10 月下旬に、世界的に著名なマクロ経済の専門家や政策当局の経験者から構成される PIMCO グローバル・アドバイザリー・ボード( GAB )の 5 人のメンバーが会合し、グローバル経済と金融市場に影響を与え、時とともに変化しつづける重要な要因について議論しました。 GAB の見識は、 PIMCO の投資プロセスにおいて貴重な判断材料となります。以下では、多岐にわたる議論の概要をご紹介します。

問足元では政治的に不透明な状態が続いています。政治情勢は国際貿易やグローバリゼーションにどのような影響を与えるのでしょうか。
GABメンバー :   米国では、新しい大統領と議会に大きく左右されるでしょう(米大統領選前に開催された当会合では、クリントン氏とトランプ氏それぞれが勝利した場合のインプリケーションを分析しました。実際の選挙結果を踏まえ、本レポートでは、トランプ氏に関連するテーマを取り上げるとともに、メンバーによる選挙後のコメントを盛り込みました)。両候補とも貿易協定に関しては明言を避けたものの、トランプ氏は北米自由貿易協定(NAFTA、1994年に発効)を始めとする既存の協定の再交渉、もしくは破棄を公約するなど、かなり踏み込んだ姿勢を示しました。ただし、大統領が連邦議会承認による協定を一方的に廃止できるかどうかは明確ではありません。また、メキシコ、米国、カナダの経済統合は、後戻りできないほど進んでいます。とはいえ、トランプ政権はNAFTAなどの協定に違反する形で保護主義的な政策を採用し、実質的に貿易相手国に対して米国を訴えるよう挑発する可能性があります。その結果、サプライ・チェーンが分断され、経済の不透明感が強まる恐れがあります。今後を展望すると、環太平洋パートナシップ(TPP)が少なくとも現在の形では白紙となる結果、東南アジア経済に与える中国の影響力が強まる見通しです。また、グローバリゼーションや国際貿易に対するポピュリスト的な反発は、米国内外の経済成長にとってのダウンサイド・リスクと考えられます。

新政権では、国際的な政治経済の結び付きが極めて密接になる公算が大きいでしょう。トランプ氏は、中国の貿易および人民元政策に対する批判を繰り広げてきましたが、中国にとっては、人権問題を前面に出さず、現実的な交渉ができるとみられるトランプ氏の方が、クリントン氏よりもやりやすい相手と言えるでしょう。トランプ政権の発足直後には、北朝鮮が再び挑発行為に出る可能性が高く、トランプ氏が北朝鮮と中国に対して譲歩する姿勢をみせなければ、深刻な危機に発展する恐れがあります。一方、日本、韓国、北大西洋条約機構(NATO)諸国などの同盟国に対する強硬な姿勢には緩和の兆しがみられ、トランプ次期大統領は、アジア諸国の首脳との会談では融和的な姿勢をみせたほか、NATOに対する支持も表明しています。また、ロシアとの関係改善やイスラム国との戦いへの協力に前向きな姿勢を踏まえると、シリア問題は解決に近づくと考えられますが、他方では、化石燃料の生産増加を強調する方針が、ロシア経済に打撃を与える可能性もあります。米国の同盟国の多くがトランプ氏に警戒感を示す一方で、米国の敵対国は様子見姿勢をとるでしょう。トランプ氏の勝利は、欧州の政治情勢に非常に大きな影響を及ぼす見通しで、フランスとイタリアで右派、左派両側のポピュリスト政党が勝利を収める結果となれば、欧州連合(EU)が存続の危機にさらされる可能性が高まるでしょう。

GAB会合では、英国のEU離脱(Brexit)に関して、異なるシナリオごとに経済に与える影響について議論しました。現時点では、英国にとって移民の自由な移動を許容するEUのルールは受け入れられないため、EU単一市場から完全に離脱する「ハードBrexit」の方針が採用される可能性の方がやや高いようです。いずれにしても、離脱のプロセスは数年におよび、離脱交渉の後には、英国と多数の国との間で二国間の貿易交渉が続く見通しです。それらの国のなかには、英国との現在の貿易関係がEUの交渉した条約に基づく、EU域外の国との交渉も含まれます。また、英国国内では、ポンド安に伴い財やサービスの輸入コストが増加するため、生活水準が悪化する可能性が高いでしょう。ポンド安は輸出をある程度は後押しする見通しですが、欧州市場に対するアクセスが制約されるマイナスを相殺するには、不十分と言えるでしょう。さらに、Brexitに伴い、英国内では、特に製造業、製薬業、金融サービスなどの主要分野において、設備投資が減少する見通しです。

要約すると、これまで想定したよりも不確実性の高い局面が到来し、一連の新たな政治リスクによって、すでに低調な貿易がさらに下押しされ、必要な経済改革への取り組みが阻害される可能性が高いでしょう。

 米国の経済と金融政策の見通しについて説明してください。 
GAB メンバー : 米国では、緩やかな景気回復局面が8年目に入っています。回復を牽引する個人消費は、家計のバランスシートの改善、雇用の拡大、賃金の増加、ガソリン価格の下落、比較的明るい景況感など、良好なファンダメンタルズによって下支えされています。個人消費の良好な見通しと住宅市場の改善を踏まえると、米国は緩やかな成長が続く見通しです。また、この先数年にわたって、財政政策の拡大が米国経済を押し上げる可能性もあります。実際、他の多くの主要国では、財政政策の役割が拡大する可能性があるようです。このほか、金融危機と景気後退が設備投資、研究開発、起業に与えた影響が緩和される結果、生産性の伸びもある程度は回復すると予想しています。

金融政策に注目すると、米連邦準備制度理事会(FRB)は、中立的な政策金利の水準が従来の想定を大きく下回ることを認めました。これは、PIMCOが従来から掲げてきた見方であり、GAB会合でも確認した経緯があります(2016年6月付Q&A「 PIMCOグローバル・アドバイザリー・ボード(GAB)のマクロ経済見通し」をご参照ください)。中立的な政策金利が低いということは、現在の金融政策は極端に緩和的というわけではなく、差し迫った利上げの必要性がないことを意味します。とはいえ、グローバルなリスクが後退するなかでFRBの雇用およびインフレの目標が視野に入ったことを考えると、近い将来、おそらくは12月に利上げが実行される可能性が高いでしょう。

今後を展望すると、FRBは現在、雇用とインフレの目標が一時的に上振れすることに伴う潜在的なメリットとデメリットについて議論しています。ハト派は、失業者の労働市場復帰に伴う労働参加率の持続的な上昇や、2%というFRBの目標近辺で軟調に推移するインフレ期待の定着など、上振れの許容に伴う潜在的なメリットが大きいとみています。また、中立的な政策金利が低い状況では、「タカ派的な失敗」などに起因して経済成長が鈍化した場合の利下げ余地が小さいため、政策運営はより慎重にするべきと主張しています。これに対してタカ派は、利上げのペースが遅れた場合、インフレの上昇を後追いする形となり、将来的に急速なペースでの利上げが必要になり得ると主張しています(その結果、景気後退や市場のボラティリティ上昇のリスクが高まります)。また、ハト派色の強い政策の下で金融の不均衡が蓄積される可能性についても指摘しています。両者の妥協点として、今後の利上げに際しては、追加的な金融政策の引き締めは段階的かつ慎重に行うという方針が強調される見通しです。

緩やかな経済成長と低水準のインフレ率を背景に、長期金利は全般に低い水準で推移する見通しです。しかしながら、財政政策の拡大、インフレ圧力およびブレーク・イーブン・インフレ率の小幅な上昇、生産性の回復、リスク・プレミアムの過去最低水準からの反転などから、GABの米国経済とFRBに対する見通しには、長期金利の上振れリスクが存在することも示唆しています。

問 : 中国情勢がグローバルに波及するケースが頻繁に見受けられます。中国の経済、政策、通貨の見通しを教えてください。
GABメンバー : 公式データの正確性にはやや疑問があるものの、中国の経済成長は堅調に推移しています。一方、多くの主要ポストが決定される2017年秋の重要な共産党全国代表大会を控えて、政治闘争は継続しています。当面の間は、前向きな動きがみられる一方で、課題やリスクも残るでしょう。

前向きな動きとしては、貿易や重工業に基づく経済成長モデルから、個人消費やサービスを重視するモデルへの移行が、緩やかながら着実に進んでいます。直近の国内総生産(GDP)関連のデータでも、個人消費の寄与度が強まる一方で、輸出に対する依存度が弱まる傾向が確認されています。また、とりわけ石炭や鉄鋼の生産などの供給サイドでは、余剰生産能力が縮小する動きが進んでいます。ただし、このような動きは、余剰な労働者を吸収可能な産業が存在する一部の省に限定されています。また、中国国内の不良債権の水準に対する懸念が高まっていますが、現在の推計では、予想される損失は対応可能な範囲であり、必要な場合には政府の支援も期待できます。

このほか、中国政府による為替レートの管理方法が改善した結果、今年に入って、人民元は米ドルおよび幅広い通貨バスケットに対する急激な下落は見られていません。中国の外貨準備高の減少ペースと資本流出のペースには、対外債務の支払い増加が人民元に対する下落圧力となっていた2015年と比べた場合は特に、減速傾向がみられます。今後については、中国政府の改革および経済運営に対する信任を背景に、人民元は安定的に推移する見通しです。このような流れに対する当面のリスク要因として、タカ派的なFRBが予想以上に速いペースで利上げを進める結果、為替レートのボラティリティが上昇する可能性が挙げられます。

中国が引き続き直面する課題と潜在的なマイナス要因に注目すると、政府が短期的な経済成長を優先して必要な経済改革を先送りする結果、経済の不均衡が拡大するとともに、長期的な成長見通しが悪化するリスクに留意するべきでしょう。GABの基本シナリオとは異なりますが、5月のGAB会合の結論でもあるように、中国の「ハードランディング」リスクは依然として解消されていません。社会的な不安や国有企業など既得権益を有するグループからの政治的反発が、改革の停滞や信頼の喪失に結び付けば、ネガティブ・シナリオが顕在化することも考えられます。来年、習近平国家主席が常務委員会の間で支持を取りまとめることができた場合でも、改革は政治的に困難であるため、今後の動向に注視する必要があります。

中国では、住宅市場も懸念の対象となっています。主要都市では、住宅価格が急速に上昇し、銀行貸出に占める新規の住宅ローンの割合は拡大しています。高水準の頭金支払いを要求する規制によってリスクは軽減されているものの、住宅ローン残高の増加は不安材料と言えます。より広範にみると、中国政府は信用に基づく経済成長を促進してきたものの、その効果は低減しています。中国政府は、信用ブームを抑制する政策手段や財政的余力を備えていますが、実際にブームを抑制すれば利害関係者に損失が発生する可能性があることも、政治的に改革が困難な要因となっています。

 欧州における経済と金融政策の見通しを教えてください。 
GAB メンバー : 最近では成長率がやや上向いたものの、ソブリン債務危機と世界金融危機の打撃を受けた欧州経済の回復ペースは非常に緩慢です。また、回復の状況には依然としてばらつきがみられ、特にドイツやオランダなどの一部の国が必要以上に巨額の経常収支黒字を維持するなど、各国の経済情勢には大きな格差が生じています。多くの国において高止まりする若年失業率、格差の拡大、移民やテロに対する懸念が、政治的、社会的ストレスを生み出しています。今後の経済成長は、多くの国で構造改革が成功するかどうかによって決まる見通しです。米国と比べて信用創出の役割が大きい欧州の銀行セクターの再編は、引き続き重要な課題です。一部の国では財政面での「余力」が存在しており、基本的には、財政政策によって中央銀行の金融政策を補完することや、貿易の不均衡を是正することは可能です。しかしながら、難民の定住や一部の分野における減税を除き、ドイツが財政政策の大幅な拡大を支持する可能性は低いため、欧州において大規模な財政政策が打ち出される公算は小さいとみています。

欧州中央銀行(ECB)は12月の政策理事会において、量的緩和プログラムの方向性を表明する見通しです。極端なドル高にならない限り、現行の資産買い入れプログラムが終了する2017年3月時点で、ECBが「テーパリング(規模縮小)」を開始する可能性は極めて低く、現在の買い入れペースは少なくとも6カ月間は延長される可能性があるとみています。一方、銀行の収益、年金基金、生命保険会社、一般の預金者に対する影響が懸念されることから、ECBは中銀預金金利の追加的な引き下げについては二の足を踏むとみられます。

 グローバルな経済動向としてこの他に注目しているテーマを教えてください。 
GAB メンバー : 日本銀行は最近、インフレ目標のオーバーシュートを許容することや、10年国債利回りを概ねゼロに維持すること(「イールドカーブ・コントロール」)を含む、重要な政策の枠組みの転換を実行しました。日銀の狙いは、金融システムの安定性に対するリスクを抑制しつつインフレ期待を高めることであり、また、政府の資金調達コストをゼロ近辺に抑える政策によって、安倍首相が発表した内容以上に財政政策が拡大することも考えられます。日本経済は、完全雇用が概ね達成される一方でコア物価指数が上昇するなど、全体としては改善傾向にありますが、現在の金融政策と財政政策がデフレ・マインドの解消に十分であるかどうかは、はっきりしません。トランプ新大統領が、TPPを破談に追い込むとともに、米国の東南アジアにおけるコミットメントを後退させることによって「アジア重視政策」を終了した場合、その範囲において、多くのアジア諸国は中国に対する政治経済的な対抗勢力として、同地域における日本への依存を強めるとみられます。

一方、この1年間、エマージング諸国に対する投資家の信頼は顕著に改善しました。国によって具体的な状況は異なりますが、中国経済と人民元が安定したという見方、コモディティ価格の一定の回復、主要中央銀行による緩和政策が、エマージング市場全体の改善に寄与した3つの要因と言えるでしょう。

ご留意事項

ピムコジャパンリミテッド
105-0001
東京都港区虎ノ門4-1-28
虎ノ門タワーズオフィス18階
金融商品取引業者 関東財務局長(金商) 第382号
加入協会/ 一般社団法人日本投資顧問業協会、一般社団法人投資信託協会

ピムコジャパンリミテッドが提供する投資信託商品やサービスは、日本の居住者であり、かつ法律による制約のない方に対して提供するものであり、かかる商品やサービスが許可されていない国・地域の方に提供するものではありません。

過去の実績は将来の運用成果を保証または示唆するものではありません。本資料には、本資料作成時点での著者の見解が含まれていますが、これは必ずしもPIMCOグループの見解ではありません。著者の見解は、予告なしに変更される場合があります。本資料は情報提供を目的として配布されるものであり、投資助言や特定の証券、戦略、もしくは投資商品の推奨を目的としたものではありません。本資料に記載されている情報は、信頼に足ると判断した情報源から得たものですが、その信頼性について保証するものではありません。

運用を行う資産の評価額は、組入有価証券等の価格、デリバティブ取引等の価値、金融市場の相場や金利等の変動、及び組入有価証券の発行体の財務状況や信用力等の影響を受けて変動します。また、外貨建資産に投資する場合は為替変動による影響も受けます。したがって投資元本や一定の運用成果が保証されているものではなく、損失をこうむることがあります。運用によって生じた損益は、全て投資家の皆様に帰属します。弊社が行う金融商品取引業に関してお客様にご負担頂く手数料等には、弊社に対する報酬及び有価証券等の売買手数料や保管費用等の諸費用がありますが、それらの報酬及び諸費用の種類ごと及び合計の金額・上限額・計算方法は、投資戦略や運用の状況、期間、残高等により異なるため表示することができません。

全ての投資 にはリスクが伴い、価値は下落する場合があります。投資判断にあたっては、必要に応じて投資の専門家にご相談ください。

運用を行う資産の評価額は、組入有価証券等の価格、デリバティブ取引等の価値、金融市場の相場や金利等の変動、及び組入有価証券の発行体の財務状況や信用力等の影響を受けて変動します。また、外貨建資産に投資する場合は為替変動による影響も受けます。したがって投資元本や一定の運用成果が保証されているものではなく、損失をこうむることがあります。運用によって生じた損益は、全て投資家の皆様に帰属します。弊社が行う金融商品取引業に関してお客様にご負担頂く手数料等には、弊社に対する報酬及び有価証券等の売買手数料や保管費用等の諸費用がありますが、それらの報酬及び諸費用の種類ごと及び合計の金額・上限額・計算方法は、投資戦略や運用の状況、期間、残高等により異なるため表示することができません。

PIMCOは、アリアンツ・アセット・マネジメント・オブ・アメリカ・エル・ピーの米国およびその他の国における商標です。

本資料の一部、もしくは全部を書面による許可なくして転載、引用することを禁じます。本資料の著作権はPIMCOに帰属します。2016年

(注)PIMCOはパシフィック・インベストメント・マネジメント・カンパニー・エルエルシーを意味し、その関係会社を含むグループ総称として用いられることがあります。