策を追加的に緩和する機会を見送りました。しかしながら、2%というインフレ目標には依然として遠いことや、他の主要な中央銀行が緩和を進めるなかで、円高という好まざるシナリオの可能性が高まったことを踏まえると、日銀は追加緩和を実行するプレッシャーを受けているようです。

問:ところで、お二人はPIMCOにおいてどのような役割を担い、どのように関わっているのでしょうか。
クラリダ:ヨアヒムは私の十年来の知己であり、会議やパネル・ディスカッションにおいて交流を重ねてきました。私は、ヨアヒムの簡潔かつ明確にコミュニケーションする能力や、グローバル・マクロ経済の複雑な力学に関する分析を常々高く評価しており、PIMCOに迎えることを非常に楽しみにしていました。ヨアヒムと私は、閉鎖経済を純粋に理論的な前提条件とする、観念的な研究をする時間など無かった、グローバル・マクロ・エコノミストとして、同じような世界観を持っています。PIMCOでは、マクロ経済分析に際して、ポートフォリオ・マネージャーや世界中の拠点のポートフォリオ・コミッティーの知見に依存していますが、ヨアヒムが加わったことによって、従来からの強みを基盤に、投資プロセスにおいてさらに適時に関連性の深いマクロ経済分析を行なうことが可能になりました。

フェルズ:私は、リチャードと知り合うずいぶん前から彼の学術研究に注目し、評価してきました。今回、リチャードと、更にインベストメント・コミッティー、各拠点のポートフォリオ・コミッティー、ポートフォリオ・マネージメント・グループ全体と共に、経済や市場に影響を与えるグローバルに重要なマクロ的要因を見つける仕事をすることを非常に嬉しく思っています。私は自らの研究において、グローバルな切り口や長期的要因と短期的要因の関連を常々強調してきましたが、これはまさにPIMCOのマクロ的な枠組みと投資プロセスにほかなりません。

問:先行きを展望すると、12月のシクリカル・フォーラムではどのような分野が議論の中心になるのでしょうか。
クラリダ:私たちは、多速度の世界が各国経済や投資家にどのような意味を持つのかについて、掘り下げて議論したいと考えています。たとえば、インフレ率が10%を超える国が存在する一方で、これを2%まで押し上げることに苦労する国も多い足元のグローバル経済の意味合いなどです。また、グローバル経済の見通しにおいて、ドル高のような通貨の問題や、公的セクターの巨大なレバレッジが果たす役割も議論の対象になるでしょう。多速度の世界においては、金融政策の二極化が重要な論点の1つです。主要な1国が政策を正常化する一方で、他の多くの主要国が金融緩和を継続、もしくはむしろ強化することの真の意味合いを評価する必要があります。このような議論が、2016年のニュー・ニュートラルなグローバル経済の見通しを総合的に形成するでしょう。

著者

Richard Clarida

グローバル戦略アドバイザー

Joachim Fels

グローバル 経済アドバイザー

ご留意事項

全ての投資にはリスクが伴い、価値は下落する場合があります。投資判断にあたっては、必要に応じて投資の専門家にご相談ください。